よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話   作:サンディエゴ

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[夏の夜の夢]

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畜生系主人公が神室真澄と花火で遊び話(いんたーるーど) ★

 

 

 

 日本では古来より「夏」という季節と「怪談」にはある種の関係性があった。

 

 

 広く行われる仏教行事における「お盆」という行事、これらは地域によって時期も様々だが、概ね七月から八月の間に行われる。

 

 それが一つの要因ではあるのだろう。

 

 お盆は先祖の霊を迎えて供養するという行事だ。

 それはつまり、夏という季節の間、死者は現世に訪れやすいとも言える。

 

 実際、無縁仏や恨みを持った怨霊もまた現世に彷徨い出やすいという話もあった。

 それらが「夏」という季節と「怪談」という存在を結びつける信仰的な土壌となったのだろう。

 

 また、それとは別に涼を取るために怪談を取り入れてきたという日本特有の文化も要因の一つと考えられる。

 

 怖い話を聞くとゾッとして寒く感じる、という話がある。

 古くは霊的なものだと考えられていた現象だが、これは歴とした身体の反応によるものだ。

 

 人間というのは恐怖を感じると交感神経の反応でその瞬間、心臓に血を集めてしまう。

 その結果、心臓から遠い末端の部分……つまりは手先などの部分は血管が収縮して血液が低下してしまうというわけだ。

 

 それが体温の低下へと影響を与える。

 昔の人間はその原理こそ解明できてはいなかったが、怪談話でゾッとすれば涼が取れるということは理解していた。

 

 

 暑い日本の夏を乗り越えるため、涼み芝居や百物語、肝試しなどを行い文化的に継承された結果、「夏」と「怪談」というイメージが定着してしまったと考えられる。

 

 

「おい、そんなところで本読んでねぇで花火やろうぜ! 花火!」

 

 

 取り寄せた民俗学の本を片手にそんなことを考えていると、オレに向けてそんな声が飛んできた。

 視線を向けるとどこで買い込んだのか大量の花火を抱えた須藤の姿がそこにあった。

 

 

「ああ、もう少ししたら行く。キリが良いところまで読み終えそうだからな」

 

「ふーん、そっか。だけど、後から来て残りが少なくなってても文句を言うなよー?」

 

 

 そう言って須藤は花火を抱えながら歩き去って行く。

 須藤が向かっているのは花火会場となっているグラウンドだ。

 

 事の発端はAクラスからの誘いだった。

 夏休みも終わりもう少しで新学期が始まるので最後にイベントをしたいということで、ポイントで交渉してグラウンドの一つを一時的に貸し切ったらしい。

 

 そこで花火大会をする予定で、良かったら他のクラスもどうかという誘いだった。

 別にDクラスだけに誘いがあったわけではなく、BクラスやCクラスにも誘いが行われた。

 

(花火大会以外にも慰労会としてバーベキュー大会とかもやったことがあるらしいし、Aクラスの結束力は高いな……。参考になる。リーダーが二人いるという体制の影響もあるんだろうが)

 

 葛城という男は何かと気が利く男だと内心で評価をあげる。

 縁の下の力持ちというべきか、花火大会の体裁を整えるのも他クラスのリーダーに話を通して参加を呼びかけたのも彼だと聞いている。

 

(信頼されるタイプの人間だな。平田には是非とも学んで欲しい。ああいった形での信頼の構築はオレのポジションじゃ難しいからな)

 

 参加の条件として花火は自腹で購入して持ち寄るというものがあったぐらいの緩い集まりだったが、思いのほか多くの生徒が参加しているのが見て取れる。

 夏休みも終わり、最後にパーッと遊びたいという気持ちの生徒も多いのもあるだろうが……。

 

(Bクラスはともかく、Cクラスも来るのは意外だったな。いや、Cクラスの生徒が来る分にはそれほど驚きはないが)

 

 チラリッと視線を向けると遠目でもわかるほどに目立つ大柄の生徒、山田アルベルトや石崎を引き連れた龍園の姿があった。

 

(あの龍園がな……)

 

 柄ではない、という言葉がこれほどに合う男もそうはいない。

 しかも、律儀にちゃんと花火を用意しての参加だ。

 

(無人島試験前の龍園なら、まず参加などしなかった。イベントにかこつけて他クラスの様子を伺う目的もあるんだろうが……それを加味しても)

 

 まずあり得なかった。

 だが、どうしてか今の龍園は来ている。

 

 山田や石崎の他にCクラスの生徒を引き連れている様子を見ると、彼が呼びつけたのだろうか。

 

(一度牙を折ったのが堪えたのか。……学習はしたようだ)

 

 荒らされては困るという理由で龍園を正面から打倒した。

 その結果なのだろうか、今の彼は視野が広くなっているように見える。

 

 Cクラスの結束を高めるため、あるいは暴力や恐怖だけじゃなくリーダーとしての鷹揚さを披露するためだろうか。

 Cクラスの生徒を呼びかけて参加した――というところだろうか。

 

(……面白くなってきたな)

 

 いつも通りの態度で葛城に絡みに行った龍園の様子を見ながら、周囲を見渡すと珍しい人物を見つけた。

 

 それは堀北の存在だ。

 こういったイベントに参加するタイプの人間じゃない筆頭の堀北がちょっと居心地が悪そうにしながらも居た。

 

(堀北も変わろうとしているのか……)

 

 誰かに誘われてきた、という感じではない。

 それほど社交的な人間が彼女の周りにはいないし、むしろ誘われたら意固地になるようなタイプだ。

 

 

 そんな彼女がわざわざ出向いた理由、それを想像することは難しくない。

 

 

(あとで話しかけに行くべきだな)

 

 

 そんなことを考えながらオレは夜空を見上げた。

 街灯の明かりで本を読むのもさすがに辛くなってきた、折角来たのだからそろそろ参加するべきだろう。

 

 

 オレはそう思って腰を上げた。

 クラス関係なく、そこでは生徒たちが思い思いの花火を持ち寄って楽しんでいた。

 

 

 思い描いていた青春とはこんな感じのものだった。

 視界の端では黒猫が楽しそうに飼い主である少女の周りを歩いている。

 

 

 一歩ずつ夏の夜の乾いた風の中を進む。

 ふと、とある占い師と話したときのことを思い出した。

 

 

 最近、あの占い師との会話が頭にこびり付いて離れない。

 よく当たるという噂を聞き、興味本位で尋ねた老婆の占い師。

 

 

『――知りたければ知識だけを集めてもダメさね。人だけが神を知る。自らの内側も知らないと答えなんて出てこないよ』

 

『内側?』

 

『そうさ、普通人間ってのは学ぶ度に自らの内を見つめ直すものだけどね。アンタはそれが出来ていない』

 

『……量子力学の観点において観測や知識などの要素は重要だ。客観性というものが求められるが、むしろ主観的な部分が大事……ということか?』

 

『理屈に頼っているようならまだまださ。だが、そうだね。少しだけ予言をするなら――お主は夏の夜に少しだけ夢を見ることになる。それをどう見るかだ』

 

『夢?』

 

『ああ、ただの夢。白昼夢』

 

『それを……どう見るか?』

 

『儂から言わせればどれだけ白く染めようが、人がただの色に染まるなんざあり得ないって話なのに……バカな話さ。――じゃあ、追加で20000プライベートポイントな』

 

『金を取るのか。しかも、高い』

 

『安いもんさ。人生相談みたいなもんじゃしな-』

 

 

 まるで狒々のようにそう笑った占い師の言葉。

 要領を得ない、詐術的な内容と受け取れなくもその言葉がどうにも頭から離れない。

 

 

 

「あっ、綾小路くん。こんなところに居た」

 

「平田か。それに軽井沢」

 

「げっ、また読んでたんだ。こんなところでまでよく読むわよね」

 

「結構、面白いんだ民俗学というのは。今度読んでみるか?」

 

「ノーセンキュー!」

 

 

 

 オレのことを呼びに来たのだろう平田たちと共に歩き出した。

 思えば彼らとこんな関係になるとは思わなかった。

 

 

 オレは普通の自由が欲しかった。

 普通の青春が欲しかった。

 

 

 だから、平均的な人間になろうと「事なかれ主義」なんてものを貫こうとしたが……今ではこれだ。

 

 

 想定とは違ったが……悪くはない。

 そう言えばと思い直した。

 

(龍園や堀北もそうだが平田や軽井沢も少し変わってきたな……)

 

 トラブルもあったが順調にDクラスとしてのリーダーとして認められるようになってきた平田、オレのフォローもあるが精神が落ち着いてきたように思える。

 

(おおよそ、プロファイリングで平田の問題に関しては見えてきた。場合によっては敵対する関係になっていたかもしれないが、今の俺の方針として無駄だから切り捨てるというものはない)

 

 恐らく、それではAクラスには勝てないからだ。

 

(平田とオレの利害は一致している。だからこそ、フォローやサポートは行っている。そのせいか肩の力が抜けてきた感じがするな。軽井沢の問題にも労力を回しているようだし)

 

 軽井沢の過去に関しては既に知っている、だからこその問題も発生してしまったがまだ是正できる程度のものだ。

 

 平田の説得もあり、軽井沢も変わろうとしている。

 少なくとも今の彼やオレの存在があればいざという時に助けてくれるという思いがあるのだろう、軽井沢にはDクラスの女子をまとめるという役目がある。

 

 

(……こう考えるとみんな少しずつ成長しているんだな)

 

 

 分析に分析を重ねる。

 人は人との交流を重ね、いくらでも変化する。

 

 

 だとすると、オレは何なのだろうか?

 オレは成長しているのか?

 変化をしているのか?

 

 

 遊び呆ける遠くの黒猫に視線をやった。

 

 

(黒猫の存在がオレを新たな道に導いた。入学前のオレならこんな本を読みふけるなんて事はあり得なかった。つまり、変化はしている。だが、それは成長と呼べるものなのか? そもそも成長とは何だ?)

 

 

 わからない。

 オレには何もわからない。

 

 

 不意に占い師の声がリフレインした。

 

 

 何故か、と思考するよりも先にオレは見つけた。

 

 

 夏の夜。

 多くの遊ぶ生徒たちに紛れるように遊んでいる――のっぺらぼうの子供を。

 

 

 白い、白い子供だった。

 顔も手足も服も真っ白で、だがとても楽しそうに。

 

 

「おら! 俺様の花火の時間だ!」「っしゃぁ! 龍園さんのドラゴン花火の時間だぜ!」「お前、そんなのどこで買ってきたんだ……」

 

「ちょっ、こっちに来てるんですけど! ホームズ!」「ネズミ花火って凄い動くんだねー」「ネズミとは言ってもホームズに頼ろうとするのは――やめなよ」「というかホームズ、別の方向を見てまるで無視をしているね」「ホームズぅううっ!!」

 

「香り付き花火って初めてですけど、良い香りがしますね」「本当ね」「おい、須藤たちのバカを止めろ! ロケット花火をひとまとめに火を付けようとしているぞ!」

 

 

 至る所で花火が行われているその場をはしゃぎ回っている。

 

 

 前を歩く平田や軽井沢に声をかけようとして――やめた。

 見ればわかる、誰も彼らを認識していない。

 

 のっぺらぼうの子供がはしゃぎ回っているというのに誰も視線を向けないあたり、それがまともな存在であるはずがなかった。

 

 

(あれはつまり……幽霊というやつなのか? 足はあるようだが……足のある幽霊のイメージもある絵が有名になったからだからな。有っても別に良いとは思うが……)

 

 

 心霊現象、まるで白昼夢のように現実感のない光景

 オレは占い師の言っていたことはこれだと確信した。

 

 

(これを見てどう思うか、どう感じるか――と言っていたな。どういう意味だ?)

 

 

 目の前で起こっている心霊現象、それに驚きと微かな興奮を感じているがそれが一体なんだというのだろう。

 

 

 だけど、ああ……何故だろうか。

 オレは子供の幽霊を見ながら奇妙な感覚を感じた。

 

 

(オレは……彼を、彼女を知っている?)

 

 

 そんなわけはない。

 そもそも、個人を判別するための顔もないのだ。

 

 それなのになぜ、「知っているかもしれない」なんて気分になるのか。

 そう理性が叫ぶも、オレの本能は「知っている」と訴えてくる。

 

 

(子供……子供、子供……真っ白な……子供?)

 

 

 ふと、オレは過去を思いだした。

 ホワイトルームという場所で過ごしていた真っ白な記憶。

 

 

(白い子供……ああ、そういえば。オレ以外の彼ら、あるいは彼女たちはどうなったんだろうか?)

 

 

 今まで一度も思い馳せなかった彼ら、彼女らのことを思い出す。

 いや、これは思いだしたといえるのだろうか。

 

 

 記憶の中の彼ら、彼女らはのっぺらぼうだった。

 それどころか声もよく思い出せない。

 

 顔は見たことがあるはずなのだ、短いながらも会話したことだってあるはず。

 それなのに思い出すことが出来ない。

 

 

(……違うか。思い出す必要性がなかったから消去したのか? オレは)

 

 

 オレの記憶力に限って思い出せないと言うことはあり得ない。

 ならば、オレが自発的にその記憶を消去したのだ。

 

 その理由は何だろうか。

 記憶する必要がなかった、というのは一つの要因になり得る。

 

 彼ら、彼女らは落伍者だ。

 ホワイトルームの教育に耐えきれなかった存在、最高傑作などと言われたオレからすれば何の価値もない存在だ。

 

 同じカリキュラムを受けてオレは乗り越え、彼らは脱落したのだ。

 彼ら彼女らから学ぶべき事などありはしない、まだ池や山内などの外の環境で生きてきた一般人の方がサンプルとして学ぶべきところがあるぐらいだ。

 

 

 だから、オレは彼らの存在を不必要なものだとして記憶から消去した。

 

 

 

 ……本当にそうだろうか?

 だとしても記憶から消去するほどではないはずだ。

 

 

 オレは考え込んだ。

 

(彼らはどうなったんだろう)

 

 今まで考えもしなかった事柄が頭に浮かんだ。

 恐らく、というか確実にろくな目には遭っていないだろうことはわかる。

 

 ホワイトルームは倫理的にも、道徳的にも、法的にも問題がある場所だ。

 出来るだけ外部に真実が知られることは避けたいはず。

 

 

(サンプルとして使えそうなものは手元に置いて管理、壊れきって問題無さそうなのはともかく、そうではないものは――)

 

 

 処分する、というのがもっとも合理的な判断だろう。

 

 思いを馳せる。

 なぜ、こんなことをオレは考えているのか。

 

 

 占い師は自らの内側を、自身を知れと言っていた。

 

 

(オレは……何なのだろう)

 

 

 何故、オレは彼らのことを記憶から消し去ったのか。

 不必要だからと消し去った冷徹な人間だからか、あるいは……あるいは。

 

 

(……罪悪感? オレが?)

 

 

 最後に勝てばそれでいい、そう教えられそれがオレの根幹となった――はずだ。

 そんな人間が罪悪感で消し去ったなど……。

 

 

 のっぺらぼうの子供をオレは眺めた。

 楽しげに黒猫の側で騒いでいる彼らを見る。

 

 

「……わからないな」

 

 

 ホワイトルームは多くの子供の命を吸っていた。

 オレの世代だけではない、オレよりも上の世代や下の世代もきっと多くの人生が狂わされたはずだ。

 

 

 脱落して自殺した話を小耳に挟んだことだってある。

 だから、そう……考えたって無駄だと思ったからオレは――

 

 

(……どうなんだろうな、実際。自己分析は出来ているつもりだったのに、改めて考えると自分のことなのにこんなにもわからない)

 

 

 最高傑作、そんな言葉がとても滑稽に思えてくる。

 

 

 

『――どれだけ白く染めようが、人がただの色に染まるなんざあり得ないって話なのに……バカな話さ』

 

 

 

 占い師の言葉が頭を過る。

 本当のオレとは何なのだろう、ホワイトルームの教育を受けてこうなった自分が今のオレの全てだと思っていたがそうじゃないのだろうか。

 

 

 

 なぜオレは彼らの顔を、声をよく思い出せないのか。

 まるで答えが見つけられない。

 

 

 

 ただ、少しだけ思うことがあるとすればそれは……。

 

 

 

 例えば、そう。

 仮にあののっぺらぼうの子供の幽霊が彼らの無念だとして、夏の夜に迷い出て楽しく遊んでいるのだとしたら―――

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて思った。

 

 

 

 ただ、それだけ。

 

これはただの夏の夜の夢の話。

 

 

 

 

 

「にゃおん」

 

 

 

 

 黒猫は今日も鳴いている。

 

 

 




〈人物紹介〉
●ホームズ
→ちょっとだけ登場しただけのただの黒猫。ご主人の浴衣姿に興奮していたが、花火大会の後半になると何やら視線を空中に向けて忙しく動き回っていた。動物が何もない場所を見つめることはよくあることなので仕方ないね。

●綾小路清隆
→夏の夜の夢を見た。高校卒業したらフィールドワークに行きたい欲求が溜まり始めている。でも、絶対に妨害されるよなー。親父とかホワイトルームって邪魔じゃない? とか考え始めている。

●占い師
→迷える子供にアドバイスした。まあ、金は取るけど。人間ってどうしようもないねと綾小路の後ろを見て吐き捨てた。

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