よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
龍園たちと別れた後、俺とご主人と坂柳はファッションショップへと突撃した。
来るべきミスコンのために準備をする――という建前でご主人の着せ替えをするためだ。
坂柳の発案であり、それに俺も乗っかった。
仕方ないよ、見たいんだもの……っ!
「私はちょっとこういう系は……」
「きゃー!! やっぱり思っていたんですよね! 真澄さんの普段の私服、スタイリッシュとかカジュアルというかそっち系の服ですけど。もっとこういったふわっとしたのも似合うはずだって……っ! どう思いますかホームズ!」
最高です! いつものご主人は綺麗とかかっこいいって感じの魅力にあふれているが、今のご主人はとても……なんというか愛らしい感じがして! やるな、坂柳!
「ホームズにも好評ですよ、真澄さん! あっ、ポンチョとかありますよ。ニットのとても暖かそうな……ベレー帽でお揃いとかどうです?」
もこもこなご主人だー! ふわふわしてて可愛い!
「まあ、これぐらいなら……いや、でもやっぱりこういったふんわりしたのは」
「じゃあ、次はこんな感じで……真澄さん、可愛い!」
エレガントだー! ご主人ー!
「だからと言ってゴシック系でいけとは言ってないわ。この女……っ!」
「うふふ、やっぱり真澄さんはスタイルがよくて何を着ても似合いますねー」
「だから、こういうのは苦手なんだってば……」
「似合ってますよ?」
「にゃー、にゃー」
「イメージってものがあるの! 自分の中で! というかこれミスコン対策に関係ある?」
「うーん、じゃあミスコンっぽい衣装のコレをですね……」
「――ってレースクイーンの衣装なんてなんであるのよ!!」
うぉおおおおおっ! ご主人、カッコいいー!!
「きゃー♪ 真澄さーん! ちょっと写真を……「うるさい!!」」
さすがに怒られた。
だが、満足だ。
俺も坂柳も、一片の悔いもなかった。
「ひどい目にあったわ。大体、有栖……アンタの趣味じゃない?」
どこかぐったりとした様子で恨めし気に坂柳を見ながらご主人は言った。
ファッションショップを後にしてケヤキモールの中を進みながら、坂柳は答えた。
「まあ、私の趣味も交じっているのは確かですね」
「なにがミスコンのためよ」
「そんなこと言って真澄さんも満更じゃなさそうでしたけど?」
「気のせいよ」
「それに私は自分の趣味の押し付けというより、どちらかといえば普段あまりしない格好をして恥ずかしがっている真澄を見るのが楽しくて――いふぁいです、真澄さん」
無言で頬をつねるご主人とそれを受け入れる坂柳。
彼女の性格の悪さは相変わらずだ。
だが、俺は言いたい。
今回に関しては――ありがとう! 坂柳! ご主人がめっちゃ可愛かった! いつも可愛いけどな! 美しいけどな! それはそれとして! それはそれとして!
「ホームズ」
「にゃうん」
キッとした視線を向けられ、俺は尻尾を丸めることにした。
坂柳の口車に押し切られて着せ替えられるご主人に大興奮して、俺は完全に応援していたからな……。
でも、仕方なかったんや! 色々な格好をするご主人の艶姿と恥ずかしそうな顔のコラボレーションが! ちょっといつまでも見たくなるというかですね!
「ホームズ」
はい。
しょぼんと肩を落とす俺。
その姿に留飲を下げたのか、ご主人は息を吐いて持っていた紙袋を持ち直した。
なんだかんだ思うところがあったのか、着せられた服の一部をご主人は購入していた。
ちなみに全部、坂柳払いである。
ご主人のお洒落のレパートリーが増えるのは俺的にはウェルカムなので、正直とてもうれしい。
できればレースクイーンの衣装も購入して欲しかったけど!
「いや、しないから!? なんであんなのあるのよ……っ!」
「なんでも卒業した先輩が学園にポイントを払って売っているらしいですよ」
「えっ、どういうこと?」
「ああいった衣装を必ず店は販売可能な状態にしておくこと――を契約で結んでいるとか?」
なんだそれはたまげたなぁ……。特に単に自分で購入するだけじゃなく、販売可能状態にしておく契約を結ぶあたり。どう考えても自分だけじゃなく、他の学生のための契約じゃねーか。どんだけプライベートポイント払ったんだろう。
「詳しい金額は教えてもらえなかったですけど、三桁万円分のプライベートポイントとか」
「バカじゃないの?」
バカなんだろうな……でも、尊敬できるバカだ。
「そういえば真・体育祭でも龍園たちがどこからかコスプレ衣装を持ってきたけど」
「在庫だったんでしょうね。手作りもあるかもですけど」
「なんであんな衣装を……いえ、うん、やめましょう」
時期が時期だからかサンタコスっぽいのも売ってたけど、ああいったのは所謂イベントものだからなー。だから、まあ別にサンタコスとかはまだわかるんだけど、レースクイーンとか他にあったナース衣装は……うん。
「――そういえばクリスマスが近いからか、どうにもカップルらしき学生がちらほら」
「この話はやめましょう」
坂柳の言葉通り、なんとなく男女セットの学生が体感的には多く見えた。
だから、なんだというわけではないがご主人は話を強引に断ち切ることにしたのだった。
謎は深まるばかりだったが、話を切り替え雑談をしながら俺たちは帰りの道を進んでいた。
ご主人の着せ替えショーでだいぶ時間を使ってしまったので、すっかりと日は落ちている。
「で、ミスコンっていつやるんだっけ?」
「時期はクリスマス・イブにやる予定らしいですよ?」
「ふーん、なるほどね。というか具体的に何をやるのか……」
「ミスコンなんて詳しくは知りませんから、私としてもなんとも……でも、真澄さんならきっと優勝が――って、おや?」
そんなこんな話をしながら帰り道を進んでいると坂柳が不意に声を上げた。
「どうしたのよ?」
「いえ、ほらあそこに居るの真嶋先生じゃありませんか? それに坂上先生や星之宮先生……」
「茶柱先生も居るわね。一年生の担任の飲み会か何かかしら?」
二人の言う通り、一年生の担任教員四人が飲み屋に入っている姿がそこにはあった。
今の時間に仕事が終わったのかと思うと教員も大変だなー、と思う心がある一方で。
「気になりますね」
「気になるわね」
「にゃー」
俺たちの心は一緒だった。
「「ホームズGO」」
「にゃおん!」
――
ぐつぐつと煮えたぎった鍋から良い匂いが立ち上っている。
今日の神室家の夕食は鍋だ。
鍋isジャスティス。
寒くなってきた時期に暖かいものは身体に染みるし、何よりも冷蔵庫のあまりもの処分に最適。
適当にぶち込んで煮てしまえば処分ができるという優れもの。
最後は雑炊にして食べてシメ。
いや、うどんでもいいかな。
まあ、そんな感じの何鍋と言ったらいいのかわからない、適当鍋をつつきながら俺たちは端末から零れる音声に耳を傾けていた。
『あー、何なのマジさー……。今年色々ありすぎじゃないー?』
『飲みすぎだぞ。まあ、たしかに入学当初はこんなことになるとは思ってもいなかったが……』
『でしょー!? なんか坂柳さんを筆頭にAクラスは暴れ散らかすし』
『暴れ散らかしてはないだろう。……まあ、騒動の中心によく居るのは否定はしないが』
などという会話が端末から流れている。
真嶋と星之宮の会話だ。
彼らの声だけではなく、他にも雑談をする声や食事をしている音も端末越しに聞こえてくる。
それもこれもすべて俺の活躍だ。
活躍と言ってもステルスして、通話状態の端末をこそっと飲み会している真嶋先生たちのそばに隠すように置いただけなのだが……。
これぞ俺ことホームズの必殺盗聴術の一つだ。
ボイスレコーダーを仕込むのもあり。
今回はリアルタイム盗聴を楽しむためにこうした手段にしたわけだが。
あとで回収に行かなきゃなー、と思いつつ俺はご主人たちと共に先生たちの会話を盗み聞きし、それを肴に夕食を食べる。
鍋とは別にご主人が用意してくれたステーキ肉最高! おほー! この濃厚なソースの味がお肉の味を引き立てて……うまー!!
「色々と言われてるわね有栖」
「私はただ学生としての権利を行使しただけですよ。学園内のルールには抵触していません」
『個人的に言えばそれほど悪い一年ではありませんでしたがね。最初こそどうなることかと思いましたが……』
『あー、龍園くんね。最初はヤバかったけど夏休み以降は大人しい……大人しい? 暴力的な面は出さなくなったけど』
『まあ……口が裂けても問題のない生徒とは言えませんが、入学当初と比べると格段に成長したと言えるでしょう。恐怖政治が精々だったのに、今ではそういったものを抜きにしてもクラスのリーダーとして認められているようで』
『真・体育祭でやりたい放題やってたからねー。……そうだよ、真・体育祭だよ。なんだよ真・体育祭って』
『正直、もう学生のコントロールができていないような気がする』
『明らかに学生全体で協調し始めているもんね』
『体育祭自体があからさまに渋すぎたのが要因でしょう。あれでは真面目にやる気もなくすというもの』
『もとから体育祭というイベント自体、報酬が渋めな傾向があったけど今年の一年は船上試験でやらかしてるから』
『船上試験の結果は荒れたな。たしかに試験の内容的にあり得る結果ではあったが……それはあくまで理論値。実際はほぼ不可能という想定だった』
『その想定を乗り越えて全グループ結果1という結果……か』
『船上試験のインパクトが強いが無人島試験でも想定を上回る結果だった。試験の結果、1268CPの流出……』
『むしり取られたわよねー』
『その結果を踏まえ、体育祭ではCPの回収を目的とした内容になったわけだが』
『それが更に学生側の反感を買って、より結束する土壌になってしまった……と。ぶっちゃけ、今の一年から三年まで大体団結してるわよね?』
『少なくともリーダー格では緩く連帯しているのは間違いない。でなければ真・体育祭なんて催しなどできはしないからな』
『割と真面目に今後の特別試験って危機じゃない?』
『協力し合って出血をおさえつつ、全体で利益を最大化するのが得だと生徒側が認識し始めてきたのは確かにまずいな』
『まあ、それならそれで。協力し合うことも大事なのでは? 真・体育祭はたしかにちょっと困ったイベントでしたが、生徒が自発的にあれだけのイベントを起こしたというのは生徒の成長に繋がるはずです。現にうちの龍園も……まあ、変に自信を付けてしまった気もしますが』
『問題は学園側が手綱を引けていないことです。試験を八百長で誤魔化して生徒間でCPを移動させることを黙認してしまえば、学園が行う特別試験の存在意義そのものが……』
『生徒間での契約でCPの移動を禁止するルールを加えるのは?』
『色々と難しいでしょうな。そういったあからさまに向こうの手を封じる策を講じると、さらに生徒側の結束が固くなりそうというか……』
『生徒側が結束されたら特別試験もクラス対抗戦も意味をなさなくなっちゃうー! うちのBクラスも基本温和だからこういう空気になると……。Aクラスになることにそこまで固執してない雰囲気でさー。いや、真面目にはやってるんだけどこう……ガツガツしている感じがないというか。とにかく現状で満足している感じが』
『まあ、生徒にとって競争よりも今の青春でしょう。Cクラスもリーダーの方針転換による影響が大きいのか、どこか楽しげな雰囲気をまとうことが多くなりましたし。Aクラスは置いておくとして、Dクラスはどうですか?』
『……Dクラスも似たようなものだ。もちろん、Aクラス入りを目指している生徒もいるにはいるが』
『まっ、そんな感じよねー。……はあ、本格的に対策を練らないとって時に』
酒を飲みながらだろう愚痴の多い会話の中、不意に星之宮が話を切り出した。
『――っていうかさ、理事長代行のこと』
『おい、それはまずい』
『大丈夫だってここの店、監視カメラないのは知ってるでしょー? 生徒は入ってこれないし、誰にも聞かれないって』
なお、猫。
『それよりも理事長代行の件、あれ絶対やってるわよねー』
『一応、理事長代行はフェイク動画だと言っているが……』
『それ、本気で信じてる?』
『証拠は一応のところ、存在しないからな。被害者――と思われる坂柳や綾小路も何のことかわからないというスタンスだからな。それにあの動画が本物だとしてどうやって映像を撮った? 現場だと思われる場所は動画の内容から特定できたが、あそこには監視カメラがないはずだ』
『なら、誰かが撮ってたんじゃないの?』
『場所的に隠れることができない。彼にあの内容が事実だとして……気づけなくてうっかりと撮られていたというのはどうにも腑に落ちない』
「おー、いい感じに錯綜してますね。ふふふっ、実際はホームズが堂々と撮ってただけなのですがね」
それな。
「まあ、その可能性を除くとどうやって撮ったのか――という疑問が残る動画内容、先生たちが困惑するのも仕方ありませんね」
『それに何より、仮に動画の内容が正しかったとしてだ。それをどうやって外に流出させたのかという問題が出てくる』
『人の出入りはもちろん、郵送物とかのチェックの監視も厳しくなってるしねー。理事長代行が来てから……』
『どうやって撮ったのかが不明、どうやってその内容を外に流したのかも不明。だからこそ、理事長代行の言うようにそもそも一から作られたフェイク動画という主張には一定の理がある』
『どうやって撮ったのかはともかく、外にその内容を持ち出したのはほら……猫ちゃん、ホームズに助けてもらったんじゃない? あの子、凄いバイタリティーはあるから。お使いホームズ的な』
「おっ、星之宮先生鋭い」
『何を言っているんだ。賢いとはいえ、そんなことできるわけないだろう』
「あっ、ホームズを過小評価した。真嶋先生……残念だわ」
常識的に考えると真嶋先生の方が正しいのに……。
『あー、もうこの際、動画の真偽は置いておくとしてさー。ぶっちゃけ、理事長代行ってヤバくないって話よ』
『いや、それはだな……』
『なんか理事長も急に居なくなっちゃうし、それに今回の一件……被害者とされている生徒って明らかに――ねぇ? どうしたってなんか裏があるって思っちゃうでしょ?』
うーむ、完全にこれ狙いは月城の狙いは坂柳だったって思われているな。実際の本命は綾小路で、坂柳はあくまでついでみたいな感じだったんだけど……ホワイトルーム云々の話を知らなければ、綾小路はただの優秀なだけの一般生徒だからな。そう考えるのは自然か。
『佐枝ちゃんはどう思う?』
『さてな、だが本当に面倒な事情が裏にあったとするなら迂闊に調べるのもまずいんじゃないか?』
『それもそーなのよねー。あー、めんどくさいことになっちゃったわねー』
先生の中で正しく現状を把握できているのは茶柱ぐらいだろう、彼女は口数も少なくひたすらにビールを飲んでいる音が聞こえる。
そういえば綾小路が茶柱には大体のことを話したって言ってたな。ホワイトルーム関係のこと。
別にそれは彼女に絆されたとかそういう話ではなく、茶柱が足抜けをできないようにするために教えたのだ。
よくわからずに脅した綾小路の出生の闇が深く、教えられた彼女は吐きそうな顔をしていたとかなんとか。
まあ、生徒相手に教師としての立場で威張れる程度で所詮はパンピーだからな。国や政治家やらの陰謀がうごめく闇のことなんか知ってもね。普通に人を消す手段とか厭わない程度には闇も深いし……うん。
最近、彼女の酒量は明らかに増えていた。
月城が来た辺りから特に。
生きた心地しないんだろうな……。
出来れば教師辞めて高育を去りたいが、綾小路に弱みを握られている身なので少なくとも卒業するまでは耐えないといけない。
普通に自業自得だが茶柱佐枝の明日はどうなるのか。
肝臓は耐えられるのか。
「先生たちもなんか大変そうね」
「そうですねー。まあ、いい感じで混沌としているようで何よりです」
「にゃー」
そんなことより目の前の夕食が大事な俺は、流れてくる飲み会の様子を肴にお腹いっぱいになるまで食べるのだった。
〈人物紹介〉
●ホームズ
→壁に耳あり障子に目あり、いつも背後に這い寄る黒猫というが……えっ、言わない? まあ、ともかく高育の敷地にはひょいと現れてボイスレコーダーや通話状態の端末を置き去っていく猫が居たり居なかったりする。気を付けろ。
●一年生教員ズ
→原作より色々と破天荒な生徒たちのせいで苦労している。そのせいか少しだけ仲がいいかもしれない。苦労の分かち合い、あるいは傷の舐めあいとも言う。正直、月城のことは疑っているが所詮は一教師でしかないため、なんか明らかに政治的な陰謀みたいな背景がありそうな上司の存在にどう対応するべきか頭を悩ませている。胃が痛い。
視点での描写が欲しいキャラ
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葛城康平
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坂柳有栖
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神室真澄
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鬼頭隼
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山村美紀
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一之瀬帆波
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椎名ひより
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綾小路清隆
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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佐倉愛里
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南雲雅
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堀北学
-
茶柱佐枝
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真嶋智也
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星之宮知恵