誤字脱字の報告ありがとうございます!!
遠き日のセツナ
ユニークシナリオ「志し持つは蒐集者」を進めアイテムの一つである「栄華の石板」を手に入れた翌日、俺とミュウラは神代の鐡遺跡にやって来ていた。
「えっと、真ん中に穴の空いたプレートの左側を通って、亀裂を飛び越す。四方の欠けたプレートに乗り地下二階と三階の隙間へと移動……」
今までと雰囲気の違うエリアに目を奪われながら蛇の林檎でペンシルゴンから渡されたマップを手に進んでいく。
「この先にレベリングに最適なモンスターがいるって話だったよな……」
「複雑な道ですね」
指示通りに進んではいるが中々に複雑な経路で迷いそうだ。誰が見つけたかは分からないが感心してしまう。
「真っ直ぐ進んで最後に穴に飛び込む」
本当に現れた深い穴を前にそう呟きマップをしまうと俺は穴を覗き込んだ。
「……見えねぇな」
「暗いです…少し怖いですね」
暗すぎて見えない穴の先にそう言いつつもし罠だったらと考えてみる。
(ペンシルゴンは上限、サンラクは40、カッツォもそのくらいのレベルになってると考えていいだろう。3人がどんな武器を使うか分からないが3分間立ち回れればたぶん倒せるな)
頭の中でシュミレーションしつつそう結論に達した俺はミュウラを抱えるとそのまま進み穴から下へ落ちていった。尻が地面と擦れ下へと落ちていく。しかし、直ぐに落下が緩やかになると光が見えてきた
そして
「おぉ……」
「綺麗な水ですね……」
落下が止まると目の前に美しく光る湖が現れた。
「お、来たな」
「遅かったね、ユウヒ」
「待ちくたびれたよ」
「涙光の地底湖」の名前が表示されている湖に目を奪われているとそんなセリフが聞こえた。声のした方を見ればテントが設営されており先に来ていたサンラク、カッツォ、ペンシルゴンが居た。
「悪い、野球部の助っ人が長引いた」
俺は遅くなってしまった事を謝りつつ輪の中に入る。
「そんなに試合長引いたのか?お前がいたのに?」
「いや、試合はそこまでかかってねぇ。俺が全打席ホームラン打って割とあっさり勝ちで終わった」
「なんか今すごいこと言わなかった?」
「幻聴でしょ」
「じゃあなんで遅れたんだ?」
「相手からの勧誘がしつこくてな…学校出るまで行く先々に監督やら選手やらが待ち伏せしてて中々帰れなかったんだよ…」
試合終了の挨拶もそこそこに目の色を変えて勧誘してきた相手の高校の監督達のことを思い出してため息を吐きつつサンラクと話す。ペンシルゴンとカッツォがなにやら言っているようだがコソコソしててよく聞こえなかった。
「そりゃ災難だったな。んで、どうやって逃げたんだよ」
「野球部のみんなが隙を作ってくれてさ、学校出てから家まで全力疾走。タイム測っとけば良かったぜ。絶対新記録出た」
「お前の全力疾走か…考えたくねぇな」
俺にそう言って何故か青い顔をするサンラクだが俺としては明日を考えたくなかった。
「考えたくねぇなのは俺もだよ。明日はバレー部の助っ人だ…。また、今日みたいな事になるって考えるとめんどくせぇよ」
正直言って他校が絡むと毎回こうなるのだが助っ人を頼まれた身の上である以上、全力でやらなければ味方にも相手にも失礼になる。だが、終われば今日のようになるのでそれだけは勘弁して欲しい。
「君達2人ともふつーに話してるけどなんかとんでもない事言ってたよね?」
「此処に話についていけてない人達がいるんですけど〜?」
ため息を吐いて明日の試合が終わったあとの事を考えているとペンシルゴンとカッツォにそう言われた。
「「何の話だ?」」
言われた事が理解出来ず俺とサンラクはそう返す。しかし、ペンシルゴンとカッツォは変な顔になると
「いや、何言ってんのかわかんない。みたいな顔されてもさぁ」
「私達の方がわからないよ。助っ人?全打席ホームラン?冗談だよね??」
訳が分からない、とそう言われた。俺とサンラクは顔を見合せて少し考えたが直ぐにどういう事か理解できた。
「そういう事ね」
「ウチの高校じゃ当たり前過ぎて忘れてたわ」
「俺、部活に入らずにいろんな部の助っ人やってんだよ」
「此奴、運動神経極まりすぎてて運動部で戦争起こりかけてさ。学校公認の単発バイト制になってるんだよ。此奴が活躍すると相手の学校はペンシルゴン達みたいな感じになるけど俺らからすると慣れた感じになってるから忘れてたわ」
「今日は野球部の助っ人でな。ホームラン打ったんだよ。球見えてたからな。そんで明日はバレー部の助っ人。2年生裏エースが休みだからその代わり」
つまりはそういう事だ。
俺が助っ人で入る。
↓
何かしらやる。
↓
周りがポカンとなる。
↓
騒ぎ始める。
高校入学してから夏にかけて起こっていた流れだが最近では落ち着きまくっていたので忘れていた。
俺を昔から俺を知ってる親、兄妹、師匠、朱璃さん達は当たり前に受け入れているが野球部でホームランを打つとかサッカーでハットトリックが当たり前とかは普通じゃないらしい。
「少し理解出来たけどユウヒ君については更にわからなくなってきた…ゲームの中だけじゃなくリアルもバグってるんだ……」
「だねぇー、もう疲れちゃったよ…」
ペンシルゴンとカッツォはそう言うとため息を吐いて疲れた様子を見せたが俺達は普通過ぎてよく分からない。
「助っ人って言ってたけど本業的なのはないの?」
するとカッツォが表情そのままにそう訪ねてきた。
「ん?あぁ、3歳くらいから総合武術習ってる。師匠は俺よりも強いよ。まだ、勝った事ねぇ」
「何ソレ?」
「本当に人間?」
俺のセリフにカッツォとペンシルゴンはドン引きしている。失礼な奴らだな、と思わなくもないが師匠の強さを知っているので何とも言い難い。
「つか、此処でのんびりしてて良いのか?NPCに会いに行かなきゃならないんだろ?」
しかし、ぼやぼやしてる暇はない。俺はそう言ってペンシルゴンを促すが「誰のせいだと思ってるの?」と言われてしまった。
だが、ペンシルゴンも此処で時間を潰してしまうのは嫌らしく、すぐに出発する事になった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
満月が地上を照らす夜。俺達は涙光の地底湖から千紫万紅の樹海窟に来ていた。
「今日みたいな満月の夜、千紫万紅の樹海窟に生える蛍光苔の中に極一部光らない部分がある。そこを調べれば……」
歩きながら壁を調べそう言ったペンシルゴンが発光していない苔に触れると壁がボロボロと崩れ落ちた。
「壁が…」
「不思議ですね」
崩れた壁を見つつ俺とミュウラはそう言う。
「まさか、攻略した樹海窟にこんな隠しエリアがあったとは…なんか悔しい」
「よく見つけたね。こんなの」
「凄いですわ!」
サンラクとカッツォも壁に触ったりしながらそう言い辺りを見渡している。
「時間指定タイプのエリアだから運ゲーだよ。私も必要なアイテムの収集で偶々見つけたんだよね」
驚くカッツォのセリフにペンシルゴンは迷いなく歩きながらそう答える。当たり前だが、足取りに迷いがなく慣れている感じだ。
「まぁ、ユニークを発生させるヤツはリアルに幸運も持ってるってことだな」
「まぁ〜、実際シャンフロはシナリオ発生フラグが何処で立つか分からないからな。運ゲーなのは間違いないな」
「流石はユウヒさんです!」
「すっげェ嫌味に聞こえるしすっげェムカつく目してやがる!サンラクは後でシバく!!」
サンラクに続いてそう言ったのだが何故かカッツォにそう言われてしまった。理由が気になりサンラクを見ればカッツォを煽る様な視線を向けていた。
普段なら俺もあの視線にキレるが今回はカッツォが相手だ。俺達は一瞬アイコンタクトを交わすと
「「地べたを這う愚民どもの鳴き声を、天より憐れみと慈悲の表情で眺める帝王の眼差しに対して、何たる言い草であろうがこの無礼者」」
以心伝心、一語一句ハモらせてそう言った。
「2人ともぶっ飛ばすよ?」
カッツォは俺達を睨みつけて言い返してくるが漫才も良いとこなので特に何かある訳では無い。
「ほら漫才やってないで、着いたよ」
そして、ペンシルゴンがそう言うと俺達の目の前には彼岸花の花畑が広がっていた。
「「綺麗です(わ)」」
一面の彼岸花の紅にミュウラとエムルちゃんはそう呟くが俺としては彼岸花という事に引っかかっりを覚える。
(あんまり縁起のいい花とは言えない花だよな。確か……)
花言葉やらなんやらを朱璃さんに教えてもらった覚えがあるが思い出せない。
「サンラク、ユウヒ。あれ……」
首を傾げているとカッツォにそう声をかけられた。指をしている方を見ると
枯れた大樹の下に半透明の女性が座っておりウィンドウに「遠き日のセツナ」と記されている。
「あら…アーサー、久し振りね」
「透けてますわ!?」
「怖いですね…」
「バグか?」
「殴れないパターンのヤツだな」
「お前ら1回その脳みそ丸洗いしてきなよ」
「やぁ、セッちゃん。1ヶ月ぶり」
セツナに各々好き勝手に言葉を発しているがペンシルゴンはソレを全て無視してセツナと話している。
「今日は何時もと違う人たちなのね」
すると、セツナが俺達に視線を合わせてそう言ってきた。途端、ミュウラが俺の背に隠れたが今は無視だ。
「紹介するね」
「はじめまして。技の1号サンラク「『馬鹿』の1号と2号と3号とマスコット達だよ」
「おいふざけんな!!」
ペンシルゴンはセツナに俺達を紹介しようとしたがそれをサンラクが乗っ取る。だが、あっという間に紹介は終わりサンラクは叫び声を上げていた。
(あの服、この世界に合ってないな…。どちらかと言うとリアル寄りな服だ。この世界における神代って頃の服なんだろうか?)
しかし、俺の意識はセツナの服装に注がれておりペンシルゴンとサンラクのやり取りはほとんど耳に入っていなかった。
「アーサー、凄いのを集めたわね」
しかし、セツナのセリフと共に意識が戻され俺達をじっと見るセツナに俺達も視線を向けた。
「心配しないで、今は雑魚だけど決戦までには仕上げるから」
「そうじゃないわ」
ペンシルゴンはセツナのセリフを俺達が弱いという意味だと思ったらしいがセツナはそれを否定した。そして、俺とサンラクを見ると
「"クロちゃん"の強い気配を2つづつ付けてる人なんて初めて、それに"灰被りちゃん"の子供達と一緒」
何処か懐かしむ様子でそう呟いた。
「ごめんなさい、ただの郷愁。ずっと、ずっと昔のね…。彼女はとうに死んでいるのでしょうけど……。貴方達のお陰で懐かしい記憶を思い出したわ。ありがとう」
「「どう…致しまして」」
内容はよく分からないが俺とサンラクは唐突なお礼にそう返した。
「セッちゃん、この3人にもあいつの話しをしてあげて欲しいかな」
そして、ペンシルゴンはそう言ったセツナにそう言うと彼女は頷きそれと同時に俺達の前にウィンドウが表示された。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユニークシナリオEX
『此岸より彼岸へ愛を込めて』を開始しますか?
Yes/No
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺達は目配せして頷き合いYesを選択した。
「彼…ウェザエモンは私の恋人。ちょっとしたすれ違いで私が死んで、彼はそれからずっと…私のお墓を守り続けているの」
「墓を…」
「それで墓守…ね」
「黙って聞けよ最後まで」
「私が死んでからどれだけの時間が経ったのかはわからないけれど…気づいた時には『こう』なっていた…。死んだ事を未練に思っているわけじゃないのにね。『死』とは『終わり』。終わってしまった『過去』であって誰かの『今』……未来を縛るものではないわ」
「あの人が今も私の過去に縛られている事が耐えられない…。彼は私が構築したプログラ…ん…魔法を使って此処に結界を構築した。月光が宿す魔力を利用し座標を次元の裏側に『反転』させる事で、誰にも干渉できないようにしたの」
(プログラム?)
「でも、新月の夜…月が光を失ったその時、彼のいる裏座標へと通じる結界に綻びが生まれるわ」
セツナの話の中に似合わない単語が出てきた事に疑問が生まれたが今はそれどころでは無い。
「次は新月の夜を待つってこと?」
「エリアに飛び込んで戦うわけか…」
「特殊エリアか…。事前に開示された情報通りだ」
ウェザエモンと戦う為の条件が正式に開示されたのだ聞き逃せない。
「どうかウェザエモンを…あの人を眠らせてあげて下さい」
そしてセツナはそう言って俺達に頭を下げた。彼女のNPCらしからぬ「本物」のような願いに俺達は言葉を失う。
「任せてよセッちゃん。私達は今までのヘタレ共とは違う。セッちゃんを悩ませるあんにゃろーを必ず張り倒してくるからさ!」
しかし、ペンシルゴンはそう言い握りこぶしを作った。
「聞いたかおい」
「…あれ本当にペンシルゴン?」
しかし、そんなペンシルゴンにサンラクとカッツォはそう言うと騒ぎ出す。
「『円卓』でNPCの王を馬車で引き摺り回してエネミーをおびき寄せる生き餌にしたり…!!」
「NPCの姫をシャンデリアに吊るしてプレイヤーを誘き寄せる生き餌にしてのけたあの鉛筆戦士が…!!」
「NPCと愉快に談笑してるぞ!!遂に人の心を取り戻したと言うのか!?」
「コノキモチ…コレガ、ココロ…?」
ゲラゲラと笑いながらそう言うサンラクとカッツォのせいで雰囲気は台無しだが俺は納得してしまった。何かと言うと
「なんで、お前らが仲良いのかよくわかったよ。本当に、心の底から」
そういう事である。この3人は根っこが「外道」という部分で同じなのだ。
ペンシルゴンの正体がわかってから本当に疑問だったがコレで納得できた。
笑う2人と頷く俺、ペンシルゴンはそんな俺達に頬をヒクつかせると槍を出現させて思いっきり振るった。
「危ねぇ!」
土煙と爆音が鳴りサンラクとエムルちゃん、カッツォが吹っ飛ばされる。
「お姉様!」
俺の背中に張り付いていたミュウラが心配そうな声を上げたのでエムルちゃんだけはキャッチしたが他は知らん。
「ありがとうですわ!」
「気にすんな」
お礼をしてくるエムルちゃんにそう応えつつサンラクの元まで連れていく。吹っ飛ばされた2人は腹を見せる服従のポーズでペンシルゴンに許しを乞うていたが吐いたセリフのせいで再び殺意に火をつけていた。
「お前らいい加減にしろよ?マジで殺られるぞ」
セツナの前でPKさせる訳には行かないので一応そう言っておくがペンシルゴン自身は耳を赤くして
「たまにはこう…NPC相手にカッコつけたいって言うかさー……『セツナ』って名前とか背景的に他人事に思えなかったりして…」
そう呟いている。
「えぇ、そうですぅー!!私だってねぇ!ゲームに本気で感情移入する事ぐらいあるわけでぇ!!」
しかし、耳だけじゃなく顔を赤くすると大声でそう言い出した。だが
「良いだろ。別に」
「あぁ、別に良いんじゃね?」
「そう言う相手に会えるのは良い事だし努力できるのはもっといい事だろ?」
「ゲームに本気になって取り組む。その方が楽しいに決まってる!」
「そうそう!本気で遊ぶから楽しいのさ。というかプロゲーマーの俺はそれがお仕事なんですけど?」
俺達は根っからの同類、ペンシルゴンの気持ちを笑うことなんてない。各々顔を赤くするペンシルゴンにそう言いつつ笑うと彼女は腹を抱えて大笑いしだした。
「そうだった!君達も大概大馬鹿だった!!」
そう言って笑う彼女の顔は晴れていてとても良い笑顔だ。そして、彼女は拳を握ると不敵な笑みを浮かべた。
「相手は古今東西どんな大ボスもびっくりなレベル差150を強制するユニークモンスター『墓守のウェザエモン』。それでも、私達なら出来る!」
彼女の言葉に俺達も拳を握る。
「本気でやって勝ちに行こう!!」
そして、その言葉と共に俺達は拳を合わせた。