「よし、シャンフロ始めますか!」
夏休み前の終業式を終え帰宅した遊仁は日課の型の練習、筋トレ、柔軟を終えシャワーで汗を流すと自室に戻りそう言って気合いを入れた。
夏休みに入るにあたって部活の助っ人の予約や道場に行く日などの予定が既に入っているがそれ以外の日はシャンフロに入り浸る予定になっている。
VRヘッドギアをつけた遊仁はベットの上で横になり早速シャンフロの世界へダイブした。
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「よし、ログイン完了!早速街をめぐってエリアボスを攻略しに行こうかね」
シャンフロにログインしたユウヒはベッドから飛び起きると早速外へ出た。既に向かう場所は決まっている。
「『特技剪定所』は何処かな〜」
そう呟き俺はファステイアの地図を開き場所を確認する。
「割と近いな。それじゃ行きますか」
地図で見た感じ割と近くにあり俺は足を進める。『特技剪定所』とはファステイアや各々の街に存在する習得したスキルを組み合わせることができる場所だ。スキルの合体だけでなくスキルの習得条件を調べたりスキルがどのくらいで進化、レベルアップするかを教えてくれたりする場所であり秘伝書や魔法習得のスクロールの販売なども行っている。
「いやー事前に調べるって大事だよな。学校で特技剪定所の存在を見つけた時は驚いたよ」
シャンフロのスキルはレベルが上がるスキルと進化するスキルがあり前者が合体可能なのだそうだ。最初は特殊クエスト『致命兎の試験』について調べていたのだが特技剪定所の記事を見つけて俺は「マジか」と思わず声に出してしまった。
「まぁ、ぶっちゃけそこで終業式が始まるってんで移動になったから特技剪定所以外は知らないんだけどね」
家に帰ってからも筋トレや型の練習、柔軟等があった為それ以外は調べていない。
「ま、今知らなくても知る機会は幾らでもあるから大丈夫でしょ」
そう言って足を進め俺は目的地に到着した。
「ここか…」
特技剪定所の全体を眺めそう呟くと俺は扉を開けて中に入った。
「おぉ、案外広いな。それに夏休みになったからかだな人も多い」
特技剪定所の中は広く人が沢山集まっていた。夏休みは俺もそうだがゲームを進める最高の期間だ。ある程度は予測していたが流石シャンフロかなりの数が集まっている。
「こりゃ素材回収の場所も混んでそうだな。早めに行くのが吉か?」
集まったプレイヤー達を見ながらそう呟き俺はカウンターへ足を進める。特技剪定所はスキルの合体が行える場所だが今の俺のスキルは合体できる状態じゃない。なら何故ここに来たのか?
それは
「すみません。魔法習得の為のスクロール下さい」
そう、魔法を習得する為だ。今まで俺がプレイしてきたゲームは主に格ゲーなのだがそれ故に魔法の要素はなく攻撃スキルが全般だった。だから、シャンフロでは魔法が使いたかった。バクの発生しない魔法が。
「はーい、ちょっと待っててね」
俺のセリフにNPCの女性店員さんはそう応えると7個のスクロールを用意してくれた。
「この中から選んでね」
「おう、ありがとう」
女性店員さんにそう応えて俺はスクロールを確認する。
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『エンチェント・ファイア』
効果:MPを消費し武器に炎を纏わせる。
詠唱:纏え、焔。我の武器(うつわ)に火の力を与えよ
1500マーニ
『エンチェント・ウィンド』
効果:MPを消費して武器に風を纏わせる
詠唱:纏え、風。我の武器(うつわ)に風の力を与えよ
1500マーニ
『マジック・アロー』
効果:MPを消費し魔力の矢を作り出す。
詠唱:集えよ力。我が的を射止めろ
1500マーニ
『ロー・グランド』
効果:MPを消費して効果範囲30mの中に落とし穴を作り出す。
詠唱:生み出せ奈落。我が敵を捕らえよ。
1500マーニ
『纏雷』
効果:MPを消費して雷を纏う。敏捷、筋力値が上昇。攻撃被弾時相手に麻痺の付与。重ねがけが可能(20回)
詠唱:纏い、轟け
3000マーニ
『纏炎』
効果:MPを消費して炎を纏う。筋力値が上昇。攻撃被弾時相手に火傷を付与。追加詠唱で威力の強化が可能(20回)
詠唱:纏い、燃え上がれ
3000マーニ
『穿水』
効果:MPを消費して水を飛ばす。追加詠唱で威力の強化が可能。『解放』の詠唱で発射。
詠唱:集い、貫け。
専用詠唱:解放
3000マーニ
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「おぉ、どれも強そうな魔法じゃん。シャンフロはMP値の高さで魔法の出力が変わってくるらしいからファステイアで習得した魔法が後半になって使い物にならなくなるって事は無いらしいし。どれを選ぶか迷うなぁ。追加詠唱とかが出来る魔法は高いな。でも、その分性能は良い」
現在、ユウヒが持つ全財産は3000マーニ。ここまで倒したモンスターが落としたドロップアイテムはゴブリンの手斧と致命の包丁であり。致命の包丁を売るという選択肢はなかったので売らずゴブリンの手斧はなんと2マーニであった為売れなかった。
「自分のスタイルとあった魔法を選ぶべきだよな……」
ユウヒのスタイルは武器を使うインファイター。杖の特性を利用し相手から有利を取り隙があれば武術も使う。ステータスはスタミナ、筋力、敏捷、器用、魔力の4つに振る事になるだろう。
「となるとコレだな」
自分のスタイルを加味した上で1番合っている魔法を選んだ。店員に金を払いスクロールを使う。早速、効果が現れ習得のウィンドウが開き魔法が使えるようになった事を教えてくれた。
「『纏雷』習得完了!!」
纏雷を習得した俺は特技剪定所を後にする。何故だか窓際にいるプレイヤーが笑ってたようだがこの時の俺は全く気にしていなかった。
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ファステイアを出発した俺は跳梁跋扈の森を走っていた。楽郎はこの先にいるエリアボスを初期ステータスのままで攻略したらしい。
「なら、俺もそうしなきゃなぁ!!」
レベル1から18までの間に溜まったSTポイントは使わずに取ってある。ステータスに消費するのはこの後でいい。
「いたな、エリアボス!!」
跳梁跋扈の森を抜け視界が開けるとファステイアとセカンディルを繋ぐ橋を塞ぐように居座る巨大な蛇がいた。
「へぇ…最初のエリアボスは蛇なのか」
楽郎が毒を喰らったという話しか聞かなかった俺は改めて対峙するエリアボスを観察する。
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エリアボス
貪食の大蛇
推奨レベル10
推奨人数3人
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「複数人推奨か、面白い……!!」
(蛇型モンスターの攻撃手段は『巻き付き、噛みつき、尾の薙ぎ、丸呑み、毒』ってところだ)
「思い通りに動き、攻撃が絶対当たるこのシャンフロで最初のエリアボスなんかに負けるかよっ!!」
杖を構えて飛び出す。スキル「アクセル」を発動しSTRとAGIに補正を入れ今出せる最大速度で貪食の大蛇に突っ込む。
そんな俺を捕食しようと貪食の大蛇は口を開けて身体を伸ばす。リアルの蛇と同じくバネのように伸びる身体は巨体に見合った速度を出し俺に襲いかかる。
「甘いな」
しかし、そんな貪食の大蛇に俺は身体を回して避けつつ杖を振るい顔を横からなぐりつけた。初期ステータス、伸びていない筋力。だと言うのに貪食の大蛇の顔は逸らされた地面に激突した。
「縦に進む力が強い程に横からの力には弱いもんだ」
杖による攻撃と地面への激突でダメージを負ったのか頭を振るう貪食の大蛇にそう言いながらも俺は「インパクトステップ」で距離を詰めると頭を振るう貪食の大蛇の頭に更に打撃を加えた。
クリティカルが発生し大蛇の頭がグラつく。
「蛇ってのは頭が弱点なんだ。触られるのを嫌がるしどんなに強い毒を持ってる種でも頭を抑えると動けなくなる」
頭が弱点。これはどの生物にも言えることだが蛇はこれが顕著な生物だ。昔、師匠と一緒に山に入った時も頭を抑えられた蛇は動けなくなっていた。
「お前もそうなんだろ。クリティカル出てるもんなぁ。頭がダメージを負えば、全身の筋肉を使った強力な攻撃も出来なくなるってワケだ!!スキル『三連撃』!!」
がら空きになった身体に杖で連撃を叩き込む。大蛇は身体を捩りながらも頭を俺の頭上に持っていき素早い動きで噛み付いてきた。
だが、見えていれば容易く避けられる。スキルを使うまでも無い。しかし、大蛇もそんな俺の動きに合わせて尾を横薙ぎに振るう。
「だから甘ぇんだよ」
しかし、俺は大蛇の攻撃をジャンプで交わした。
だが、俺はそこで見た。『身体をS字に曲げて口を軽く開く貪食の大蛇』を
「!!」
それは、蛇が相手に噛み付く時の発射体勢。全身が筋肉塊である蛇は身体を曲げてから余すところなく全身の筋肉を使い相手に飛びかかる。
(滞空している間に攻撃、エグイな!)
避けられない空中。俺は避けることを選択肢から除外して
攻撃を受けた
「シャアァァァァァァァァァァァァッ!!」
しかし、俺に口を開けて飛びかかった大蛇は俺を丸呑みにする事は出来なかった。それ所か口から血の代わりとなるポリゴンを出して声を上げている。
「今のは良かったぞ」
そして、そんな貪食の大蛇の口から出てきた俺は右手に持った致命の包丁を血を飛ばすように振りながらそう言った。
「お前みたいなデカブツの対処法はあのバカのクソゲーで嫌ってほど学んでんだ。口を開けて襲いかかってくるやつは"口を閉じないようにすればいい"んだよ」
そう、俺は大蛇が飛びかかって来た瞬間に杖を縦に構えストッパーにしたのだ。剣や他の武器よりも武器耐久値が高い杖はしっかりとその役目を果たしてくれた。
「そんでもって体内が柔いのは皆同じだよな」
そして、俺は開いた大蛇の上顎に装備した致命の包丁でスクーピアスを決めそのまま切り裂いた。
完全に俺を殺ったと思っていたであろう貪食の大蛇はまだ叫び声を上げている。
「今の作戦で傭兵の闘杖は壊れちまったからよ。お前を使わせてもらうぜ」
貪食の大蛇を仕留めるべくインベントリから『致命の闘杖』を取り出し装備した俺は杖を構えとっておきの手札を切る。
「『纏い、轟け』」
詠唱と共にMPが消費され身体と武器に雷が纏う。
(今の俺のMPだと使えるのはこれで最後。ここで決める!!)
STRとAGIが上がり俺は上がったAGIを遺憾無く発揮し貪食の大蛇に接近する。
「スキル『三連撃』!!」
既にリキャストタイムが終了した三連撃で攻撃を加えダメージを与える。魔法とスキルにより強化されたSTRは大蛇にクリティカルと共に大ダメージを与え大蛇を怯ませた。
「まだまだぁ!!」
怯む大蛇に更に打撃を加える。殴り続ける事でデバフが耐性を貫通したのか大蛇が身体を痺れさせている。しかし、打撃を止めるつもりは無い。
(このまま殴り倒す!!)
纏雷が解けSTRとAGIの補正が無くなる。だが、麻痺は健在。このまま行けば倒せる。そう思い殴り続けた。
しかし、その時俺は視界の端で尾が俺に向けられたのを捉えた。
「っ!!」
まずい、と思った。
「『乾坤一擲』!!」
そう思った瞬間にはスキルを発動させ致命の闘杖を投げつけていた。スタミナが全て消費され身体が動かなくなる。
俺が投げた致命の闘杖は貪食の大蛇が尾から飛ばした泥のようなモノを被ったがソレを突き破り尾に激突した。
そして、それが最後の一押しになったのか貪食の大蛇はポリゴンの塊になって消滅した。
「よっしゃあぁぁぁぁ!!毒を喰らわずに撃破!!これで賭けは俺の勝ちだぜ楽郎!!」
『乾坤一擲』の使用によるスタミナ切れで動けなくなりながらもそう叫んだ俺はインベントリからファステイアで買っておいた薬草を取り出し口に運んだ。
「餌を貰う虫の気分だ」
そんな事をボヤきながらスタミナを回復し起き上がった。当たりを見ると貪食の大蛇のドロップアイテムが落ちており手に取って確認する。
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『貪食の鱗』
『貪食の白髪』
『大蛇の眼球』
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「おぉ、鱗と白髪はともかく目玉はリアルすぎ……」
あまりにもリアルな眼球にドン引きしインベントリに突っ込んだ俺はセカンディルへと走り出した。
「そう言えば楽郎が何処で待ってるか聞いてないな…。セカンディルの何処にいるんだろ」
売り言葉に買い言葉であの日の会話は終了した為大事な事を聞いていなかったと思いつつ走る。
「ま、街中探せば見つかるでしょ」
考えても仕方ない。そう思い今は走り続けた。しばらく走ると立派は門が見えてきた。
「お、アレがそうか」
デカい門を中心に壁が続いておりもしかしなくともアレがセカンディルだとわかる。
「このまま中に入って楽郎を探すか………………………ん??」
そう呟き街の中へ走って入ろうとしていると門の壁に寄りかかる半裸の鳥頭を見つけた。
「マジか……」
その鳥頭をよく見ると頭上にプレイヤーネームである「サンラク」の文字が見えた。
そのプレイヤーネームを俺はよく知っいる。何故ならそのプレイヤーネームは俺の兄である陽務楽郎が使うプレイヤーネームだからだ。
「なんて格好してんだ。あの馬鹿は」
思わずそう言ってしまった俺を誰も責める事は出来ないだろう。