よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話   作:サンディエゴ

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畜生系主人公が神室真澄と共に破壊工作をする話

 

 

 

 ゴクリッ。

 

 

 

 誰かの息を呑む声が教室内に響いた。

 それがハッキリと聞こえるほどの緊張感が教室内には充満していた。

 

 

 教室内のAクラスの生徒たちの視線は二つの対峙する影――正確に言えば一人と一匹に向けられていた。

 

 

 

 人の名前は坂柳有栖。

 

 対するのは猫のホームズ。

 

 

 

 向かい合った両者の間には緊迫した空気が流れている。

 

 

「今日こそ、屈服させてみせましょう」

 

 

 重々しく坂柳がそう宣言し、鞄の中から獲物を取りだした。

 

 細長い棒状の本体。

 先端にはふわふわとしたカラフルな羽毛状の物体が取り付けられていた。

 

 

「あ、あれは……まさか!」

 

「坂柳……なんて恐ろしい手段を」

 

 

 その正体に気づいたA組の生徒は恐れ戦き声を上げた。

 

 

「所詮、あなたはただの獣でしかないということを教えて差し上げましょう」

 

 

 ピシッと獲物の具合を確かめるように一度振るった坂柳の目は一部界隈の人間にはたまらない嗜虐の感情の色が見て取れた。

 

 

「さあ、ただ本能のままに私にひれ伏すのです」

 

 

 猫の本能、その一つを巧妙についた恐るべき獲物――猫じゃらしを手に彼女は宣言した。

 

 

 これは彼女にとっての聖戦。

 己を取り戻すための戦い。

 

 

 目の前の憎きあんちくしょうを懲らしめるためのジハード。

 

 

 

「これで終わりです、ホームズ!」

 

 

 

 斯くしてその戦いの結末は―――

 

 

 

 

 

 

 ヒュンヒュンヒュン。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 ヒュンヒュン、ヒュンヒュンヒュン。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 ヒュンヒュン、ヒュン……ヒュンヒュン。

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 ヒュン……ヒュン、ヒュン………ヒュ……。

 

 

 

 

「すごい――驚くほどノってこない!」

 

「やめなよ」

 

「坂柳さん、頑張って!」

 

 

 

 

 能面のような顔になった坂柳の顔を見ながら俺は内心で彼女のことを嘲笑した。

 

 

 ふははははっ! 甘い甘い! 猫の本能を利用してこの俺を屈服させようなど百万年早いわ小娘! この程度のことで俺が反応するわけ……反応するわけ……反応……うっ、うぉおおおおっ!!

 

 

 思わず飛びつきたくなる本能に全力で抗いながら俺はどうしてこんなことになったのかを思い返した。

 

 

 全ては俺が坂柳を初対面で倒してしまったことから始まった。

 

 

 あの日、猫パンチを食らってひっくり返ってしまった彼女はこれまでコツコツ築いていた自身のイメージを爆散させてしまった。

 

 

 いわゆる、カリスマブレイク状態とでもいうべきだろうか。

 

 

 天才であり、有能なリーダーというイメージ戦略で築いた地位がむちゃくちゃになってしまったのだ。

 今後坂柳が天才らしいムーヴをしても「でも猫に負けたんだよな……」というイメージがAクラス内には広がってしまったというべきか。

 

 

 ともかく、坂柳はその現状をどうにかする必要性ができてしまったのだ。

 

 

 だからこそのこの流れだ。

 彼女なりに色々と考えたのだろう、自身が失ったカリスマをどう取り戻すか。

 

 

 それはやはり俺をどうにかする必要がある。

 エベレストよりも高い坂柳のプライド的にも恥を掻かされて終わりなんて出来ないというのもある。

 

 

 だが、具体的にどうするべきか。

 

 

 相手はただの猫である俺だ。

 恥を掻かされたとはいえ、あまりに悪辣な報復を行えばそれはそれで坂柳のカリスマは地に落ちてしまう。

 

 

 そこで考えついたのが俺を屈服させてしまえばいいという発想だった。

 どんな手段を使ってもいい、俺を懐柔して従えてしまえば一応のメンツぐらいは保てるはずと算盤を弾くも――

 

 

 俺を懐柔しようなど……通るわけがないだろうが!

 

 

 俺の必死の抵抗にそれらは全て失敗に終わった。

 さすがは天才である坂柳、俺を懐柔しようとした手段の数々は並の猫であれば尻尾フリフリ、お腹を無防備に見せるほどのものだったが……生憎とこちらもただの猫ではない。

 

 

 血で血を洗う――絶対に屈服させたい邪悪なるロリvs絶対に屈服したくない美猫の戦いが、ホームルーム前に行われることが今のAクラスの定番となっていた。

 

 

「負けないで坂柳さん! 尻尾がピクピクと動いている気がする! 効いている証拠だわ!」

 

「忍耐力の戦い……先に動いた方が――負ける!」

 

 

 カリスマがブレイクした坂柳だったが、その結果別のカリスマに目覚めたような気がしなくもない。

 

 

 坂柳派閥のA組女子の声援が響いた。

 

 

 ……というかノリがいいな! 「あ、あれは……まさか!」とか「坂柳……なんて恐ろしい手段を」みたいなことを言ってた男子生徒もいたけどさ! なんなのそのノリ!? そんなノリのいい中学生みたいな……いや、ここが特殊環境過ぎてて忘れそうになるけど、きみたちちょっと前までただの普通の中学生だったね!

 

 

 

 

「――くっ!?」

 

 

 

 

 俺と坂柳、互いの忍耐力を削りあう戦いの決着は坂柳が折れることでついてしまった。

 教室中の視線を受けながらまったく反応が返ってこない猫じゃらしを振り続けることに限界が来てしまったらしい。

 

 

 彼女は忌々しそうに吐き捨てると猫じゃらしを机に置いた。

 

 

「……今日のところはこれで勘弁して上げましょう」

 

 

「でた! 戦いをイーブンの結果で終わらせる魔法の言葉……っ!」

 

「この間も言ってた気がする」

 

「やめなよ」

 

 

「まあ、動くものを追う習性があるとはいえ個体差ものです。ホームズはあまりお気に示さなかったと言うことで――」

 

 

 恐らく耳には聞こえているはずだが何も聞こえなかったふりをしながらこちらをにらみつける坂柳、その側で俺たちの戦いを観戦していた葛城が何を思ったのか机に置かれた猫じゃらしを手に取った。

 

 

「…………」

 

「ん」

 

 

 そして、無言でご主人へ手渡した。

 ご主人はそれを受け取るとずいっとこちらに向かって一歩踏みだしたかと思えば――静かに構えた。

 

 

 

「………にゃー」

 

 

 

 対峙する俺は全身をリラックスさせて一声鳴いた、その刹那

 

 

 

 

 ヒュンヒュン! ヒュンヒュン! ヒュンヒュンヒュン!

 

 

 

 

 高速で揺れ動かされる猫じゃらし。

 幻惑するように目の前で乱舞するそれに対し、俺は本能の赴くままに飛びついた。

 

 

 うおぉおおおおっ!! 右右左下上左左下下右上上ぇーー!! ご主人ーー!! 楽しーーー!!

 

 

「す、すごい! 今までのは何だったのかというほどのアグレッシブな動き」

 

「ホームズのやつ、全身で喜びを露わにしている!」

 

「神室さんのあの手さばき! 熟練の動き、完全にプロの動きだわ!」

 

 

 正しくその通り! ご主人とのこういった遊びはもはや何回やったことか! この遊びで重要なのは心が通じ合っていること! 俺が一方的に遊ぶのではなく、ご主人が俺を一方的に弄ぶだけでもない――互いが互いを思いやり、通じ合うことで俺たちは昇華する!!

 

 ああ、時が見える! キラキラだ! 今、この世界には俺とご主人しかいない!!

 ……見えたっ! 水の一雫! そこだ、猫パンチチョンピングライトぉおおおおっ!

 

 

 

 ――ざ、残像!? ふぇ、フェイント……だと!?

 

 

 

 数分後。

 

 

「なんて濃厚な時間だったんだ……」

 

「たった数分間だったのにあれだけの凄まじいやりとりを」

 

 

 達成感に満ちた気分で俺とご主人は見つめ合っていた。

 存分に楽しむことができた。

 

 

 まさか、フェイントで空振りさせられるとは……成長したなご主人。だが、次はこうはいかないぜ!

 

 

 そんな気持ちを視線に乗せてご主人を見上げ、そして次に坂柳の方へと視線をやった。

 

 

「…………」

 

 

 坂柳は今にも人を殺しそうな目で俺を見ていた。

 そして、無言でご主人から猫じゃらしを奪い取って俺の方へと向けて振り始めた。

 

 

 ヒュンヒュン、ヒュンヒュンヒュン。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 ヒュンヒュン、ヒュン……ヒュンヒュン。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 ヒュン……ヒュン、ヒュン………ヒュ……。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 無言で見つめ合う、俺と坂柳。

 そして、彼女は爆発した。

 

 

「このクソ猫ぉ!!」

 

「やめるんだ、坂柳!」

 

 

 掴みかかってくる手を華麗な動きで避ける俺。

 貧弱な運動能力しかない彼女に猫である俺を捕まえることが出来るはずもない、それでも捕まえようとする坂柳を身体のことを労り押しとどめる葛城。

 

 

「ホームズに袖にされたからと言って怒ってはいけない。飼い主である神室に懐いているのは仕方ないことであってだな」

 

「別に袖にされたから怒っているわけではありません! そうじゃなくて明らかに私のことを馬鹿にしている態度が許せないのです!」

 

「それはなんというか被害妄想というか……」

 

「ちーがーいーまーすー! ほら、見てください! あれ!」

 

 

 彼女はそう言って俺の方へと指さした。

 坂柳が怒りで放り投げた猫じゃらしをキャッチし、フリフリと振っている女子生徒と楽しく遊んでいる俺の様子を。

 

 

 

「ホームズ~♪ ほらー」

 

「ごろにゃーん!」

 

 

 

「私の時はあからさまに我慢していた癖になにが「ごろにゃーん」ですか! 絶対私のことを舐めてますよ!」

 

「そこはほら、猫は気まぐれというしな」

 

「いいえ! 明らかに私に対してわざとやっています! 私にはわかるんです! だからこそ、とっちめる必要があってですね!」

 

 

 きゃいきゃいと声を上げる坂柳の様子を横目に俺はしめしめと笑った。

 

 

 

 計画は順調に進んでいる。

 その名も「ご主人のためのAクラスの環境改善融和計画」――別名「坂柳カリスマブレイク作戦」がな!

 

 

 

 狙ってやったわけではないが坂柳のカリスマをブレイクしてからしばらくして判明したことがあった。

 それは明らかにクラス内の空気が良くなったことだ。

 

 その原因は端的にいえば坂柳が派閥抗争よりも、俺への報復を成し遂げることを優先したことだと思う。

 

 まあ、彼女からすれば「猫に負けた女」のイメージを払拭できない状態で派閥抗争なんてやってられないというのが正直な気持ちなのだろう。

 

 その結果、坂柳派閥と葛城派閥の抗争は鎮静化した。

 

 というかそもそも派閥を率いている葛城は好戦的な性格ではなく、あくまで専守防衛というか敵対されたから対処していただけで敵対してくる坂柳派閥が何もしてこなくなったら別段、あえて抗争する必要性もないのだ。

 

 

 だからこそ、抗争が沈静化して教室内のなんともいえない空気も軽くなったということだ。

 

 

 そこで俺は気づいてしまったのだ。

 

 

 

 あれ? もしかしてAクラスのギスギスって坂柳を抑えたらどうにでもなるのか? 好戦的ドSロリさえ、抑えてしまえば……同じクラスの中でわざわざ派閥抗争したいやつらなんてそうはいないよな。

 

 

 

 そう、つまりはこれは公益なのだ。

 

 

 

 さっきいい感じで解説っぽいことをやっていた生徒も互いに別の派閥の生徒だった。

 俺に夢中になったおかげで坂柳の攻撃対象から外れた葛城は普通に彼女の面倒を見ようとしている。

 面倒な派閥云々の話も今ではあまり聞かなくなりご主人もにっこり。

 

 

 Aクラスには必要だったのだ……坂柳有栖のカリスマブレイクが! 余裕を取り戻したらまた絶対余計なことをしでかすのが手を取るようにわかるからな! 他人にマウントを取らなければ生きていけない悲しき生き物……それが坂柳有栖なんだ!

 

 

 そんなわけで俺はせっせと日々、坂柳のカリスマをブレイクするためにおちょくっている。

 

 

 仕方なくやっていることなのだ。

 決して反応が面白いから楽しんでいるということは決してない……ホントウダヨ!

 

 

 

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