よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
無人島試験後に行われる船上試験――干支試験。
その試験の内容のおさらいをしておこう。
各グループに割り当てられた「優待者」を基点とした課題で定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得ることができる。
・試験開始当日午前8時に一斉メールが送られ、優待者に選ばれた者には同時にその事実を伝えられる。
・1日に2度グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行う、その間は退出禁止。
・その場での話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねる。
これがまあ、大まかなルール。
次は解答に関するルールについて。
・解答は1人1回、自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ。
・優待者にはメールにて答えを送る権利が無く、また自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。
・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝えられる。
とまあ、ここまでが基本的な特別試験のルールとなる。
ここで重要になってくるのは4つの結果の詳細についてだ。
試験の結果は4つの選択肢しかない。
順に説明すると――
グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員に50万プライベートポイントを支給する。
ただし、結果1に導いた優待者には、褒賞として他メンバーの倍の100万プライベートポイントが支給される。(優待者の所属するクラスメイトもそれぞれ同様のポイントを得る)
優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。
優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合。答えた生徒の所属クラスは50CPを得る。正解者に50万プライベートポイントを支給。
また、優待者を見抜かれたクラスは逆に-50CPのペナルティを受ける。なお、優待者のクラスメイトが正解した場合は、答えを無効として試験は続行となる。
優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げて不正解だった場合。答えを間違えた生徒が所属するクラスは-50CPを受ける。優待者は50万プライベートポイントを取得し、同時に優待者の所属クラスは+50CPされる。
答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお、優待者のクラスメイトが不正解した場合は、答えを無効として受け付けない。
というのが4つの結果の全てだ。
4つの結果の内容を見れば一目瞭然だが、結果1が一番生徒側にとっていい。
なにせ全員に50万プライベートポイントで優待者は更に50万の合計100万プライベートポイントの大盤振る舞いのお小遣いゲットだ。
それに比べると結果2は当然として、結果3も結果4も正直しょぼい。
50万プライベートポイントを得られるのは正解者か優待者だけ、CPベースで考えれば実質100CP分の価値があると言えなくもなくないが……50CPは5000プライベートポイント分、50万プライベートポイント分となると100ヶ月必要となるわけで。
まあ、つまりは全然足りないよねって話だ。真っ当な思考なら結果1を目指すのが普通……だけど、それじゃあ面白くないからって「裏切り」なんてルールを入れてくるあたり性格が悪いというか何というか。
囚人のジレンマという話がある。
協力し合った方がより互いのためになるのに、協力しない方が個人の益になる場合、協力し合わなくなるというやつだ。
各個人が合理的に選択した結果、全体にとって望ましくない結果となる。
学校側が裏切りをルールに入れているのは明らかに意図したものだろう。
つまりは――
「ふむふむ、なるほど。どうせお前たちは結果1なんてできないだろうってことですね」
ということになる。
ルールの総評を述べた坂柳がうんうんと頷き、そして顔を上げた。
「その喧嘩……買いました!」
「別に喧嘩は売ってないと思うんだけど……」
やる気スイッチが入ったらしい坂柳に対してご主人が突っ込んだが、これに関しては俺も同意見だ。
「にゃー!」
「その通りです、ホームズ! 見てくださいよ、真澄さん。この報酬の差! 結果1だと1つのグループで得られるプライベートポイントは大体13~14人のグループになるので優待者の+50万を含めておよそ700万は超えるんですよ?」
「えっ、やば……いや、たしかに一人50万だと。全部が結果1になった場合、四クラス160人に50万、それに加えて優待者の12人に600万だから――8600万!? バカじゃないの!?」
「バカな金額でしょう? 一回の試験の報酬に8600万とかね! それに比べて結果2は優待者のみ50万プライベート。結果3と結果4も正解者か優待者のみに50万プライベートポイント、あとは50CPがクラス間を移動するだけです。実のところ、結果2から結果4までって学校側が一グループに支払う金額って50万のみなんですよ」
「それだけ報酬の差があるってことは学校側は結果1にはならないだろうって高をくくっていると……」
「つまりは舐められているということです。それだけ報酬の差があっても裏切られることを恐れて、どうせ結果3や結果4になったり。他のクラスにプライベートポイントを上げたくないから、自クラスで得られるプライベートポイントを下げてでも結果2になっちゃうんでしょー? って考えているというわけです!」
個人の利益を追求するあまり不合理な選択をする。
明らかにそれを狙った試験の内容に坂柳の心に火がついたようだ。
「あからさまに一番の報酬を見せつけておいて、生徒たちがそれを選べないように仕向けている。あるいは優待者には何らかの法則性があるのかもしれませんね」
「法則性?」
「そういうギミックがあってもおかしくはありません。というか無い方が不自然です。最悪、話し合いなんて行わず全員が無言で通してしまえば優待者か誰かなんて判明しようがありませんからね。試験終了まで持ち込んでしまえばあとは結果1か結果2しかありえないので、それじゃあ試験としてもつまらない」
「たしかにそれもそうか。そんなギミックでもないと試験の攻略自体は難しくないから……。そして、そのギミックを解明できればそのクラスは大勝できる」
「中間テストの時と同じです。用意された裏道があるのです。そして、それを利用するように仕向けて、結果1以外になるように――っと。その様子を高みから観察するんでしょうね。こいつらバカやってるなー……みたいな?」
「……なんか、ムカついてきたわね」
坂柳の言葉に段々とご主人も苛立ってきた様子だった。
詳しく試験の内容を全体的に見れば見るほど、生徒のことを馬鹿にしているなという感想が出てくるのだ。
こいつら、クラス単位で2000万手に入れるチャンスを不意にしやがったぜー!! ってバカにしたいのがところどころ出ているというか何というか。
「ふっ、この私に喧嘩を売ったことを後悔させてあげましょう」
「具体的にはどうするんだよ、姫さん」
やる気満々の坂柳に対して尋ねたのは橋本だ。
言い忘れていたが今は試験の作戦会議ということでAクラスの幹部勢で方針を決めるために話し合っている最中だった。
「そのギミックってやつを見つけ出すのか?」
「そんなことはしませんよ。さっさと決めてしまいましょう。具体的に言えば全てのグループが結果1になるように動きます」
「そんなことができるのか?」
「運の良いことに私は葛城くんと同じ竜グループ。同じグループにはCクラスのリーダーである龍園くんやDクラスの平田くん、そしてBクラスからは神崎くんもいます」
「なるほど、クラスに強い影響力のある三人が居るならうまく契約でも結ぶことができれば……」
「ええ、全体で結果1を狙うことは難しくないでしょう」
「でも、乗ってくるか? 今の時点でAクラスは独走状態、たしかに結果1の報酬は惜しいけどCPを縮めるチャンスを捨てるかどうか」
「そこら辺はやり方次第というやつです。橋本くんはこの試験にどのような印象を受けましたか? 全体的な印象で結構です」
坂柳の言葉に橋本は少し考え込んで答えた。
「そうだな……強いていえば人狼ゲームっぽい? 優待者を探せってのが人狼を探せみたいな印象を受けたというか」
「ああ、人狼ゲームでしたか。あれは面白いですね」
「ほう、坂柳もやったことがあるのか」
「はい、この間に真澄さんやホームズたちと一緒に」
「ふーん……えっ、待って? 真澄ちゃんはともかく、ホームズと人狼ゲーム?? なんて??」
「たしかに人狼ゲームに似ているというのは決して外れた印象ではないでしょう。では、人狼ゲームの肝とは何でしょうか葛城くん」
「ふむ、そうだな。人狼を見つけ出すテクニック、心理戦とかか? 知略が試されるゲームだと考えているが」
「スルーなのか。凄いな葛城……」
「心理戦、知略が試されるというのはたしかにそうでしょう。ですが、人狼ゲームにおいて一番重要なのはそこではありませんよ。人狼ゲームというのは一種の――」
―――
「では、皆さん聞いてください。我々Aクラスからは提案があります。結論から話しますと――全グループ結果1を目指しませんか?」
えー、解説のホームズです。ただいま、竜グループの第一回目の干支試験のディスカッションが始まったところとなります。なんで俺がここに居るのかといえば、さっさと終わらせる気満々だった坂柳に引っ付いてきたからですねー。
因みに許可は貰っているので問題ない。
入室するときに坂柳の頭の上を占拠している俺に堀北や龍園がぎょっとした目を向けていたが、Aクラスはスルーである。
最近、頭に乗りすぎて坂柳も慣れた感があるな……。
何なら乗らないとなんか物足りなさそうな視線すら向けてくる。
閑話休題。
ディスカッションが始まり、ひとまず指示されていたとおりの自己紹介を一人ずつやり終えたところでぶっ込んだのが坂柳の一言だった。
坂柳の言葉に龍園は面白そうな顔を浮かべ、神崎や堀北は不審そうな表情を浮かべている。
「それはどういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。ここにはクラスに強い影響力を与える生徒が揃っています。クラス単位での契約……例えば試験終了までに解答した場合、そのクラスにペナルティを与える相互の契約を結べば「裏切り」を防ぐことができます。そして、試験終了時に優待者は証拠を提示して名乗り出れば全グループ結果1は容易に達成できる」
「……たしかに裏切りが発生しなかった場合、残る結果の選択肢は結果1か結果2のみ。どっちかしか選べないなら結果2にする意味はない」
「全員に+50万プライベートポイント、優待者はそれに加えて+50万プライベートポイント。優待者視点ではどちらでも+50万プライベートポイント多く貰えることには違いありませんし、優待者以外には当然貰える方が嬉しいですからね」
「つまりは全員が得するから結果1にするべきだと?」
「当然の主張ですよね?」
坂柳の言葉に面白そうな顔で龍園が尋ねた。
そこに口を挟んだのは堀北だ。
「でも、それで得をするのはAクラスよね?」
「というと?」
「全員が得をすると言うけど、それだとクラス間の差は埋まらない。Aクラスと距離を縮める機会を一回みすみす捨てると同義。全員が得をするといっておきながら都合が良いと思うわ」
Aクラスに上がりたい堀北からすれば結果3の方が都合がいい。
何せ実質100CP分も縮めることができるからな、それが潰されてしまうとなると口を挟みたくなるのも当然だ。
たしかに契約を結んでしまえば裏切りを無効化できるが、そうすると得られるものはプライベートポイントのみとなってしまう。
それは下位クラスのDクラスにとっては都合が悪い。
そう――あくまでも下位クラスのDクラスにとっては……だ。
「神崎くんはどう思いますか?」
「……検討の余地はあると思う」
坂柳の言葉に神崎はそう答えた。
原作との違いに明確に今回の無人島試験でBクラスは負けたわけじゃないというものがある。
Cクラスとの契約の支出もあるだろうし、稼いだCPもAクラスに負けているがそれでも圧倒的な負けというほど負けていないのが今のBクラスだ。
原作ほどの焦りをする必要がない。
だからこそ、Aクラスの言葉に耳を傾けている。
そして、それが致命的だった。
「良いですか? まず明確にしておきたいことですが。結果1の場合、このグループは14人ですからグループ全体で得られる利益は750万プライベートポイントとなります」
「な、750万……」
「全グループ達成した場合、クラスで得られるプライベートポイントは2000万プライベートポイント。これに優待者の150万プライベートポイントが加わるので、2150万プライベートポイントとなります」
「ちょっと待って? 優待者の150万プライベートポイントというのは? つまりは一クラスに三人居るってこと?」
「優待者に関してはまず間違いなく、公平に振り分けられているはずです。そうでなくてはさすがにゲームとして不公平ですから。先生たちも厳正なる調整の結果と言っていましたからね。まあ、そこら辺は今は関係ないので脇に置いておくとして」
坂柳は一端話を区切ると神崎に問いかけた。
「結果1で得られる2000万以上プライベートポイント……どう思いますか?」
「どうと言われても。凄い額だなとは思うが」
「この2000万プライベートポイントという額、これには意味があるんです」
「意味? ……2000万プライベートポイントといえばクラスを移動できる権利がその額だったと聞いたことがあるけど」
「ああ、それもありましたね。得られた2000万プライベートポイントで他クラスの生徒を引き抜く……というのも戦術としては面白いかも知れませんね」
坂柳の発言にぎょっとした表情を浮かべる他クラスの生徒を横目に、葛城が俺に視線を向けてきた。
大人しく彼女の頭の上に寝そべっていた俺はとりあえず叩いておいた。
「にゅあ!? わ、わかっていますよ。ちょっと揶揄いたくなっただけじゃないですか」
「にゃー」
いいからさっさと続けなさい。本当にこの子はもう……。
「はいはい、わかりましたよ。たしかに2000万プライベートポイントはクラス移動の額でもありますけど、実のところもう一つ別の権利を行使する際にも使える額なのです」
「別の権利?」
「ええ、それは――退学処分を取り消すことができる額です」
その言葉に神崎と……そして、平田の注目度が一段と上がった気配を俺は察した。
うーん、これは決まったかなー。やっぱり、こういった交渉系は坂柳の独壇場になるね。
俺は坂柳の言葉を思い返した。
『――人狼ゲームというのは一種の政治ゲームなのですよ』
と彼女は称した。
政治ゲーム、つまりは政治力が試されるゲームと言うことだ。
人狼ゲームは人狼を見つけ出しただけでは終わらない、それを吊るまでがゲームの内容だ。
そして、吊るためにはグループの意向を誘導しなくてはならない。
それができなければ最終的には負けてしまう。
この干支試験も根本的には似たようなものだと坂柳は言っていた。
グループとしての意向、方針をどういう風に自分の都合のいい方向に変えることができるかそれが肝なのだと。
それが即ち政治力。
まずはその第一段階。
自らの提案に乗ることによって発生する利益の話だ。
得られる2000万以上のプライベートポイント、それだけでも相当な利益だがそれに加えてもっと具体的なメリット――即ち、この金額があれば退学者が発生しても救うことができますよとアピールする。
仲良くAクラスを目指すBクラスや、絶対退学者を出したくないマンである平田はこの事実を無視することはできない。
「退学者を救うことができる。これはかなり重要な点です。普通に勉強を頑張ってテストで赤点を取らなければ退学者なんてでない……と考えているかも知れませんがこの高育ではそうとも限りません」
「Aクラスは学校のことに関して結構調べていましてね。その結果、判明していることですが二、三年生もかなりの数の退学者を出しています。単にテストで赤点を取った者がいた、退学処分に相応しい事件を起こした者がいた。というだけでは少々説明がつかない数です」
「ええ、そうです。我々の見解としては退学者が発生するような特別試験があるのではないかと考えています。その点を踏まえるとこの試験で2000万以上のプライベートポイントを稼げる機会があるのもなんとなく意味がわかりませんか? 要するに学校側からの上から目線の慈悲というやつです。一年の最初の方の試験で稼げるチャンスだけは与えてやった……という風にね」
もはや、坂柳の独演会となっている。
彼女に反発気味な堀北もいつの間にか大人しく聞く体勢に入っていた。
今後、退学者が発生する場合がある。
それも試験という形で強制的に。
それを救うことができるかもしれない。
実利の面でも退学者が発生した場合、クラスとして手に入るプライベートポイントの量の低下、団体で行う試験の場合は減った分だけ不利になるので勝つことが難しくなるという説明をわかりやすく。
利益を説明し、受け入れやすくするためだな。
そして、次の段階に。
「さて、これが全グループ結果1のメリットは説明となります。改めて、神崎くんいかがでしょうか」
「……一之瀬と相談してみないことはなんともいえないが。正直、Bクラスとしては悪くないと思っている」
はい、釣れたー。まあ、そうなるよなBクラスは無理をするほどじゃない。原作とは違って無人島試験では同盟を結んでいたというのも大きいのかな。そして、Bクラスが陥落したということはつまりは全体の半分がこっちよりになったということになるわけで。
「Cクラスはどうでしょう」
「くくくっ、何食わぬ顔をしてやがるぜ腹黒女が……」
「ふふふっ、酷い言われようですね」
「いいぜ、乗ってやるよ」
「あら、Cクラスがそんなに大人しく従うなんてね」
BクラスがAクラスの提案に同調したことに危機感を覚えたのか、堀北が龍園を挑発するが彼は何処吹く風だ。
「どうせ、この女のことだ。一クラスが同調しないということになったら、方針を切り替えてもう片方に協力を呼びかけるだろうさ。「三クラスで同盟を組んで稼がないか」とかな」
「マサカソンナー」
そうBクラスが陥落した時点で既に半数の票を握っているようなものなのだ。
提案を妨害しようと反発する存在が現れたなら、もう一クラスと組んで三クラス同盟でフルボッコにして分け前を等分するという手法もできてしまう。
全体の利益を損なった存在として吊るされるのだ。
だからこそ、龍園は大人しく流れに従った。
まあ、龍園の目的からしても悪くない提案だからというのも大きいんだろうけどなー。
これが第二段階。
提案に乗った場合のメリットの提示の次は乗らなかった場合のデメリットの提示だ。
提案を突っぱねるなら、こうなるかも知れないけど……それでもいいのか。
という釘を刺す行為。
堀北も龍園の言葉で既に状況が詰んでしまっている。
つまりは話の流れが1つの方向性に定まっていることに気づいたのだろう、悔しげな顔をしている。
そして、最後の第三段階。
「それにちょっとばかし、学校側に意趣返しとかしてみたくありません? 私たちはそもそもバカンスだという名目で船に乗ったはずなのに、一週間の無人島生活を余儀なくされました。一週間ですよ? 完全な騙し討ちの試験。その間、学校側の人間は優雅にクーラーの効いた場所でビールでも飲んでいたのでしょう」
いや、さすがにビールは飲んでいないんじゃないかな。あっ、でも星之宮とか飲んでそう。
「サバイバルをしていた私たちをニヤニヤ見ながら美味しい食べ物も食べていたんでしょうね。そして、試験が終わったと思ったら今度はこんな試験が始まりました。別に試験をするなら試験をすればいい。ですが、夏休み以外にして欲しい。貴重な高校一年生の夏休みの二週間が浪費されているんですよ? どう思いますか?」
二週間のバカンスの期間で完全フリーだったのは無人島試験終了後の少しの間だけ、干支試験は拘束時間こそ短いものの試験終了まではいろいろと気にしないといけない部分も多く、楽しく船で過ごせるかというと微妙なところだ。
「この試験の内容からして、どうせ結果1なんて選べないだろうという出題者側の意図も見え見え。だから、さっさと契約を結んであとは何も考えずに試験を終えてお小遣いを貰って帰りましょう。それがいい意趣返しになると思うんです」
そう言って坂柳は笑ったのだった。
これが第三段階――情に訴える、だ。
この場合の情とは情けではなく、感情の部分を刺激することを指す。
今回なら学生なら誰しもが大なり小なり感じている学校側の不満、あるいは大人に対する不満を刺激することだ。
メリットを提示し、デメリットを提示し、そして最後に感情で揺らす。
これが物事を動かすテクニック、政治力というやつだ。
ロジックだけではダメだし、感情論だけでもダメ。
両方を使えてこそ十全だ。
……しかし、やっぱこいつ変な風にスキルビルドが育っている感じがするな。これが学校を脅しまくったドSの力……っ!! 将来はいい扇動家になりそうで怖いね、全く。どうしてこんな風に育ってしまったんだ。
「こんな試験、みんなで合法ボイコットしちゃいましょう!」
結論を述べる。
干支試験はこうして第一ディスカッションで終了することになった。
〈人物紹介〉
●ホームズ
→特にやることのなかった猫。なんで猫が居るんだという目を他クラスからの視線を無視して坂柳の頭の上で置物になっていた。
●坂柳有栖
→高育は私を舐めた! とやる気を出してみんな丸め込んで結果1にする偉業を達成。弁舌とか扇動力が原作より明らかに強化されている。これで残り時間は船で遊んで過ごせるし、お小遣いも試験終わりは大量ゲットとご満悦。全員丸め込んでしまえば優待者の法則なんて関係ないのだ。
●神崎隆二
→原作と違い無人島試験では負けていないこと、それと得られる2000万プライベートポイントの活用法に関して持ち出されたため、無理に戦わず提案を受け入れる選択肢を選んだ。
●龍園翔
→プライベートポイントの総量が増える分には龍園の戦略とも合致するため、態度にこそ示さなかったがむしろ好都合だった。それはそれとして坂柳のいいようにされるのは不満はあったが、学校側にひと泡吹かせるのは悪くはないと実はノリノリ。わりと今の坂柳と相性が良い。
●平田洋介
→2000万プライベートポイントの使い道を聞かされた時点で既に提案を受け入れる気になっていた。彼にとっては退学者が出ること自体があり得ないため。
●堀北鈴音
→何もできなかった。