よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
「ホームズ、ちょっと今日は出掛けようか?」
「にゃん!」
それはご主人のそんな一言から始まった。
「にゃー、にゃー」
学校が休みの日曜日。
俺たちはとある場所へ向かっていた。
ご主人はあるものを買いに行きたいらしい。
基本的に休日は家でご主人とゴロゴロと過ごしている俺だったが、ご主人が買い物に行くというのならついていくのがペットの義務だ。
ご主人はわりとインドアだが俺はこうやってお出かけするのも嫌いじゃないし、それにこうやって並んでお散歩するのは楽しい――というか自慢というか、優越感じみたものを感じてしまう。
へへーん、どうだ! 俺はご主人のペットなんだぜー……的な?
自分でもちょっと前まで野良だったことが疑わしいほど野生を忘れているな……ご主人が大天使マスミエルなのが悪いよー!
「ふーん、ふーん♪」
俺がそんなことを考えながら歩いている中、並んで歩いているご主人の機嫌もいい。
本来なら中間テストが控えた時期なので学生としてはピリピリしてないといけないのだが、そこはそれAクラスは過去問の入手に成功しているのでストレスフリーというやつだ。
情報が漏れる可能性と勉強の意欲を削ぐことになるかもしれないということで、今のところは幹部メンバーのみで情報はストップしているので一般Aクラス生徒は知らないが……ご主人はもう貰っているからな。
とても気楽なのだ。
他の幹部メンバーは過去問をいち早く手に入れて中間テストが問題なくなったため、その分いろいろとやらされていたりするのだがご主人にはない。
これまでの功績の積み上げの結果というやつだ。
橋本あたりはこの機会にちょうどいいとばかりに他クラスの情報収集のため、坂柳に顎で使われているのでそれほど暇でもないのだろうが……。
「おや、真澄さん?」
「坂柳? 奇遇ね」
そんな風に坂柳のことを考えたのがいけなかったのか――
「そして、ホームズ……休日にあなたの顔を見ることになるとは」
「にゃー」
「「それはこっちのセリフだ」と言わんばかりの鳴き方はやめてください」
こいつ、ちょくちょくこっちの内心を当ててくるんだけど。……さすがは天才(笑)だ!
「くっ、どことなく馬鹿にされている気がします!」
「いつもホームズと遊んでくれて、ありがとう坂柳」
「遊んでやってなんかいませんからね! あれは躾です! この小生意気な猫に立場というものをわからせてやっているだけですのであしからず!」
「にゃ、にゃ、にゃ! にゃー!」
別に遊んでいるわけじゃないんだぜご主人! カリスマパワーを適度に抜いてやっているだけで……強いて言えば坂柳で遊んでやっているならわかるけども!
「うんうん、わかってるわかってる」
「わかってない!」
「にゃー!」
どうにもご主人は俺と坂柳の諍いの光景を楽しんでいる節がある。
実は原作と違って美術部には入部していないご主人だが、絵を描くこと自体は得意で時々スケッチブックに絵を描くことがある。
大抵の場合、それはペットである俺なのだがなぜかデフォルメされたウサギ耳の坂柳と俺が一緒に描いてあったりもする。
ご主人の目には俺と坂柳との戦いがどんな風に見えているのだろうか。――まあ、ご主人が楽しそうならいいですけどね!
「くっ、というかなんで頭の上に乗るんですか。帽子がズレちゃうじゃないですか……」
「にゃー」
だって、何か悪いことをしないか見張らないと……。
「何やら偏見に歪んだ考えを感じますね……」
「ほら、ホームズ。こっちに来なさい。乗せたままだと坂柳の貧弱さだと潰れちゃうし」
「いくら私でもそれぐらいで――ふぎゃ!? こ、この……足蹴にして跳ばないでください! 普通に降りてから向かえばいいでしょう!」
「にゃー!」
「「にゃー!」じゃない!」
ご主人がおいでおいでしたんだぞ! 腕を広げて抱っこしてくれるポーズを取ったんだぞ! そりゃ、速攻でジャンプして向かうしかないじゃないか! これだから坂柳は……!
「くっ……! 相変わらず、私に対する舐めた態度を……見ていてください。いつかぎゃふんと言わせて上げますからね、ホームズ」
「にゃふん」
「こんのっ――」
―――
「へえ、タブレット端末を?」
「はい。どうせならグレードの高い端末が欲しいなと見に来たんです。購入はまだするつもりはないのですけど……真澄さんは?」
「私はデジカメ。スマホでもいいんだけどもうちょっと凝りたくなったというか」
「凝りたく? ああ、いえ……その対象はわかりましたので結構です」
外で偶然であった坂柳と俺たちはともに目的地であるケヤキモール家電量販店へと訪れていた。
目的地が同じだったということもあるが、ご主人と坂柳はそれなりに仲がいいので一緒にという流れになったからだ。
原作と違って弱みを握る、握られるの関係にならなかった二人の関係はそれなりに良好だ。
俺が適度にカリスマブレイクしているせいでいい感じのマスコット坂柳になっているのも大きいのだと考えている。
ドSかつマウンティングの女王要素さえなければ、坂柳はただの頭がいい病弱美少女ロリでしかないからな……。
クールだけど基本的には優しいご主人にとっては嫌う要素はほぼないし、坂柳側からするとご主人は多少猫《俺》への愛が強いだけの有能な生徒だ。
特に相性が悪いということはないのだろう。
俺としては少々複雑な気持ちではあるが、弱み握って逆らえなくして関係を結ぶみたいな真似をせず普通に友好を育むのであれば口を挟む話ではない。
まあ、それはそれとして適度にカリスマブレイクはするのだが――世界平和のために。
閑話休題。
そんなこんなで俺とご主人、そして坂柳の三人でケヤキモール家電量販店の内部を見て回ったのだが……。
「あ、あの……やめてください」
不意にそんな声が聞こえてきた。
声の方に目を向けるとそこには眼鏡をかけた女子生徒と男の店員がなにやら揉めていた。
というかあれって佐倉愛里じゃないか? それにあれってもしかしてストーカー野郎? なんで今の時期に……ああ、いや、別に諸々が発覚したのが須藤の暴行事件のころだっただけでストーカー被害自体はその前からあったんだっけ? なら、別におかしくはないのか?
何か用があってこの店に訪れたところ、あのストーカー店員に絡まれたといったところか。
咄嗟に周囲を見渡すも他の店員はその場にいないようで止める存在がいない、その店員はしつこく佐倉へと言い寄っていた。
彼女はそれに困惑してなんとか断ろうとしているが生来の気質の弱さから上手くいっていないようだ。
やれやれ、こんな場面に出くわすことになるなんてな。ここは男ホームズ動くとするか。女の子が泣いている場面、見過ごしたとあってはご主人のペットの名折れ――ってご主人!?
「……あんな店員がいるなんて――って真澄さん?」
俺が動くよりも早く、つかつかと歩き出したご主人は佐倉と店員の男の間に割り込むとバンッと机を叩いた。
「見苦しいからやめなさい。嫌がっているでしょう」
「な、なんだお前! か、関係ないだろう! それにこれはただのお客様と店員のやり取りで……」
「私はこの子の友達よ」
「えっ」
「それに明らかに個人情報を聞きだそうとしていたでしょ」
「だから、ただの接客。業務に必要なことで」
「そっ、何も問題ない行為だったというのなら報告しても構わないのよね?」
そういってチラリっと神室がアイコンタクトを送るとそれを受けた坂柳が如何にも「今のやり取りを録画をしていました」といった雰囲気でスマホを見せつけた。
「えっ、あっ、いや……そ、そんなの信じるはずが――」
「坂柳は理事長の娘よ」
「理事長の……娘?」
「はい。とはいえ私自身はただの学生の身、あまり親の立場がどうと笠に着るつもりはありませんが……あまり好ましくない振る舞いをする人物が働いているかもしれない、となると話は別です」
一瞬で顔色を悪くした店員の様子にドSの部分が満たされていくのか、坂柳の顔はとてもいい笑顔だ。
非常につやつやしていてマニアにはたまらない目つきになっている。
「ええ、あなたが自身の振る舞いにたいして何も問題ないと思っているのなら気にすることはないでしょう? では、ごきげんよう」
そう言い捨てたあと、状況に困惑をしている佐倉を連れて俺たちはその場をあとにしたのだった。
―――
「あ、あの今日はありがとうございました!」
「気にしないで。ああいった手合いが気に入らなかっただけよ。勝手にやっただけだから」
「そんなこと……本当にありがとうございました。それから坂柳さんも」
「いえいえ、助けになれたようで幸いです」
俺たちはあの場から離れたあと、自己紹介をして友好を深めた。
ご主人は助けたあとはさっさとわかれようとしたのたが、佐倉がどうしてもと話しかけてきたのだ。
佐倉というキャラを知っているならちょっと驚く積極性だったが、彼女の目に浮かぶ憧れの眼差しに俺は深い同意を示した。
だって、あの時のご主人かっこよかったもんな! ピシャリッと相手の男を黙らせる強さ、あんなの乙女心が疼いちゃうよ……。可愛くて綺麗で格好いいとかうちのご主人様、最強で無敵じゃん。やはり女神……っ!
そんなこんなで交友を深め、ご主人の目的がデジカメを購入することだったと知ると佐倉はそのお手伝いをしたいと言いだした。
ご主人としてもデジカメは買いたいけどそこまで詳しくはない、という状態だったためいろいろとアドバイスを受けることになったのだ。
例の店員がいるかもしれないと言うことで、今日の購入はやめることにしたがとても有意義な時間ではあった。
そのあとは三人揃って街をぶらついて遊んだ。
美少女が三人、遊んでいる光景というのは実にいい物だ。
この光景は絵画にして残したい気持ちだ。
俺はそれを邪魔しないように眺めつつ、
「仲良くなり、ゆくゆくはDクラスのスパイに――あいた! 何をするんです、ホームズ!」
「にゃー」
邪心を巡らせようとするロリを猫パンチで叩く作業に専念。
そんなこんなで過ごしているといつの間に夕方になっていた。
そして――
「み、見つけた! 見つけたぞ……雫ぅ!!」
さあ、別れて寮に帰ろうとした矢先のことだった。
「それにお前たちもだ! よくもよくも……お前たちのせいで人生むちゃくちゃだ!」
「……なに言ってるのコイツ?」
「もしかしてもう処罰が下ったんでしょうか?」
どういうことだ坂柳ィ!!
「いえ、あの後一応坂柳の名前でクレームをあの店を送っていたんですよ。坂柳の名前で送っておけば店側としても真面目に調べて対処してくれるかなと思いまして」
「もしかしてもうその処罰が? いくら何でも早すぎない?」
「余罪がありそうな方ですからね」
ひそひそとやり取りをする二人の言葉に男は震えた。
恐らくは図星だったんだろう。
「うるさいうるさいうるさい! お前たちのせいだ! お前たちが雫との愛を引き裂こうとするから! この売女め!」
あっ!? てめぇ、今――ご主人に向かってなんて言った……?
「こうなったらお前たちにもそれ相応の報いというものを受けてもらう! お前たちが悪いんだからな!」
そういって男が取りだしたのはナイフだ。
果物ナイフほどの大きさだがただの女子生徒でしかないご主人たち相手には十分すぎる威嚇の効果がある。
「ひっ!」
「っ!」
「………」
咄嗟に周囲を見渡すも運が悪いことに人影がなく、佐倉とご主人は男が取りだしたナイフをみて身を強ばらせた。
坂柳だけはなにやらこっそりとスマホを弄っていたが恐らくは間に合わない。
身を強ばらせたご主人たちを見て悦に入ったような笑みを男は浮かべた。
「まずはお前からだ。俺を……馬鹿にしやがって!」
そう言って男が向かったのは――坂柳だ。
よほど坂柳に苛ついていたのか。
あるいは一番小さく、また杖をついていて弱そうだから狙い目だと思ったのか。
「坂柳っ!」
「坂柳さんっ!」
どちらにしろ運動の苦手な坂柳ではどうあってもその凶刃から逃れる術はない。
って、させるかぁっ!!
だが、そんなことを見過ごす俺ではない。
猟犬の如く、俺は男の腕に飛びついて噛みついた。
「ぎゃっ!? こ、この離せっ! 猫の分際で――」
甘っちょろいんだよぉ! 自分より弱そうな女子供相手に刃物まで取り出さなきゃ粋がれない分際で! 生まれも育ちも野生! 現ペットの俺相手に勝てると思うなよぉ!!
噛みつき、引っ掻き、引っ掻き、噛みつき、噛みつき、引っ掻き、引っ掻き。
「ホームズ!」
「ふしゃー!!」
さすがに大きさが違うので何度か振りほどかれてしまうが、すぐに体勢を立て直して攻撃を仕掛ける。
野生の戦いはどちらが相手の戦意を先に折るかが大事なのだ。
ストーカー男相手に戦意で負けたとあってはご主人のペットの名折れよ、野犬と戦ったときに比べればこの程度の相手どうってことないぜ! つーか、そもそもナイフ片手にご主人を怖がらせた時点でギルティ! だから、ご主人そこで見ていてください! こんな相手、俺がやっつけて――ご主人?!
「ホームズに――」
俺を振りほどくのに夢中になっている男の背後にご主人がつかつかと歩み寄る。
そして――
「何をするのよ!!」
ぐしゃ。
ご主人が放った蹴りは正確に男のアレに叩き込まれ……男は泡を吹いて地面へと倒れ込んだのだった。
「ふんっ」