よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
「じー」
色んな意味で熱い真・体育祭も昼休憩の時間に入った。
そんな中、我らが邪悪なるロリこと坂柳有栖が何をしているのかというと競技から戻ってきたご主人に対し、無言で見つめるという行動を――
いや、無言じゃなかったわ。普通に口で「じー」って言ってるわ、こいつ……。
不機嫌です、というオーラを全身から放ち、何なら頬も膨らせているという可愛さアピールまでやっている。
あざとい、さすがは邪ロリ。あざとい。
「何なのよ、もう……」
「じー」
「にゃあにゃ」
「いや、あれに関してはなんというか勢いというか」
「じー」
「なんで浮気を問い詰められている彼氏みたいな気分にならなきゃいけないのよ」
大体の原因は一之瀬のことをご主人が名前呼びしたことにある。
坂柳に関しては未だに名字で呼んでいるのに。
まあ、別にそれに関してご主人になにか意図があったということはない。
単純に呼び方を変える切っ掛けがなかったから、変えなかっただけなのだろうが……それはそれ、これはこれというやつらしい。
坂柳としてもキチンとわかってはいるが、自分は名前呼びしない癖に先に一之瀬のことは名前呼びしやがって――という気持ちなのだろう。
なんて、面倒くさい女なんだ。
「ふん!」
「ふにゃ!?」
思考を読まれたのか抱かれている腕に力が入った。
動物虐待だぞ! 暴力反対!
俺の抗議など無視をして、ジトーっとした視線をご主人に向けながら坂柳は呟いた。
「私はずっと名前呼びだったのに……」
「うっ……。わかったわよ、有栖。これでいいんでしょ」
観念したのかご主人は疲れたように、でもどこか照れたように名前を呼んだ。
どうやら単に切っ掛けがなかっただけではなく、名前呼びに切り替えるのが気恥ずかしかったのもあるらしい。
「ま、まあ? 許してあげますよ、真澄さん♪」
「なんで許されなきゃいけないのよ……」
「………っ!! あ、あの!」
「あー、はいはい。愛里もね」
「はい!」
昼休憩だからとやってきていた佐倉もアピールしてきたのでご主人はそう答えたのだった。
「というかそういう話なら愛里も下の名前で呼ぶべきよね」
「そうですね、愛里さん」
「え、ええっ……?! えっと、その……恥ずかしいというか」
「私には呼ばせておいて、自分はできないって言うのはどうなのかしらねー」
「あうあう」
あっ、佐倉が標的になったな。まあ、ええやろ。それはそれとして――山村ぁ!
「任せてください、師匠。必ずや勝ってきます」
姦しい様子のご主人たちを尻目に俺は山村に声をかけた。
彼女はあまり表情に変化はないものの、やる気十分な様子で返答する。
うむ、行ってくるのだ。トトカルチョも山村の人気は低い、そのお陰で十分な倍率……っ、これは狙い目!
「ふっ、人気が低いとか言わないで師匠……」
まあ、地味だから……。認識できている生徒の方が少ないというか、「山村? 誰だっけ?」が大半というか。
「くっ……!」
だが、お前がやれば出来る子なのは俺がよく知っているぞ! だから、ここら辺で大活躍を見せてこい!
「はい、師匠!」
何故、こんな発破を昼休憩の時間にしているのかというと、この時間帯にはレクリエーション競技が存在するからだ。
どう考えてもネタで突っ込んだだろうという、真・体育祭独自の競技がこの時間帯に行われることになっている。
山村が参加する逃○中もその一つだ。
競技の内容は、時間制限のある鬼ごっこというかかくれんぼというか……無駄にある監視カメラを借りて放映されながら、敷地内でハンターと逃げる役に分かれて行われる形だ。
「私はもちろん、逃げる役です」
絶を活かして頑張るのだぞ。見つかったらたぶんアウトだから……身体能力的に。
「見ててください、師匠。……行ってきます」
自由競技のため、参加は学年制限が存在しない。
厳しい戦いになるかもしれないが、それでも俺は弟子である山村を信じて送り出し、トトカルチョで上限まで賭けることしか出来ない。
俺は彼女の背を見送りながらしみじみと思った。
猫に弟子入りする女子高生って何だろう……。あいつはどこに行きたいんだ?
人生の迷子になっている気がしたが、なんか楽しそうなのであまり深く考えないようにするのだった。
――――
まあ、山村のことは一旦おいておくとして昼休憩の時間だ。
折角だからということで俺達はCクラスの出店に向かうことになった。
思いっきり策略に乗せられている自覚はあるのだが、こういったイベントの時にはただ昼飯を食べるのではなく、特別感が欲しいと思ってしまうのは人の性というべきか。
「ふわー……Cクラスの皆さん、昼休憩なのにあんなに働いててすごいです」
「妙にプログラムで昼休憩の時間が長いなとは思っていたんだけど」
「昼は気温も高くなるし、体調を整える意味でも多めに時間を取って置いた方が全体としての事故防止に繋がると主張していたのは南雲先輩でしたねー、たしか」
「レクリエーション競技の件も関係していたんだろうけど、それとは別にこれも目的っぽそうよね」
「ですね」
そんなことを考えて出店に向かったのはご主人たちだけじゃないらしく、出店の一画はとても混雑していた。
昼休憩狙いの単価の高そうな食べ物の提供など行われており、とても大繁盛な様子で慌ただしく働いていた。
「いらっしゃいませー、ご注文は――」
「ドリンクですね、少々お待ちください」
「おい、さっきの注文なんだっけ?」
「星之宮先生! お酒はあっちです!」
「龍園様ー!」
「おい、うちの看板娘の撮影は許可してねーぞ! 許可が欲しければそうだな……これぐらい」
「許可なんか出すか! バカ!」
というかもはや戦場のような様相を呈していた。
なんというかこう……熱気がすごいな!
「良くも悪くも大当たりって感じね」
「繁盛しているようで何よりですけど、大変そうですね」
「飲食店って大変なんですね」
飲食店だからというより、イベントだからって感じかな。というかあれだ、若さってすごいな。体育祭やりながら出店やるとか普通に考えて無理なことを、若さ故の活力だけでカバーしている感がすごい。
「ある意味、真・体育祭を最も満喫しているクラスかもしれないわね」
「骨の髄まで満喫してそうです」
そんなことを話しながらなにを買おうかと相談し合っていると不意に声をかけられた。
「あっ、真澄ちゃん」
「帆波」
「むむむっ」
ご主人と熱い戦いを繰り広げた一之瀬の登場だ。
彼女もなんか買いたくなって来たらしい。
というか坂柳もそんな警戒しなくても……。
「真澄さんは私のお友達なんです。そもそも、警戒云々に関してはホームズも言えないのでは?」
警戒じゃないし……ビクッとするのは、こう……わかるじゃん?
「罪悪感というか気まずさですね。わかります」
ニヤニヤした顔をこちらに向けてくる邪ロリ。
シャーと威嚇するとシャーと返してきた。
こやつ……出来る!
そんなやり取りをしている中でご主人たちの会話は進んでいた。
「騎馬戦ではやられたけど、午後の部でもやられるとは思わないでね」
「負け犬が何か言ってるわね」
「まだ負けてないもん!」
「負け越している犬が何か言ってるわね」
「訂正するんですね」
「負け越しては……いる! けど、犬より猫がいいから猫にして!」
「そういう問題なんでしょうか?」
「犬より猫がいいのは同意するわ」
うんうんと頷くご主人と一之瀬。
佐倉が困った顔をしている。
やだ、この二人……頭がいいのに時々すごいポンコツになる。
「誰のせいですか、誰の」
でも、そこが可愛い。
「ペットが飼い主に似ているのか、ペットに飼い主が影響されたのか……。もしくは両方という可能性も考慮しなくてはなりませんね」
坂柳が何か言っている気がしたがどうせ大したことはいっていないだろう。
ともかく、なんというかお決まりのライバル的な「負けないぜ」みたいなやり取りをした後、一之瀬も一緒にご飯を食べることになった。
ライバルムーブしているのにそこは一緒に食べるんだ、と思わなくもなかったが色々と距離が縮んだのだろうたぶん。
単純にガッツリと競技をやったご主人と一之瀬は、それよりもお腹が減ったというのもあるかもしれない。
食って飲んで観戦していただけの坂柳とは違って……食って飲んで観戦していただけの坂柳とは違って!
「なんですか、何か言いたいことがあるんですか?」
いや、別に。運動できないわりにむっちりとした太ももが、さらにむっちりしそうなほどよく食べて飲んでいたなーと。
「Cクラスが色々用意するのが悪いんです!」
「まあまあ……あ、有栖さん。ホームズさんも」
お嬢様である坂柳にとって、出店の食べ物という者は新鮮に映るらしく観戦しながら結構食べていた。
正直、お昼が食べられるのか心配になる程度には。
「ふっ、甘いですねホームズ。……私が何度、真澄さんに夕食前のお菓子食べすぎで入らなくて怒られたか忘れたんですか?」
反省しろ。
それはさておき、昼飯に何か買おうと出店の一つに並ぼうとしていたら一つに人影が近づいてきた。
「くっ、くっくっ……! 楽しんでいるようだな坂柳」
というか龍園だった。
いつも通りの不敵な笑い声――を作ろうとして、隠しきれない疲労の色を見せながら彼は現れた。
「なんか、疲れてません?」
「くくっ、俺が疲れているだと? そんなわけ……そんなわけ……」
「いや、声が震えてるわよ」
「気のせいだ。気のせいだが……緊急のバイトに興味はないか? 経験不問、昼休憩の間だけでいい。報酬としてこれぐらいのプライベートポイントを払う! いや、全く余裕だがな? 全然、問題はないんだが興味があるならこんな貴重なバイト体験、思い出になるだろうとあえて機会を与えてやっているわけでだな――」
「ちょっと龍園! 応援とやらはまだなの!? これ以上、忙しくなるならストライキを起こすからね! ストライキ!」
「うるせぇ! 今、交渉中だろうが引っ込んでろ! くそっ、どこでそんな言葉を……誰の入れ知恵だ!」
うーん、この……。
伊吹と龍園の会話で大体の事情を察した俺達だった。
どうも予想以上に繁盛しすぎて人手が足りていないらしい、龍園としてもこういったことは初めての試みだったので目算が甘かったのもあるだろう。
ともかく、労働力が足りていない状態。
提示してきた報酬のプライベートポイントの高さからもその逼迫度合いが窺えた。
チラリとご主人たちの様子を伺うと誰も乗り気じゃない様子だった。
まあ、ご主人たちはプライベートポイントには特に困ってない学年でもリッチなガールたちだからなー。特にやる気も起こらんよな。というか龍園、マジで疲れているな。
ガッツリと個人的にも競技で結果を出しつつ、出店で働きつつ、全体の管理もやっているのでそりゃオーバーワークもオーバーワークだろう。
Cクラスって手足として動かす人材には事欠かないけど、龍園をサポートできる人間っていないから基本負担が重いからな……。
「よし、倍額までなら払う! それでどうだ!」
「悪いんだけどプライベートポイントには困ってないのよね」
「にゃはは、困っているようだから手伝っては上げたいんだけど。私としても普通に休憩したいかなって」
「くっ……! なら、あれだ! 女子ってのは服とか好きだろ? 今日のために色々と用意してあるから自由に着れるぜ!」
「必死か!? というか服ってあれ単にコスプレ衣装でそういうの興味な――」
なん……だと!? 龍園……それはつまり、つまり……ご主人や一之瀬のコスプレ衣装が見れるってこと!?
「うわっ、ビックリした!?」
「ホームズさんがすごいキラキラとした目をお二人に向けています。なんという純粋な瞳……っ!」
「そうですね、純粋な欲の瞳ですね」
俺の期待に満ちた視線に一瞬無言となったご主人たちだったが、先に口を開いたのは一之瀬だった。
「いいよ、龍園くん。そのバイト、受けてあげる」
「っ!?」
「アンタだけにいい格好をさせるつもりはないわ、帆波。いいわ、受けてあげる」
「っしゃあ!」
「相変わらず特定の事柄において頭がフワフワになり過ぎてませんかねぇ!?」
坂柳がなにか言っているが俺と龍園の耳には聞こえていない。
俺はご主人たちのコスプレ姿を見れる機会にひゃっほうしているし、龍園はキャラ崩壊にも程があるガッツポーズをしていた。
「よし、気が変わらないうちにすぐに契約に入るぜ! 衣装は好きなものを使え! 労働力を二名追加だ!」
そんなこんなでウェイトレスをやることになったご主人と一之瀬。
俺と坂柳、佐倉は割り引いて貰った出店の飲食物を食べながら二人の働きっぷりを眺めていた。
「あざとい、こいつあざといわー」
「ふっ、何のことか全くわからないね真澄ちゃん」
「猫耳メイドとかなんてあざといのを選んでいるのかしら」
「早い者勝ちってやつだよ、真澄ちゃん」
「そんな偽物の猫耳で満足できるなんて。私は日夜、ホームズの耳をハムハム出来るからいいのよ。偽物で満足していればいいわ、帆波」
「それは心底羨ましい……っ! ……それにしても真澄ちゃんの――アオザイってやつ? それもよく着られるね? なんというか身体のラインが出そうで……」
「スタイルにはそれなりに自信あるし」
などという会話をしながら接客業務をしている二人。
言葉通り、一之瀬は猫耳メイド服でご主人は身体のラインが出るドレス姿。
ハッキリ言おう、とても目の保養になる。
「俺は龍園さんに永遠に従う」
「龍園、お前がナンバーワンだ」
「一之瀬ちゃん神」
「いや、神室ちゃんだから」
「違う、ほわほわの椎名ちゃんが――」
龍園……っ! お前は男だ! 男の中の男! ありがとう! すげえ、すげえ男だ。兄貴と呼ばせてくれ!
「くっくっく……! 猫、お前のお陰だ。この焼きトウモロコシを食いな。奢りだぜ!」
新たに二名も女の子を追加したことで龍園の株(男子生徒限定)は留まることを知らないほど上昇を示していた。
「……はぁ。猫耳メイド姿尊い。龍園翔……評価を改めなければならないようですね」
訂正。
一部女子生徒からの再評価も龍園は受けていた。
それだけの価値がそこにはあった。
ご主人もそれなりだが、やはり一之瀬の学校全体の人気の高さもあるだろう。
同学年だけでなく、上級生でも結構名声が高い一之瀬。
そんな彼女の猫耳メイド服姿を見ることができるようにした彼の株は、凄まじいものがあった。
「ほんと、男って……」
「でも、一之瀬さんに真澄さん。とても可愛いです。もちろん、Cクラスの女子も」
「まあ、そこら辺はわかりますけどね」
「にゃー! にゃー!」
「テンション上がりすぎ、このバカ猫……。というかその焼きトウモロコシのタレって大丈夫なんですか? タマネギとか」
なーに、入ってたとしてもかえって耐性がつくさ! そんなことよりも、うおぉおおっ! ご主人ー! 可憐だー! 美しい! 美しすぎて心臓が麻痺りそうだぜー! 舌も何かピリピリしてきた!
焼きトウモロコシを完食しながら、普段は違う魅力に溢れる二人を見て歓声を上げる。
「こいつ、本当に人生楽しそうですね。いや、猫生?」
「一之瀬……居ないと思ったらなにをやって」
「待って神崎くん! これは負けられない女の戦いなの!」
「一之瀬!?」
「一之瀬さんの真・体育祭のテンションの高さよ……」
「振り切れてないか?」
「でも、楽しそうだからオーケーです!」
俺が歓声を上げる度にノリノリで接客をする二人を眺める傍ら、出店の一画に備え付けられていたモニターに表示される逃走中の様子。
ハンターの後ろに引っ付いて追いかけている山村の姿に、俺はまだまだだなと隠形の採点を67点とするのだった。
カメラで撮られて認識されているようではまだまだだな……!
その後、可愛らしい服で接客をしている二人の様子を見て我慢できなくなった佐倉が、メガネをパージして謎のウェイトレスX(雫)として現れて伝説を作ったり、佐倉も参加したので自分も参加しようとしたら「お子様サイズは用意してない。体操服でやれ」って言われて坂柳がキレたり、労働力の解消のために入れた人員の集客力の高さでさらにピンチになり、なんとかすごい頑張って切り抜けた龍園が「ブラック労働はダメだな……」という世界の真理を知ったりと色々あった休憩の時間は終わりを告げた。
残るは午後の部のみ……っ!
真・体育祭は後半戦を迎えようとしていた。
ちなみに山村は一人だけ逃○中で生き残り、ポイントを独占してゲットするという結果を出したのだった。
〈人物紹介〉
●ホームズ
→普段とは違う魅力のご主人たちの様子に大興奮したただの黒猫。龍園……お前はすごい男だ!
●神室真澄
→ノリと勢いで楽しんでいるご主人様。スタイルには自信がある。ホームズの声援があったのでノリノリで接客をやった。
●一之瀬帆波
→局所的にバカになる娘。ホームズの声援があったのでノリノリで猫耳メイド服で接客をやった。
●佐倉愛里
→我慢が出来なくなって途中参戦をした。謎のウェイトレスX……いったい何者なんだ。可愛い服に我慢が出来なかった。
●坂柳有栖
→サイズがなかった。不貞腐れた。ご主人たちに夢中なバカ猫を小突きまくった。
●龍園翔
→繁盛しすぎて死にかけているCクラスリーダー。急遽の応援に神室たちを選んだのは偶々見つけたのもあるが、どうせなら見てくれがいい方がいいだろうと思ったから。なお、その結果、労働力の補填のために雇ったのに集客力が更に上がって結局忙しさには変わらなかった。ブラック労働はダメ、絶対ということを学びを得た。
●山村美紀
→猫に弟子入りしているニンジャなガール。逃○中で一人だけ逃げ延びたのでポイントを独り占めできた。活躍だ、やったぜ。でも、撮影されると見つかってしまうのでまだまだ。