「ユウヒ!」
師匠と約束を交わしてから翌日、ラビッツの道具屋でミュウラの弟のピーツから道具を購入した俺は、表示したマップを前にユニークシナリオ「志し持つは蒐集者」を進める為残りのアイテムがあると予想している「栄古斉衰の死火口湖」と「神代の鐡遺跡」のどちらか行こうと頭を悩ませていた。
「なんだよ」
そんな、俺に声をかけてきたのは師匠と一緒に部屋から出ていったサンラクとエムルちゃんで俺はサンラクにぶっきらぼうに応えた。
「いや、まだ兎御殿にいてよかった。さっきちょうどペンシルゴン……ウェザエモン討伐作戦の発案者から連絡が来てさ。お前と一緒に指定の場所に来てくれってメール貰ったんだよ」
「へぇ、それじゃあやっと顔合わせが出来るって事か」
「そう言う事だ、今からカッツォも来るみたいだから俺達も出発したいんだが…いいか?」
俺の顔を伺ってそう尋ねるサンラクに表示していたマップを閉じて「おう」と応えた俺はエムルちゃんが開いたゲートを潜りサードレマへ出た。
「んで、指定された場所って何処なんだ?」
サードレマの裏路地でサンラクにそう尋ねるとサンラクはメールを確認し指定された場所までのルートを確認しだした。
「………あーぁ、OK把握したわ。大分わかりにくに場所にあるけど此処からならかなり近いぜ」
「此処からって、この裏路地からか?」
マップを見て更に奥の裏路地を指さしたサンラクにそう言うとサンラクは頷いて歩き出した。俺もミュウラを肩に乗せてその後を着いていく。
「そう言えば、師匠と分かれてから何してたんだよ?」
歩きながらふとあの後の事が気になった俺はサンラクにそう尋ねた。すると、サンラクは何処か答えにくそうな様子を見せると
「すまん。兄貴にお前には絶対に言うなって言われちゃってんだ」
と言ってきた。
「どう言う事だ?」
訳がわからずそう聞き替えしてしまった。同じシナリオを進めているのに進行度が全く違うのだろうか、首を傾げているとサンラクの肩に乗るエムルちゃんが答えてくれた。
「お父ちゃ……カシラはユウヒさんは『まだ、その時じゃない』って言ってましたわ」
「なるほど『まだ、その時じゃない』か…。まさか、シャンフロでこのセリフが聞けるとはな」
「それ俺も思った。だが、兄貴は『その時』が来れば必ずお前にとって良い事をしてくれる。それだけは保証するよ」
「そうか」
サンラクのセリフと自信満々な顔に納得した俺は頷き兎や角言うのを辞めた。部屋で話した時に解ったが俺はまだ師匠の言う「試練」を越えていないらしい。
だから
「ユウヒさん、いつにも増して
「あぁ、目標が具体的に見えてるからな。ガンガン強くなるぞ」
肩に乗るミュウラのセリフにそう応えると今度はサンラクが俺に話しかけてきた。
「そう言えばユウヒの相棒のミュウラちゃんはどんなヴォーパルバニーなんだ?エムルと同じく魔法系か?」
どうやらミュウラの得意な系統について知りたいらしい。
「私はお姉様と同じく魔術が得意です。ただ、ユウヒさんには何時も手を出さないように言われていますので一緒に戦った事はまだありませんわ」
サンラクの問にミュウラはそう答えた。別に隠しているわけではないようなので問題はないんだろう。しかし、ミュウラの答えを聞いたサンラクは「訳わからん」といった目で俺を見てきた。
「ミュウラのレベルは99なんだ。そんなヴォーパルバニーが魔力にステイタスを極振りしてるんだぞ?ここら辺のモンスターなんて一撃で消し飛ぶっつーの」
そして、俺はサンラクの視線に応える形でそう言うとサンラクは驚いた表示で「ま、マジか……」と呟いた。
「俺の気持ちがよくわかるだろ?」
「あぁ、すまん」
パートナーのNPCの方が強いと言うえも言われぬ現実に兄弟揃って肩を落とし俺達は歩き続けた。
そして、暫くすると「蛇の林檎」と看板がかかった建物が見えてきた。
「あそこか?」
裏路地の更に奥にある店。立地的に「集客する気ゼロ」の立地にまさかと思いそう言うとサンラクは「そこだ」と言って頷いた。
「ミュウラとエムルちゃんをどうにかしないとな」
店に入る前にサンラクにそう言っておく。2兎は俺達が秘匿しているユニークシナリオ由来のNPCだ。これから来るというメンツにも秘匿しなければならない。
「そうだな。エムル、ミュウラちゃん先にラビッツに帰ることは出来るか?」
サンラクは頷き2兎にそう言うが2兎は首を横に振った。
「私達が帰るともうゲートを出せませんわ」
「お2人の用事がどの位で終わるのか分からないので一緒にいるべきです」
2兎のセリフに俺達は黙ってしまった。確かに、終わりが何時になるか分からない以上一緒にいた方がいいかもしれない。
「じゃあ、どうするかな……」
「ぬいぐるみって事にしとくか?」
2兎をどうするかについて頭を捻るがいい案が出てこない。人間変化も考えたが集合場所に知らないメンツが2人いるのは良くないのでさせられない。
「どちらかがラビッツに帰ってもらって、どちらかが擬態するしかないな」
考えた末に俺がそう言うとミュウラとエムルちゃんの目の色が変わった。
「お姉様……」
「いくですわ……」
2兎はお互いをじっと見てそう言うと
「「じゃんけんぽん!!」」
拳を出してそう言った。あいこが何回か続き最終的にエムルちゃんが勝った。
指が3つしかないのでよく分からなかったが勝ったのはエムルちゃんだ。
「それじゃミュウラ、ラビッツで待っててくれ」
負けて落ち込むミュウラの頭を撫でてそう言う。ミュウラは俺の手をぎゅとすると「待っていますね」と言ってラビッツへと戻って行った。
「それじゃエムルちゃんには擬態してもらうか」
「どうするんだエムル?」
ヴォーパルバニーの擬態、人間以外は始めてみる。俺とサンラクのセリフに「お任せ下さいですわ」と答えたエムルちゃんはサンラクの首に両の耳を巻き付け
「マフラーですわ」
自信満々にそう言った。
「「………」」
明らかにマフラーには見えない擬態に俺達は言葉を失ったが
「予想通りの閑古鳥」
「俺達が一番乗りか…」
「彼奴らを揶揄うネタが出来たな」
店に入り開口一番性格の悪い事を言うサンラクは無視して席まで歩いていく。
「此処でいいよな?」
「いんじゃね?特に指定は来てなかったし」
店の中央にある席を選びそう言い合って座る。俺たち以外の客が居ないので入ってくれば1発でわかるだろう。
「なんか飲み物でも頼んどくか?」
「そうだな、席だけとって注文しないのはちょっとアレだからな…」
2人してメニューを見ながら品を考える。
「そう言えばユニークシナリオはどの位進んだんだ?」
すると、メニュー表を見ながらサンラクがそう尋ねてきた。
「まだ、3分の1って所だな。進行に必要なアイテムがいくつかあるんだがまだ集まってない」
「そうか、助っ人が必要になったら必ず呼べよ!お兄ちゃんが絶対に力になるからな!!」
「何、良い奴みたいなこと言ってんだよ。お零れ狙ってるだけだろうが」
口ではいい事言ってるが目が物欲で塗りつぶされている鳥頭にそう言いつつ注文を確定させる。サンラクは「チっ」と舌打ちしているが手伝って貰う気はさらさらない。
(よっぽどの事が無い限りミュウラの手も借りないつもりなんだ。この
心の中でそう呟きながらメニューを閉じる。向かいの席ではサンラクも注文を決めたようでメニュー表を閉じていた。
すると
「あれ?サンラク君がもう来てる。絶対最後に来ると思ってたのに」
心底以外と言った顔をして女性プレイヤーが入店してきた。
「お前から呼びつけたくせに遅かったじゃねぇの。主催者がゲストより遅く来るってどうなんですかぁ?」
「うるさいわね。まだ、約束の時間まで10分以上あるから、君が早すぎるだけだからね」
女性プレイヤーに早速ムカつく顔でそう言ったサンラクに女性プレイヤーも時間を表示して言い返す。サンラクのセリフ的に彼女が「墓守のウェザエモン」の討伐を発案したプレイヤーだろう
「それで、そこにいるのがサンラク君の弟君かな?」
そう考えながらサンラクとのやり取りを見ていると唐突にそう言われた。
「あぁ、この
サンラクから既に聞かされていた通り兄弟だと言う事はバレているようなので隠すことなくそう言う。
「あはっ、そっ「おい待て!
彼女は俺のセリフに笑って何かを言いかけたがサンラクがそれを塞いでしまった。
「んだよ、照れんなよ」
「照れてねぇよ!!」
私生活を知っている人物に「そういう事」を言われ声を荒らげているサンラクに俺はそう言いつつ椅子を引き距離をとった。
「おい、行動に移すのもヤメロ!信憑性が増すだろ!」
「信憑性の何も無いだろ。何時もそんな格好だろうが」
「ヤメロ、ヤメロ!!マジで洒落にならねぇ!!」
「ぷっ、あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
俺のセリフにいよいよ本気で焦り始めたサンラクに内心笑っていると彼女が笑を抱えて笑いだした。
「「…………」」
突然の大笑いに俺とサンラクは固まるが彼女は笑い続けている。
「どうした?ペンシルゴン。とうとう気が触れたか?」
サンラクが困惑した表情でそう言うが彼女は笑うばかりで返答してこない。
「あはっはっはっぁー。いやー笑った笑った。サンラク君があんなにガチな顔して焦ってる所は初めて見たよ。面白かった〜」
困惑する俺達を他所に笑い続けた彼女は少しすると笑うのを止め目尻に浮かんだ涙を拭ってそう言ってきた。
「くそっ、嫌なとこを見られた」
「お前らの関係性ってなんなの……」
彼女のセリフに心底悔しそうな表情でそう言うサンラクに俺はそう言ってしまった。どう聞いたってただの
「いやぁ〜こんなに笑ったのは久しぶりだよ。改めまして、アーサー・ペンシルゴンです。君の事はサンラク君とカッツォ君から聞いてるよ。すっごく強いんだってね」
悔しがるサンラクを後目に彼女、アーサー・ペンシルゴンはそう言うと俺の方へ足を勧めて右手を出てきた。
普通なら此処で俺も右手を差し出して握手をする、はずだった。だが俺はペンシルゴンの手を取るはずの右手で彼女を指さすとサンラクに
「本物か?」
と問いかけた。
「へ?」
俺の言動にペンシルゴンは変な声を上げたがサンラクは数秒だけ黙った後納得した様子で頷き「本物だ」と言ってきた。
「マジか」
「マジだ。よく分かったな」
「バレたら俺達殺されるんじゃね?」
「その時は俺を守ってくれ弟よ」
驚きと共に兄弟だけのツーカーの会話をする。しかし、ペンシルゴンはそんな俺達に持ったをかけた。
「ちょっと待って、話しが全然見えてこないんだけど!」
さっきのサンラクと同じように困惑した表情を見せるペンシルゴンに俺達は一瞬黙るとサンラクが
「おめでとうございます。たった今、貴女の正体がバレました」
暖かい目でペンシルゴンにそう告げた。
「は?」
そして、ペンシルゴンは間の抜けた声と表情を俺達に向けたのだった。中々レアな光景だったと思う。
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「それで俺が入ってきた時微妙な空気だったんだ」
ペンシルゴンのレアな顔を見てから数分後、蛇の林檎には俺を含めて4人のプレイヤーが集まっていた。
「惜しかったなカッツォ。あと数分早く来ていればペンシルゴンの間抜け面が拝めたってのに」
「俺のゲーム人生の中で1番の不覚!!」
サンラクのセリフに戦国武将の様なセリフを言ったのは俺達のクソゲーフレンズであるモドルカッツォであり、シャンフロではオイカッツォと名乗っている。
中の人はプロ格ゲーマーとして有名な「魚臣慧」であり性別は男性だ。だが
「随分とあざといアバターだな……」
俺は金髪ツインテールの小柄な女子のアバターでやってきたカッツォにそう呟いた。
カッツォは未だにサンラクと阿呆な会話を続けているがペンシルゴンはテーブルに突っ伏している。
「なんでわかったの??」
しかし、すぐに顔を上げると「訳わかんない」と言った顔でそう聞いてきた。
「歩き方、重心、顔」
そんなペンシルゴンに俺は簡潔に答えると今度こそ「訳わかんない」と呟き
「サンラク君の弟って言うから予想はしてたけどやっぱり変なんだね」
納得と言った顔でそう言ってきた。
「
ペンシルゴンの失礼な発言にそう言いつつ阿呆な会話をしているサンラクとカッツォを見る。2人の会話のネタにされているペンシルゴンはそれに耐えられなくなったのかテーブルを殴りつけ
「本題に入ってもいいかな?」
目が全く笑ってない笑顔でそう告げた。
「「はい……」」
サンラクとカッツォは一瞬で大人しくなりペンシルゴンは満足そうに頷く。これでやっと始まる。
ユニークモンスター墓守のウェザエモン討伐作戦の会議が
ちなみにカッツォは店に入った瞬間にユウヒに殴りかかってます。まぁ、殴るために伸ばした腕を取られてそのまま背負い投げされてますが…。