よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
畜生系主人公が神室真澄を害する敵の排除のために動く話(いんたーるーど)
ペーパーシャッフル試験は何事もなく終わった。
まあ、何事もクソも全員100点で乗り越えるという八百長だけどさ。
マークシート式にして答えの順番さえ共有しておけば、山内や須藤だって100点を取れるという寸法よ。
ついでに100点を取ったと言うことでお小遣いとして一教科で1万プライベートポイントも確保、8教科なので一人8万プライベートポイントだ。
それが一クラスで40人分、計320万プライベートポイントのお小遣いの流出だ。
教員たちは泣いていたし、「やりやがった……っ!」みたいな顔をしていた。
ちゃんとテストの勝負は学生主催でやるから安心して欲しい。
そっちの方も順調に開催して、終わった。
AクラスvsDクラス、BクラスvsCクラスでのテスト対決。
下馬評通りの結果でAクラスとBクラスがこれには順当に勝利して、それぞれが敗者のCPから100CPを奪う形で終わった。
Aクラス 1483CP(+100CP)
Bクラス 1064CP(+100CP)
Cクラス 689CP(-100CP)
Dクラス 514CP(-100CP)
依然として上位2クラスは大きくリードのまま、かなり余裕のある状況。
とはいえ、完全な学力勝負だったけどCクラスもDクラスも大きく学力を付けてきているのが判明した勝負だった。
葛城も少し想定以上っぽそうな反応だったしな。
とはいえ、葛城にとってはAクラスにいい緊張感を与えられたと結果には満足そうだったが。
総合的に見てCPの変動こそあったものの全体的な順位には影響もなく、だけど各クラス320万プライベートポイントという収入が得られたので悪くない結果になった――と言えるだろう。
……正直なところ、月城がなにか口を挟んでくるかと思ってたんだけどな。とりあえずって感じでかき回してくるかと警戒をしていたのだが――
『何か……深い意味が? このまま報告していいものか……』
思ったよりも綾小路の珍行動のせいでの混乱が尾を引いていたお陰か、そういった動きはなかった。
ただ、そろそろ動いてくるはずだ。
月城も所詮は雇われの身。
背後関係は綾小路パパ以外は不明だが、成果を求めて送り込まれている身だ。
何もしないままでいるということは難しい。
余計な情報収集に労力を割いた結果、よくわからない頭の痛い情報が出てきて混乱してしまったが――やつの目的は綾小路を退学にさせること。
というわけで――
ペーパーシャッフル試験も終わった後のある日。
綾小路と坂柳は月城の襲撃に遭った。
まあ、襲撃といってもあれだ。
二人で人気の無い場所を歩いているところを見計らって、月城が現れただけなのだが……。
「はじめまして、綾小路清隆君」
「……月城理事長代行」
「ええ、その通りです。君とは少し話をしてみたかった。特にホワイトルームについて……とかね?」
目的はまあ単純にまずは自主退学を進めることだな、月城としてもそれなら話が早いわけで。
とはいえ、綾小路からすれば当然返答は「No」一択。
綾小路パパたちにとっても色々事情はあるのかもしれないが、綾小路にとっては知ったこっちゃねー話だからな。
卒業まで待てや、ボケ案件である。
その回答自体は予期していたものなのだろう、月城は笑顔を深めて話を続けた。
「自主退学の意思は無し、と。となると面白い特別試験を開催する必要がありますねぇ。この学校の制度に従って退学して貰うために」
「あら、面白い特別試験ですか? 興味深いですね」
「おや、坂柳有栖さんですか。お父様が大変なことになっているようで」
「まあ、そういうこともあるでしょう」
「……坂柳、わりとお前のせいでもあると思うんだが」
「大丈夫ですよ、父を信じていますから」
「そういう問題か?」
「ふふ、なるほど随分と愉快なお嬢さんだ。今年度の記録を確認しましたが、随分と派手に動いているようで……。なるほど、あれだけの大立ち回りを行っていたのならそんな態度も頷けます。――まったく、子供というのはすぐに調子に乗るからいけない」
「……はい?」
不意に月城が動いた。
坂柳の杖に蹴りが放たれた。
当然、そんなことをすれば歩行に杖を使っているほど、身体の弱い彼女に危険が及ぶ。
坂柳は運動能力や反射神経は並以下なので、無防備に受けてしまいそうになるが、側にいるホワイトルームの最高傑作がそれを妨害することで事なきを得た。
「いきなり、何をするんだ。……正気か?」
「教育ですよ。指導といってもいい。随分と好き勝手に暴れていたようですしね」
坂柳が好き勝手にやっていただと!? それはそう!!
「何でも出来ると勘違いした子供に現実を教えてあげるというのも大人の役目です」
「その大人の役目というのが、こんな単純な暴力的手段を使うことなのですか? まさか大人になるということが、知性を無くすことだとは寡聞にして知りませんでした」
「そうだな、こんな手段に出るとは。誰かに見られたらどうするつもりだ? 言い訳の余地はないぞ」
「だから、貴方たち子供だというのですよ。暴力はただの手段、重要なのはそれを可能とする権力がこちらにあるということです。仮に今の出来事を貴方たちや、他の生徒が見ていたからと訴えたところで握りつぶせる力がこちらにはある。それが大人の力というものです」
「「………」」
「当然、この場所にはカメラが無いことも把握していての行動ですよ。まあ、仮にあったとしても改竄できる力が私にはあるのですがね? ……わかりますか? これが権力、立場の力というものです。如何にホワイトルームの最高傑作であろうが、理事長の娘だろうが、今のお二人は後ろ盾の居ないただの賢しいだけの子供でしかない」
うんうん、カメラの配置をちゃんと把握しているからこんな凶行に及んだんだよね。わかるとも! そして、口では「他の生徒に見られても別に問題ないしー」みたいなことを言ってたけど、キチンと二人以外の生徒が周辺に居ないかアプリで確認してたのは知ってるぞ。余裕をぶっこいているふりをして慎重に動いているの――偉い!
「反撃しても構いませんよ? その場合、校内暴力で簡単に退学させることが出来ますからね。そうしてくれると助かるのですが……。ふっ、冗談ですよ。あまり傷物にしても怒られてしまいますから」
押し黙った二人に対し、自身の有利を確信したのか月城は不敵な笑い声を上げた。
でも、まあ、別に二人が黙ったのって月城の言葉に圧倒されてしまったとかそんなことじゃないんだよねー。
月城のことを見ている――というか、正確にはその背後の窓辺に二人の視線が突き刺さっていた。
「ふっ、そう怯えないでください。脅かしすぎてしまいましたかね?」
具体的に言うと月城の背後にいる俺のことを見て二人は押し黙っていたのだ。
ちょっと絶を解除して、二人にも認識できるようにしたからな。
俺は借りてきたスマホを前足で固定し、月城と二人の様子をカメラに写るように調整しながら、フリフリと尻尾を振ってサインを送った。
無言で動作に示さず、視線だけで応える二人。
俺達は確かにその時――目だけで通じ合ったのだった。
「退学もするつもりはないし、坂柳にも手を出させるつもりはない」
写りを気にするように微妙に場所を調整しながら綾小路は言った。
背後に坂柳を隠すようにし、不当な暴力に立ち向かう少年のように宣言する天才児。
「……怖いです、綾小路くん」
自身の可憐で儚げな容姿を最大限利用し、暴力に怯える美少女を演じる邪悪なる天才ロリ。
結構な付き合いになる1年生相手だと、「何を考えてやがる……!」と警戒されること請け合いの演技だが、普段のイイ性格の様子を記録でしか知らない月城はコロッと騙され、嗜虐的な笑みを浮かべた。
月城視点だと調子に乗っていた生意気な子供が、ちょっと脅かしただけで怯えているように見えたからだろうからな。
そりゃ、とてもいい気分だろう。
特に坂柳の容姿は薄幸系美少女だからな。
「ふふふっ、まあそう怯えないでください。身の程を弁えた子供は相応に扱いますよ。大人しく従うなら、お友達の身の安全も……ね? 神室さん、でしたか? 入学当初から随分と仲がいいと聞きました」
「そんな……っ! 真澄さんにいったい何を……!」
「いえいえ、何もするつもりはありませんよ? 今は……ね。ですが、気分次第では……わかりますね?」
ちょっとイラッとしたが――我慢我慢……っ!! がま……んっ!!
「私のお友達に手は出させません」
「ふっ、貴方に何が出来ると……」
「呆れたやり方だ。父は認めているのか? オレには無事に帰って欲しいんだろう?」
「反抗期の子供の躾け程度、とやかく言う人ではありませんよ――綾小路先生はね」
よし、上手いこと月城の口から綾小路パパの名前を出したな! 代行とはいえ、あの高育の理事長の立場ともなれば社会的には相当上の立場の存在だ。そんな人間が「先生」なんて敬称を付ける相手、早々居ないからなぁ……。
というか月城のやつ、綾小路や坂柳相手だと隠す意味が無いからとはいえ迂闊すぎないかな……。まっ、高育という徹底的に閉鎖的な学園の中かつ、その最高権力者と言ってもいい理事長の座にいるからこその余裕というやつなのだろう。
まあ、今のうちに余裕をぶっこいていればいいさ。
そんな感じでいくつかのやり取りをしたあと、月城は綾小路たちの前から去って行った。
綾小路が自主退学の意思を見せなかった以上、この場で無理に事を進めるつもりはなかったのだろう、彼と坂柳に対しての脅しと牽制が出来れば上々といった腹積もりのようだ。
俺は月城が十分に去ったのを確認して、二人の前に歩いて行き――
「いえーい♪」
「にゃーん♪」
「おおっ、こんな感じでいいのか?」
とりあえず、二人と「してやったぜ」感を味わうためにハイタッチしたのだった。
満面の――それはもう満面のあくどい笑顔をして、俺相手に手を伸ばしてくる坂柳を見て、真似をする綾小路。
お前もいい感じの演技だったぜ、という気持ちを込めて肉球でポンと押して喜びを分かち合った。
「何をしているのかと思っていたのですが、月城をずっとマークしていたんですね。彼があんな迂闊な真似をしてくると思って……なるほど、確証は薄かったと」
「たしかに何かしらのアクションをしてくるのは想定していたが、想定以上の……あるいは以下の接触だったな」
「ええ、そうですね。それで映像の方は……いいですね、完璧です」
「だが、これをどうする気だ? 確かに武器にはなるが……この学園内で使うには」
確かにそうだな。今の高育は月城の庭だ。
この明らかに暴力脅迫恫喝動画を教員に見せたところで握りつぶされて終わり、生徒たちに広めてヘイトを向けさせる手段に使っても、最悪悪質な偽物の動画を作って貶めようとしたとか何とか言って、それを理由に退学させてくるかもしれない。
かなり無茶苦茶な話だが、それをできる権力を月城は持っている。
いや、正確にいえば――権力の後ろ盾だけがある、という話なんだけど。
「……なるほど、そういうことか。子供にはない権力の力がどうのと言っていたが――」
「所詮、その月城もまた綾小路篤臣の手先でしかない。少なくともこんな現場に送り込まれる辺り、彼にとっても「上」が存在するのは確か」
「綾小路先生なんて言っていたしな」
権力への正しい対処の仕方――みんなはわかるかな? そうだね! 別の権力をぶつけることだね!
「化け物には化け物をぶつけるんだよぉ!」理論である。
さーて、こんな月城と月城の後ろ盾をやっているやつらに対して、絶好の叩きやすいネタを提供しなきゃ(使命感)
というわけで協力してくれー。
「ああ、わかった。少し待っててくれ、やり方を書けばいいんだな?」
そう言って綾小路は手帳とボールペンを取り出すと何やら書き込み始めた。
「それにしても不思議ですね」
「にゃー?」
「いえ、そもそもホワイトルームというのは天才を作り出すための機関なのでしょう? そして、綾小路くんはその成功作」
まあ、そうだな。だからこそ、さっさと手元に戻そうと躍起になっているわけで……。
「しかし、彼らは凡俗……とまでは言いませんが、まあ天才ではない。昔、父に綾小路篤臣の評価を聞いたことがあります。父は彼の向上心や精神力の高さこそ評価はしていましたが、能力面での評価は……」
影響力のある人物らしいし、並の人間ではないだろうが……かといって特別というほど抜きん出た存在じゃないっぽいな。
「ええ、でしょうね。敵も多いようですし……。天才ではない人間が天才を作ろうとし、そして作り上げた天才を自らの手元に置いて制御しようとする――いささか滑稽とは思いませんか?」
天才じゃないやつの制御下に置かれている天才って何だよ……ってことか? 真の意味での天才なら、むしろやつらの掌の外に出て動くのが当然ということか。
「そうです。天才を真の意味で作ることに成功したというのなら、それを制御することは不可能。制御することに成功したというのなら、それは天才ではない――ただの天才に近いだけの秀才だったと言うだけ」
「端からホワイトルームは破綻していたということか?」
「おや、綾小路くん。終わりましたか?」
「ああ、これでいいはずだ。ここでいいか?」
いつの間にか準備が済んでいた綾小路が、千切った紙束を俺の首のスカーフの中に詰めた。
これで準備は万全だ。
「天才を求めて作りだしておきながら、あのような脅迫程度で思い通りにしようと考える。矛盾ですよ。それでどうにかなる程度ならそれは天才ではなかった、ということなんですから。……そんなことにも気付かないなんて」
「自分たちが自由に使える天才を手に入れる。たしかにロジックの破綻した話だな」
「ええ、実に矮小で滑稽で面白みがありません。少しは面白くなるように――お願いしますね、ホームズ?」
おっけー、任せとけー。というわけで月城! ちょっとはケツに火が付けや。ご主人を引き合いに出した時点で冗談で済むとは思うなよ……っ!
俺は二人に別れの挨拶をして日が落ちた高育の敷地内から脱出し――そして。
数日後。
SNSでちょっと編集加工されて顔こそ詳細には確認できないが、学生服から高育の学生であることがバレバレな二人の生徒が、妙に編集が雑で顔が丸わかりなスーツ姿の男に脅迫されている動画が流れ、大いにバズるのだった。
〈人物紹介〉
●ホームズ
→猫は見た。聞いた。記録した。それをSNSへシュート! エキサイティング!!
●綾小路清隆
→おおよそやりたいことが理解できたので、身元が特定されないで動画をSNSや動画サイトに出す方法を書いた。ホームズがそのメモとデータをどこに持っていたのかまでは知らないが、うまく行ったことを確認して「やっぱ化け猫はヤバいな」と確信した。怪異もネット戦略をする時代。
●坂柳有栖
→予想は付いていたが神室まで引き合いに出してきたので「キレちまったよ」状態。
●月城常成
→ホワイトルームの最高傑作とはいえ、所詮は子供……と綾小路たちとのファーストコンタクトに上々の気分に浸っていたらなんかSNSで動画が流出していた男。綾小路パパやその他の後援の存在に「ねえ、どういうこと?? ねえ??」という電話が掛かってくることになる。