よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話   作:サンディエゴ

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畜生系主人公が神室真澄たちと体育祭に向けての準備を進める話

 

 

「あー、姫さん? 八百長ってのは……」

 

「もちろん、この体育祭についてですよ」

 

 

 いきなり言いだした坂柳に対して、まず口火を切ったのは橋本だった。

 

 

「どういう意味か……聞いても?」

 

「そのままの意味ですよ。ハッキリ言ってこの体育祭、実利という意味ではこれほど不味いイベントもないでしょう」

 

「それは……そうね。なんというかCPをマイナスにしたいっていう考えが透けて見えるというかなんというか」

 

「プラスの収支にするためには組対抗で勝利して、そしてなおかつ学年総合で一位にならないとマイナスになるというのはさすがにな」

 

 

 坂柳の言葉にご主人や葛城が同意した。

 二人以外のクラスのみんなも同意するような声が上がった。

 

 前の試験が異常にCPが得やすかったのもあるけど、それを抜きにしてもしょっぱいよな。あくまで特別試験という括りじゃなくて体育祭だからなのかもしれないけど……いや、それでもマイナスが多すぎてやる気が上がらんわ!

 

 簡単なルールを確認しただけでもあまり旨みのないイベントなのは、誰の目にも明らかだった。

 

 

「私は身体の問題もあるので体育祭は参加できません。だから、言っている……というわけでもありません。これが例えば単純に競技で勝負して、順位によってポイントを得てその結果で最終的な勝敗を決定。一位には+200CP、二位は+100CP、三位は+50CP、四位は0CP――みたいな内容だったら私だって文句は言いません。素直に応援に回っていたでしょう」

 

「ですが、どれだけ頑張ろうが組対抗の結果でまず学年単位で-200CP。クラスの総合成績結果で一位の+50CPと三位と四位の合わせて-150CP……つまりは最終的に必ず-300CPが確定しているイベントなんてまともにやる気が起きませんよ」

 

 

 そう言われると酷いイベントだな。どれだけ頑張ろうが収支がマイナスにしかならないイベントとかクソイベ確定。

 

 

「なんで普通に順位でCPを配らないんだろう? それならやる気は出るのに」

 

「やっぱり稼ぎすぎたんじゃ……」

 

「それもあるけど渡し続けるとインフレするからってのもあるじゃない?」

 

「それなら最初から配る量を調整するべきじゃない? というか最下位がマイナスならまだわかるけど、「学年総合で一位取ってもマイナスになるかも」ってのがねー」

 

 

 などなど、そんな不平不満の声が上がった。

 気持ちはとてもよくわかる。

 

 

 

「だからこその八百長なのです」

 

「……体育祭がポイントで順位を決めるルールなのを利用する気だな? だからこそ、さっき確認を取った」

 

「同点の場合、同じ順位として処理される。そう言質をいただきましたからね。三位と四位が同点の場合は両クラスは三位として処理される。――つまり、四クラスが同点であれば……」

 

「四クラスが一位と処理される?」

 

「そこまでうまく行くかはわかりませんが真面目にやっても全体で-300CP引かれるんです。やってみる価値はあるでしょう」

 

 

 

 坂柳の言葉に葛城は考え込んだ。

 彼としてもこのイベントにあまり魅力を感じていないのだろう、そう言ったことが嫌いなはずなのにあまり意識している様子はない。

 

 

 まあ、これに関してはさすがにあからさまに旨みがなさ過ぎるからな。いっそCPとか関係ないイベントの方がまだ楽しめただろうに……。それにしても八百長、か。可能かどうかなら通じ合えば出来るだろうな。

 

 

 点数の調整をしてしまえば同点にすることは難しくないだろう。

 なにせ純然たる順位や結果で点数は配られるのだ、最悪競技中に体調不良を起こしたとか言ってリタイアするも有りだ。

 

 

 同点で終わらせる、というのは決して不可能な手段ではない。

 だが――

 

 

「坂柳の主張はわかった。確かにメリットも大きいが……問題が一つある」

 

「はい」

 

「わかっていると思うが八百長をするには相手の同意が必要だ。そして、今回の体育祭の性質……つまり、全学年参加型のイベントの性質上、同意を得る必要があるのは同学年だけではなく上級生の同意も必要となるわけだが。それが果たして可能なのかという問題だ」

 

 

 葛城の言うとおり、その問題があった。

 八百長をする都合上、相手と通じる必要があるが今回の場合は同学年だけではなく二、三年生も納得させる必要がある。

 

 

 でなければとても同点にするなんて不可能だからだ。

 それが果たして現実的に可能かどうか……。

 

 

 難しい問題だな……。たしかに坂柳の言うとおり、学生側がどうあがいてもマイナスで終わると決まっている体育祭、真面目にやるなんて馬鹿らしいけど……一方で、クラス対抗戦だけの視点で見ればそれなりにメリットはある――ように見える。

 

 全体で-150CPでも自分たちは-50CPで、自分よりも上のクラスが-100CPなら一応は差を縮めることには成功しているからな。同点でのドロー試合に持ち込んだら差はそのままになるわけで……。

 

 

「船上試験においては2000万プライベートポイントという圧倒的なメリットがあったからこそ、他のクラスも協調路線を取れたのだろうが……今回はそうもいくまい。自分たちもマイナスになるがAクラスとの差を縮めるいい機会でもあるからな。それに運動が得意な生徒にとって、体育祭という舞台がなくなるのは厳しいという点もある」

 

 

 そういう問題もあるわな。真面目にやるだけ損とはいえ、スポーツ系の部活に入ってる生徒からすればクラスに貢献する良い機会、それを簡単に捨てられるのかという問題もある。純粋にこういうイベントが楽しみなやつもいるだろうし。

 

 

 合理的な判断としては八百長して発生するはずだったマイナスをどうにかした方が、全体にとっていいというのがわかっていてもできるかどうか。

 

 それに今回は一年生だけを説得すれば良いという問題ではない。

 二、三年生も関わってくるのだ。

 

 

 彼らを納得させなければ八百長作戦なんて夢のまた夢だ。

 

 

「この体育祭、あまりモチベーションのあがらない内容であるのは確かだが、だからといって八百長を認めるような判断を……今の生徒会長が許すかどうか」

 

「あー、堀北会長か」

 

「一クラスでも説得できなかったクラスがあれば八百長なんて不可能だ。この点に関してはどう考える? 当然、坂柳なりの考えがあるのだろうが……」

 

 

 葛城の言葉に坂柳は微笑で答えた。

 

 

「少し――勘違いがありますね」

 

「勘違い?」

 

「ええ、私はたしかに今回の体育祭は八百長で終わらせるべきだと主張していますが、それは決して体育祭というイベント自体を否定するものではありません。むしろ、体育祭自体は普通に楽しく観戦したいぐらいですね。真澄さんとかきっと凄いですよ、活躍!」

 

「なんで急にこっちに振ってきたの?」

 

 

 いきなり話の矛先を向けられたご主人が困惑した。

 

 

 でも、わかるよ。ご主人って無茶苦茶身体能力高いからな、別に運動部でもないのに。俺もご主人が本気で走るリレーとか見たいもん!

 

 

「ほら、ホームズも期待した目で見ていますよ?」

 

「……本当だ。……しょーがないなー、ちょっと真面目にやってみようかなー?」

 

 

「ちょろい」「ちょろかわ神室さん」「デレデレな女」「やめなよ」

 

 

 などという声が聞こえてくるがご主人は気にした様子がない。

 体育祭でかっこよく活躍するご主人の姿を想像して、俺のテンションもマックスだ。

 

 

「真澄さんならきっとかっこよく活躍すると思うんですよね。実に楽しみです」

 

「……待て、よくわからなくなってきた。体育祭は八百長で済ませるべきだという話ではなかったのか?」

 

「ええ、そう言っていますよ? ですが、体育祭というイベント自体を楽しみにしている生徒もいるわけですし、彼らの気持ちも大事にするべき。そして、競争である以上は勝敗をハッキリさせてクラス間の抗争にも影響を与えるべきだとも私は思っています」

 

 

 坂柳の言葉に少し困惑した様子だったが、なにかに気づいたのかハッとした表示になった。

 

 

「坂柳……まさか――」

 

「はい、その通りです。一年生だけではなく、二、三年生も説得しなくてはならない? それはとても都合良い」

 

 

 彼女は生き生きとした顔で口にした。

 

 

 

 

「つまりは――」

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 高度育成高等学校に在籍する400名以上の生徒と数十名の教員がそれぞれ一堂に会するのは壮観な光景だった。

 体育祭に向けての赤組と白組の顔合わせの場、体育館で総指揮を取る三年生の挨拶から始まってそれぞれ各学年での話し合いの時間になった。

 

 

 ご主人たちに近づいてきたのはDクラスの面々だった。

 平田を筆頭に櫛田、軽井沢、堀北――そして、綾小路を筆頭にこちらに向かって歩いてきた。

 

 

「今回はよろしく頼むよ」

 

 

 爽やかに口火を切ったのは平田だ。

 さすがのイケメンフェイスから放たれる言葉に、少々気まずげに答えるのは光のリーダーである葛城だ。

 

 

「平田か」

 

「今回は味方同士というわけになる。正直、とても心強いよ。体育祭、頑張っていこう」

 

「そのことなんだがな……」

 

 

 少し困った様子の表情の葛城になにかを察したのか、平田は訝しげな表情になった。

 基本的に誠実でしっかり者の葛城なら真正面から答えそうなのに、どこか奥歯に物が挟まった言い方に違和感を覚えたのだろう。

 

 

 当然、それを見抜けないなんてホワイトルームの最高傑作にあるわけもなく、綾小路の視線が一瞬だけ俺を貫いた。

 

 

 自然を装いつつ誰にも気づかれないように……。

 だが、俺にだけは悟られるように視線に。

 

 

 ええい、器用な真似をするんじゃない。というか俺のせいじゃないもん! 坂柳の……邪ロリのせいだし!

 

 

「体育祭の方針について、一つAクラスから提案がある」

 

「提案?」

 

「ああ、二度手間……いや、三度手間になるのも面倒だから少し待ってくれないか? すぐに二年と三年の先輩方が来る手はずになっている。そこで説明したい」

 

 

 上級生にはあらかじめ提案があることについては通達している。

 一年生よりも経験が豊富な二、三年生は無難にこの顔合わせを済ませることが出来るため、あまり待つ必要もなかった。

 

 

 葛城の言葉に一先ず納得した様子の平田、そんな彼とは違い少し動揺しているのが堀北だ。

 三年のAクラスの代表としてくるのは当然――

 

 

「……待たせたな」

 

 

 堀北学、現生徒会長にして彼女の兄である彼しかいない。

 堀北というとごっちゃになるのでここは会長と言っておくが、会長は妹の堀北と綾小路に一瞬だけ視線を向けるとすぐに一年Aクラスの面々に目を向けた。

 

 

「さて、体育祭に関して「なにか重要な提案」があるという話だったが……聞かせて貰おうか?」

 

 

 会長の様子はどこか楽しげだった。

 

 

 上級生からの受けって、実はいいんだよねー……うちのクラス。

 

 

 散歩中の噂話の収集が得意な俺はよく知っているのだが、上級生の間では結構今のAクラスは話題になっている。

 一学期中もそれなりには目立っていたが、無人島試験と船上試験で荒稼ぎをした主犯という話が広まっているらしく、そのせいか注目度が上がっているらしい。

 

 

 生徒会長の権限で無人島試験や船上試験の内容をある程度詳しく見れる会長だからこそ、いろいろと興味を持っているのだろう。

 他の三年のDクラスのリーダー、二年のそれぞれのリーダーも呼んで話をわざわざ聞きに来たあたり、かなりのものだ。

 

 

 

 風雲児とも言っていいほど、やりたい放題やっているAクラスの提案――それが一体なんなのか、それにとても興味があるといった様子だ。

 

 

 

 そんな彼らに対して葛城は口を開いた。

 内容は先に教室で披露していたとおり、「八百長」をしないかという話。

 

 

 そして――

 

 

「八百長……葛城くんがそんなことを言うなんて」

 

「俺としてもあまり良い方法とは思いたくはないがな」

 

「……たしかにな。どんなに頑張っても一学年全体からはマイナスされるというのはちょっと。それなら同点に操作した方が」

 

「Aクラスにとってはこういったイベント事を一つ流せるのはメリットが大きいんでしょうけど、追う側にとっては流されるのは大きなデメリットよ。何度機会があるかもわからないのに」

 

「けど、どうあがいてもマイナスの結果になる公算が大きいってのはなー」

 

 

 八百長に関しての反応は肯定派と否定派で真っ二つにわかれた。

 

 

 

「生徒会長はどう思いますか?」

 

「……体育祭の内容が著しくモチベーションにマイナスの影響が大きそうなことについては、たしかに問題があるとは思う。だが、かといって八百長で潰すという手段には……肯定が出来ないな。楽しみにしている生徒もいる。あまり旨みがないイベントは談合して潰してしまえ、という考えは生徒会長としてあまり認められないな」

 

 

 

 会長は否定派のようだった。

 体育祭内の戦略という話なら認めたかもしれないが、体育祭自体を潰してしまおうという話なので彼の立場からすれば認められない話だろう。

 

 

 

 これだけだったら――の話だが。

 

 

 

「いいえ、堀北生徒会長。私が否定しているのは学校側が主催する体育祭に関してです。体育祭というイベント自体は私は否定していません。彼らのルールの下でやる体育祭は辞めましょうという話なのです」

 

「体育祭は行います。ただし……私たちの手で。健全で公平な体育祭を。全校生徒の協力があれば可能なはず」

 

「例えばそう……CPをそれぞれ学年単位でクラスは100CPを支払う。そして、競技の勝敗の結果で順位を決定して400CPを1位から3位までで分配。4位は参加費分、マイナスになる。3位ならマイナスが緩和、2位と1位ならプラスになる……みたいな感じにするんです。それなら健全でしょう?」

 

「ただ、頑張って頑張った分だけ結果が反映される。それが正しい競争というものです。頑張ってもマイナスになる状況ではパフォーマンスにも影響が出てしまいますからね。モチベーション的にもプラスを得るためのモチベーションとマイナスを出さないために必死になるモチベーションでは質の差が出てくる……と私は考えます」

 

 

 

 

「だから、やりましょう。私たちの、私たちによる、私たちだけの体育祭を」

 

 この女……とうとう、イベントを乗っ取り始めやがった! こんなクソみたいな体育祭は八百長で終わらせて、それとは別の生徒主催の真・体育祭をやろうぜーってことだ。フリーダム過ぎる!

 

 

 

 

 坂柳の言葉に会長はぽかんとした顔になっていた。

 そりゃ、そんな顔にもなる。

 

 

「体育祭を別にやる、だと?」

 

「CP的に全員マイナスになる可能性が高い体育祭とかポイで。いい思い出になりそうもないじゃないですか。それにあれです」

 

「あれ?」

 

「学校側の鼻を明かして行事を楽しむって面白いですよ? どうです?」

 

「……それは魅力的なお誘いだな」

 

 

 結論だけ言おう。

 学校側主催の体育祭をまともにやるより、真・体育祭をやって1位を狙った方がメリットが大きいと感じたのか。

 

 

 あるいは学校側の想定を超えて、行事を楽しみたいという気持ちが強かったのか。

 それはわからない。

 

 

 わからないが……まあ、一年も二年もご主人たちよりも長い時間をこの学校で過ごしているわけだし? まあ、色々とため込んでいたっぽいね。 ……うん。凄いイイ笑顔でこの話に乗ることが、上級生のクラスリーダー格会議ですぐに決まったからな。

 

 

 見ろよ、高育。クソ過ぎるイベントのお陰で全学年が一丸となることに成功したぜ!!

 

 

 

 

 




〈人物紹介〉
●ホームズ
→イキイキとし始めた坂柳が暴走しないか、頭の上に乗って見張る役目をしていた猫。一年生は既に見慣れたが二、三年生はわりとどう反応するべきか悩んでいた模様。

●坂柳有栖
→悪巧み楽しー!これも学校側がクソみたいなルールをするから仕方ないね!

●堀北学
→それがクソみたいなルールでも、ただ単に八百長しようという話だけなら乗らなかった。代わりに生徒主催の体育祭を開いて健全に競い合うというのなら――ヨシ!
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