よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
まあ、ともあれ問題は解決したな……ヨシ!
「何の解決もしていないと思いますが」
いや、解決したんだ。そのはずなんだ! というわけで、この話はここまで! 佐倉の課題は終わったのか?
「ホームズってわりと厄介ごとから逃げるタイプだったのね」
「たぶん負い目があると後回しにするタイプなのでしょう」
「にゃー!」
「うーん、困り果てているホームズも可愛い」
「この親バカぁ……」
坂柳とご主人が何か言っているが俺は耳を塞いで聞こえないふりをした。
「まあ、課題の方はこれで終わりですよ。頑張りましたね、佐倉さん」
「坂柳さんが手伝ってくれたおかげで……ありがとうございます」
「いえいえ、私たちはもう終わっていましたから」
「Aクラスはわりと早い段階で集まって進めていたからねー」
「すごいですね。私はちょっと動画のこととか色々あって、あまり進められなかったので……」
「まあ、試験とかありましたもんね。それも二週間」
俺の様子を一通り楽しんだのか話題は雑談へと流れていった。
「貴重な夏休みを二週間拘束って考えると、やっぱりどうなんだろうって思っちゃうわよね」
「無人島試験はともかく船上試験は船の上でしたし……。結構、貴重な体験でしたよ豪華客船」
「それはまあ……たしかに」
まあ、楽しめたのは干支試験をさっさと終わらせることが出来たからけどね。そうじゃなければ誰か裏切らないか神経を張り詰めたり、他クラスの出方を伺ったりと素直に楽しめない時間を過ごしていただろうなー。
「つまりは私のお陰ということですね!」
ドヤッとした笑みを浮かべる坂柳。
悔しいがその功績は認めざるを得ない。
彼女以外にペラ回しだけで全クラスを納得させて、全て結果1で終わらせるなんてことは無理だろうからな。
「坂柳は喋らせたらダメなやつだと認識したわ」
「酷い言われようですね。これだけ、クラスに貢献しているというのに」
うーむ、残当!
「にゃー!」
「にゃー!」
「だから威嚇し合わないの。でも、まあ無人島試験の結果も凄かったけど50万プライベートポイントのお小遣いはよかったわよね。総合的に見ればバカンスはいい結果だった」
「まあ、50万なんてその大部分がクラス預金に突っ込まれましたけどねー」
「どのみちAクラスは毎月のプライベートポイントには困ってないしね。徴収があっても十分な額があるし」
「たしか1500CPを超えているんでしたっけ? ということは毎月15万……すごいですねー」
「こんだけあれば十分すぎるほど裕福に過ごせるからね。特に不満は起こらなかったなー。ああ、でもDクラスはどうだったの?」
「ああ、そこら辺は気になりますね」
「Dクラスも船上試験で得たプライベートポイントの八割をクラス預金として集めることになりました。あとは今後のクラス預金の徴収も」
「おや、意外ですね? その他のクラスと違ってDクラスはあまり懐事情が良くないので、話としてはこじれると思っていたのですが……」
坂柳の言葉に俺も同意するように頷いた。
プライベートポイントに余裕のあるAクラスとは違いDクラスではクラス預金は厳しいのではないかと考えていた。
なにせ一度0CPを経験したクラスだ、降ってわいた50万プライベートポイントを大人しく手放せるのか……と。
詳しく聞くとどうにも平田と綾小路がうまく話をまとめたらしい。
無人島試験で得たCPで一先ず一息つけるだけの毎月のプライベートポイントの確保もできていたことも大きな要因だろう。
不満がないわけではなかっただろうが、試験を無事に突破できたことで平田は随分とクラスのリーダーとして立場を固めたっぽいな。無人島試験での裏工作の分は綾小路が主導で、平田はサバイバル生活を円滑に進めるために全体の指示役に徹していたっぽいし。
そのおかげで、女子はもちろん男子生徒からも信頼を勝ち取っているようだ。
そんな平田と話を通していたっぽい櫛田、偽装恋人の軽井沢の助力もあれば表向き反対するのは難しいか。堀北や幸村といったAクラス上がりたい組は、クラス預金を作っていざという時の軍資金を貯めることには賛成だろうし……。
池や山内など大金を惜しんでいた生徒もいたが、さすがに同調圧力の結果強くは反対できなかったようだ。
合理性の観点で今後のことを考えるならクラス預金は必要となってくるのは誰でもわかる。
とはいえ、高円寺辺りはそれでも拒否ってきて話をややこしくしそうだなーと考えていたのだが――
おい、なんで高円寺の野郎までキチンと払うんだよ。お前が大人しく従ったら、そりゃ誰も反対するやつなんて出てこないだろうが。
佐倉の話を聞いて俺は思わず突っ込んだ。
どうにも綾小路が間に入って話を通したらしく、毎月の徴収は大人しく払う代わりに自由を保障する約束をしたらしい。
「ポイントを大人しく払うから従わせようとするな」という一見すると唯我独尊らしい行動――だが、俺にはわかる。
これはとても高円寺らしくない行動だ。
やつならポイントも払わないし、指示したところで無視を決め込むのが彼らしさというやつだ。
それなのに大人しくポイントを払うなどという妥協の行動を取った。
クラスに貢献してやるつもりはないが、邪魔をするつもりもないという行動指針の変化。
高円寺の機嫌が良かったといえばそれまでのことかもしれないが……面倒だなぁ。
まあ、ともあれ思いっきりクラス内の協調を邪魔にしそうな人物が動かなかったため、Dクラスはうまく体制を整えることに成功したのだろう。
「ふふふっ、なるほどなるほど。さすがですね」
佐倉の言葉を聞いて坂柳が楽しそうに微笑んだ。
誰かにマウントを取ることでしか生きることの出来ない哀れな生物である邪ロリにとって、狙いの獲物が居るDクラスが強くなるのは好ましい展開なのだろう。
やれやれだぜ。
「…………」
「…………」
「はい、そこ。無言で相手の出方を伺って牽制し合わない」
ギロッとした視線を向けてきた坂柳と、視線でのやり取りをしているとご主人に止められてしまった。
反省。
話を変えるとしよう。
「にゃー?」
「なんですか、ホームズさん?」
「動画の方の進捗はどうだって聞いているみたいね」
「あっ、はい。それはとても順調で……実はフォロワーが1万人を突破しました!」
「えっと、最初は5000人だっけ?」
「そうですね。都合上、コメントなどの形で発信が出来ず、あくまで写真や動画だけのアップでこの短期間なら上々の上昇率なのでは?」
「それどころか、その……」
佐倉はチラリと何故か俺の方を見ながら呟いた。
「ここ数日、特にフォロワーの数が増えていてですね。1.5万人に届きそうな勢いで」
「いいことじゃない。雫としての活動がそれだけ認められたってことでしょ?」
「ですね」
「にゃー」
「いえ、たぶんここ数日の伸びは恐らく……ホームズさんのせいかと」
「にゃ!?」
彼女の言葉に俺はまたしても驚きの声を上げた。
なぜ、俺っ!?
「どういうこと?」
「まあ、ホームズが一緒に動画に登場することで集客率アップは狙っていましたけどそれだけじゃ……」
「たぶん、原因はこの動画ですね」
そう言って、佐倉が見せてくれた動画には一匹の猫が映っていた。
電車の中らしき場所で荷物置きの場所をふてぶてしく陣取っている黒い毛並みの猫――というか俺だった。
「これ、ホームズが外に出たときの?」
「バッチリ撮られているじゃないですか」
「にゃー!」
「そりゃ、交通機関のタダ乗りでもしなければ他所の県までいけないでしょうけど……あっ、いきなり男の人に飛びかかりましたね」
あー、あの瞬間かー。
「「黒猫ちゃん大活躍。痴漢成敗」という動画名で……」
「どういうこと?」
「いや、題名通りの動画で――」
「「黒猫くん」でしょ!」
「そこは仕方ないんじゃないですか? とはいえ、こんな目立つ騒ぎを……」
俺が騒ぎを起こしたわけじゃないやい! 悪いのは中学生ぐらいの女の子を狙って痴漢していた変態野郎じゃ! 明らかに内気そうな文学系少女ちゃんを狙っていた常習犯だったぞアイツ。逆らえなさそうなやつ狙ってお尻を触っていたゲス野郎だ。
それを見つけた俺は飛びかかって懲らしめてやったのだ。
そして、「大丈夫だから勇気を出せ」という意味合いを込めて文学系少女ちゃんに向けて一言鳴き、彼女が「この人、痴漢です!」と勇気を出して言ったことで事なきを得た。
男は駅員にしょっ引かれていった。
お尻を触る一方で携帯を弄って撮影っぽいことやっていたので証拠なんて山ほど残っているだろうから、あのまま警察に捕まって終わりのはずだ。
まあ、なってなかったらお礼参りにアイツの家を探し出してちょっと脅かしまくるぐらいはするかもしれん。
結局のところ、俺は葛城の実家に向かうため最後まで付き合えなかったからどうなったかまでは知らなかったが……動画の説明文によると犯人はそのまま捕まったらしいので一安心。
文学系少女ちゃんもあんまトラウマになってなさそうだったし、いやーよかったよかった! いいことをしたな、さすがはご主人様のペット! このぐらいは当然よ。お礼を言われるのは気持ちいいぜー! 特に可愛い女からのものならな!
「どう思います? このボケ猫、思った以上に余罪が多そうなんですけど」
「ホームズはいい子だから」
「否定はしませんけど。同時にポンコツです。……まあ、いいですけど。しかし、その動画と雫のフォロワーが増えていることの関係性は?」
「どうもこの動画バズっているみたいで、ツイッターでも広まってるみたいで。そしたら、他にもホームズさんが電車に乗っているときに見かけたって人が出てきて……写真とか動画とか色々出てきて」
「どれだけ撮られているんですか」
「にゃー」
猫の姿なんて「とりあえず、写真。もしくは動画」みたいな感覚で撮られることなんてよくあることだし……別にいいかなって。
「これだけ情報を出てくると「電車に乗って長距離移動していた黒猫の謎を追え」みたいな感じで、何故か熱意を燃やして検証する人たちも現れて」
「ああ、謎にそういうのにやる気出す人種っているわよね」
「それでホームズさんのことを調べていく過程で、どうも私の動画にたどり着いたみたいで」
「なるほどバズり動画から色々と流れてきた感じだというわけですね」
あくまで雫が主役で俺は引き立て役ぐらいのポジションなのに、よく同一猫物だと気づいたな……。いや、しかし確かに俺のせいで雫という存在が注目を浴びてしまったようだ。そして、急激なフォロワーの増加はその結果というわけか。
「まだまだ私の実力じゃないというか……」
「まあ、いいんじゃない? 一過性のものだとは思うけど何にしろ注目が集まっていることはいいことでしょ」
「確かにそうですね。興味半分で注目している連中を雫のファンにしてしまえばいいんですよ」
「にゃー」
「そ、そうですね! 私、頑張ります!」
「それはそれとして、どうにか、あくまでホームズは共演しているだけのことを明示するべきじゃない?」
ストレートに独占欲を滲ませるご主人。
雫のツイッターのコメント欄では俺が彼女の飼い猫であるという前提での言葉が乱舞しており、いたく刺激されてしまったらしい。
かわいい。
「かわいい、じゃなくてどう考えても一之瀬さんのことを気にしてのことですからね?」
「にゃーい」
坂柳に釘を刺されてしゅんとする俺。
ふて寝をする俺を尻目に女三人は姦しく喋っている。
若干、蚊帳の外になってしまうが眺めているだけで十分満足できる光景だ。
部屋の中の顔面偏差値が高すぎるんだよな。
それにしても佐倉もだいぶ変わってきたものだ。
内気ではあるものの根は真っ直ぐで、とてもストレートに慕ってくる彼女をご主人も坂柳も気に入っている。
最近はグラドルとしての活動のおかげで自分に自信がついてきたのか活力がある感じで、鬼頭とよく会って相談したり、ロケーションの確認や次の動画のための衣装作りのためにケヤキモールに行っているらしい。
色々と買うものがあるからな。
しかし、男女二人で買い物に行くなんてこれはデートなのでは? でも、二人からはそんな感じはしない。一つの作品を作るための仲間……みたいな距離感だな。
少なくとも佐倉の方はそんな感じだ。
あまり隠し事が出来る性格でもないし。
とはいえ、異性で一番信用している相手を選べといわれたら鬼頭を挙げるくらいには信頼度が高いのは間違いない。
色々な意味で楽しみなのは間違いない。
〈人物紹介〉
●ホームズ
→余罪の多い猫。不思議な黒猫に親切にされたり助けられた経験を持っている人間は結構多い。雫の飼い猫として認知されており、絶賛ネットの世界では注目を集めている。やらかしすぎ。
●神室真澄
→一之瀬の存在や雫の飼い猫であると認知されていることに不満を感じているご主人様。
●坂柳有栖
→天才であるカリスマに相応しき威嚇の「にゃー」を習得した。
●佐倉愛里
→グラドルとしてネットで活動中の女の子。本人のやる気と実力、あと猫ブーストのお陰で順調に知名度が上がっている。