よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
吾輩はホームズである。
今日も今日とてご主人のために働くぞー。
ところで猫とは愛玩動物である。
癒し系のペットとして人気の高い猫は、ツンデレな性格や可愛い仕草で多くの人間を魅了するが所詮は獣だ。
どうしたって本能には抗えない。
爪は研ぐし、粗相だってしてしまうことはある。
更に言えば人の選り好みをしてしまうところだってある。
愛玩動物全般に言えることだが人間側がどれだけアピールしても懐かない場合は懐かないものだ。
だが、もし仮にだ。
もし仮に。
爪研ぎやら粗相をせず、自分に対して懐いてくれる猫が居たらどうだろうか。
撫でることを要求したり、甘い声でゴロゴロと鳴いて、身体をこすりつけてくるラブリーなにゃんこが居れば人間はどうなるか……。
答えは簡単だ。
「いやー、それにしても今年のAクラスはすごいわよねー。真嶋くんとしても鼻が高いんじゃない?」
「ふっ、どうだろうな」
「喜色を隠せていないぞー? まあ、そうなるのも仕方ないか。だって歴代1位の記録よ? 五月の時点で残せたCPが980っていうのはさ」
さて、俺が今いる場所の説明が必要だな。
聞こえてくるのはご主人のクラスの担任の真嶋くんとBクラスの担任の星之宮知恵の会話。
そう俺は今いる場所は職員室だ。
職員室に堂々と居座っている。
「もとから粒ぞろいではあったのは知っていたけどねー。見抜いてきた神室さんの件もあるし……このCPの高さってやっぱり彼女が関わっているんじゃないの?」
「その件に関しては何度も協議をしたはずだ。少なくとも契約内容を破ったと見られる行動は確認されなかった――違うか? Aクラス内で積極的に注意などを行い、クラス内の統制を図っていたのは葛城だ。それに応じた生徒たちの努力がこの結果に繋がっただけだ」
二人がやりとりしているのはクラスポイントの話だ。
ネタバレをする五月を迎えたからな、その話題になるのは仕方ない。
なにせ我らがご主人が所属するAクラスの980! これは原作の数値よりも高い数値だ。ご主人から情報を受け取った葛城がその情報をもとにクラス内の統制を図ってくれたおかげだ。
元々、原作でも940も取れていたのだから、情報さえあれば難しくはなかったのだろうがこの結果はとても嬉しいぜー! なにせ、CPが増える=ご主人が受け取るお小遣いが増える! だからな。お金はいくらあっても困ることはないのだ。
「やっぱやられちゃったかなー? 自分は口止め料をせしめてクラス内の統制は葛城くんに任せる……なかなかしたたかな女の子ねー」
「その証明は不可能だろう。神室の行動や通話履歴を調べても疑われるような葛城との接触はなかったからな」
「優秀な生徒がいて嬉しそうね、真嶋くん」
せやろ? ご主人のことを褒め称える言葉はいくらでも言っていいぜ! 女神を称えよ、中年。
「そうだな。今年のAクラスには優秀な生徒が多い。クラス内の雰囲気もいいしな」
「クラス内の雰囲気がいいのにはその子の活躍があるんじゃない?」
「かもしれないな。ホームズは本当に人懐っこい猫だよ」
「真嶋くんに懐くなんてよっぽどよ、よっぽど」
「どういう意味だ」
なんて会話を二人がしているが、これが俺が職員室にいられる理由であり――答えでもあった。
Q:爪研ぎやら何やらをせず、ただ甘えたり懐いてくれるにゃんこに勝てる人間は居るか。
A:居るわけがない。
「「ペットを飼いたい」まではわかるけど、「ペットを学校に連れ込みたい」とまで言って100万ポイントを使ったときはバカなことをするもんだと思ったんだけどねー」
「まあ、ホームズが仮に備品を壊したり、汚したり、他の生徒を引っ掻いてしまえば当然飼い主である神室が責任を取ることになるわけだからな。正直、すぐに問題を起こすだろうと思っていたのだが……」
「もはや、Aクラスを代表するマスコットになってるわね。この間、一之瀬さんとじゃれているのを見たわ」
星之宮が言っているように、今や俺はAクラスを代表するマスコットの地位を確立した。
まあ、当たり前と言えば当たり前なのだが校内で猫の姿は目立つ。しかも、隠れてこそこそしているわけではなく、堂々と廊下を歩いていれば俺のことが知れ渡るのは時間の問題だった。
とある生徒のペットであるということが知れ渡り、俺が歩き回ることに誰も違和感を覚えなくなったらあとは簡単。
ドサ回りをするアイドルがごとく、笑顔を意識して媚びを売れば人間なんてチョロいものだ。
あっという間に俺の存在は受け入れられた。
猫アレルギーか動物嫌いでもない限り、愛らしく人懐っこいにゃんこを嫌いになれるやつは多くはないだろう。
しかも、向こうからアプローチしてくるのだ。
大抵のやつは落ちる。
話題に出た一之瀬とかもそうだ。
散歩中に見かけたのでちょっと甘えてやったら黄色い悲鳴を上げて俺をなで回した。
葛城と同じく、良識とか常識をわきまえているせいでこの高校では苦労する女だからとかなりサービスしてやったのを覚えている。
他に原作キャラであったのはCクラスの椎名ひよりや伊吹澪とかだな。
椎名ひよりは彼女の方からやってきた。
どうにもホームズという名前の猫という点が興味を引いたらしく話しかけてきたのだ。
単なる挨拶だったがその挨拶を返すように一声鳴いて頭を下げてやったら、椎名はなにやら興奮してそれ以来時々話しかけてくるようになった。
可愛い。(確信
それから伊吹もそんな感じだ。
なんか偶然を装って俺と人気の無い場所で接触してきたと思ったら周囲を警戒しながら煮干しをくれた。
そして、その煮干しを食べている俺の背中をこっそりと撫でる伊吹……なんで煮干しを持っていたんですかねぇ? 可愛いね。(ほっこり
そんな感じで俺は歩き回って媚びを売り、人脈を広げていることに最近腐心していた。
全てはご主人のため、この学校で生き残るには人脈はとても強い力になるからだ。
……いや、まあ? 最初はそこまで原作介入する気はなかったけど、もう今更だから色々と原作キャラに接触したいなーって気分がなったのは事実だけど。猫にだけ見せる一面を観察するのが思いのほか楽しいのは事実だけども、ご主人のためだから!
《/b》
閑話休題。
そんな感じで俺は四月中、人脈を広げまくった。
その成果の一つが真嶋先生――というか教職員全般だ。
この学校で生活していく上で押さえておきたいのが学校側の人間だ。
真嶋に懐いた振りをして俺は何度も職員室に突撃した。
最初こそ困った様子だった真嶋も仕事の邪魔はしないし、大人しく、そしてタイミングを見計らって甘えてくる。
そんな俺にほだされるのは時間の問題だった。
「本当に大人しい子ね。うりうりー」
「やめてやれ」
「えー、ホームズも喜んでるじゃなーい。ねー?」
うっ、酒くさ――っ、こいつ昨日は酒をかなり飲んだな!? いや、我慢我慢……。
「にゃーん」
「ほらー」
星之宮も俺の魅力に取り付かれた一人だ。
遠慮の無い手つきで俺の身体を撫でてくる。
それに対して俺は地下アイドルの握手会の気分で猫なで声をあげた。
「くぅー! 可愛いわー、ホームズ! 私にメロメロね」
フレッシュさが足らないし、酒臭いからやり直し。
あと香水の匂いもちょっと……。
「あーあ、ペットとか興味は無かったけど私も飼ってみようかな。どう思う佐枝ちゃん?」
「知らん」
その年齢の独身女が猫とか飼い始めると喪女コース一直線だぞ。俺の勘だけど二人とも現状でかなり喪女カウンター高そうだし、ペットとか飼いだしたらたぶん致命傷……それでも構わないなら飼うといいが。
そんなことを考えながら俺は真嶋たちの様子を伺いながら、チラリッとパソコンの画面に目を向けた。
完璧に人懐っこい猫を演じている俺に警戒を向ける者はいない。
真嶋たちは世間話をするように――だが、互いの腹を探るような会話を続けている。
五月というクラス間の抗争が開始する節目の時期だからな、互いの腹の内を探り合っているのだろう。
そんな彼らの目を盗み――カチャカチャ、ターン! マウス、ころころ!
「あはは、見てホームズったらマウスやキーボードで遊んでる!」
「マウスで遊ぶ……か。猫らしいと言えば猫らしいな。あまり遊ぶなよ、ホームズ。それで――」
にゃーん、と返しながら俺はちゃちゃっとパソコンの中を調べた。
うむうむ……やはり、原作とは大きな違いは見られないな。中間テストに関しても……うん。二、三年に過去問に関する注意事項が学校側から出されているな。ようするに「向こうから持ちかけるのはアリだけどこっちからはダメだぞ」ってやつだ。となると変化はない感じか。それとこっちは……ああ、やっぱり無人島の試験も同じか。
なにか変化が起きているかもしれないと思っていたが、その点に関してはホッと息を吐きつつ俺は身体を丸めて遂に本格的に始まったクラス抗争に関して考え込んだ。
さて、どうするべきか……。
―――
「ホームズ、それー」
「にゃーん!」
放課後、俺はご主人と共に部屋の中でボール遊びに夢中になって没頭していた。
ああ、ご主人と遊ぶだけで今日の疲れがどんどん癒えていく……ご主人は聖女だった? これ絶対、回復魔法を俺にかけてるだろ。ひゃっほー!!
部屋の隅に投げられたカラーボールを追いかけて、ご主人の下へと持っていきまた投げられて追いかけて持っていく……なに? やってることがどっちかというと犬? まあ、ご主人のペットという意味では犬でも猫でもたいした違いないし誤差だよ誤差。
ご主人ーー!!
「おー、よしよし。……やっぱり部屋の中の方が気が楽ね。学校に連れて行くのも悪くはないんだけどね。今日もいっぱい人に会ってきたの?」
「にゃー」
「ごめんねー、ホームズ。今日はクラスでの会議もあって……やっぱり五月に入っていろいろと開示されたら面倒なことになったわね。とはいえ、おおまかな方針自体は決まったからあとは葛城に任せておけばいいでしょ」
と機嫌が良さそうにご主人は言い切った。
五月のネタバレでAクラスもそれなりに影響を受けることになった。
Aクラスのみしかその利益を受けられないことについては別にAクラスの人間にとっては大きな事実ではない、現状二位を大きく突き放した980のCPがあるのもそれに拍車をかけている。
五月のネタバレに関して、Aクラスの人間にとっては驚きはあれどそれほど気にするような内容ではないのだ。
では、なぜわざわざクラス会議などを開いたのかというと――
「それにしても坂柳もやるわね。私のようにホームズに教えて貰ったわけではないのに今後に起こる特別試験の可能性に気づいてくるなんて」
大体、最近はクラス内のマスコットになりつつある坂柳のせいだった。
原作だともうちょっと余裕な感じで葛城の派閥と元気に派閥抗争を本格的に進め始める彼女だったが、最近は自身のカリスマ力の低下を気にしていたようでいい機会だと言わんばかりに、学校からのネタバレが終わった後、今後起こるであろう特別試験の存在を論理的に披露して納得させたのだ。
ついでにいえば真嶋の中間テストへ向けた激励の言葉から、裏道の存在にも気づいていたようでそこら辺も示唆していた。
そこらへんはさすがは天才と言ったところか。
単純に発想力もすごいが論理的に説明する手管が非常に上手かった。
カリスマ力確保のために自らの優秀性を披露した坂柳はクラスのみんなの坂柳へ対する目も変わり、彼女はとても満足そうだったのをよく覚えている。
まあ、「坂柳やるな!(畏敬」じゃなくて「坂柳さん……頑張ったね!(ほっこり」的な視線だった気がしたが――たぶん気のせいだろう。
「まっ、別にいいか。クラスのことは任せておけば」
坂柳の動向には目を光らせる必要はあるが、現状俺が見た限りご主人にとっては一番いい状況を作れたのではないかと思っている。
俺もご主人も結局のところクラス間抗争に興味は無い。
いや、俺はやはり原作を読んでいたのもあって多少は興味があるのだが、ご主人が面倒なことより俺との時間が大事――ぬっこぬっこしたいというスタンスなのでそっちが優先だ。
俺もご主人との時間を天秤にかけたら労力を無理に割くほどではないな、と思うし。
現状の俺たちのスタンスとしてはAクラスで卒業できるならそれに越したこともないし、クラスポイントが増えれば毎月のお小遣いも増えるので協力するのは吝かではない。
ただ、あんま面倒に巻き込まれるのも嫌だし無理をしてやるほどではないなーって感じだ。
そのスタンスを守るために葛城に貸しを作ったわけで。
今のご主人の地位は葛城の配下というより、葛城個人に便宜を図っている外部協力者ポジというか何というか――影の実力者ポジ?
配下になるのは嫌がっていたからなー。
まあ、そんな感じのいいところに落ち着けてご主人は機嫌が良いのだ。
基本的な面倒なことは葛城に任せつつ、適度に有用性や協力姿勢アピールをしていればあとはフリーで問題ないだろう。
ここからが本番になるわけだが如何にご主人との楽しいスクールライフを維持するか……それが問題だ。ご主人のために頑張るぞー!