ダンジョンショップ~趣味でダンジョンの中で出店を出していたらいつの間にか迷宮七不思議に数えられてました。配信者達を利用してお店の宣伝をしまくろう~   作:四季 訪

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第四話 上級探索者

 「話には聞いてはいたが、こりゃ、どうなってんだ」

 

 現れた男が店内を見渡して、訝し気にしている。

 

 「いらっしゃいませ」

 

 マスターが柔らかい声で男の入店を迎える。

 

 しかし、小雛にはその声が少し硬い様に感じた。

 

 「お、可愛い(ねぇ)ちゃんもいるじゃねぇか。こりゃラッキーだな」

 

 小雛はその軽薄な男の顔に見覚えがあった。

 

 「簾藤(れんどう) 安富(やすとみ)!?」

 

 「おっ、俺の事知ってんのか」

 

 「だって上級、探索者……」

 

 ────上級探索者!?

 

 ────げ、簾藤じゃん

 

 ────なんでよりにもよって簾藤なんだよ

 

 ────誰?

 

 ────女好きで悪名高い奴。つまり俺らの敵

 

 ────いやぁぁああ逃げてひなっちぃぃぃい!!

 

 男の登場に阿鼻叫喚となるコメント欄。

 

 それほどまでにこの男の名は悪名として知れ渡っていた。

 

 「そんなビビんなよ姉ちゃん。どうよ、俺とID交換しないか?」

 

 慣れた様子でナンパを始める男に、コメント欄の荒れ具合が加速する。

 

 「あ、あのそういうのはちょっと……」

 

 「そう言うなって。上級探索者とコネが作れるってのはそうそう願えることじゃないぜ」

 

 嫌がる小雛に近づいて、遠慮なく肩を抱く。

 

 ────ぎゃぁぁぁぁあああああ!!

 

 ────殺せぇえぇえぇぇぇええ!!

 

 ────死ね!

 

 ────こいつ手慣れすぎだろ

 

 小雛の視界の半分が真っ白に染まるほどに、コメントの流れが激しくなる。

 

 自分よりも明らかに格上で、力も権力も大きな簾藤に上手く拒絶を示すことが出来ずに、困り果てる小雛。

 

 その様子に見かねたマスターが助け船を出した。

 

 「お客様、当店での他のお客様へのご迷惑になるような声かけはお控え願います」

 

 「あ?なんでそんなことお前に言われなきゃいけないんだよ。これは当事者同士の話だろうが」

 

 イラついた簾藤がマスターに対して圧を掛ける。

 

 しかし上級探索者の威圧もなんのその。

 

 マスターの態度に怯みは感じられない。

 

 ただただ、じっと簾藤を見つめるのみだ。

 

 「……なんでひょっとこなんだよ」

 

 気の抜ける仮面に毒気を抜かれた簾藤が小雛から手を放して一歩離れる。

 

 それにコメント欄もやや落ち着くが、未だ鼻息は少し荒い。

 

 小雛は心の中でマスターに感謝を伝えて、胸を撫でおろす。

 

 「まぁ、いいわ。おい、なんか商品見せろよ。俺様が買ってやるよ」

 

 尊大な態度でマスターに要求。

 

 「どのような商品をお求めでしょう」

 

 「とりあえず、武器を見せろ。俺の武器は大剣だ」

 

 簾藤は背中の大得物に親指を立てて指し示した。

 

 「なるほど。かしこまりました」

 

 マスターは先ほどのように空間に手を突っ込み少しまさぐると、身体を逸らしながら、身の丈ほどの武器を異空間から取り出した。

 

 「サイクロプスの妖眼視神経を刀身に張り巡らせた、対非生物、対高魔力濃度生物用の魔剣でございます」

 

 中肉中背のマスターよりもやや背丈のある大業物。

 

 肉厚な刀身の表面を、血管のように赤く光る線が幾重にも走っているその姿はあまりにも禍々しい。

 

 「う、わぁ」

 

 その魔剣の名に相応しい様相に飲まれた小雛が、思わず息を漏らす。

 

 「へ、こりゃ、いきなりとんでもないものが出てきやがった……」

 

 自分の今の得物と見比べて、その差に溜息が漏れそうになる。

 

 「いくらだ」

 

 即決する簾藤。

 

 「はじめましてのお客様ですので、勉強させていただき、一万Dで如何でしょう」

 

 「一万D?なんだその単位」

 

 「当店でお取り扱い頂ける貨幣のようなものです」

 

 「そんなの持ってねぇぞ。おちょくってんのか?」

 

 聞いたこともない通貨単位に険を立てる簾藤。

 

 小雛もそれなりに探索者をやっているがそんな通貨など聞いたことがなかった。

 

 コメント欄も同じようで、???が流れ続けている。

 

 「こちらは少々特殊な通貨となっておりまして、手持ちに無くとも、探索者の方なら皆さま必ずお持ちの物ですよ」

 

 「なんだ、そりゃ」

 

 早く教えろと言外に込める。

 

 「経験値です」

 

 「は?」

 

 「皆さま、ダンジョンの中の魔物を倒して、その魔力を、塵を体の中に貯め込んでご自身の中の魔力の種を大きくすることによって成長を果たしますでしょう?私はその体内に吸収された魔力、魔物の塵を取引の材料とさせて頂いております。故にD(ダスト)、そう私は呼んでおります」

 

 「それを支払ったら弱くなるってことか?」

 

 簾藤は警戒心を高めた。

 

 「その通りでございます」

 

 「そりゃ、お前、どう考えても俺達との盟約違……」

 

 「何か問題が?」

 

 簾藤の文句を何食わぬ顔で封殺するマスター。

 

 どこか圧すらも感じるその雰囲気に、小雛は今日初めてマスターに対して怯えのようなものを感じた。

 

 しかし、一時的に弱くなろうが、その魔剣がそれ以上の恩恵を齎すことは容易に想像ができる簾藤は顎に手を当てて考え込む。

 

 「それで、その一万Dってのを支払うと俺はどれくらい弱くなる」

 

 「ふむ、そうですね。少々失礼」

 

 そして指でカメラの形を作ったマスターがずいっと簾藤に顔を近づけた。

 

 簾藤の口にひょっとこの口が触れるが、マスター本人は気付いていない。

 

 簾藤が嫌な顔をした。

 

 「ふむふむ、あらあらあら」

 

 「わゃんだよ(なんだよ)

 

 ひょっとこの口が邪魔そうだ。

 

 「申し訳ございません。どうやらお客様の残高が足りないようです」

 

 「は?なんだと。経験値が足りないってか!?俺は上級探索者だぞ!」

 

 簾藤はお前は弱いと言われたような気がして声を荒げた。

 

 「いえ、そういうわけではございません。種に完全に同化してしまった塵はお支払いにはご利用できませんので、余剰分の塵が足りないという事です」

 

 「ふん、そういう事か……」

 

 回答に満足したのか態度を和らげる。

 

 「悪いが、少し手に取って感触を確かめたいんだが、いいよな?」

 

 「えぇ、別に構いませんが……」

 

 そう言って魔剣を簾藤へと手渡すマスター。

 

 「へへっ、触ってみなきゃ良し悪しなんてわかんねーからな。良いもんだって分かれば頑張って稼げるってもんだ」

 

 手に持って感触を確かめる簾藤の表情がみるみる内に真剣な顔つきへと変わる。

 

 その様子に、小雛もごくりと生唾を飲んだ。

 

 「こりゃ、想像以上だな……」

 

 簾藤が一歩、二歩と下がり魔剣と振る。

 

 「ははっこりゃすげぇ!!こんなの持ってる奴なんて見た事ねぇぜ!!」

 

 「喜んで頂けたようでこちらとしても嬉しい限りです。ですがお客様、そろそろ……」

 

 「あぁ、そうだな……だけどよ」

 

 簾藤がその魔剣の切っ先をマスターへと突き付けた。

 

 「用心がなっちゃいねぇな店主。簡単に手渡すなんてよ。こいつはもう俺のもんだ」

 

 「ひっ!」

 

 上級探索者の放つ武威に、小雛が身を縮こませて怯えた。

 

 魔物に囲まれた時でさえ、ここまでの危機感を覚えたことはなかった。

 

 それほどに目の前の男の力の波動は常軌を逸していた。

 

 しかし、小雛はそれ以上に冷たい冷気のようなものを背中に感じて、振り向いた。

 

 「あ゛?」

 

 ひょっとこの額に亀裂を走らせるマスターがそこにいた。

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