『ユニークモンスター』
『夜襲のリュカオーンに遭遇しました』
突如響いた轟音と大量の砂埃。それを起こした犯人と目が合いウィンドウが表示された。
「『夜襲のリュカオーン』……狗……いや、狼。そうか、お前がサンラクに呪いを刻んだユニークモンスターか!」
目の前に現れたウィンドウとサンラクから聞いた話しを総合しそう確信したユウヒは口角を上げる。
しかし
「俺も遭遇出来るとはね。光栄だよ。だがな……テメェ。何、人の獲物横取りしてんだよ!!」
ユウヒは笑みから一転、その表情を怒りに変えリュカオーンにそう言い放った。最後の一撃を当てれば完全撃破と言う状況でレッドキャップゴブリンを消されたのだ文句のひとつでも言いたくなる。
「グルルっ」
しかし、ユウヒのセリフを聞いたリュカオーンは小さく声を上げ口を歪めるだけで何もしてこない。だが、ユウヒはこの姿にカチンときた。
「何、笑ってんだクソ犬……。あんまり舐めてんじゃねぇぞ!!」
ゴングが鳴った
ユウヒが走り出したと同時にリュカオーンは前足を振り上げた。いや、"振り下ろし始めていた"。
(速い!)
シャングリラ・フロンティアを始めて数日。今まで戦ってきたどのモンスターよりも速い攻撃。ユウヒはその速さに驚きながらも前足を湖沼の翠杖でパリィした。
「このヤロウ!!」
パリィからの杖での横薙ぎ。ヴォーパルバニーやゴブリン共にも使った攻撃だが杖がリュカオーンに触れた時その手に伝わった感触はヴォーパルバニーやゴブリンとは全く違っていた。
「マシか…硬すぎんだろ……」
その手に伝わってきたのは肉ではなく鉄の感触。攻撃を弾き反撃に転じた。攻撃は当たったがダメージが入ったとは全く思えなかった。
(師匠に言われて鉄板ぶん殴った時と同じ感触だったぞ……。いや、あの時よりも硬い。毛の一本一本が鋼鉄で出来てると思った方が良いな)
サシでやり合うには最悪の情報だがユウヒは笑った。レベル20以下でユニークモンスターと遭遇。この最悪な状況にも関わらずユウヒの胸中に溢れたのは
『喜び』だった。
嬉しい。シャングリラ・フロンティアにはここまで強いモンスターがいる。その事実がユウヒを高揚させた。
「最高だ……シャングリラ・フロンティア!!」
そう呟きながらリュカオーンの攻撃を避ける。どの攻撃も予備動作は少なく発生も速い。だが、避ける事は出来る。
(斜め、縦、横、縦、横、斜め!!)
怒涛の勢いで前足を振るリュカオーンの攻撃を躱し攻撃で砕け飛んだ瓦礫を足場にリュカオーンに接近する。
当然その間もリュカオーンの攻撃は続くがユウヒはパリィと回避で攻撃をしのぎ続けた。
「なるほどな、前足での攻撃は基本的に3パターンか……随分と速いがこれだけじゃ簡単過ぎるよなぁっ、まだなんかあんだろ!?」
リュカオーンから一瞬距離を取りそう叫ぶ。ユウヒからの挑発とも取れるセリフにリュカオーンは口を歪めると再び前足での攻撃を始めた。
「くどいなっ」
しかし、ユウヒは攻撃を躱し弾き反撃に転じる。
ユウヒは現状パリィに関連するスキルを「ディフェンシブフット」しか所持していない。パリィからの回避行動に補正がかかるそのスキルはリキャストタイムが10秒であり使い勝手の良いスキルではあるが今回の戦闘においてユウヒはこのスキルを使用していない。
理由は、リュカオーン相手に変に距離を取りすぎると確実に殺られると感じたからであり。そして、それは当たっていた。距離を取り過ぎた場合、リュカオーンの突進を用いた攻撃がユウヒを襲う事になる。
シャングリラ・フロンティアの物理エンジンでリュカオーンが突進を用いた攻撃をした場合その威力は計り知れない事になっていた。だからこそ、前足が届く範囲内での攻防戦を選択したユウヒは瞬殺されずに済んでいるのだ。
「はははっ、ヤバいなお前!いくらなんでも硬すぎだ!!」
攻防戦の中、何度も攻撃を打ち込み幾度もクリティカルを出したが全くダメージが入っている気がしない。その事実にテンションを上げるユウヒは手に持つ湖沼の翠杖を見る。
「レッドキャップゴブリンとの戦闘からずっと使ってたからな武器耐久値が殆どなくなってる…。このままだと破壊されるな」
連戦に連戦を重ねた湖沼の翠杖は既に限界であり後、あと数回リュカオーンの攻撃をパリィすれば壊れる所まで来ていた。
「お前の出番だな」
ユウヒはそう呟くと湖沼の翠杖と致命の闘杖を交換し再びリュカオーンに攻撃を仕掛ける。リュカオーンは接近してくるユウヒに右前足を振り上げユウヒはそれをパリィする為に行動を起こした。
しかし
「何!?」
リュカオーンは右前足を上げるとその勢いを利用し"上半身全体"を上に上げた。
今までとは違う行動。2本の前足が宙に浮く。
攻撃が来るまで何時もより長い時間が流れたように感じた。しかし、それは間違いだとすぐに体感する。
ブンッ!!!!
リュカオーンは身体を持ち上げると2本の前足を"ほぼ同時"に振り下ろしてきた。
「!!!!」
ユウヒは目を見開き「アクセル」と「インパクトステップ」を発動させる。身体が下に落ちる勢いを利用した前足の同時攻撃を今出せる最大速度で躱す。
「はーはっはっはっ!!初見の攻撃だっが簡単に躱せたぜ!!大したことねぇなぁ!!」
(やっばかった!!!!「アクセル」と「インパクトステップ」なかったら死んでた!!!!)
リュカオーンの身体の下を走りながら内心冷や汗ダラダラでそう叫ぶ。だが、すぐに気持ちを切り替えるとユウヒはリュカオーンの腹に連撃を叩き込んだ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラっ!!」
腹は生物の弱点が集中する場所。攻撃の半分以上がクリティカルになった。
リュカオーンは死角からの攻撃にジャンプして距離を取ることで回避しすぐさまユウヒに突進してくる。
ユウヒは「タップステップ」で突進を回避し攻撃に転ずる。
リュカオーンもすぐに身体を翻しユウヒに攻撃を仕掛ける。ヒリヒリとした空気を感じながらユウヒはリュカオーンとの戦いを楽しんでいた。
避ける、弾く、攻撃をする。今出せる全力でリュカオーンを迎え撃つ。既に戦いが始まってから8分以上経過しておりクリティカルも大量に発生させていた。
「楽しいなぁ!!コレがシャングリラ・フロンティアか!!」
これだけ攻撃を当てても倒せる未来が思い浮かばない。何度目かも分からない事実に笑い叫ぶ。
しかし
「なんだっ身体が!?」
リュカオーンに攻撃を仕掛けようとした瞬間、ユウヒの身体が少し重くなった。
「マジか………」
何が起こったかわからず自分の状態を確認するとスタミナが殆ど無くなっていた。リュカオーンとの戦いが楽しすぎて忘れていた。
自分がレッドキャップゴブリンとの戦闘からの連戦だと言う事を1度認識したはずなのに忘れていた。
「あーそう言えばそうだった、なんで頭から抜けたかなぁ……いつの間にか纏雷も切れてるし…何時から切れてたっけ?覚えてねぇわ……」
普段なら絶対にやらないような致命的過ぎるミスを犯した。それ程までに、この戦いを楽しんでいた。
足を止めたユウヒにリュカオーンも足を止め此方の様子を伺っている。
「何してんだよ。お前モンスターだろ?来いよ!まだ終わってねぇぞ!!」
モンスターらしからぬ行動にユウヒがそう叫ぶとリュカオーンはまた口を歪めるとその口を開き襲いかかってきた。
「ソレでこそ」
ユウヒはリュカオーンにそう呟き重い身体を押して横に飛んで回避するが今までの動きより圧倒的に遅かった為右手と右足をあっさりと食いちぎられた。
身体からポリゴンが吹き出しHPがどんどん減っていく。
(最悪だ)
その光景を見ながら心の中でそう呟く。
「こんなに楽しく戦えたのは久しぶりだったのにな…こんな下らないミスで戦えなくなるなんて最悪の気分だよ」
悔しさと情けなさが胸中を支配する。しかし
「マジか……!?」
減少を続けていたHPが最後の1を残して止まったのだ。奇跡的な光景に思わず声が出る。
そして
「ラッキーだな…。こんな最後にはなったがお前に言っておきたい事があったんだよ」
ユウヒは自分を見つめるリュカオーンを指差しニヤリと笑ってそう言う。
「お前、相当知能が高いな。俺の言葉も解ってるし状況の判断も他のモンスターとは比べ物にならない。こんな最後になって申し訳なく思うよ。本当にすまない。だが、同時に嬉しく思う。この世界にお前のようなモンスターが居ることが俺は凄く嬉い。……お前は必ず俺が倒す!必ずだ!!たがら、それまで誰にも殺られるな『夜襲のリュカオーン』!!」
負け惜しみと言われればそれまでだがそう言わずにはいられなかったそれ程までにリュカオーンの戦いが楽しかったのだ。
理不尽すぎる相手だったがユウヒは完全にシャングリラ・フロンティアにハマった。
「アオォォォォォォォォォォォォォッ!!」
そんなユウヒのセリフにリュカオーンは遠吠えを上げる。
それはユウヒに対する応えだった。
ユウヒ自身は分からなかったがリュカオーンはユウヒを他の有象無象とは違うと認めた。だからこその遠吠え。
そして、遠吠えを終えたリュカオーンは再び口を開きユウヒを完全に噛み砕いた。
『リュカオーンの呪いが付与されました』
スタミナ気にせず戦い続けた挙句にあっさり殺されるのは実体験から引っ張りました。
アンケートへの投票ありがとうございます。沢山の方に回答頂きました。結果を鑑みて師匠についての紹介をタイミングを見て書こうと思います。