よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
畜生系主人公に神室真澄が隠している昔の話(いんたーるーど)
いつものことだった。
お父さんとお母さんが何かを言い合っているのは。
いつからなのか、なんてことは覚えていないほど――いつものことだった。
いつもいつも、何かを言い合っている。
怒鳴りあっているというほどじゃない。
けど、きゅっとなるような怖さを秘めた声で仕事から帰ってきたお父さんとお母さんは言い合った。
わたしは声を潜めるようにして、家の隅に逃げるようになった。
お父さんもお母さんも仕事をしている。
共働きというやつだ。
だから、昼間の家にはわたし以外……誰も居ない。
とても冷えていて、暗くて、嫌な感じ。
だから、外に出掛けるようになった。
用事も無いのに、それでも家に居るのはマシだから。
でも、外を歩いていると嫌な気分になるものを見かけてしまう。
それは例えばお母さんと一緒に買い物に出掛けている子の姿だったり、お父さんに玩具を強請っている子の姿だったり。
きっと、それが普通の姿なんだろうと思った。
そして、わたしの家はきっと普通じゃ無いんだろうとも。
お父さんもお母さんもわたしのことは嫌いじゃ無いのは知っている。
新しい服も買ってくれる、お小遣いもくれる、誕生日にお人形のプレゼントも買ってくれた。
必要なものは全部、与えてくれて――そして、それだけだった。
わたしは知っている。
二人ともわたしを見ていないことを。
わたしは知っている。
二人が家に遅く帰ってくるのは仕事だけが理由じゃ無いことを。
わたしは知っている。
わたしになんて興味がないことを。
お絵かきをした絵を見せたときも、かけっこで一位になったことを言ったときも、テストで満点を取ったのを見せたときも――
わたしを見て。
そんなわたしの心の声に応えるように、ある日わたしは――あの子に出会った。
ふわふわとした毛をした黒い猫。
その子は寒空の下、段ボールの中に入れられて捨てられていた。
みゃあみゃあと鳴く声はか細く、わたしに助けを求めているように聞こえた。
そう――わたしに、助けを求めているように。
その日からわたしとあの子の日々は始まった。
餌を与えるとわたしに懐いてきたあの子をわたしは溺愛するようになった。
学校が終わると毎日のようにあの子の元に行って餌を与えて、汚れていたら綺麗にしてあげたり、一緒に遊んだりした。
幸せな時間だった。
出来れば飼ってあげたかった。
でも、その時は特にお父さんとお母さんの仲が悪い時期で、言い合いをすることも多くてとてもじゃないけど切り出せるような空気じゃなかった。
だから、タイミングを見計らって、そしてこの子を――わたしを求めてくれるこの子を……。
そんな風に考えていた。
だから、きっとそれは罰だったのだろう。
わたしは知らなかった。
子猫のうちから餌を与えることになれさせてしまっては、自分で餌を取る力が無くなってしまう。
それは野良猫にとって、致命的なことだということを。
そんなことも知らず、わたしはあの子のためになるんだと。
わたしが持ってくる餌を心待ちにして待っているあの子の様子を思い浮かべながら、毎日のようにあの子の元に向かって――
そして、わたしは風邪を引いた。
寒空の下、外によく出ていたからだろう。
風邪を引いてしまって、何日も家から出られない日々が続いた。
あの子のことが気になっていたけど、熱で頭はボーッとしていて……きっと大丈夫なんて、心に言い聞かせて。
そして。
わたしが改めてあの子のところに行ったとき、あの子は――
まだ名前も付けていなかった。
お父さんやお母さんからの許可を貰って、家猫として飼っていいってなったときに改めて決めたかったから。
その事実に――気持ち悪くなった。
きっと寒空の下、わたしのことを待っていたあの子に。
わたしは名前をあげることも出来なかった。
その日からわたしは猫に触れなくなった。
猫はわたしを避けるようになった。
きっと呪われたのだ。
それがわたしへの罰なのだと思った。
もうお父さんとお母さんは言い合うことも無くなった。
帰ってくることさえ、わたしが自分のことは自分で出来るようになってからは稀になった。
わたし以外の息づかいのない家の中はいつも冷え冷えとしていた。
最後に言葉を会話したのはいつだっただろう。
日本で有数の高校への入学が決まったときだろうか。
何故、高育を選んだのか。
勉学にはそれなりに頑張って優秀な成績を取っていたから、目指すように担任に勧められたのが理由だった気もする。
だとしても、本当に受験するかどうかはわたしで決められた。
面倒なら無視をすればいい。
それでも受験した以上、それなりに理由はあった気がする。
例えば、そう。
もしかしたら、反応が返ってくるかもしれない――なんて。
結局のところ、合格したという報告をしても特に反応らしき反応なんて返ってこなかったのだけれど。
期待していたんだろうか。
本当にバカらしい。
夢なんてない、将来の進路の希望なんてのもない。
やりたいことなんて無い。
もう、どうでもいい。
だから、そう――万引きなんてして、バレて無茶苦茶になってしまえば……。
そう思って――
「にゃあ」
不意に目が覚めた。
身体を起こすと冷えた冬の空気が首筋を撫でた。
「うみゃー……」
「すぅ……ぴ」
周囲を見回すとそこでは私と同じように寝ていた坂柳と佐倉の姿がそこにはあった。
寝ていた、というよりも寝落ちしたといった感じだったが。
ぼやけていた頭の中が次第にハッキリとしてきた。
「ああ、そういえば有栖のやつが持ってきたゲームをやってて……」
どこから持ってきたのか坂柳が持ち込んだゲーム――「桃○」をやっていた途中だった。
冬休みでどうせ明日も休みだからと言う理由で99年モードでやろうと彼女が言い始め――やったのが運の尽き。
終わりなき耐久戦に移行した記憶だけは残っていた。
この惨状を見る限り、全員途中でダウンしてしまったようだ。
「我ながら、なんて無駄な時間を過ごしたのかしら」
「にゃー」
得るものは何も無い、勝者無き戦いだったと感想を呟きながら、私は立ち上がった。
「ほら、ホームズおいで。朝ご飯を作らなきゃねー? ホームズは何が食べたい?」
「にゃおん」
「目玉焼きのソース、か。それも半熟……なるほど」
ふわふわした撫で心地のいい肌触りを楽しみながら、私はキッチンへと向かう。
ぐっすりと眠っている二人が起きるより先に朝食の用意を済ませるつもりだ。
誰も居ない家。
そこで買ってきたものを食べるのが嫌で、始めるようになった手料理だが高校に入学してから一年、随分と上達したと自分でも時々思う。
たぶん、自分のためだけならそれほど上達しなかっただろう。
ただ、振る舞う機会が増えるとなると必然的にそれなりにクオリティに気を遣うようになってしまうもので。
「結構、お菓子とか食べてたから……軽いものでいいか。ちょっとスープ辺りでも用意して、それから――」
入学した当初にはこうして人を家に呼ぶ、なんてことをするとは思っていなかった。
人付き合いは悪い方だったから。
それもこれもきっとこの腕の中の黒猫――ホームズのお陰なのだろう。
「にゃっ、にゃあ!」
「うん? そうね、もう少しで出来るから起こしてきて」
「にゃーお」
あの日、あの場所で出会った。
私に撫でさせてくれた、あの感動はきっと誰にもわからない。
全身で好意を示してすり寄ってくる彼への愛おしさ、その深さを真の意味で理解できる者はいない。
それでいいと思う。
全身で、態度で、行為を表してくる彼の存在にどれだけ私が――わたしが救われたのか。
黒猫は不吉の象徴とされるとか。
でも、私にとっては――――
「――やってくれましたね、このアホ猫! 今日という今日は許しません! この坂柳有栖の偉大さをその身に刻み込んであげましょう!」
「ふしゃー!!!」
「やめよう、有栖さん! そんなこと言って毎回負けているし!」
「いいえ、愛里さん! この畜生にお仕置きが必要なんです! 人間様の素晴らしさと畜生風情の矮小さをわからせる必要性が――ふぎゃ!?」
「ああ、ホームズさんのオーバーヘッドキックが!?」
一先ず、騒ぎ始めた二人――一人と一匹を宥めることから、今日を始める必要があるようだ。
そのことを察して、私は口を開いた。
「いい加減にしなさい。でないと朝ご飯抜きだからね」
そんな風になんでもない一日は始まった。
一年はもうすぐ終わる。
来年も一緒に、出来ればその先も。
そんな思いを隠しながら。
〈人物紹介〉
●神室真澄
→猫LOVEな少女。たぶん、猫自身も軽く見ているほど重い感情を持っている。
●坂柳有栖
→ライダーキックを決められた。怒り狂って挑んだが当然負けた。
●佐倉愛里
→お友達の家にお泊まりというレアイベントをやってホクホク。起き抜けにライダーキックを決められる友人を見た。
●ホームズ
→寝ぼけた状態で尻尾を握られるという暴挙をされたのでライダーキックをした。後悔は無い。
視点での描写が欲しいキャラ
-
葛城康平
-
坂柳有栖
-
神室真澄
-
鬼頭隼
-
山村美紀
-
一之瀬帆波
-
椎名ひより
-
綾小路清隆
-
堀北鈴音
-
櫛田桔梗
-
佐倉愛里
-
南雲雅
-
堀北学
-
茶柱佐枝
-
真嶋智也
-
星之宮知恵