転生美少女、胃痛で死にそうです 作:匿名希望
「──
最後の言葉が、世界を終わらせる引き金だった。
まず、光が来た。
腕を噛み砕く狼の顎も、その内部に突き立てた剣の柄も、そして俺自身の肉体さえも、全てが等しく純白に漂白されていく。視覚はとうに機能を失い、ただ、世界そのものが光の奔流と化したのを、魂で感じていた。
次に、衝撃が来た。
狼の絶叫が聞こえた気がした。骨が、肉が、そしておそらくは魂そのものが根元から砕け散っていく、絶対的な破壊の感触。それは、腕を通して伝わってくる、紛れもない勝利の手応えだった。
(やった……のか……?)
だが、その安堵が思考を形作るよりも早く、全く同じ破壊の奔流が、俺自身の体を内側から駆け巡った。
「ぎっ、あ……ぁ……ッ!?」
狼を砕くための雷が、その発生源である俺の腕を、肩を、そして全身の魔力回路を、敵味方の区別なく焼き尽くしていく。熱い。痛い。違う、そんな生易しい感覚ではない。存在そのものが、自らが放った力によって消し去られていくような、根源的な恐怖。
勝利と、自壊。
その二つの、矛盾した感覚の嵐の中で、俺の意識は、ぷつりと糸が切れるように途絶えた。
暗闇に落ちる、その寸前。
遠くで、誰かが俺の名前を呼んだような気がした。
◇
目を開いた時、一番に視界へ飛び込んできたのは見知らぬ天井だった。
(知らない天井だ……なんて、実際に思う日が来るとはな……)
どうやらベッドで眠っていたらしい。周囲は白いカーテンで仕切られており、それ以上の様子を窺い知ることはできない。
(ここは、どこかの医務室か?あの後どうなったんだ?)
覚えているのは、相討ちになるような形で狼を倒したところまで。
状況から考えるなら、誰か──おそらくシャルル──が俺を拾って治療してくれた、という感じなのだろうけど……。
とにかく、横になったままでは何もわからない。せめて体を起こそうとしたその時──。
「ッ!!!」
全身──特に右腕──を刺すような激しい痛みが襲った。
思わず、声にならない叫びをあげる。
そうして痛みに耐えながら横になっていると、声に気づいたのかカーテンが開かれた。
そこにいたのは。
「教……官?」
「目が覚めたか、ヴォーティブルク」
アルド教官だった。いや、何故?俺はてっきりシャルルやフィーネ辺りかと思っていたのだが……。
「そのままでいい、話だけ聞いていたまえ」
俺の混乱をよそに、教官は話を始める。
「リエル村の演習にて起きたことは、
どうやら、シャルル達は無事らしい。ということは、村も恐らく無事なのだろう。
「次に、傷の具合だが」
「……」
「右腕は粉砕骨折及び著しい裂傷、腹部の傷は貫通している。他、全身に夥しい裂傷と、後は魔導回路の損傷か。幸いにして後遺症のようなものはないが、回路の損傷が激しい。外傷については教会の
最後の一撃は、自分で思っていた以上に諸刃の剣だったらしい。
魔力の逆流も厭わずゼロ距離で大技をぶちかましたのだから、当然と言えば当然だが。
「最後に、君の違反行為についてだが──」
ぴくり、と体が動いた気がした。
違反行為と言うのは、言うまでもなく撤退せずに戦ったことだろう。
「結論から言おう。君の行動は、多くの点で、今回の演習で定められていた交戦規程を逸脱していた。だが、それによって君が「災厄の芽」を打倒し、それに連なる者がいるという極めて重要な情報を入手したということも、事実だ」
淡々と、それでいてどこか熱のこもった言葉が続く。
「
言うべきことは全て言ったと言わんばかりに、教官はこの場を立ち去った。
残されたのは、一人ベッドに横たわる俺だけだ。
一人で静かな場所にいると、嫌でも考え事をしてしまう。今回も、その例に漏れなかった。
(今回は、何とか倒すことができた。でも、代わりに俺はボロボロだ。芽を相手にこの体たらくで「災厄」そのものをどうこうなんてできるわけがない)
自惚れがあった。自分は間違いなく強いのだという思い上がりが。
その結果が、これだ。
("求められるものは常に結果"。その通りだ。俺は結果を出さなければならない)
そのためには、もっと強くならなければならない。今のままでは──。
と、そこまで考えていた時。再び、白いカーテンが開かれた。
「やあ、ウルティス。教官から目が覚めたと聞いてね、様子を見に来たんだ」
「シャルル、ですか。無事でよかったです」
「それはこっちのセリフだよ。お腹に穴を開けて倒れる君を見た時は心臓が止まるかと思ったくらいだ」
「他の皆は?」
「そろそろ来るはず……いや、もう来てるみたいだね」
その言葉よりも早く、複数の足音が聞こえた。
次いで、人影が部屋に入ってくる。
「ウルティスさん!目が覚めたんですね!」
「ローレライ、うるさいぞ!ここは病室だ、もっと静かに──」
「ヴァルター、うるさいのはあなたもよ」
「な……ファーレンハイト。お前、助けたのは誰だと思ってる」
「ヴォーティブルクよ。あなたは運んだだけでしょう」
「お前……!あれほど早く報告が上げられたのだって僕がいたから──」
一瞬で室内が騒がしくなる。
フィーネが涙ぐみながら口を開いた。
「目を覚まして本当によかったですよ~……三日も眠ってたんです、ウルティスさん」
「三日も……」
思った以上にダメージが大きかったらしい。
考え込んでいると、エルノが何やら神妙な顔をして前に出てくる。
「ウルティス……班長。今回は、本当にすまなかった」
言うや否や、頭を下げてくる。
……何のことだ?
「ええ、と。まずは頭を上げてください。それと、謝罪は必要ありません。アレは誰の責任でもありませんよ」
「分散策を提案したのは俺だ。それなのに、成す術もなくやられ、結果として戦力を削ったのも俺だ。責任は俺にある」
「あのね、エルノ。それはもう話したでしょう。それを言うなら一緒にやられた私にだって責任はあるし、作戦を許可したシャルルとヴォーティブルクにも責任がある。一人で全ての責任を被ろうなんて言うのは傲慢よ」
「だが……」
「エルノ、リリーの言う通りです。あの場ではあれが最善でした、誰が悪いというわけではありません」
どうやら、俺が眠っている間に既にひと悶着はあったらしい。エルノらしいと言えばらしいが、あまり責任を背負い込んでほしくはない。
「ただの「芽」ではなく、既にある程度成長していて、更にそれを操る人物がいる、なんてことは誰も想像できないでしょう。むしろ、分散せずにいたら見つけることすらできなかったかもしれません。全ては結果論でしかありませんよ」
それに──と言葉を続ける。
「強いて責任があるとすれば、それは私でしょう。あの演習での指揮権は私にありました。私自身の傷については……言うまでもありませんね、私が弱かった、ただそれだけです」
「ああ、もう、どいつもこいつも……シャルル、
「あはは……」
「笑い事じゃないわよ」
「そんなことより!」
暗い空気になりかけていた病室に、フィーネの声が響く。
「そんなことより、今はみんなが無事で、ウルティスさんが目を覚ましたことを喜ぶべきです!」
「そんなことって……いいえ、うん。その通りね」
「そもそも、ヴォーティブルクは重傷だ。そんなことを話す場面ではないだろうに」
「ヴァルター、あなたも黙ってなさい」
「三度目だぞ、ファーレンハイト……!」
リリーとヴァルターが軽い口論を始める。
シャルルは、そんな二人を見て少し呆れたように笑うと、すぐに仲裁に入った。
エルノも、一応は納得してくれたみたいでそんな三人の様子を見て薄く笑っていた。
「ヴァルター、君が言ったんだろう、ウルティスが重傷だって。なのに口論なんてしてどうするんだい」
「それは……そうだが」
「リリーも、ヴァルターの反応がいいのはわかるけど、ほどほどにね」
「はいはい、わかってるわ」
なんてことのない日常。束の間の平穏。誰かの笑顔。俺が守らなくては
(そうだ、そのためにも、俺はもっと強く
「そうだ、ウルティスさん。治療が終わったら、皆でどこかに遊びに行きませんか?少しくらい、息抜きも必要だと思うんです!」
「そうですね……それも、いいかもしれません」
皆と話しながら、決意を新たにする。
そうだ。もっと。もっと、強く。
でなければ。
一章時点でのキャラクター設定が
-
欲しい
-
どちらかと言えば欲しい
-
どちらでもよい
-
どちらかと言えばいらない
-
いらない