音を立てて崩壊する世界。響き渡る断末魔。目の前では巨大なモンスターが身体を崩壊させている。響き渡る断末魔は世界を震わせ俺はそれを見届けながらある一人の女性の言葉に耳を傾けていた。
「嗚呼っ、遂に邪神を倒したわ…!!貴方のおかげよ"ユウヒ"!ありがとう!!」
「あぁ、ずっと…ずっとこの時を待ってたよ…」
俺に精一杯の感謝を込めてそう言う彼女に崩れゆくモンスターを見ながらそう応える。
「思えば長く大変な旅だった…」
俺のセリフを聞いた彼女は祈る様に手を組みながら感慨深くそう言う。しかし、俺はそんな彼女のセリフを聞くのを止めると彼女に近づき
「お前もくたばれっ!!クソアマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
その顔面に上段蹴りを叩き込んだ。
「何が邪神だ!お前の方がよっぽど害悪だろうが!!」
右拳による殴打。
「今まで散々な目に合わせやがって!!」
右足の払いで体制を崩し左足の蹴り上げ。
「テメェのせいで人が死ぬしテメェのせいで話が進まねぇし!!俺はなぁ!バトルとバトルの間のストーリーが1番嫌いなんだよ!!!!!」
落ちてきた身体に踵落とし。
「オマケになんだこの巫山戯た格好は!?海パンに覆面とか舐めてんのか!?」
顔面の踏みつけ。
今までの恨みを込めながら殴る蹴るの暴行。しかし、許される。何故ならこれは『ゲーム』だから。
3分間ありとあらゆる暴行を行った後、全ての終わりを告げるエンディングを見終わった俺は
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!終わった、終わったぞ!!遂に!!!『フェアクソ』完全クリアだ!!!!!」
VR機器をベッドに投げつけそう叫んだ。
ディスプレイを使用するゲームがレトロと言われるようになって数年。フルダイブ型VRゲームが主流となり隆盛を極める中、僅かな大作の下に向上した映像技術に対しシステムが追いついていない混沌としたゲームが数多くリリースされている。いわゆる『クソゲー』と呼ばれるモノ達である。ネットで検索すれば湯水の如く溢れてくるそれらクソゲーの中でもトップと名高いのが今俺がクリアの喜びで雄叫びを上げVR機器を投げつけたゲーム『フェアリア・クロニクル・オンライン』である。
あまりにクソすぎてゲーマーから『フェアクソ』と呼ばれるそれをクリアした俺は自分の部屋を飛び出し階段を駆け下りてリビングの扉を開けた。
そして
「楽郎!クリアしたぞ『フェアクソ』!」
俺はソファでエナドリを飲みながらテレビを見ている男にフェアクソのソフト(箱ごと)を投げつけてそう言った。
「あんだけ大声出してりゃ嫌でも聞こえるから知ってんだよ。つーか、危ねぇからソフト投げんじゃねぇよ」
俺が投げつけたフェアクソをキャッチしてそう言うコイツは陽務楽郎。俺の双子の兄である。
「うるせぇ、いつも以上にクソなクソゲー寄越しやがって。何が最高のゲームだコノヤロウ」
「嘘は言ってねぇだろうが、最高のクソゲームだって言ったんだからよ」
「1番重要なところが抜けてんだよ。クソゲー中毒者」
「でも、楽しかったろうが。俺に感謝してくれよ」
俺のセリフにそう言ってドヤ顔を決める楽郎に俺は「フェアクソは二度とやらねぇ」と言って冷蔵庫を開ける。すると
「んで、遊仁よ。フェアクソのクリアタイムは?」
楽郎がニヤニヤと笑いながらそう聞いてきた。
「1週間」
バタンっと冷蔵庫の扉を閉めて楽郎にそう答える。そして、俺の答えを聞いた楽郎は再びニヤニヤと笑うと
「そうか、そうか〜俺は6日でクリア出来たのにお前は1週間もかかったのか〜。やっぱり、俺の方がレベルは上だな〜」
ムカつく面でそう言ってきた。その面を見て俺の額に青筋が浮かぶ。
「あぁん!?じゃあ楽郎のストーリーを進める為に必要な各ボスのクリアタイムの平均はどのくらいなんだよ!」
「25分……」
「はいっ、俺の勝ち!俺は11分ジャスト!」
最高のクソゲーをクリアした事によるハイテンションで俺はそう言い返し笑みを浮かべた。
そして、ゴングが鳴った。
「何が『俺の勝ち!』だ!ストーリーを進めねぇとボスまでたどり着けねぇんだから、ストーリーの進行とボスの撃破、全て含めてお前より早くクリアした俺のレベルが上なのは明らかだろうが!!」
「俺はあのクソアマのご機嫌取りで丸1日消費したんだよ!それを差し引いたら楽郎より早く終わってるし、ストーリー進めても各ボスを倒せなかったらストーリーの進行も何もねぇんだから戦いこそが最大のポイントだろうが!戦いで楽郎より上の俺の方がレベルは上だろうが!!」
「何言ってんだお前は!」
「そっちこそ何言ってんだ!」
ギャーギャーギャー、リビングに声が響き渡る。双子で同じゲームを共有しているからこそ起こる問題だが2人は兎も角、聞きたくもない言い争いを聞かされている人はたまったものではない。
そして
「あ〜もうっ、うっさいよ!お兄ちゃん達!!トワ様が出演してる動画の音ぜんっぜんきこえないじゃん!!」
ついに、2人の騒ぎ声に痺れを切らした瑠美が扉を勢いよく開け放って怒鳴った。しかし、そんな妹の声を聞いても2人は止まらない。
「だいたい、フェアリアのご機嫌取りに丸1日とかどんだけ堪え性がねぇんだよ!あのクソアマがめんどくさいのは1回小突けば嫌ってほどわかるだろうが!そういうめんどくさい部分を上手く回避しながら進めるのだってゲーマーの腕の見せ所なんだよ!」
「うるせぇな!あのクソアマがクソみてぇなムーブばっかとるから殴らずにはいられなかったんだよ!それでもクリアしたんだから問題ねぇだろうが!!」
ああでもないこうでもない、と言い争いながら瑠美の存在を無視して2人はヒートアップしていく。
「あらあら、楽郎と遊仁はまた言い争ってるの?」
「お母さん、楽兄と遊兄止めてよ。トワ様の声が聞こえない」
そして、そんな2人に母である永華は微笑みながら助けを求める娘に「見慣れた光景でしょ」と言うがチラッと窓から外を見ると
「でも、そろそろ日が暮れるしご近所迷惑になるわよねぇ」
日が暮れてきてた空を見るとそう呟き
「2人とも、そんなにゲームで勝ち負けを決めたいなら同じゲームを同時にやって勝ち負けを決めなさい」
騒ぎまくる息子達にそう言った。
(そんな声量で今の楽兄と遊兄に届くわけないじゃん)
いつも通りの母の声量に瑠美はジト目を向けるが
ピタっ
永華のセリフに騒ぎまくりの暴走列車と化していた遊仁と楽郎は静まり言い争いを止めた。
(嘘でしょ!!)
あんなにうるさかったのに、と瑠美は驚きの表情で母を見る。そして、母の鶴の一声で正気に戻った遊仁と楽郎は腕を組んで話し合いを始めた。
「確かに、それならちゃんと決着がつくな」
「あぁ、今までは俺が遊仁にゲームを貸してたしそれが当たり前だったからその発想はなかったな」
「でも、やるなら何のゲームだ?楽郎のゲームはほぼほぼやったぞ」
「確かに、いい機会だし別のゲームをやりたいよな」
「「………………」」
「「何やる?」」
悩むが決まらない思考に双子らしく(?)セリフをハモらせて首を傾げる。そんな、2人の様子に永華は微笑みながら瑠美のいる方へ戻ると
「楽郎と遊仁を静かにさせたい時はこうやるのよ」
そう言い残して自分の部屋へと戻って行った。
「流石お母さん……」
そして、母を見送った瑠美は驚きの表情のままそう呟き自分の部屋へと戻って行った。
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『同じゲームを同時にやればいい』
母さんの一言によって正気に戻った俺たちは首を傾げて考える。いつの間にかリビングに来ていた瑠美がいつの間にかいなくなっているがそれはどうでもいい。問題は、コッチだ。
『俺と楽郎がやった事のないクソゲー』
勝ち負けを決めるためにコレを探さなければならない。俺としては格ゲーが良いがそれだと楽郎の言う「ストーリーも含めてゲーム」の条件を満たすことが出来ない。逆にストーリーに重きを置いたゲームでは俺の条件が満たせない。
「「ロックロールで見つけるか」」
そして、しばらく考えた末に俺たちはそう呟いた。ロックロールは家の近くにあるゲームショップで楽郎が持っているクソゲーも俺たちのVR機器もそこで買ったものだ。俺は習い事でゲームを吟味している時間が無いのでよく店に行くのは楽郎だが、俺もたまに顔を出す。実際に棚に並ぶゲームを見れば俺たちの条件にピッタリとハマるゲームが見つかるだろう。
「よしっ、早速「待て!」
全く同じ考えなんだろう、楽郎がそう言ってリビングから出ていこうとするが、俺はそんな楽郎を呼び止めた。
「なんだよ」
俺に呼び止められた事で出鼻をくじかれた楽郎が不満気な顔をするが俺はそんな楽郎に窓の外を指さして言う。
「もう、日が暮れるから明日の放課後にしようぜ。それに1週間も拘束されたから身体動かしたい。刑期を終えた受刑者みたいな気分だ」
俺のセリフに楽郎も外を見て「確かにな」と呟く。
「じゃあ、明日学校が終わったらそのままロックロールに直行な。俺は部屋でいい感じのクソゲーがないかネットの情報漁ってみるわ」
そして、そう言うと自分の部屋へと去っていった。そして、楽郎を見送った俺はそのまま玄関に向かいランニングシューズを履くと外へと飛び出し走り出した。
「フェアクソの攻略の為に学校以外部屋に篭ってたからなぁ、最高の気分だ!」
身体に満ちる解放感に喜びながら走る。スピードと心拍を上げて走っていく。フェアクソの為に道場にも行っていなかったので行きたいがさすがにいきなり行くのはまずい。次に行くのは明後日になる。それまでに鈍った身体を叩き起こさなければならない。
「おっしゃ!行くぜ!!」
気合いを入れるために声を出しそれと同時にスピードを更に上げる。身体を動かせる喜びを噛み締めて俺は走っていった。
そして、喜びのあまり遠くに行き過ぎて帰るのが遅くなった俺は母さんにしっかりと小言を言われた。