すみませんでした。
ユニークシナリオ「兎の国からの招待」を始めてから時間が経った。1体目の水晶群蠍の群れを撃破してから着々とモンスターを倒して行った俺は、最後のモンスターと戦っている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「ユウヒさん……」
最後のモンスターを相手に息を切らす俺にミュウラの心配そうな声が聞こえる。3分前に30回目の死を迎え、3分間の攻防を挟み相手と距離を取った所だ。
「はははっ……今までの9体とは比べるまでも無いくらい強いな…。まさか、『自分』に30回も殺されるとわな」
そう、今俺の前にいるのは俺自身。それがこのユニークシナリオ最後の相手だ。
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実践的訓練10体目
「
レベル186
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それがこのモンスターの名前。能力は名前の通り自分自身に化けること。
最初はただの黒い玉だったモンスターだが、戦いが始まると俺の影と奴の影が繋がり変身した。姿を真似するだけなら問題はない。別ゲーだが、そう言うモンスターと戦ったことは何度もあるので自分を殺す事に躊躇はない。
問題はこのモンスターが真似たのが姿だけでは無いことだ。
何を参照したのか解らないが俺の動き、技、魔法、全てを完璧にトレースして繰り出してくる。
それもレベル186のステイタスで。
「クソッ!」
接近して致命の闘杖を振るうが軽々と受け止められてしまう。どんなに攻撃しても俺の技でカウンターを決められてしまう。カウンター技に対抗する技を持っているがステイタスが違いすぎて攻撃が当たらない。
(前の9体の方が楽勝だったな)
心の中でそう呟き俺は先の9体を思い出した。
二体目 「
攻撃モーションのがほぼない魔法を使う木人間。強く、固く、速い。しかし、自分自身が速いのではなく魔法攻撃が速いだけ。
接近して持っていた魔法の杖をぶっ壊すと魔法は使えなくなった。身体は固いが名前の通り樹なので『殴雷撃』でぶん殴ったら雷に身体の中を焼かれて死んだ。
挑戦回数1回
三体目 「センチピート・バッド」
巨大なムカデ。蝙蝠要素が全く無い見ためだが、無数にある足の第1関節から超音波攻撃を放ってくる。超音波に「壊毒」効果があり喰らうと身体の至る所が犯される。音波である為防ぎようがなく開幕速攻で纏雷の2つ目の派生魔法である『棘尽雷』を放ち焼き殺した。
挑戦回数4回
四体目 「ダイビング・イーグル」
もの凄く小さい鳥。だが、もの凄く速い。目視できない高度まで飛び一瞬で落下、身体を穿いてくる。しかし、見えなくなった瞬間から一分以上適当に動き周り10秒ほど待つと穿いてくるので纏雷を使いながら変速しつつ動き落ちてきた所を『殴雷撃』のカウンターで殴り殺した。
挑戦回数11回
五体目 「ゴブリン・
近接、遠距離なんでもありのゴブリン。レベル差もあり強かったが所詮ゴブリン。前の鳥に比べると普通すぎた。自前の技で倒せた。
挑戦回数1回
六体目 「
火、水、氷、雷、土、風、毒を使ってくるキングコブラ。一つの頭につき一属性の攻撃を放ってくる上に各々の視界が同調している為死角がない。その上、蛇の特徴である温度による感知も備えている為、目を潰しても攻撃を仕掛けてくる。しかし、派手に土煙を上げ舌による感知を多用させる事で露出度を増やしその舌を致命の包丁で切り落とせばただの目の見えない蛇になったので備わっている心臓を真上から殴雷撃で殴り殺した。
挑戦回数10回
7体目 「
空間を泳ぎ捕食する魔力で身体を構築した鮫。空間捕食を応用した瞬間移動と防御を使うが、捕食出来る空間には限界がある上に防御も口の延長にしか使えないので倒すのは簡単。
挑戦回数3回
8体目 「天秤の申し子」
光の最上位精霊。魔力で構築した天秤に自らの魔力を捧げ相手のステイタスを低下させてくる。しかし、奴より早く天秤に自身の魔力、つまり魔法をぶち込む事でバフを得る事ができ更に2つの皿を繋ぐ支柱を破壊すると本体も倒す事が出来ると判明。スキルを残した状態で纏雷を最大まで重ねてMPMAXの状態の棘尽雷を皿にぶち込み、バフで回復した瞬間にスキルを使い詠唱を短縮、殴雷撃で支柱を破壊し撃破した。
挑戦回数8回
9体目 「デス・プロビデンス」
奴を倒す為のルールを奴自身が設定しておりそのルールを解明しルール通りに事を運ばないければ倒すことが出来ない。しかし、ルールが解れば倒すまでは一瞬。
挑戦回数10回
「本当に…此奴に比べれば前の連中の方が楽勝だったよ……」
これまで9体と戦いレベルは3上がっている(50に上がったタイミングでSTポイントの振り分けもしている)。その間、死んだ回数もそこそこな訳だが最高はダイビング・イーグルの11回。既に軽くその3倍は死んでいる。
「『何時だって自分が最大の敵』。ニュアンスは違ったけど師匠がよく言ってったけか……まさか、ゲームでそれを体験する事になるとはな!」
師匠に散々言われてきた事を思い出しドッペルゲンガーに向かって走り出す。致命の闘杖を上段で横に振るう。しかし、ドッペルゲンガーは中段受けで攻撃を受け止めるとその勢いを利用して杖を回転させカウンターの上段打ちを仕掛けてきた。
俺は身体を半回転させ避けつつ自分を支柱にして闘杖を回転、片手で先端を掴み長い間合いで杖を打ち込もうとした。しかし、奴は身体を低くして攻撃を躱すと俺の足を杖で払い体勢を崩して来た。
体勢が崩れた俺の頭に奴は杖を振るってくる。
(くそっ、俺でもそうする)
攻撃の一つ一つに俺の思考が乗っている。猿真似ではない完璧なコピー。俺はそれを改めて感じながらギリギリで攻撃を防いだ。
スキルも使い距離をとるが奴は既に接近している。奴も俺も纏雷のバフで速くなっているが奴の方が基礎能力が高い為速い。
(体勢立て直すので、反応遅れた!)
横薙ぎの攻撃をギリギリで避け身体を中で回す。本来ならバク宙となる動きを先に杖を地面に突き刺す事で支えとし身体を逆さにした状態で奴の顔を蹴りを入れた。
俺の右足は奴の顔を当たりダメージが入ったが怯んだ様子は無い。俺は地面に刺した杖をポールダンスの棒代わりにして回ると腹に蹴りを入れる。
足は真っ直ぐ腹に入り奴をよろけさせるがコレにもあまり効果はなかった。
しかし
(そういう事か……)
今の攻防で俺は攻略のヒントを掴んだ。
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「兄貴、あのモンスターはいったいどうやって…?」
ユウヒが最後のモンスターと戦う様子を見ながら俺はヴァッシュにそう尋ねた。
傍から見たら勝ち目はない。彼奴と何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も戦ってきたから解る。
「あのレベルのステイタスじゃ、あいつの技のキレをユウヒ自身も破れない」
正直に言ってユウヒと俺が戦えば確実にユウヒが勝つ。勿論、負けるつもりで挑むことは無いし勝つ気で戦うが、結果は何時も負ける。
遊は"戦い"に天性の才能がある。
それが、俺と遊の"差"なのだと思っている。そして、遊の前に立つドッペルゲンガーにも俺は同じ"差"を感じていた。
「確かにユウヒの野郎は強ぇ、でもなぁだからこそダメなんだ。あの影人形に勝つには何時も通りに戦っちゃぁならねぇ。追い込む事は出来ても"勝つ"事は出来ねぇ。あの影人形はユウヒよりサンラク。おめぇさんの方が倒しやすいだろうよ」
しかし、ヴァッシュはそう言う。俺の方がユウヒよりもドッペルゲンガーを倒せると
「ユウヒは少し戦いの固定概念に囚われる所があらぁ、だが、おめぇさんはそうじゃねぇ。突飛な事を平然とやってのける。それがおめぇさんの武器だ。ユウヒの野郎もそれに気づけりゃ、あの影人形にも勝てるんだがなぁ」
ユウヒとドッペルゲンガーの戦いを目を細めて見るヴァッシュに言葉に俺は顔をぶん殴られた様な感覚を覚えた。
「ふ、ふふふふっ」
「サンラクさん?」
笑う俺にエムルが心配そうな顔をするが俺に問題はない。
「そうだ、そうだよ、そうだよな。それが俺だよな」
ただ、自分を見失ってただけだ。それをゲームのNPCに気付かされた。全く、ゲーマー失格だ。
「サンラクさん、大丈夫ですわ?」
「悪いエムル。大丈夫だ!むしろ今なら何にでも勝てそうだよ」
雑念を振り払いエムルにそう答え俺はユウヒの戦いを見る。そして、頭の中で考える。
自分ならどう倒すか
止まっていた思考を動かし始める。つまらない思考は要らない。欲しいのは"面白く、楽しい思考"だけ。ゲーマーの基本に立ち返り俺は戦いを見続けた。
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ドッペルゲンガーと対峙する俺はやっと掴んだ攻略のヒントを確信に変えるべく走り出した。
(さっきの攻撃…2回とも何故綺麗に決まったのか。単純だ、あの攻撃は"普段の俺の動きじゃない"つまりそれが答えだ。この攻撃が入るならそれが確定する!)
致命の闘杖を構え攻撃の体勢に入る。しかし、ドッペルゲンガーは纏雷で上がった敏捷を駆使して俺の後ろに回り込んできた。
(速い!!)
この体勢から受けに回れば確実に殺られる。そんな状態だった。しかし、俺は構えていた杖を斜め後ろ、ドッペルゲンガーの足元に向かってノールックで放った。
回り込みからの攻撃。俺でもそうする攻撃に既に入っていたドッペルゲンガーは俺の放った杖を避けることが出来ない。
簡単に足を取られて体勢を崩した。
「良いんじゃない?」
俺はドッペルゲンガーにそう言うとバク宙の要領で後ろに飛ぶと体勢を崩したドッペルゲンガーの背中に飛び乗った。
(普段の俺なら後ろ飛び蹴りで最短で決めに行ってる場面なのにな)
体勢が崩れた所に上からの衝撃、ドッペルゲンガーは簡単に倒れ俺はやっとドッペルゲンガーに土を付けることが出来た。
そして、インベントリから致命の包丁を取り出すとその頭に包丁を突き立てようと振り下ろした。
しかし、ドッペルゲンガーは頭の位置をずらして攻撃を避けると掴んでいた杖を振るってきた。
だが、俺は避けられ地面に刺さった致命の包丁の柄を支えに身体を浮かして攻撃を避けるとドッペルゲンガーを転ばせる為に放った闘杖を拾い投げた。
ドッペルゲンガーはそれをギリギリで弾くが俺は七艘飛びでジャンプして掴むと落下エネルギーも使って真上から杖を振るった。
攻撃はガードされて弾かれたが俺はすぐに走り出し接近する。ドッペルゲンガーはカウンターで俺を
蹴り挙げられたドッペルゲンガーは空中にいながらも杖を振るうが俺はそれを避けざまに掴むとそのまま地面にぶん投げた。
ドッペルゲンガーは顔を地面に打ち付け立ち上がった後もよろけている。俺はスキルも積んで最速で接近すると奴の顔面に殴雷撃を叩き込んだ。
MPが無くなり纏雷が解ける。しかし、俺は満足していた。俺の考えが確定したからだ。つまり
「何を参照したか知らないがお前は俺の技と動きを真似る。猿真似のレベルを超えて。だが、最初の蹴り2発。何故かその攻撃はあっさりと入った。最初はタイミングが外れたからだと思ってたがそうじゃない。あの攻撃は"普段の俺なら選択しない攻撃"だった。つまり、それが攻略の鍵だ。お前、参照した動き、思考外の動きに対応出来ないんだろ?今、殴雷撃が綺麗に入って確信したぜ」
全く、楽がいて助かった。彼奴の"予想外が予想内"の動きを知らなかったらこう上手くは行かなかった。
ドッペルゲンガーは俺の今までのシャングリラ・フロンティア内での活動を参照し思考などをトレースしている。レベル差のスペック差に目が行きがちだが攻撃も受けも全て俺のもの。つまり"俺が予想外の攻撃をすれば参照した受け技が使えずに攻撃が当たる"。という事なのだろう。
そして
「戦いの中で"殺される"のではなく"殺されるのを受け入れる"。ならお前に勝てるんだろ?普段の俺なら絶対にしない」
俺はそう言ってドッペルゲンガーの杖を無抵抗で受け入れた。参照したデータにない行動が攻略の鍵。ならこれも間違いではない。
俺の予想通り、ドッペルゲンガーは俺に攻撃を当てると笑いその身体をポリゴン塊に変えて消滅した。
ポリゴン塊の消失と共に俺のレベルは更に3上がり55となった。
陽務家呼び方一覧
永華→仙次:アナタ、仙次さん。楽郎:楽郎、楽ちゃん(小さい時)。遊仁:遊仁、遊ちゃん(小さい時)。瑠美:瑠美、瑠美ちゃん
仙次→永華:母さん、永華。楽郎:楽郎、楽。遊仁:遊仁、遊。瑠美:瑠美、瑠美ちゃん
楽郎:→仙次:父さん。永華:母さん。遊仁:遊仁、遊。瑠美:瑠美
遊仁→仙次:父さん。永華:母さん。楽郎:楽郎、楽。瑠美:瑠美
瑠美→仙次:お父さん。永華:お母さん。楽郎:楽兄。遊仁:遊兄