よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
「で、どうするんだ?」
口火を切ったのは2年のクラスの担任だった。
名前は何だったか忘れた。
「どうする……とは?」
「わかっているだろう? この状況――特別試験であるにもかかわらず、生徒たちが談合していて終わっているこの状況についてだ!」
混合合宿が始まってしばらく。
深夜のとある会議室で行われていた教員たちの会議――という名の飲み会の場で、そんな言葉が響いた。
「……もう、どうしようもなくない?」
「それな」
「全学年クラスで談合を組まれたらどうしようもない。どこから情報が漏れたのか……」
「怪しいのは生徒会……というか南雲だろう。彼なら事前に知ることができる立場にある。情報を横流ししていてもおかしくはない」
「事実なら情報の漏洩。如何に現生徒会長といえども、処罰するべき案件だが……」
「まあ、無理だろう。証拠を残すようなバカじゃない」
「仮に南雲の関与を証明できたとしても、この混合合宿における談合はどうしようもない」
「完全に試験の時に順位を調整する気満々だからな」
どこか疲れたような言葉が飛び交った。
この様子を見ればわかるとおり、教員たちにはあっさりとバレた。
別に学生側に隠す意図がなかっただけとも言える。
学生たちが真・体育祭で学んだことは試験当日まで談合の秘密を隠しきれば、学園側はどうすることもできない――それは何故か。
「これでは特別試験の意味がない。ただの林間合宿だ。ルールを変更したり、臨機応変に対応を変えるべきでは?」
「そんなことをしたら嬉々としてアジってきそうな学生を知っている。うちのクラスの生徒でな……坂柳有栖というんだが」
「真嶋先生……」
とても疲れた顔でビールを飲む真嶋先生。
うーん、邪ロリへの正しい認識よ……。学園側が慌ててあからさまに生徒に不利なルール変更とか罰則増やしとか、試験中にやったらここぞとばかりに騒ぎ立てるんだろうなぁ。というか、それを狙ってる節すらある。
これまでの牙を抜かれていた学生なら、理不尽なルールを敷かれても従っていただろうが今の学生たちは違う――特に坂柳世代の1年たちは。
隙があったらとりあえずみんなでぶん殴ろうぜ、ぐらいの共通意識がこれまでの経験から醸成されているわけで。
そして、その影響は上級生にまで波及し、その結果が真・体育祭の開催。
「龍園は間違いなく便乗するでしょうね」
「南雲もだな」
「坂柳も含めたあの三人……集まらせないようにどうにかできないか?」
邪悪三銃士、教員たちにもそう認識されてて草。
「綾小路も間違いなく協力するでしょう」
「一之瀬さんもクラスメイトに被害が出そうならやるだろうねー」
「2年は南雲が動く以上、ほぼ動くとして……3年は?」
「卒業を控えた3年が今更何かをすることはないでしょう。積極的に参加することはないでしょうが……かといってこちらに協力するかというと」
3年の恨み辛みは深い(確信)
ぶっちゃけ思い当たる節は流石にあるのか、教員たちはみんなどこか気まずそうだ。
でも、まあ、仕方ない。
恨まれる筋合いはあっても、感謝されるような仕打ちは受けてないからなこの学園の生徒って。
なので反旗を翻せるだけのネタを得た坂柳がアジったら、まず間違いなく大半の生徒は動く。
それがわかっているから、教員たちは動きようがないのだ。
「はぁー、だから嫌だったんだ。談合できるような内容の試験なんて。坂柳がしでかすから別のにしようと」
「話し合ってたんだけどねー」
グチグチと言いながら真嶋は再度ビール缶を新たに一つ開けた。
一応、試験中なので教員として飲むのはどうかとは思うが、彼のストレスを思うと俺は目を逸らすことしかできない。
ほぼほぼ、この特別試験が茶番になっているから――というのもあるが、それ以外にも真嶋が荒んでいる理由が実はある。
「私は何度も具申したんだが……理事長代行がな」
「権限を持っているのあの人だからねー。でも、全然捕まらなくて」
「色々と大変なんだろう……例の件があるからな」
「実際のところ、どう思う? あれ」
「……事実無根、誰かが作った悪趣味な動画だというのが公式見解だ」
「それ信じてるー?」
月城の目がないからって普段は言えないことを言い出したなこいつら。
まあ、学校だとどこに目と耳があるかわかんないからしょうがないんだろうけどさ。
探るような視線で同僚の教員の一人に尋ねる星之宮、そんな彼女の言葉から逃げるように視線を逸らしながらビールを飲む教員。
沈黙は何よりも雄弁に物事を語ることがある。
真嶋の疲れ切った様子も、月城に対する不信感が原因だったりする。
彼はわかっていたのだ、これまでの経験から混合合宿とかいうイベントをそのままやっても、どうせあいつら談合すると。
ぶっちゃけ、その主導役をAクラス――というか邪悪ロリがすると。
さすがに事前に根回しが終わってるのは想定外だったようだが、仮に知らなかったとしても当日に丸め込みそうな凄さがアイツにはある。
自分の所属クラスがいい感じで主導権握って試験を制覇するなら、それでいいじゃんと思わなくもないが、真面目な真嶋としては試験にAクラスが勝つこと自体は良いが、試験自体そのものをひっくり返すというか破綻させるのは問題があると思ったのだろう。
だから、早めに予定されていた混合合宿の内容の修正を具申していたのだが――
だが、ダメッ!! 例の事件の謝罪行脚! そのせいで理事長代行の癖に時間が取れない月城!!
結局、内容を変更することも出来ずに試験は開始し、想像通り……というか想像以上に初めから終わっていて、ただの林間合宿に成り果ててしまったのだ。
彼としては酒でも飲んでないとやってられないだろう。
一応、真面目に働いているのに。
しかも、そもそもの例の事件が怪しいという。
人事権を握られているし、急に消えた坂柳パパのこともあるので、迂闊には指摘できなかったけど、あれがフェイク動画であるという説明を聞いて、素直に信じた教員は皆無だった。
なにせ、タイミングがタイミングだからな。
坂柳パパが消えて、なんかいきなり代行として知らんおっさんの月城が来たと思ったら、あの動画……つまりは邪ロリが脅されている動画。
あれ、なんか政治的な策謀が働いて、坂柳親子は排除されようとしているんじゃないか――と疑ってしまうのも無理はない。
実際は綾小路が狙いなのだが、そんなことが一般教員にわかるはずもなく。
わりと話としては筋が通ってしまう。
それにフェイク動画にしては建物内部の構造もキチンと撮れているし、坂柳や綾小路の動きや姿も自然……いや、邪ロリに関しては「こんなに儚げな大人しい美少女ムーブするわけねーだろ」という感想が大半をしめていたのだが。
「やっぱり、あの動画って坂柳さんが代行の行動を逆手にとって撮影したんじゃ……。それならあれぐらいの演技するでしょ」
「まあ、確かに。代行がああいった行動をしてくると読んでいたのなら、坂柳ならそれぐらいしそうだが……」
そこで嘘乙にならず、「でも、坂柳なら嵌めるためにそれぐらいしそうじゃない?」「確かに」でそこは邪ロリだからという理由で納得された。
凄いな坂柳、凄い信頼だ。
実際、即興でアレやったの坂柳の判断だし。
教員たちの邪ロリへの理解度が高まってきて俺も嬉しいぜ! まあ、そこら辺はともかく。
「だが、だとするとどうやってそのデータを外に出した? 敷地内からではまず不可能だ」
「ネットを介して流出させた痕跡はない。となると物理的にUSBか何かに入れて外部に持ち出して、誰かに頼んだという可能性だが……」
「それに関しては嫌というほど調べたでしょ。月城理事長代行の命令でさ。まっ、何にも出なかったけどさ。それにしてもフェイク動画って言うわりに、外部への流出経路の調査だなんて」
「フェイク動画を作るための基となった……例えば校舎の内部構造のデータが持ち出された可能性があるため、という理由だ」
「建前、でしょ」
「証拠はない……」
「綾小路と坂柳が同時にあの動画にあった地点に居た日時、時刻はカメラの映像を調べれば判明する。あの場所、あの地点にはカメラが無かったとしても、その周囲にはカメラはあるからな。カメラを意識して避けて移動していたわけでもないなら、絞り込むことが出来る。そして、それは理事長代行にも言えること。つまりはあの動画の内容のように三人が同時刻、あの場所に居た可能性を絞り込むことは可能なはずだが……」
「はあ、わかりきっていることを聞くな。そのカメラなどのデータの管理権限は全て月城理事長代行が握っている。つまりはわからないんだ」
茶柱の言葉に真嶋は答えた。
そう、カメラだらけの高育の校舎。
たしかにカメラの無い場所はあるのだが、その他のカメラのデータがあればある程度行動を把握、推測できることは可能なのだ。
なのでカメラのデータを全て調べ上げれば、動画で映っていた場所に三人が同時刻に居た可能性を調べることは可能。
月城の方は知らないが、綾小路たちがカメラを避ける理由が無いから、二人が一緒にあの場所に行った日時と時刻を調べれば、容易に絞り込むことが出来る。
普段から一緒に居るような関係ではないからな。
あとはその時刻にその周辺に月城が居たか、居なかったか……月城がその時は別の場所にいたことが証明できれば、身の潔白の証明に大きく寄与するはずなのに月城はそれをしていない。
なんでやろうなぁ?(すっとぼけ)
まあ、月城もバカじゃない。
もうちょっと余裕があれば、データを偽造するなどして教員からの疑いを払拭するために早めに手を打てたのだろうが、残念ながら流出した動画のせいで上の人間からガン詰めされ、その対応に追われたせいで出来なかったのだ。
今更、データを職員たちに渡したところでどうせ改竄したデータなんだろうと思われて効果が薄いと思ったのだろう。
彼はそこら辺、黙殺する方針だ。
それが教員の不信に繋がっている。
確かにやった証拠はないけど、正直なところ99%黒では? というのが教員たちの総意だろう。
やってきた経緯とかを考えるとどう考えてもバックに何かがあるので、誰も迂闊には口を出さないが彼らはそう考えている。
「それに仮に本当にアレが事実だとして、どうやって坂柳が外に流出させたのか……その方法がわからん。わからない以上、あれがでっち上げだという理事長代行の主張にも一定の理はある」
「確かにまったく見つからなかったもんねぇ。人の出入り、物の出入り、全て調べ上げたのに……休日返上で」
「人に頼んだ形跡はない。物に隠して外に送った形跡もない。手段がわからん」
猫の出入りを調査してないの片手落ちじゃない? いや、まあ、あの保健所の職員でもない限り、見つかるヘマはしないけどさ。
猫が運んで渡したって考えないなんて――想像力が足りないよ。
「理事長代行も荒れたねー。今までだって相当だったのに、さらに敷地内の人と物の出入りを厳重にしろだなんて」
「よっぽど腹立たしかったのだろうな」
「結局、事件の真相は闇の中か」
「当事者である坂柳や綾小路も沈黙を保っている以上、お手上げだ。実際にあった事件なら、あの坂柳ならもっと騒ぎ立てそうなものだが……」
「曖昧にすることでこっちの動きを縛ってるんじゃないの? 否定するにしろ、肯定するにしろ、どっちかスタンスを示してくれたら動きようもあるけど」
「その可能性……あるなぁ」
ちびちびとビール缶を舐めながら真嶋は呟いた。
丸めた背中が煤けそうだった。
可哀想な真嶋……ひとえにこんなクソみたいな学園の教員をやっている自業自得だが。
また一缶飲み終えた真嶋に対し、俺はついっと次のビール缶を押して差し出した。
「おおっ、悪いなホームズ。それにしてもどうするかな、特別試験……」
「混合合宿はもう終わりでしょ」
「いや、混合合宿のあとの話だ。正直な話、もう今年度は無理じゃないか? 味を占めてしまったというか」
「あー、確かに。みんなで談合してできるだけ多くの報酬を得て、分配するのが賢いやり方だって学んじゃったぽいからねー」
「学年を超えての協力体制。それを敷けるようになってはな。試験の意義が……」
「試験の内容作りが難しすぎる。こんなことは初めてだぞ」
「前例がないしねー、学年単位で言えば南雲くんみたいな支配下に置いた生徒も居たけど、他学年まで巻き込めるとなると……」
「今の一、二年……というか主に南雲くんと坂柳さん、龍園くんだけど仲いいからね。どう考えても協力し合って搾り取ろうとしてくる未来が見える見える」
それな。
「無難に同学年で公平に競い合って、勝った方にCPを……みたいな感じになるんじゃないか?」
「下手に負けた場合のマイナスを大きくして、CPを奪おうとすると談合するんだろうなぁ」
「勝った方にCPぐらいの単純なルールなら、大人しく彼らも従うでしょう。下手にルールを複雑化すると穴をついてこようとするので――」
対策を練られてて草。
まあ、ぶっちゃけ、普通にテストで点数が高かった方にボーナスとか、競技で勝った方にボーナスとか、そういったシンプルなやつなら大人しく従うと思うぞ。
競い合いってそういうものじゃない?
前から思ってたけど、高育がやってるのって教育じゃなくて選別だからな? 優秀なやつだけを見つけ出すために篩にかける行為を教育とは言わないんだ。
そういうシンプルな勝負なら、みんな頑張って勝とうとするのに、変に蹴落とし合い推奨みたいなことをするからさぁ。
「でも……まあ、ともかくアレよ! 変な特別試験とかやらなければ大丈夫よ」
「そうだな。変な……それこそ、うちの坂柳が生き生きするような大義名分を与える理不尽を強いる試験内容でさえなければ」
ピコーン!
おや? 何かフラグが立った気がするぞ?
もはや、試験の建前すら捨てたただの理不尽なイベントなど、そんなものがあるはずが。
というか邪ロリに餌を与えるだけの行為なんて、まさかそんな――
酔いが回ってきたのかぐだぐだと愚痴ばかりを吐き出し始めたダメな教員ズ、彼らからもう得られるものはなさそうだと判断した俺はお酌の手を止めてご主人たちのもとへと戻った。
「さあ、勝負だよ真澄ちゃん! ホームズを賭けて!」
「ふん、いい度胸ね。身の程というものを教えてあげる。あんたは所詮、段々ヤバい地雷女化して、木の陰に隠れて人を殺しそうな嫉妬に満ちた目つきで脳破壊されるのがお似合いの負けヒロイン……どうして、そうなった!?」
「それを言ったら戦争だよ!」
ポイントで購入した卓球台でにらみ合う二人。
その周囲で南雲と龍園がどっちが勝つのか賭けをしていた。
おかしいな合宿中はそういうことが出来ないようにされていたはずだが……えっ、なに? 賭けはポイントを使ってないからセーフ? 雫のブロマイド写真を使っているだけ? それって後にポイントと交換できるやつでは? こいつらプライベートポイント以外の貨幣代わりに雫のブロマイド写真を使おうとしてない??
さすがにアレ過ぎたのか、教員に引きずられていく南雲と龍園。
マネーの流れを把握できる電子マネーの利点をブロマイド写真を挟むことで不可視化させて、どう考えても悪いことをしようとしているから仕方ないね。
自由か。
とりあえず、坂柳の頭の上に登りながら、原作と比べ和気藹々とした混合合宿の様子を俺は眺めるのであった。
「あの当然のように私の頭の上に乗るのやめません?」
「にゃふん」
「腹立ちますね、このクソ猫」
そんなこんなで穏やかで、何一つトラブルが起きることもなく混合合宿は終了。
そして、しばらくの時が経ち――
「えー、その……なんだ。追加の特別試験が行われることになった」
三月。
とても青い顔をして、しょぼしょぼとした表情でAクラスの担任である真嶋は口を開いた。
「――クラス内投票を開始する」
開戦じゃぁあああああああああああっ!!!
〈人物紹介〉
●ホームズ
→情報収集を欠かさない利口な猫。愛嬌とお酌をするテクニックで口を滑らせる。搾り取れるだけ絞って、あとは邪ロリの頭の上でご主人の活躍を観戦。ご主人の見事なおもちが揺れ動く様を見て、エキサイティングした。
●教員ズ
→やってられないとばかりに飲み会。明らかにヤバそうな事情を抱えてそうな上司ができたせいでストレスがたまっている。
●神室真澄
→乗りと勢いで卓球勝負になった。勝った。ホームズに褒め称えられた。満足。
●一之瀬帆波
→負けヒロイン。敗北したあと、さめざめと泣いた。ホームズに健闘を称えられ、肉球ポンポンで機嫌を直した。猫狂い、というかホームズ狂いであることが広まっている。ホームズ相手にしているときだと幸せに蕩けた顔をして、ファンを増やしている魔性系ヒロイン。まあ、本命は別の女に夢中だけど。悲しみ。
●坂柳有栖
→純粋に神室と一之瀬の戦いを観戦して楽しんでいた。ばるんばるんに揺れるおもちの存在に、無言で自分の胸に手を当てた。クソ猫の労りに満ちた「にゃあ」という声と共に肩ポンがムカついたので掴みかかった。当然、捕まえられずに負けた。
視点での描写が欲しいキャラ
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葛城康平
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坂柳有栖
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神室真澄
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鬼頭隼
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山村美紀
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一之瀬帆波
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堀北鈴音
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佐倉愛里
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