よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
バタフライエフェクト。
力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の状態が大きく異なってしまうという現象のことを指す。
学術的にはもっと色々とあるんだろうが、ポップカルチャー的な意味合いだと要するに一つの変化が予想だにしなかった変化を引き起こす――みたいなふわっとした概念のことだ。
世の中、思いのほか物事というのは繋がっており一つ変化すればそれ以外の場所でも変化が起こる。
俺という異物が入ったことで、原作なんてどこにもなかったかのように変化したこの世界を見ればよくわかる。
別に「原作改変!」みたいなことを考えて、介入したわけじゃないのにこんな有様だ。
まあ、調子に乗ったりノリではっちゃけたこともあったが、それでも別に何かを変えようと思ってわざわざやったことは少ない。
それなのに原作主人公はオカルトにハマるし、龍園は何か強化されるし、一之瀬は脳を破壊されるし、坂柳の邪悪ロリっぷりは変な方向に強化されるし、その他細かいところまで上げればきりがないほどに原作から変わってしまった。
そのことに関して、「まあ、なってしまったもんはしょうがないよねー」ぐらいの気分で俺は居た。
俺としてはご主人とその周りに変な影響さえ出なければそれでいい、そう思ってあまりバタフライエフェクトなど気にしない方向性で日々を過ごしていたのだが――
「えー、というわけで真澄さん」
「ええ」
「なんか私の父が理事長の座から追いやられることになりました」
はい、問題が起こってしまいましたねー。
これがバタフライエフェクトってやつか……。
月城常成、という男がいる。
原作において主人公である綾小路の敵として現れる存在だ。
綾小路を退学にすることを目的としたホワイトルームからの刺客で、現理事長である坂柳パパを追いやって理事長代行という立場でやってくる男だ。
綾小路の存在がバレている以上、原作通りに彼がやってくること自体は想定していたのだが問題はその時期だ。
月城の登場はもう少し先だったはずなのだが、何故この時点で坂柳パパである坂柳成守が学園から一時的に去ることになってしまった。
原作だと詳しい事情はよく覚えていないが不正疑惑とかで一時的に離れることになったみたいな感じだったのだが、この世界では理由が違ったりする。
その理由とは――――
「いやー、なんでもやりたい方題をしすぎた結果、学園の管理がキチンと出来ているか査問委員会が開かれるという話になって」
ご主人の部屋のソファーを我が物顔で占拠している邪悪なるロリのそんな言葉から、説明が始まった。
「……ああ、うん」
「にゃー」
「あとはちょっと稼ぎすぎたせいか、身内である私に資金を環流しているのでは無いかという疑惑が……」
「形を変えた横領だと疑われている……と。まあ、色々やったしね。というか有栖の個人資産って今どうなってるのよ?」
「秘密です♪」
「この女、ヤバいくらいには稼いでいるわねホームズ」
ああ、相変わらずロクでもねぇ女だ。しかし、この時期に坂柳パパ追放になるとは……。さすがに真・体育祭はやばったか?
「かもしれませんね。アレって完全に学生側の反乱みたいなものですし」
「ペーパーシャッフルもそんな感じよね」
「学園側の想定通りに動かず、学生主催でイベントやってるのは管理責任を問われても仕方ありませんからねぇ」
「まあ、ちゃんと学生の管理できてないんじゃないかって言われたら……うん。なんかまともに特別試験とか突破してないような……」
「何を言っているんですか無人島試験も船上試験も、ルールに則ってせしめただけです。何ら違法性も恥じるべきところもない勝利……まあ、学校側の思惑から外れているというのはたしかでしょうが」
真嶋先生の愚痴から察するに、ここまでプライベートポイントを一学年で絞り取っているのは類を見ないことらしい。
それほどまでに今の一年には支払われているのだとか。
安くない税金が投入されているのにそれってどうなの?
というのは至極真っ当な指摘だ。
俺が外部の人間なら学園側の体制に関して文句を言う惨状なのは確かだ。
そんなこんなで坂柳パパは責任者として一旦学園から離れてしまったというわけだ。
原作だとどういう手を使って追い出したんだっけなー? 今回は思ったよりも正当性のある突っ込みを入れて排除できそうだったから、その分前倒しできたってことかー。なるほどなー………どうしよ。
【悲報】月城来襲【しゃーない】
まあ、ちょっと前倒しになっただけ全体的な影響は……問題はないはず? そもそもホワイトルーム関係って詳しく知らないんだよね。普通にヤバい施設というか、何をゴールにやっているのかよくわからない実験で子供を使い潰してる人で……うん。
たしか、ヤクザが関わってたんだっけ? その時点で法的にも道徳的にもヤベーとこなのは確かだな。それで月城はホワイトルームの関係者……というよりも綾小路パパから依頼を受けて来たんだっけか。なんか綾小路パパと敵対している勢力とも繋がりがあるみたいな雰囲気を出してたけど……。
「それで新しい理事長……いや、理事長代行?」
「そうですね、あくまで役職の一時停止みたいな感じです」
「まあ、そこら辺はどうでもいいとして。その代行ってどんな人なの?」
「気になりますか?」
「そこそこね。理事長代行ってことは権限上は、特別試験とかにも関われるんでしょ? 変な試験をされると面倒だし……。いや、まあ、今までの試験がまともだったかと言われると違うけどさ」
それはそう。
「でも、いっぱいお小遣いくれましたよ?」
「ふんだくり過ぎたせいで、アンタのお父さんって大変なことになったんじゃない?」
若干、呆れたような表情でご主人は突っ込んだ。
そりゃそうだ、別に坂柳だけが犯人とは言わないが彼女が中心となって稼ぎまくっていたのも事実。
そのせいで不味い立場になった父親に対して、もうちょっとこう……申し訳ないとか思わんのか。
「甘いですね。父がその程度のことで追求される隙を作るわけないじゃないですか」
「現に職務停止されてるじゃない」
「そこがおかしいんですよね。何らかの意図……作為を感じます」
「作為って」
「作為は作為です。この高育は祖父が初代理事長を務め、そして父が継いだ言わば自分の庭のようなもの。あの程度の問題、握りつぶすことはさほど難しくないはず。それに高育は色々と外にも顔がききます。そうじゃなければそもそもここまで成り立っていませんし」
なんか私物化してる……してない? まあ、高育があれな学校なのは今更だけどさ。
「えっと……つまり、どういうこと?」
「基本的に迂闊に手を出せるような場所じゃないですよ、高育というのは。色んな利権やらなんやらがあって、それの仲介というか橋渡しという、バランサーとでも言うべきか……。ともかく、そういうポジションに上手く収まることで祖父も父も物事を上手く進めていました」
「にゃー?」
「ええ、そりゃ気に入らないって思っている人も居るでしょうが、それよりも「居なくなられると困る」みたいな有能性のアピールをすることで立場を維持しているって感じですかね。だから、あの程度の問題で父が職務停止まで行くのはおかしいんですよ。父も注意をするように言っていましたし」
「理事長が?」
「はい、「あんまり羽目を外しすぎないように……」と」
今更過ぎない??
「詳しいことはわからないけど、有栖は誰かが横やりを入れてきたから理事長は職務停止になったって考えているわけ?」
「そうなりますね、正直父をわざわざ排除するほどの理由ってのは……まあ、思い当たる節がないわけではないですけどね」
「なによ、それ」
「ふっ、いくら真澄さんにでも教えることは出来ませんね。真面目に世の中の闇的な話なのでね」
なんかこの邪ロリ、これがホワイトルーム云々のこと気付いてない? 坂柳パパに教えて貰ったのかな? 綾小路についてどこまで詳しく知ってるのか謎だけど、推測ぐらいは出来るか……。
「なんで世の中の闇的なことを知ってるのよ」
「昔、社会科見学で父に連れられていったことがあるので」
「理事長ヤベーやつね」
「にゃー」
「失礼な、私の素晴らしい父ですよ?」
「納得したわ」
「にゃにゃ」
温厚そうな顔をして普通にヤバい男、それが坂柳パパだ。ホワイトルームとか自分の子供を連れて行くような場所じゃないって絶対!
「社会の闇的なこととか知りたくもないから、そこら辺は私に喋らないでね?」
「わかりましたー」
「軽い……。いや、いいんだけどさ。話を戻すけど理事長の職務停止が何らかの意図……作為が働いた結果、それで理事長代行が来るって話だったわよね」
「そうですね」
「じゃあ、そいつメッチャ怪しいヤツなのでは?」
「そうなりますね」
「なりますねって……」
「冷静に考えてください真澄さん。普通に考えてこんな学校に関わってくる時点でまともじゃないです」
「親族が理事長やってるヤツの言葉とは思えないわね」
全くもってその通りだよ、ご主人……。しかし、やっぱり理事長代行としてくる月城のことは警戒している感じなんだな邪ロリ。
「順当に考えて父を排除したいという思惑を持った仲間の一人なのは間違いないでしょうね。推測される目的を考慮すれば、父の排除はあくまで手段であって目的ではないはず」
「そいつらの目的はその理事長代行をこの学園に送り込むことにあったってこと?」
「自分の手先を送り込みたかったんでしょうね。そうなると理事長の立場の父は邪魔だった。どうにか排除したかったのでしょう。そこで今年はまあまあ問題が起こったのでそれを槍玉に挙げて排除に乗り出した……といったところですかねー」
「結局、あんたがやりたい放題やったせいで排除の糸口になったのは事実なんじゃ」
「細かいことは言いっこなしですよ、真澄さん。まあ、私の父ですので大丈夫ですよ。なんとかなります。なにせ私の父ですし!」
薄情なのか信頼しているのかわからねーな、こいつ。
「詳しい目的についてはよくわからない、というか聞きたくないからいいとして。要するに政治的ないざこざがあってヤバそうな理事長代行が来るってことはよくわかったわ。……それでなんでそんなことをわざわざ言ったの?」
「いえ、深い意味はないんですよ。そのうち父が一旦職務停止になることは知られるので心配されるかと思って。事情に関して、真澄さんとホームズには伝えて置いた方がいいかなーって」
そんなノリで教えられても困るだろ! いや、俺は細かい事情を知っているからいいけどさー!
「正直、知りたくはなかったんだけど……。で、実際のところ実害とか来そうな感じなの?」
「んー、どうですかね? Aクラス自体は理事長代行の目的には直接関係はないので、特に狙われるということはないはずです。ただ、理事長代行としても狙いに関して大っぴらに言えるような内容ではないので、カモフラージュとして生徒全体に影響を及ぼすことを仕掛けては来るかもしれません」
「目的ってやっぱり生徒なんだ……。しかも、口ぶりからして特定の個人? しかも、わざわざこんな時期に介入してくるってことは三年では無さそうだし――いや、やめた。なんで私は真面目に考察しようとしているのか。私にはホームズさえいればいいし」
ご主人の言葉に真剣な表情を作って坂柳は呟いた。
「もし、仮に……ホームズが狙いだとしたら?」
何を言ってるんだこいつ……。
思い切り冗談を言う坂柳に対し、真面目に考え込んだご主人は呟いた。
「――殺るか」
殺らないでご主人!?
真面目に殺害計画を考え始めそうなご主人をなんとか俺は宥めた。
何故か妙に強い高性能の中年の月城は危険な存在なのだ、ご主人のような幼気なJKが関わって言い存在ではない。
というかホワイトルーム関係とかいうこの世の邪悪に、平穏な暮らしをするなら関わってはいけないのだ。
それに殺るときは自分で殺るし。
ご主人の手を汚させはしないぜ!
と、そこら辺の話はともかくとして……だ。
俺はジロッと坂柳に視線を向けた。
「まあ、ともかくそういうことです。何かしらアクションを起こす上で、影響が出る可能性はありますが……あくまで理事長代行の目的はAクラスにはありません。なので、真澄さんは変に目を付けられないようにしてくださいね? そうすれば問題はないはずですから」
「わかったわ。私としても変なヤツに目を付けられたくないし、ちょっと迷惑が掛かるかもってだけなら近づかないように気をつけるわ」
「それでいいんですよ」
こいつ……ご主人に忠告するためにわざわざ話したな? やれやれ……。
素知らぬ顔をして話は終わったと本を読み始めた彼女の様子を見て、大まかにその行動原理を俺はそう分析していた。
確かに理事長代行――月城の目的は綾小路なので、基本大人しくしていればDクラス以外には変な面倒が掛かってくる可能性は低い。いや、こいつのせいで特別試験全般がアレになるわけだけど、そこはまあ元からアレだったわけで……。
ともかく、話を戻すと綾小路と綾小路の周囲の生徒はともかく他クラスの生徒はそこまで月城の被害に遭う可能性は低い。……ただし、特定の個人。現理事長の娘である坂柳有栖だけは話は別だ。
彼の目的からすると現理事長というのは非常に邪魔な存在なので、その子供である坂柳には何かしらのちょっかいをかけてくる可能性は大いにある。……と言うか原作だとそうだったし。
そこら辺のことを坂柳が気付いていないわけがない。
つまり、この話をわざわざした理由。
ご主人に釘を刺した理由はそのちょっかいに巻き込まれないようにするためだ。
……やれやれ、しょうがない。基本的なクソさは結局変わってないにしろ、そういうことをされるとなー。
「……なんですかホームズ、何か言いたいことでも?」
「にゃー」
「ムカつく目ですね。ふん、いいでしょう。今日こそは決着を付けてあげましょう。私の密かに特訓を重ねた猫じゃらしテクニックで……貴様を倒す!」
「にゃ、にゃー!」
「夕食が出来るまでに終わらせなさいよー」
「いざ勝負!」「にゃー!」
しょうがないから動いてやろう。
平穏なご主人たちの学生生活に、不穏なおっさんどもの陰謀など不要だ!!
〈人物紹介〉
●ホームズ
→なんか変化しちゃったな、まあ今更かーな黒猫。やれやれ系ムーヴをしつつ、やる気を出すことにするぜ。
●坂柳有栖
→浄化されているようでされていないような、やっぱり浄化されているようなロリ。ホワイトルーム関係のアレだなと察知済み、父からは詳しい事情は聞いてないがどう考えてもそっち系な今度着任してくる理事長代理にお友達の神室が目を付けられないように、あらかじめ釘を刺した。狙いは綾小路だから変なことをしなければ一般生徒は目を付けられないだろうとは思っているが、自分に対しては何かしらのアクションを起こされるだろうとは思っているため。
●神室真澄
→坂柳が気を遣ったことは察している。