「やっと戻ってきました」
千紫万紅の樹海窟でゴールデン・エンパイア・ビーキングを倒し「往年の輝苔」と「閃光結晶の花弁」をゲットした俺達はサードレマからミュウラが作り出したゲートでラビッツに帰ってきた。
「朝に出てもう夜か…随分と時間がかかったな」
「ゴールデン・エンパイア・ビーキング達と戦ったあの場所は千紫万紅の樹海窟の端っこでしたから、戻るのに時間がかかっても仕方ないですよ」
「まぁ、途中で訳わからん連中に絡まれたりもあったしな…」
ミュウラのセリフにそう答えながら俺はサードレマに入る直前に絡まれた連中を思い出す。
『貴方!リュカオーンの呪いを刻まれたユウヒってプレイヤーね!!もし、ヴォーパルバニーの国に行く方法を知っているのなら私達に教えて!!』
黄色のフードに角を付けた女性プレイヤーを筆頭に似た様な目つきのプレイヤーに囲まれたが「知らん」と一言を残してその場から逃げてやった。
「あの目はヤバい…関わらない方がいいタイプのプレイヤーだ」
「私もあの目は怖かったです」
「あぁ、初めてクスリを決めた10代みたいな目をしてたからな……」
(プレイヤーネームは確か…Animaliaだったか?これ以上関わり合いにならない事を願いたいね)
ミュウラに相槌を打ちつつも心の中でそう願い俺はラビッツの部屋を出ようと扉を開けた。
しかし
扉を開けるとそこには大量のヴォーパルバニーが佇んでいた。
「なんだっ!?」
廊下を埋めるヴォーパルバニーの群れに思わず声が出てしまう。俺の様子に気づいたミュウラが肩に飛び乗ってくるがミュウラ自身も目の前の光景に驚いていた。
「ユ、ユウヒさん、なにかしたのですか?」
「いや、何もしてない、はず……」
心当たりが無さすぎて傾げるしかない。
(ラビッツに来てからほとんどユニーク関連の進行で滞在は一瞬だったしこの数のヴォーパルバニーに群がられるような事をした覚えは無いんだけどな)
何故こんな事になっているのか、本当に訳が分からずにいると
「おう、ユウヒ。帰ってきてたかい」
廊下の奥からヴァッシュ師匠が煙管を吹かしてやって来た。
「師匠、お久しぶりです」
「お久しぶりですわ、お父様」
本当に久しぶりに再会したヴァッシュ師匠に礼をするとヴァッシュ師匠も「おう、久しぶりだなぁ」と返してくれた。
「師匠、これはいったい?」
俺はこの訳の分からない状況に着いてそう尋ねた。すると、師匠は一つ煙管を吸って煙を吐き出すと厳しい目をなり
「おめぇさんを待ってたのよ。サンラクと一緒になぁ」
そう言ってきた。
「サンラク?」
ますます意味か分からない。首を傾げる俺に師匠は「着いてきな」と言うとその身を翻して廊下を歩き始めた。俺の部屋の前を埋めつくしていたヴォーパルバニー達は師匠が歩き始めると同時に左右に割れて道を作り、俺とミュウラはその道を歩いて師匠に着いていく。
しばらく歩くと師匠と初めて会った部屋に辿り着いた。
「開けな」
襖のそばに待機していた小さいヴォーパルバニーに師匠はそう言い開けられた襖から部屋へと入っていく。俺も続いて部屋に入るとそこには正座したサンラクが待っていた。
「サンラク」
「よぉ、ユウヒ。やっと来たか」
座るサンラクに手を挙げ軽く挨拶を交わす。すると、奥の座敷に座った師匠から言葉が発せられた。
「おめぇさんら、俺等に話す事があるんじゃねぇのかい?」
「話す事?」
師匠のセリフの意味が分からず俺はサンラクの隣に正座しながら首を傾げる。しかし、俺の隣に座るサンラクは先程のセリフを言われる覚えがあるようで直ぐに答えた。
「はい、約2週間後俺とユウヒ、そして仲間達でユニークモンスター『墓守のウェザエモン』に挑みます」
「!」
サンラクのセリフに俺は何故こうなったのか直ぐに理解した。
(イベントが進んだのか)
つまりはそういう事だ。恐らくサンラクの口から師匠に「墓守のウェザエモン」に挑む事が伝えられたのだろう。そして、そのメンバーに俺が入っている事も。
現在、ユニークシナリオ「兎の国からの招待」を発生させ進行しているプレイヤーはミュウラの発言や兎御殿に俺達以外のプレイヤーがいないことから考えても俺達だけだ。
渡されたアイテム、師匠のセリフから考えてもこのシナリオは「修行シナリオ」だろう。つまりこの状況は俺達弟子が強大な敵に挑む事を師匠が知った事で始まったイベントだと言う事だ。
(受け答えの内容次第では最悪俺達2人ともラビッツから強制退去、シナリオも終わるな……)
師匠のセリフに気をつけながらそう考える。
「わかってるのか?おめぇさんらは弱ぇんだぜ。"あの死に損ない"の前に立っても殺されるのがオチだ。俺等は死にに行くことを『ヴォーパル魂』と言った覚えはねぇぜ?」
緊張する俺達を前に師匠は圧をぶつけながら話す。そして、最初に師匠に応えたのはサンラクだった。
「確かに……『勝てる確信』があって挑むわけじゃあないです。俺達はあくまでも補助でして主幹となるのは俺の知り合いです。兄貴は今、ウェザエモンがどう言う状況になっているかご存知ですかい?」
「いや…あのヤロウにあったのは随分と前だからよぉ」
「その知り合いによると、ウェザエモンは今、人殺しのならず者集団を育成する道具の如く良いように扱われているようです。その……遭遇するだけで経験値がたんと入りますんで…」
「そうだったか……」
「はい、この作戦の発案者はそのならず者達の1人ですが其奴はウェザエモンを倒すためにありとあらゆる手段を講じています」
「策を講じても勝算がなきゃあ、それは『無謀』ってもんだぜ?」
「はなから誰1人、負けるつもりで挑む奴はいません。ただ、其奴の『勝ちたい』って心意気に俺達は応える気になったんです」
「心意気に応える、か。………間に合うのか?」
サンラクのセリフに何を思ったのか師匠は煙を吹かすとそう尋ねる。言葉だけじゃなくその雰囲気も力強く。このセリフへの「答え」は間違ってはいけないと理解出来た。
「はい。残りの約2週間で必ず間に合わせます。木っ端の俺の蛮勇が挑戦者の強者へ挑む度胸になるまで」
そして、サンラクは師匠にその雰囲気を押し返すようにそう答えた。
「そうか……」
サンラクの答えを聞いた師匠は一瞬瞠目すると今度は俺に視線を合わせた。そして、サンラクと同様に俺にも問いかける。絶対強者であるユニークモンスターへと挑む意思かあるのかを
「ユウヒ、おめぇさんもサンラクと同じ気持ちかい?」
しかし
「いいえ」
俺は師匠の目を見つめてそう答えた。
「!?」
「なにぃ?」
俺の答えにサンラクは目を見開き師匠は目を細める。師匠の目は厳しくサンラクに「話が違う」と言う目を向けた。
だが、俺の答えはそれが全てでは無い。ここから先を伝え終えてはいなかった。
「俺は、サンラクの知り合いとまだ会ったことがありません。その知り合いがどんな策を講じているのかすら知らない。ですが、俺は挑みたいんです。俺の身体にこの呪いを刻んだ、あの狼と同じ
「だが、おめぇさんはまだ俺等が用意する試練を越えちゃいねぇ…。力を示してすらいない弱者だ。その弱者の身でありながらそんな戯言を口にするのかい?」
師匠の目は以前厳しいままだ。俺の隣にいるミュウラとサンラクの隣にいるエムルちゃんは父親の目に震えている。サンラクは俺のセリフの一言一言に緊張した様子を見せチラチラと俺を見てくる。
(しゃらくせぇ……!)
しかし、俺は身体に気合いを込めて師匠に答えた。
「はい。策も強さもこの期間に間に合わせます。氣を整え、充実させ、自らを見直し、力を蓄えます。……ウェザエモンに挑む前に、師匠にそんな俺を見定めては貰えないでしょうか?俺の力とヴォーパル魂がウェザエモンを打ち破るに値するのかどうかを、必ず師匠を納得させて見せます」
「………」
「………」
「………」
俺のセリフに師匠は何も応えなかった。サンラクとミュウラ、エムルはただ師匠のセリフを待つように黙っている。
長い沈黙が過ぎサンラクと俺は「失敗した」と思った。その時だった。
「俺等を納得させる、か……。いい覚悟だ。ならやって見せろ!俺等がおめぇさんを見極めてやる!!おめぇさんの力があの"不器用な死に損ない"に届くのかどうかをな!!」
師匠は力強い目で笑いそう言ってくれた。
「押忍!よろしくお願いします!!」
俺は膝に手を付きそんな師匠にに頭を下げたのだった。
そして、師匠は立ち上がるとサンラクを呼ぶと共に部屋を出ていった。どうやらやりたい事があるようだ。
部屋を出ていく時の目は閉じていたが笑っているようにも見えた。最後のセリフや態度から見ても山場は超えることが出来たのだろう。
「……はぁ、緊張したぜ」
俺は身体から力を抜きそう呟く。するとミュウラがノロノロと俺に近づき
バチンッ
と俺の顔目掛けて平手をお見舞いしてきた。
「よっと」
俺はミュウラの平手を顔に届く前に受け止めたがミュウラはそんな俺に「聞いてません!!」と叫んできた。
「悪かったよ、色々あって忘れてた」
明らかに怒っているミュウラにそう言いながらも頭を下げる。しかし、ミュウラはそんな俺の頭をポカポカと叩きながら「許しません!!」と言い出した。
「私はユウヒさんのパートナーです!その私になんの断りもなく『墓守のウェザエモン』に挑む事を決めてしまうなんて。許せません!!」
「すまん」
「許せません!!あんなに怖い顔のお父様は初めて見ました!いきなり部屋に連れていかれて怖い思いをさせられて、酷いです!!」
「ミュウラ」
未だに俺の頭を叩きながらそう言い続けるミュウラの名前を呼び顔を上げる。ミュウラは目に涙を溜めており今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「悪かった。だが、俺は…いや、俺達は勝つ。絶対強者を打倒する。絶対だ」
そんな、ミュウラに俺は目を真っ直ぐ見てそう言った。
「絶対に、ですよ」
そして、ミュウラは目に溜めていた涙を拭ってそう言ってきた。
「あぁ、絶対だ」
そして、俺はミュウラにそう応えつつ約束を胸に刻んだのだった。
誤字報告ありがとうございます。報告で「クイン」が「クイーン」なのでは?という報告があったのですが「クイン」で合ってます。モンスターの名前考えた時に「クイン」の方がなんかしっくり来たんでそうしました。