よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
学校にいっている間、会えないのが寂しい――なんて言われて許せない男、いや雄がいるだろうか?
いや、いない!(断言
なので俺もご主人に何も言えなかった。
というかあれだ。
はあ、お可愛すぎでしょ! 俺のご主人……っ! 少しの間だけでも離れたくないとかさぁ! 寂しいとかさぁ!
やはり、女神!!
そんなこんなで学校に一緒に行けるようになった俺とご主人。
当然、クラスに行けば注目され、そして俺の美貌に目がくらんだ女子生徒たちが群がってきた。
「わー、本当にかわいい」
「いいなー、ペット。私も飼おうかな……」
「へー、もとは野良猫だったんだー」
ご主人の許可のもと、触られている俺は女子生徒たちに愛想を振りまいている。
それもこれもご主人のためだ。
今のご主人はちょっとした人気者のような扱いを受けていた。
なにせ一人だけペットを合法的に連れてきて触らせてくれるなんて、どうしたって注目を浴びる。
普段はあまり同級生とも距離を一定にとって話をしないご主人だが、今は俺という存在もあって大いに話しかけられていた。
坂柳の派閥にも葛城の派閥にも属していない、というのも大きいのかもしれない。
どっちかの派閥に属していたのなら面倒だったかもしれないが、無派閥のため気にせずに話しかけることができる。
坂柳の派閥の女子生徒も葛城の派閥の女子生徒も。
俺という存在の前ではノーサイドで愛でることを優先していた。
猫の前では一時休戦ということだ。
そう! つまりはこれはご主人の深謀遠慮だったんだ! 俺というペットをクラス内に持ち込むことで自らの立場を更に強化するための一手……なるほどたしかにそのためならば100万ポイントなど安いもの――
「…………♪」(ムフー
はい、ごめんなさい嘘です。
どう考えても自分のペットを自慢したかっただけの顔ですね。取り繕っているけどとても自慢げな顔をしていますね、くそ可愛いかよ! ご主人!
まあ、ともかくだ。
そういうわけで俺は愛想を振りまいている。
俺が気に入られれば気に入られるほどご主人の評価も上がるからな。
ちょっと話しかけづらい雰囲気を放つご主人だが、俺のこととなると面倒くさそうな態度をしつつも話すのでなんというか普通に女子生徒たちと仲よさそうに馴染んでいる。
これには俺もニッコリ。
というかあれだ。
普段のクールなイメージを崩さないように取り繕いながらも俺の話をしているご主人……可愛すぎない? 可愛すぎるよね? ね???
必死に外面を取り繕いつつ話しているご主人……イイ。
さーて、俺も俺の仕事を果たさないとな。
ほら、触るがいい。
愛でるがいいさ。
猫に囚われるがいい。
「にゃあ」
「くっ、可愛い。可愛すぎるよ」
「うわー、すっごい大人しい。本当に賢い猫なんだー」
ふはははっ! 猫の魅力に囚われた哀れなる小娘どもめ! ちょっと媚を売ってやればこの程度――
「むぅ、何やら邪念を感じます。――私の分析では」
「にゃあ!?」
うおっ、びっくりした。
森下という女子生徒……なかなか侮れないな。
順番が来て一通り撫でたら満足していったが……アレは誰だろう。原作にいたかな。
あと、そこで妙に影を薄くしてこっちを見つめている子はなんなの? 黒○のバスケかな?
「…………」
「…………」
だが、その程度の隠形で猫とやり合うなど未熟! 出直してくるんだな!
「山村さん、いつの間に近くに……」
「なんで無言で見つめ合っているんだろう」
山村……なかなかのやり手だった。
あれは育つだろうな。
こうしてみると結構キャラが立っている生徒が多いな。
俺は途中までしか原作を読んでいなかったし、この機会に交流を深めるのもいいかもしれない。
ご主人の同級生なわけだし、ペットである俺が見定める必要があるからな。
というわけでほら、撫でるんだよ。
「……お、おい」
「にゃあ」
「…………」
女子生徒たちの玩具になっていた俺はひょいと歩き出して一人の男子生徒の元へと向かった。
強面の男子生徒の名前は鬼頭隼という。
原作に出ていた男子生徒だ。
そいつの元へと向かって撫でるようにアピールする。
鬼頭は困ってあたりを見渡すが誰も彼もが注目している様子に項垂れた。
この状況で俺を乱雑に扱えばまず女子生徒の顰蹙を買って今後の学校生活に多大な影響を及ぼす、そんな未来がわかってしまったのだろう。
鬼頭は大人しく俺を撫でることにした。
ふむふむ……まあ、及第点だな! おっかなびっくりな触り方だがこちらに対する気遣いは感じられる。点数でいうと42点といったところか。精進するように!
俺はある程度触らせた後、立ち去って次の獲物の元へと向かう。
何をやっているのかといえばこれは俺への触り方で点数を計っているのだ。
猫である俺の身体への触り方で案外わかることというのは多いのだ。
触り方に性格が出てくるというべきか。
まあ、点数に関しては俺の好みでしかないが一種の性格診断のようなものだ。
「お? 触っていいのか? いやー、ばあちゃん家にいるミケを思い出すなー」
戸塚弥彦! 32点! 触り方が雑! 折角、ご主人が整えてくれた毛並みがー!
「むっ、俺もか? いや、しかし……ああ、わかったわかった」
葛城康平! 68点! 触り方が優しい、性根の善良さがにじみ出るような撫で方だ。ストレスを与えないようにそっと抱き上げるのもいいね! やはり、お前はいいハゲだ。
そんな感じで次々と俺は自らを撫でさせた。
坂柳派閥も葛城派閥も関係ない。
猫の前に全て平等。
猫の前では和解せよ。
アニマルセラピー効果なのか、ご主人曰く派閥争いでいつもちょっとギスっているAクラスの雰囲気がよくなっている。
なにせ俺という猫が一人一人アタックして撫でさせているからな。
どことなくホッコリとした雰囲気が教室内に満ちていく。
「…………♪」(ふふん
その様子をクールな表情で眺めつつご主人はご機嫌だ。
気配に敏感な俺にはわかる。
あれは内心で渾身のどや顔をしている雰囲気だ。
可愛いかよ。
だが、それだけご主人が満足している働きを俺は出来ているということだ。
クラス内の雰囲気が良くなることはご主人のためにもなる。
そのためなら多数に触れることなんてたいした苦労ではない。
家に帰ってご主人に労って愛でて貰えば全回復するからな!
「よし、じゃあ次は俺の――」
ただし、橋本。
テメーはダメだ。
ペシッ。
「……え?」
順番が来たと思って手を伸ばしてきた橋本の手を尻尾で叩くと俺はラスボスのもとへと向かった。
「あら、私のもとへも来てくれるんですか?」
白い髪をしたロリ系美少女。
邪悪なるロリこと、坂柳有栖である。
このAクラスにおけるボス――魔王的なポジションと言っていいだろう。
見ろよ、この溢れんばかりのドSのオーラ。
ドMにはたまらない目つき。
それになんだその太もものエチチなガーターは! 視線誘導か……卑劣な奴め、俺には女神への信仰心があるがそんなものには負けん! 屈しないんだからね!!
「皆さんに触らせてくれたように私も触らせてくれると嬉しいのですが……いかがですか?」
「あの姫さん? 俺、触ってない……」
橋本、テメーはダメだといっただろうが。
それはともかくだ。
そういって席から立ってしゃがみ、床に座っている俺に対し手を伸ばす坂柳を見ながら俺はどうしたものかと思案した。
ご主人の安全を考えるべきなら媚を売るべきなのだろう。
若干、今のところご主人は葛城の派閥に寄っているとはいえ、実際の実力はやはり坂柳の方が上なのだから最終的には彼女がクラスの主導権を握るだろう。
そう考えるならば俺は坂柳に媚を売っておくべき……それはわかっているのだ。
だが、相手はドSの中のドS。
邪悪なるロリMark-Sな坂柳だ。
「さあ、ホームズさん?」
それでいいのかという不安が残った。
服従の姿勢さえ見せればひとまずこの場では満足するはず、ならばそうするべきだ。
だというのにこの抵抗感はなんだろうか。
いったい、俺の中でなに抵抗を覚えているのだと――
「あら、撫でさせてくれるんですね? ええ、なんともいい毛並みをして……ふふっ、ホームズさん。――私のペットになりません?」
俺はご主人のペットじゃ!! このボケー!!
「――ふぎゃ!?」
思考するよりも早く、その言葉を聞いた瞬間、俺の猫パンチが坂柳の顔面に叩き込まれた。
だってこいつ本気だったんだもん!
雰囲気でわかった! ちょっとした無派閥のご主人に対しての揺さぶりを兼ねつつ、俺がご主人より自分に懐いたら面白いだろうなーとか! 考えてた!
なんてやつだ! 好きな子に対して悪戯をして反応を試してみる男子小学生かお前は!
た、魂で理解したぜ!
俺が坂柳有栖に膝を屈したくない理由――それはやつが真性のSだからだ!
いいか、坂柳! 他者からみれば愛でられている俺は下のように映るだろう……だが、実際は逆だ! 俺の魅力に人間どもが囚われ、その結果――愛でているのだ!!
順序が逆なのだ。
猫である俺が人よりも上! 人は下だ! 女神であるご主人は天上だけど!
だというのにこの俺とご主人に対して、やつは上のスタンスで接してきやがった……これは許されることではない!
「ああ、坂柳さん。大丈夫!?」
「姫さん、大丈夫か? すってんころりんって転んじゃったけど」
「大丈夫か坂柳?」
俺の猫パンチによって体勢を崩してひっくり返ってしまった坂柳に対し、派閥の女子生徒や橋本、それに葛城などが心配そうに近寄って尋ねていた。
所詮はただの猫パンチ。
思わぬ衝撃を受けて姿勢を崩した結果、転んでしまっただけで坂柳はたいした怪我はしていなかった。
「猫に負けたな」
「猫に負けたね」
「か弱くて可愛い」
「坂柳のやつ、猫に……」
※ただし、精神面のダメージは考慮しないとする。
心配する声を無視して無言で坂柳は立ち上がった。
プライドの高い、彼女が猫相手に怒りを表に露わにすることはない。
なんでもないですよ、という雰囲気で坂柳は朗らかな笑顔を作った。
「ホームズさんはやんちゃなんですね?」
「にゃー」
あらあらうふふ、という顔を作りながらも放つオーラは完全に敵対の波長を示している。
「仲良くしましょうね? ホームズさん」
「にゃー!」
俺たちはこの日、ライバルとなった。
どっちが上か下か、その決着がつくまでこの戦いは終わらないだろう。