ゆかりんとCMDRのEliteでDangerousな宇宙旅 作:ペンギン星雲
「おっ、これで点いたんじゃないか?」
知らない人の声が聞こえます。まぁ、私に知人はいませんが。
「あれ、点いたよな? おーい、聞こえてるかー?」
(推定)マスターがずっと目を閉じている私に疑問を持ったのか、起動しているのか確認してきます。当たり前ですが、生まれて初めてのマスターなんです。緊張してるんですよ。どきどきです。
ですが、ずっと目を閉じているわけにもいきません。そろそろしっかり(推定)マスターを確認しないと……。
……よしっ。
「こんにちは、マスター……?」
「こんにちは、初めましてだな」
意気込んで目を開けて確認した(推定)マスターは──お顔の見えない方でした。真っ黒なバイザーに赤色のフレームのヘルメットをかぶっています。
これでは(真)マスターかどうか分かりません。
「えっと……、お顔を見せていただいても……」
「あぁ、かぶったままだった」
そう言って(推定)マスターはヘルメットを外してくれます。マスターは赤い短髪が特徴の男性の方でした。(推定)マスターは(真)マスターだったようです。
「ありがとうございます。改めまして。こんにちは、マスター。結月ゆかりです」
「おう、こんにちは。俺はジャックだ。よろしくな」
ちょっとしたハプニングはありましたが、しっかり自己紹介できました。一安心です。
安心したとこで、マスターをしっかり見てみます。服は、灰色にオレンジのアクセントが入ったジャケットを着ています。丈夫そうです。ジャケットの中には、なにかのスーツ……でしょうか? ヘルメットと同じく赤いアクセントが入っているみたいです。
「あの、マスターのお仕事って何をなさっているんですか?」
「そんなかしこまらなくていいぞ。仕事は
「えっ」
このマスター
「えっと、あの、なんで私を購入したんですか?」
「え? 俺の仕事のサポートをしてもらおうと思ってな」
「ええっと、私はノーマルモデルですよ……?」
「……えっ」
マスターはすごい勢いで携帯端末を取り出して、どこかへと通信をし始めました。会話内容からしてマスターはオペレータークルーモデルを購入していたみたいです。
しばらくして確認ができたのか、大きなため息をついてがっくりとうなだれてしまいました。
「向こうのミスらしい……」
どうやら伝達にミスがあったみたいです。店頭で予約したのでしょうか?
そんなことより私はいきなりリコールの危機です……。
「どうするんですか……?」
「向こうからボディの引換券をもらったが……」
ああ……。私はどうやらもう一人の私と交換されてしまうようで──
「ま、いい。今はこのままで」
「い、いいんですか?」
「仕事のサポートってのはついでだ」
私は返品されないみたいです。でもついでって……。オペレーターとして私を購入したのではないんですか?
「面と向かって言うのは恥ずかしんだが……。ふとしたときに孤独を感じるんだ。アンドロイドを買えば気がまぎれるかなって思ってな」
「それで私を……」
私のマスターは寂しがり屋さんみたいです。私の仕事はどうやら仕事のサポートではなく、癒しを提供することだったんですね。ボイスロイドの本分です!
「マスターを癒せるよう頑張りますっ」
「おう。頼りにしてるぜ」
頑張ります。むんっ。
「それで、いきなりで悪いんだが一緒に飯はどうだ?」
「はい! 始めてのごはんです!」
「はは、そうだな」
早速ごはんに誘われました。今は17時頃なので夜ごはんですね!
「それで、どこに行くんですか?」
「ピザだ。肉をたっぷりと乗っけたのを食える場所があってな」
「えっ! それってとっても高いのでは……」
「俺はそこそこ稼いでるからな。それに今日はゆかりさんの歓迎会だ。遠慮するな」
「いいんですかっ……!」
えへへ。初めてのごはんです! 遠慮するなって言われちゃったので遠慮しません! お財布を破壊しちゃいますよ!!
──── ✦ ────
「おぉ……! これが宇宙船……!」
先ほどまでいた部屋は宇宙船の中だったみたいです。降りて見た宇宙船はとっても大きくて、角ばっていて四角い見た目をしていました。銀色の船体に
「そうだな。運巡丸だ。運ぶに巡るって書いて運巡」
「漢字……、日本語なんですね」
「そうだな。地球時代の日本文化が好きでよ」*2
日本繋がりで私を購入したのでしょうか? 私のルーツも地球の日本にありますし。
船を一通り眺めたあとは、船の後ろの方にあったエレベーターに向かいます。エレベーターで向かった先はコマンダーさん達向けのお店が並ぶ区画みたいです。*3周りのお店はノーマルモデルである私の
「そういえばお船のフードプリンターで良かったんじゃないですか?」
「フードプリンターでも良かったが、あそこの肉は動物肉を使ってるんだ」
「おぉ……! 贅沢ですね……!」
「ゆかりんの歓迎会だからな」
合成肉じゃなくて、動物肉だなんて……! 私の歓迎会が豪華です! えへへ、嬉しいですね!
そういえば私の呼び方が気づいたらゆかりんになってます。さっきまでさん付けだったのに……。
「マスター。私はゆかりさんですよ?」
「いや、ゆかりんって感じだ」
「むっ、いーえ。私はゆかりさんって感じです」
私は大人なゆかりさんのはずです! ゆかりんなんてそんな……かわいい感じ……えへへ。
「やっぱ、ゆかりんだな」
「むぅ。しょうがないので許してあげますよ。しょうがなくですよ!」
「にやけてるぞ」
そういうマスターだってにやにやしてるじゃないですか! という抗議は笑ってスルーされました……。
「それよりほら、着いたぞ」
「おぉー。ここが……!」
とてもいい匂いのするお店の前につきました。窓から店内を見てみると、そこそこ人がいます。これからもっと増えるんでしょうね。まだ空いているうちに来れて良かったです!
そんなこと考えていると、マスターはさっさとお店に入って行ってしまいました。待ってください置いてかないでくださいっ!
「いらっしゃい。ってあんたか。今日はアンドロイドが届くって話じゃなかったか?」
「それならもう来たさ。記念すべき最初の食事はここだな」
「ほぉ、そりゃ光栄なこった」
慌ててお店の中に入ると、マスターは店員さんと親しそうに話していました。店員さんは私に気づくと話しかけてきます。
「やぁ、いらっしゃい。最初のメシなんだってな」
「あ、はい! 楽しみです!」
「はは、そりゃ嬉しいね! うちのピザは宇宙一うまいから楽しんでくれな!」
空いてるとこ適当に座ってくれ、と店員さんが言ってマスターがそれを承諾して端っこのテーブルに着きました。席に着くとさっきとは違う店員さんが来てメニューを渡してくれます。
「へいかわいこちゃん。これメニューな」
「ありがとうございます!」
「元気だねぇ。俺元気な子大好きよ」
えへへ。私人気ものですね! えっへん!
「初対面で口説くんじゃない」
「へへわりぃ。かわいい子連れてこんなとこでいいのか?」
「こんなとこ言うな。ファストフードみたいな雰囲気してたけぇだろ」
「そりゃそうだ。いいもん出してんだからよ。いつも通り飲み物は後でいいか?」
「ああ。ピザと一緒に頼む」
「あいよ」
マスターはいつもここで食事をしているのでしょうか? とても親しげです。なんだかいいですね、こういう雰囲気。
店員さんが離れていくとマスターはメニューを開きました。私もメニューを見てみます。
「わぁ、いろんな種類がありますっ」
「値段は気にしなくていい。好きなやつを選びな」
「はいっ」
ベーコンやソーセージの他に鶏肉と牛肉、豚肉もあります。マスターは言ってませんでしたが魚介もありますね。いろいろあって迷います……。鶏さんもいいですし、豚さんも。……牛さんにしましょう。
「決まったか?」
「はい! 牛さんのピザにします!」
「じゃあ俺はチキンピザにするかな」
マスターは手を挙げてさっきの店員さんを呼びます。
「ビーフとチキン。あとはコーラを頼む。ゆかりんは飲み物どうする?」
「えっと、じゃあ私もコーラでお願いします」
「あいよー。サイズはどうする?」
「ピザはMで、コーラはLとM……でいいか?」
「はい!」
「じゃあそういうことでー。……シーフードはいらんのか?」
「俺は肉の方が好きなんだ」
「ふっ。食わず嫌いめ」
店員さんはジト目でマスターを見つめています。マスターは食わず嫌いがある人みたいです。ふふん。ここは大人な私が食べさせてあげないといけませんね! 決して私が食べたいわけではありません。マスターのために頼むんですよ!
離れていこうとする店員さんに話しかけます。
「すみません。やっぱりシュリンプピザもお願いします」
「おっ。かわいこちゃんは興味あるか」
「マスターのためですよ! 私が気になってるわけではありません!」
「へへ。そういうことにしておくよ」
そう言って店員さんは厨房に入っていきました。あれは絶対信じていない顔でした。むぅ。
マスターは微妙な顔をしてこちらを見てます。ふふん。
「マスター。一度食べてみたらおいしいかもしれませんよ!」
「いや、俺はシーフードが嫌いなわけじゃない。肉の方が好きなだけだ」
「ふふふ。なら一緒に食べましょうね!」
「…………ああ」
苦虫を噛み潰したような顔をしてますね。そんなに嫌なんでしょうか? うーん。……もしかして食べられない理由があったりするんでしょうか……?
「マスター……、ダメでしたか……?」
「……」
難しい顔をして黙ってしまいました……。何も言ってくれないってことはダメだったってことですか……? うぅ……。
「い、いや大丈夫だ。別に食えないわけじゃないんだ」
「ほんとですか……?」
「ほんとだ。…………だってな、見た目がな、虫だろう……」
「……え?」
なんか変なことを言い出しました。そんなわけないじゃないですか!
「そんなわけないじゃないですか! 虫さんよりもずっとおいしいですよ!」
「……そうか。うまいか」
「……まだ分かんないですけど」
まだ食べていないのにおいしいだなんて宣言しちゃいました。これで変な味だったら……。いえ、それだと大昔の人類は変な味の食べ物を好んで食べてたことになります。絶対あり得ませんよ! ……たぶん。
「いちゃいちゃしてんなぁ。今日来たんだよな?」
そう言いながら店員さんが来ました。ピザができたみたいです。
「いちゃいちゃだなんて……えへへ」
「ゆかりんがちょろいだけだ」
「ちょろくないですよ!」
失礼ですね! ちょろくは……ないですよ?
そんなやり取りしていると店員さんが笑いながらピザ一枚とコーラを置いてくれました。
「はい、これコーラとシュリンプね」
「おぉー! おいしそうです!」
「うまいぞ! なぜか外から来たやつはエビ食わねぇんだよ。うまいのに」
嘆かわしいと言いたげに店員さんが頭を振りながら言います。
マスターは……そっぽ向いてピザを視界に入れようとしません。絶対に食べないという意思を感じます。ふふふ、その程度でこの私は止められませんよ!
私はピザを一切れ持ってマスターの方へ向けます。
「マスター! あーん」
「……くっ」
「ピザであーんは斬新だな」
店員さんうるさいですよ。マスターは絶対このままじゃ食べませんから、私が食べさせないといけないでしょう!
「ほらかわいい彼女があーんしてくれてるぞ」
「そ、そうですよ! かの……。ほ、ほらこっち向いて下さい!」
「彼女じゃ……あー」
やっと観念したのかマスターが私の持っているピザを食べます。えへへ……なんだかいいですね。
「……」
「どうですか……?」
「まぁ……。うまいんじゃないか」
や、やったー! おいしいみたいです!
もう一度あーんをしようとしたら、マスターは私の持っていたピザを奪って自分で食べ始めてしまいました。
「そうだろ!? やっぱうまいんだよ。なぜ外のやつらは食べない……」
「お前、まだいたのか……」
今までのやり取りをずっと見ていた店員さんが厨房に戻っていきます。気付いたらマスターは二切れ目を食べてますし……。とりあえず私も食べてみましょう!
「いただきます。……んー!」
あつあつでチーズが伸びてます! えびさんもぷりぷりで、生地ももちもちしていておいしいです!
「マスター! おいひいでふね!」
「そうだな」
マスターは優しい顔でこちらを見てました。なんだか顔が熱くなってきました。マスターはそれに気づいたようでさらに優しい顔になっちゃいました。
「もむもむ」
「手は止まらんのな」
「んぅ。んぐ。ごく。……おいしいんですもん。しょうがないじゃないですか!」
「はは、そうか。それは良かった」
コーラも飲んでみましょう。液面がしゅわしゅわしてますね。
「最初は少しにしておけよ」
「大丈夫ですよ! ゆかりさんに任せてください! ……んっ!?」
けほっ。喉がぱちぱちします。マスターが今度は心配そうに見てますが大丈夫です! びっくりしただけですよ!
「んく。んく。けぷ」
「おぉ……すげえ。よく一気に半分も飲めたな」
「ぱちぱちしておいしいですから!」
「そういう問題か?」
「そういう問題です!」
もう二人でほとんどのピザを食べたころ、店員さんが二枚のピザを持ってきました。
「仲いいなぁお前ら。ほんとは前から居たんだろ?」
「もむもむ!」
「今日来たはずなんだがなぁ」
テーブルにピザを置けるようにするため、最後の一切れを食べていると店員さんがそんなことを言います。短い時間ですがマスターと打ち解けられたってことでしょうか? そうだと嬉しいです。
「お肉の方もおいしそうです!」
「腹の具合はどうだ? 食えそうか?」
「お財布を破壊します!」
「いや、そんなこと考えてたのかよ」
「その意気だ! おかわりもいいぞ!」
「お前も乗るな」
ふふふ、初めてのごはんなんです! いっぱい食べてやりますよ!
さぁ、牛肉さんのピザです。相変わらずあつあつでとろとろなチーズが伸びます。その上には一口サイズのお肉がたっぷり乗っていて、申し訳程度にピーマンが見えます。
これを……
「あむっ。んー!」
やっぱりおいしいです! お肉は柔らかくてジューシーで、噛むたびにお肉の味が口の中に広がります。
「かわいいねぇ」
「かわいいよな」
「もむ!?」
忙しいはずの店員さんがかわいいと言ってマスターも同意します。えへへ……。
「なぁ、俺が貰っていってもいいか?」
「だめだ。俺のだからな。自分で買え」
「買えねぇよぉー。あんたと違って俺は一般人ですぅー」
店員さんは、お代わりの時は呼んでくれと言って、空いたお皿を持って戻っていきました。
「ゆかりん、一切れもらっていいか?」
「あ、それなら交換しましょう!」
「ああ、そうだな。……はい」
マスターが自分の鶏肉さんのピザを私のお皿に乗せて、代わりに私の牛肉さんのピザを持ってそのまま食べ始めました。私もいただきましょう。
「んふー、これもおいひいでふ」
「うむ、鶏肉も牛肉もうまい」
マスターがくれた鶏肉さんもおいしいです。少し塩こしょうで味付けされていて、皮もぱりっとしています。ふへへ、交換するのいいですね。次の機会があればまたマスターと別のものを頼みましょうか。
「ふぅ、ごちそうさまでした。おいしかったですね!」
「そりゃよかった。連れて来た甲斐があったぜ」
むふー。お腹いっぱいです。少し食べきれるか途中から怪しくなりましたが、食べきれました。
「そういえばこれからの事を話してなかったな」
「これからですか?」
「ああ。仕事の話だな」
お仕事ですか。マスターは
「俺はまぁ、いろいろやってるんだが。とりあえず明日は荷物運びでもしようかと思う」
「運送屋さんですか?」
「そうだな。宇宙初心者のゆかりんの勉強にもちょうどいい」
荷物運びは一般的に知られている
「たくさん運んで大儲けってことですね!」
「うーん。まぁ、うん」
「なんですかその微妙な反応は」
ちょっと違ったみたいです。コマンダーさんは高給取りってイメージがあるのですが、大儲けできるわけではないんですね。
「まぁ、詳しいことは明日依頼を見繕ってからだな」
「あ、まだ仕事を引き受けてるわけではないんですね」
「基本的に当日受けて、当日中に済ませる感じだな」
今は大雑把に明日やることを伝えただけだったみたいです。しょうがないです。私は前提知識が全然ないので詳しいことを言われても、きっと理解できないです。
「分かりました! 明日いろいろ教えてくださいね!」
「おうよ。宇宙の素晴らしさを語ってやろう」
満面の笑みを浮かべて宣言してくれました。いっぱい質問して困らせますよ!
「そんじゃ帰って明日に備えますかね」
「そうですね。私は宇宙船も初心者なので、いろいろ教えてくださいね!」
「もちろんだ」
私たちは席を立って会計に向かいます。店内は入ったときよりも混んでいて、店員さんたちが忙しそうです。私たちの注文を取ってくれていた店員さんも忙しそうなので、手を振るだけにとどめます。そうすると軽く手を振り返してくれました。
「今日もうまかった。また来るぜ」
「おいしかったです! ごちそうさまでした!」
「おうよ! また二人で来てくれや。待ってるぜ!」
マスターが会計を済ませて、会計の店員さんと軽く会話をしてからお店を出ます。お値段は、結構高かったです……。マスターは平然としていましたが。
「服とか歯ブラシとか買ってから帰るか」
「分かりました。かわいい服買ってください!」
「少しだけだぞー」
えへへ。少しは買ってくれるみたいです。コマンダーさんの仕事ではあまり普通の服は着ないのでしょう。マスターも丈夫そうなパイロットらしい服装ですし。
「えへへ」
「どうした?」
「明日、楽しみですね!」
「……そうだな」
マスターが優しい顔で微笑んでくれます。えへへ。
EliteもDangerousもCMDRもしてませんがプロローグです。
エリデンの設定を知ってる方からすると感情をもつアンドロイドが一般販売されていることに違和感を感じるかもしれませんが、ボイスロイドを出す際のご都合ということでご容赦を……。
独自設定タグなど付けたほうがいいのでしょうか?
ハーメルン初心者なのでアドバイスを頂けるとありがたいです。
変更履歴
2025/05/11: 「ゆかりん」呼びの経緯を修正