走る、走る、走る。
クラウン・スパイダーを撃破した俺はミュウラを肩に乗せて千紫万紅の樹海窟を走っていた。目的地は勿論、樹洞の頂きから見えた2つの光るポイントだ。
「しばらく走っていますが目的地はまだ先ですわね」
「あぁ、クラウン・スパイダーの樹洞からそれなりに距離があったからな。だが、リュカオーンの呪いのおかげで雑魚共に群がられる事が無いから今回は助かった」
「此処に住むモンスターで夜の帝王の獲物に手を出したいと思うモンスターはいるわけないですからね」
自身の身体に刻まれたリュカオーンの呪いを見ながらミュウラと話しつつ地面から木へと跳んだ俺はミュウラのセリフに違和感を覚えた。
「その言い方から察すると此処以外には俺に手を出したいモンスターがいるって聞こえるんだが……」
「はい、此処より先の場所にはリュカオーンの呪いを刻まれたユウヒさんより強いモンスターが沢山いますわ」
ミュウラの答えに俺の口が歪む。
「そうか……いつか挨拶しに行かなきゃな」
自分より強い相手、それが『沢山』いる。なんて、嬉しい事だろう。そう思いながら木から木へと飛び移り目的地への道を走破して行く。
しばらく進み続けた俺達はとうとう目的地に辿り着いた。
「此処だ」
「はい…」
足を止め辺りを見回す。
1本の大樹の周りに光る苔が生えている。大樹を中心に15mと言った所だろうか、苔と大樹だけの限定空間の様になっている場所だ。
「この大樹の頂上に師匠の昔話に出てきた光る苔があるのか……」
「綺麗ですわ」
上を見ながらそう呟き大樹に向かって足を進める。下からじゃ頂上は全く見えないが行けない高さではないだろう。
ぎりぎり手の届く大樹の窪みに指を掛け俺は身体を引き寄せ大樹を登り始めた。
なるべく苔を剥がさないように苔に覆われていない場所に手や足を掛けて登って行く。
「ユウヒさん、見てください。下の苔より輝きが強くなってきました」
すると、ミュウラが上にある枝を指さしそう言ってきた。
「本当だ」
俺もミュウラが指し示した方を見ると明らかに下の苔とは輝き方が違う苔があった。
「上に行けば行くほど遮るものかなくなっていく、太陽の光は植物にとってのエネルギーだ。成長の為だけじゃなく苔本体の為にも光を吸収してるのかもな」
「苔本体の為に……何故なのでしょう?」
「さぁな、だが師匠の話しの内容的に苔と花の光は色んな生き物のエネルギーになっている。"自身で輝いている事自体"に何か意味があるのかもな」
首を傾げるミュウラにそう応えながら登り続ける。そして、1時間かけて俺達は頂上に辿り着いた。
そして
「こ、こいつか!!」
「凄く眩しいです!!」
目を開けていられないほどに輝く苔を見つけた。
「かなり距離があった樹洞からでも見つけられるほどの輝き、当然と言えば当然だな」
あまりの輝きにそう言いつつ俺はインベントリから致命の包丁を取り出し採取を始めた。
「ユウヒさん危ないですわ」
薄目になりながらの採取にミュウラがそう言ってくるが遮光性のある装備がリュカオーンの呪いで装備出来ない以上仕方がない。
慎重に慎重に致命の包丁で苔を削り取るどのくらいの分量があれば良いのか分からないが、この苔は周りの植物のモノだ取りすぎるのは良くないだろう。
「これくらいだな」
めちゃくちゃ光っていて手に乗った感覚しか分からないが掌の半分程の苔を採取した俺は苔をインベントリに入れた。
「僅かだがもらっていきます」
最後に手を合わせてそう言いその場から立ち去る。輝き過ぎていて見えにくいが元きた道筋を辿って大樹を降りていく。
段々と光は弱まりやっと目が完全に開けられるようになった。
「ま、眩しかったです…」
「あぁ、裸眼で太陽ガン見するよりも眩しかった。だが、目に突き刺さるような光じゃなく何処か優しさのある光だったな。"生き物のエネルギー"になるだけはある」
ミュウラとそう言いながら光の感じを思い出す。眩しいのは眩しいんだが目が痛くなるような光ではなかった。それはミュウラも感じていたのだろう俺のセリフに深く頷いている。
俺はインベントリに入れた苔に着いて詳しく知る為にインベントリの欄に並ぶ苔をタップしてみた。
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『往年の輝苔』
千紫万紅の樹海窟に存在する光る苔。太陽の輝きをその身に宿す。宿った光は蓄えられ他の生き物の生命の営みの助けとなる。ある花の輝きと合わせると失われた意思を再び蘇らせる。
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「何か意味深な内容だな。シナリオのフラグになった『黄金石の墓石』と言い『失われた意思』と言い素材を全部集めたら死者の声でも聞こえるのかね?」
『往年の輝苔』の説明を読んだ俺はそう呟く。シナリオの開始と共に依頼された素材を思い出しても「栄華」だの「死相」だのがあった気がする。あながちこの考えもハズレではないのかもしれない。
「まぁ、さっさと集めて答えを確かめるのか1番だよな。なぁ、ミュウラ?」
考えても答えはでなさそうなのでそう呟きミュウラを見るとミュウラは何故か暗い表情をしていた。
「どうした?」
何時ものミュウラらしくない顔にそう言う。すると
「私、死者とかそう言うのダメなんですの…」
か細い声でそう言ってきた。
「マジか、レベル上限の師匠の娘がまさかのホラーが苦手とはな。意外だぜ」
「昔、エーベルト兄様にゴーストが出る場所に置いていかれてから苦手なのです。強くなった今でも怖いのです…っ」
「妹に何してんだ彼奴は……」
ガタガタ震えてそう言うミュウラの姿にそう呟き俺はもう一度エーベルトにあったら1発殴ってやろうと決めた。
「大丈夫だ、俺はゴーストなんて見慣れてるし戦い慣れてるから出てきても一蹴してやるよ」
そして、震えるミュウラの頭を撫でながらそう言う。ミュウラは暗くしていた表情を一変させて
「その時はお願いしますねっ、ユウヒさん!」
そう言って抱きついてきた。
「任せな」
俺はミュウラにそう応えると地上へ向けてテンポ良く降りていく。
行くよりも帰る方が簡単と言うがこの大樹も例に漏れず帰りはあっという間だった。
「地上到着」
「やっとですね」
地に足が付き息を吐くミュウラを後目に俺は次の場所へと歩き出す。
「もう次に行くのですか?」
「あぁ、次は昔話に出てきたモンスターがいる場所だ。テンションが上がってきた。こう言う時は早めに行動した方が良い。熱は熱いうちに、だ」
逸る気持ちを抑えられずにそう言い歩く
「そうだ」
そして、俺は自身のステイタスを表示すると溜まっていたSTポイントを振り分けた。
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レベル33
体力 30 魔力 115(+20)
スタミナ 95
筋力 35 敏捷 85
器用 50 技量 15
耐久力 26(+18) 幸運 30
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「昔話で強いと言われるモンスター、楽しみじゃねぇの」
この先の目的地にいるであろう強敵に思いを馳せて俺は笑った。