ウェザエモン戦に向けてスキル合体を終わらせた俺は武器制作をビィラックに依頼しログアウトした。
その日から1日、ミュウラやサンラク、エムルちゃん達と新しいスキルの確認とプレイヤースキルの上昇の為にコロッセオで戦い続けた俺はついにウェザエモン戦の前日を迎えた。
「楽は便秘をプレイしていてペンシルゴンはアイテムを買い集めてる。カッツォも別ゲーをプレイ中か……」
日課の筋トレを終えて床に寝転びながらウェザエモン戦へ向けて思考する。
(明日の夜にはウェザエモンと戦っている。俺が出来ることは何だ?)
各々決戦に向けて出来る事をやっている。ペンシルゴンとセツナの為に今、俺に出来ることは何だと考える。そして俺は身体を起こすと
「よし」
そう呟いた。
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「おうおう、久しぶりに来たと思ったら随分熱心じゃねぇか」
その日の夜、俺は道場で師匠である
「俺が道場サボったみたいに言うの止めて下さいよ。師匠がアメリカ行くからしばらく休むって言ったんでしょうが」
受け身を取って立ち上がった俺にそう言う師匠に俺はそう言い返しながら向かっていく。
「そう言えばそうだったな〜」
師匠に向かって放つ右の構えの縦拳を師匠はそう言いつつ躱すと即座に右腕を掴み俺の身体を引いてきた。
自分の勢いを利用され身体が流れる。それと同時に師匠は空いた左足を俺の右足の外側へ交差させて左手で俺の顔を掴むと左足を支柱に崩し技をかけてきた。
正面への流れをいきなり横へと変えられ投げられるが俺は左手を地面につけると浮いた右足で師匠の顔面に蹴りを入れた。
しかし
「マジかっ!?」
「今のは良かった、ぞ!」
師匠は俺の右足をギリギリで掴んでおり、そのまま俺の道着を掴み俺を投げた。
「相変わらず攻撃のスイッチの切り替えが上手いなお前は」
「あっさり受け止めたくせに何言ってんですか」
「そりゃあお前、年季の差よ」
起き上がりつつ師匠にそう言い俺はゆっくりと歩を進める。師匠もゆっくりと歩き俺達はお互いの間合いで構えをとった。
ゆっくりと時間が流れる。構えをとり間合いを更に近づける。
そして、お互いの構える指先が触れた。
師匠は最速の正拳突きを放つが俺は足の力を抜いて落ちた。
古武術に伝わる膝抜き。予備動作を殺す技術。更に膝から股関節、肩と抜き倒れるより滑らかに地面に落ちた。
姿勢は低く力の流れを殺さず旋らせ正拳突きの為に1歩前に踏み込んだ師匠の顔を強襲する。
バチっ、と鈍い音が響き卍蹴りが顔面を捉えた。師匠の体勢が崩れる。俺はその場で蹴りの勢いを利用して身体を押し更に師匠に蹴りを加える。
「フッ!」
師匠は体勢を一瞬で立て直し身体を浮かせた俺に蹴りを入れてくる。師匠の蹴りはもろに俺の身体を捉え俺は軽々と蹴り飛ばされた。
「痛てぇよ馬鹿弟子!」
「俺も痛いですよ!」
受け身をとり身体を起こし再度接近する。間合いに入り師匠は左横拳を繰り出してくるが俺は左手でそれを捉えると手首に手刀を打ち込む。
手刀を打った右手で師匠の左腕を掴み自身の左手で顎に裏拳を入れる。しかし
師匠は瞬間的に顔を後ろを逸らし顎へのダメージを軽減すると俺の左手を空いた右手で掴み足を首を回してきた。
(その体勢から飛びつき三角絞めまで持っていくかよ!?)
師匠の身体の重さで体勢は崩れ前屈みになる。体勢が崩れる瞬間に取っていたはずの左手も離してしまった。
だが、その分右手は空いている。
「グっ…!」
一瞬、俺は全身の筋肉に力を入れ左腕を持ち上げると同時に右手で打撃を放った。しかし
ゴンっ
音が響き俺の右拳は勢いが乗り切る前に師匠の額で受け止められた。
「い……っ!!」
拳の骨が痛む。だが、ここで完全に体勢を崩すと寝技に持っていかれる。それだけは避けたい。
俺は痛む右手を頭の後ろに回し頭をホールドしている足の一本。左足の踝を強く握った。
「つっ……!」
師匠の締めが解かれ俺は少し距離をとる。師匠は俺の握った足に手を添えているが直ぐに立ち上がってきた。
「知ってたのか?」
「1回佐久さんにやってるの見た」
俺がやったのは足にあるツボをついた。ただそれだけ。足の内くるぶしから指4本分の部分にある神経が集中したツボを握った。此処を握られると鋭い痛みが走り抜ける。
「天才だな…」
「皮肉にしか聞こえない」
師匠のセリフに俺は真顔でそう答えた。この人にだけはそのセリフは言われたくない。今まで10年以上挑んで一回も勝ったことがない。そんな人に言われても皮肉にしかならない。
再びお互いの間合いを近づけ構える。
拳を受け止め殴る。崩す。蹴る。技と技の応酬。小さい頃からやって来た試合形式の修練。
時間と共に勘は戻り集中は深くなって行く。次第に拳から武器を使った修練へと移り俺は疲れて倒れるまで師匠と殴り合い続けた。
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「痛ってぇ…」
俺、獅子宮巫堂は身体の痛みで目を覚ました。時間は既に昼過ぎ、余りにも寝すぎたと思ったが、昨日から今日の朝方まで弟子である少年と立ち合っていたのだと思い出した。
「目覚めました?」
痛みに耐えながら目を擦る俺に声がかけられる。声に従って振り向けば愛妻である朱璃がお盆に昼食という名の朝食を乗せて立っていた。
「すまないな、朱璃。こんな時間まで寝てしまった」
「いいえ、大丈夫ですよアナタ。昨日は…今日は朝までやってましたものね」
「あぁ、遊仁の奴め何時になく気合いが入っていたな…」
「えぇ、相変わらず真剣で抑えが効かない様子でしたね」
朱璃が持ってきてくれた飯を受け取りつつベットの受けで手を合わせて食べる。こういう日の後は身体が痛むので無理に動かせない。そんな俺に気を利かせて朱璃が部屋まで持ってきてくれるのだ。
「美味い…」
「それは良かった」
暖かい味噌汁に癒されそう声を漏らした俺に朱璃は笑顔でそう言う。
「そう言えば遊仁はどうした?まだ、道場で寝てるのか?」
そして、自分はあの後に風呂を済ませてベッドに入った事を思い出し道場で倒せるように眠った弟子について朱璃に尋ねてみた。
しかし、朱璃は首を横に降ると
「一時間くらい前かしら?起きてそのまま家に帰ったわ。なんでも約束があるからって」
「そうか…夏休みと言えどあまり無理をしなければ良いが…」
相変わらずな弟子にそう言い飯を食べる。そんな俺の姿を朱璃はジッと見つめながら微笑んでいた。
しばらくして飯を食べ終えた俺は朱璃からお盆を貰って片付けを始めた。朱璃は「片付けも自分が」と言ってきたがそこまでしてもらう訳には行かない。
「美味い飯を食って回復しているから大丈夫だ」
俺はそう言ってシンクで洗い物を済ませてリビングのソファでくつろぐ朱璃の隣に腰を下ろした。
「そう言えばアナタ。遊仁くんが言ってましたけどアナタが作るのに協力したゲーム…なんと言いましたっけ、そう『シャングリラ・フロンティア』が近々面白い事になるんですって」
用意したお茶を二人で飲みながらテレビを見ていると唐突に朱璃がそう言ってきた。
「ほぉ、創世ちゃんが作ったゲームが更に凄いことになるのか…俺が協力したのは1回だけだからなぁどうなっているのかは解らないが…そうか、最近遊仁が楽しそうに遊んでいるゲームは『シャングリラ・フロンティア』だったか」
朱璃の言葉に昔を思い出しながらそう返す。昔馴染みの孫娘に協力して真っ白な部屋で技を全て披露したあの日、それからしばらくして感謝状と多額の金を持ってこられた時は驚いたがそれが世の中の人の為になっていると思うと感慨深い。
「実際に何のためにあんな事を依頼してきたのかは知らないが遊仁を含めてみんなが楽しんでくれていると思うと嬉しい事だなぁ」
「そうですね」
昼下がりの風が開けられた窓から入ってくる。その心地良さに浸りながら俺は幸せを噛み締めたのだった。