間に合ってよかったw
「死相の珠」を手に入れた翌日、いつもの如く道場で寝泊まりした俺は、昼の夏の日差しを浴びながら家に帰ってきた。
「ただいま〜」
「おかえり遊兄。今日は遅かったね」
「あぁ、昨日あんまり寝てなくてないつの間にか寝てるのは同じなんだが今日は中々起きれなかった」
家に入り久々に会った瑠美とそんな会話をしながら風呂場へ向かう。道場で寝落ちする時はいつも師匠が布団に運んでくれるが風呂には入れないので今のうちに入っておかなければならない。
「あ、そう言えばさお兄ちゃん。私、この前の読者モデルの撮影の時スタイル良いってカメラさんに褒められたんだ」
脱衣場で服を脱ぎカゴに入れるとドア越しに瑠美がそう言ってきた。
「おーそりゃ良かった。筋トレの効果が出たんだな」
「うん!遊兄に教えてもらったトレーニングのお陰だよ。また、呼ぶからって言って貰えたの!」
「へぇ、じゃあまた雑誌に載るのか。すげぇな」
「これで憧れの永遠様に少し近づいたわ〜。ありがとうお兄ちゃん!」
「おう、撮影とか色々大変だろうけど頑張れよ」
「うん!」
瑠美は俺にそう応えるとパタパタと足音を立てて階段を上がって行った。
(ゲームで知り合いってバレたら殺されるな。楽が)
声から本当に嬉しそうなのが伝わってきただけにそれが一番恐ろしい。有り得ないだろうが有り得そうだ。
「まぁ、大丈夫だろ」
想像上の出来事に俺はそう呟いて風呂に入った。
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「よしっ、今日もシャンフロやっていくぜ!」
「今日のユウヒさんやる気がいっぱいですね!」
風呂と昼食という名の朝食を済ませた俺はシャンフロにログインしていた。
「あぁ、ウェザエモン戦まで1週間切ったからな。ヤル気出していかないとな!」
肩に乗るミュウラにそう応えつつ俺は作ってもらったゲートを通ってサードレマから神代の鐡遺跡へと向かう。
ウェザエモン戦までの数日でレベルを50まで上げなくてはならない。今の俺のレベルは45、残り5レベルを上げなければウェザエモンとは戦えない。
神代の鐡遺跡にある。涙光の地底湖でレベルを上げてウェザエモンに挑む。そして
「ユニークシナリオ攻略の為のアイテムも揃えねぇとな」
そう、残り2つとなったアイテムの収集もする。ヴァッシュ師匠から貰った昔話には"神代の力が残りし場所"にそれらしいアイテムがあると書かれていた。十中八九「神代の鐡遺跡」の事だろう。
「サードレマから次の街へ行く間での道中でユニークシナリオが攻略出来る様になってる…。黄金石の墓石が生まれ変わった後、更に先の街はエリアで何かあるって事なのか?」
"前半部分で攻略が出来るユニークシナリオ"と言うある意味不可解なシナリオに首を傾げるがその謎はクリアすれば解けるだろう。
「レベルアップと攻略、ガンガン進めるぞ!」
更に先の楽しみが出来た事で更にヤル気が溢れてきた。神代の鐡遺跡へ向かう為に裏路地を通ってサードレマを出る。
しかし
「すまない、リュカオーンに呪いを刻まれたプレイヤーは君で間違いないだろうか?」
サードレマを出た瞬間俺はそう声をかけられた。
「違います(ミュウラ、そのまま動くなよ)」
声をかけりた方を向かずに小声でミュウラにそう言いつつ応える。声的に男性プレイヤーの様だがわざわざ此処で声をかけてきた事に俺の警戒心は跳ね上がっていた。
(俺は何時も移動の時はミュウラのゲートか裏路地を使ってた。他人の目を極力避けていた俺を此処で待っていた?何で俺がサードレマにいるとわかった?ただの一プレイヤーの居場所を探し回ったのか?)
考えれば考えるだけ警戒心が上がるだけだが相手はそんな事お構い無しに話し始めた。
「違う、か。情報によれば水色の髪に白地の道着、武人の弓篭手を装備している"ユウヒ"と言うプレイヤーだと聞いていたのだが…。本当に人違いかね?」
「えぇ、人違いでしょ。名前なんてシャンフロなら何人でも同じ名前のプレイヤーは居るだろうし。装備も同様に同じプレイヤーはごまんといる。それじゃ、俺用事があるので」
「待ちたまえ」
速攻で話しを切り上げて逃げる。その為に俺はそう言って立ち去ろうとしたが手をそのプレイヤーに掴まれてしまった。
「人と話しているのに視線すら合わせない事には目を瞑ろう。しかし、話すらせずに立ち去ろうとは…少々失礼ではないかね?」
言葉からも掴む手からも固い意思を感じるそのプレイヤーに俺は諦めて振り返った。
しかし
「ッ!!」
俺はそのプレイヤーの姿を見て吹き出しかけてしまった。何故なら
「ん?私がどうかしたかね?」
そのプレイヤーはゴリゴリの魔法少女だったのだ。しかし、声は超低音。あまりのギャップに吹き出しかけた。
「いや……何でもない」
首を傾げる魔法少女に俺はそう答えつつ1回深呼吸をする。
「ふむ…ならば話しを進めよう。改めて、君がリュカオーンに呪いを刻まれたというプレイヤーで合っているかな?」
深呼吸をして落ち着いた俺を見た魔法少女はめちゃくちゃ低い声でそう尋ねてきた。正直、周りに人が集まってきているので答えたくはないが答えるしかないだろう。
「あぁ、そうだ。リュカオーンの呪いは身体と顔のコレだよ」
「そうか、やはり…!」
俺の答えにそう言って笑う魔法少女を前に俺は再び込み上げてきた笑いを堪えるのに苦労した。
「失礼…私はキョージュという者だ。クラン『ライブラリ』のリーダーを務めている。よろしくユウヒ君」
そして、そんな俺の苦労を知らずに名乗った魔法少女に俺は驚いた。
クラン『ライブラリ』。それは俺がシャンフロについて情報を漁る時に使うネット攻略サイトを運営している組織だ。情報量が多くて見つけたいモノを見つけられない時もあるが彼らの運営するサイトはそれなりに使っている。
「そうか、あんたが…」
あのサイトを運営している組織のトップが目の前にいる。この事実に思わず声が漏れてしまった。
「おや?私のことを知っているのかな?」
俺の呟きが聞こえていたのだろうそう言ってきたキョージュに俺は頷き
「あぁ、あんたのクランの考察サイトを使った事があるよ。序盤の序盤の時にな、あの時はかなり助かった」
素直にそう答えた。
「ほほう…そう言って貰えるとサイトを運営して良かったと思えるよ」
俺のセリフにそう言って笑うキョージュは本当にそれを喜んでいる様に見えて毒気が抜かれてしまう。しかし、俺は気を引き締めてキョージュに問いかけた。
「それで?クラン『ライブラリ』のリーダーが俺になんの用だ?」
それなりに圧をかけてそう問う。キョージュは一瞬、目を見開くと微笑み何かウィンドウを操作した。
「フレンド申請?」
キョージュの手が止まると俺の前にウィンドウが現れフレンド申請を受けるかどうかの選択を求められた。
「そうだ。今日、君の行動を予測し此処で待っていたのは君から話を聞きたいと思っての事だったが、今日は難しいらしい。ならば、何時でも連絡が出来るようにフレンド申請をしたいと思う。君のゲームライフを侵害するつもりは毛頭ない。だから、この申請を受けてくれると嬉しいのだが。どうだろうか?」
ウィンドウを前に訝しむ俺にキョージュはそう言ってきた。その顔に他意はなく本心を言っているように見える。ゲームの中なのでなんとも言えないし言葉の端々から感じられる頭の良さは侮れないモノがあると思える。が
「わかった」
俺はキョージュからのフレンド申請を受けることにした。
「……私が言うのは可笑しいだろうが良いのかい?」
俺の承諾にキョージュは少し驚いた顔でそう言う。
「あぁ、此処で断っても行く先々で待ち構えられそうだがらな。それにあんたの『俺のゲームライフを侵害するつもりは無い』って言葉は信じてみても良いって思えた。前に会った奴らとは大違いだ」
「そうか…」
俺のセリフにキョージュは何処か満足そうに頷いてフレンドリストに載った俺の名前を確認した。俺も自分のフレンドリストにキョージュ載ったのを確認してその場を立ち去る。
「じゃあ、何かあったら連絡をくれ。此方からも何かあったら連絡させてもらう」
「あぁ、その時が来るのを楽しみにしているよ。ユウヒ君」
俺に手を振るキョージュを尻目に俺は神代の鐡遺跡へと向かった。
「ふむ……中々に気の良いプレイヤーだ。此方の意図を理解した上でそれを提案を飲み込む度量もある。それだけにリベリオス君のした事が許せないのだろうな…。彼と接触するのは難しそうだぞ、サイガ-100君」
本来ならユウヒは受けても受けなくてもいい場面でした。しかし、キョージュの「ゲームライフを侵害するつもりは無い」と言う言葉の裏には今、フレ登録を受けてくれれば此処先、ユウヒの視点から「侵害された」と思うような出来事を此方が起こさずに済むよ。と言う事を伝えていました。
例えば、次の街でライブラリのプレイヤーからTPOを弁えず申請されるとか
ひとりで攻略したいのに繋がりを持ちたいが為に絡まれるなどです