その日、シャングリラ・フロンティアでは夏の大型アップデートを終え、プレイヤー達は変更された仕様の確認などに勤しんでいた。
そして、奇しくも新月の夜であるこの日、阿修羅会がアジトを構える隠しエリアでは、月に1回の恒例であるレベルリングの為にある1人を除く全てのプレイヤーが集まっていた。
「遅い!!」
「ペンシルゴンさんすぐ来るって言ってたのに…」
指定の時間になっても集まらない最後の1人、アーサー・ペンシルゴンに怒りを露わにするオルスロットにメンバーの1人が怯えながらもそう言う。
アジトに現れない彼女を待って既に数十分、既に我慢の限界に達していたオルスロットは「もういい」と呟いた。
(アイツのレベルは既に99…今更、レベルリングをしたって意味は無い)
「来ないやつのことはどうでもいい!俺達だけで『秘匿の花園』にい「ごぁッ!?」
集まったメンバーだけで自分達が独占しているユニークモンスターに接触しようと声を上げたその時、彼の目の前で仲間が両断された。
「!?」
驚きながらも仲間を両断したプレイヤーを凝視しその姿を捉える。
「あ、アタックホルダー!?」
白の鎧に黒の大剣、見間違うはずもない。
「お、オルスロットさん…」
「アタックホルダーだけじゃない…」
そして、仲間の怯えた声につられて彼らが見ている先へと彼も視線を向ける。
「な!?」
視線の先には旗が掲げられていた。剣を咥えた狼のエンブレム。それは、あるクランの証明だった。
「『黒狼』っ!」
シャングリラ・フロンティアでトップクランと名高い大派閥。それだけでも驚くのには十分だった。
しかし
「いや…それだけじゃない」
彼の視線の先には黒狼以外の旗が掲げられていた。
「『午後十時軍』『in虎団』『天ぷら騎士団』…連合軍で俺達を潰しにきやがったのか!?」
自分たちを見下ろし武器を構える集団、
「さぁ、悪逆非道の報いを受ける時だ」
「あなたたち……貴様らの悲鳴を今まで殺されてきたプレイヤー達への鎮魂歌にしてあげ……してやる!」
静かにそして力強く勝利を確信したサイガ-100とサイガ-0の言葉にオルスロットは1歩後退りながらも武器を取る。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」」」
そして、迎え撃つ。自分達を殺しに来たプレイヤー達を
今、彼等は獲物となった。今まで自分達が他のプレイヤーを餌として、快楽得る為の玩具として見てきた報いを彼等は今夜、受けることになったのだ。
「く、クソっ!どうやってこの隠しエリアの事を知りやがった!!なんで俺がこんな目に!!!!」
自分を殺しに来たプレイヤーの攻撃を受けながらオルスロットは叫ぶ。そして、そんな阿修羅会の様子を彼女は口を歪めて眺めていたのだった。
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「見ろ!この輝かしい新腰装備!!耐久値が7から22に一気に跳ね上がった!」
阿修羅会のアジトの大掃除がなされている頃、花園に集まったサンラクは新たに手にした装備にテンションを上げていた。
「おめでとう!ティッシュ装甲から濡れたダンボール装甲に昇格だね!」
「焼け石に水だろうけどな」
元々低いVITが多少マシになった程度だが、新装備に浮かれまくるサンラクにカッツォと俺は手を叩いてそう言った。
「何が生きるか分からないだろ?それに、ユウヒだってちゃっかり防具強化してんじゃねぇかよ」
「何が生きるか分からないだろ?」
俺達のセリフに不満があるのかサンラクはジト目でそう言ってくるが俺はそっぽを向いてそう応えた。
街で新装備たる「命潮の腰帯」をサンラクが購入したように俺も防具を新調している。ビィラックに武器制作を頼むと同時に防具の強化もお願いしていたのだ。
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武人の弓篭手【改二】
耐久値+30
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強化された弓篭手は俺の腕にフィットするようになって薄くなった印象を受けるがそんなことは無かった。正直、ウェザエモンの攻撃性能の前では自分の言葉通りの「焼け石に水」だろうが打てる手は打っておきたかった。
「君達ってやっぱり兄弟なんだね」
サンラクと全く同じセリフを言ったからか俺達を見ながらカッツォがそう言って笑う。
「「うるせぇ」」
俺達は声を揃えてそう返しまた笑われてしまった。
「ってか前にお前が進めて来たあのエナジードリンクだけど…ヤバいな!エナジーカイザーが砂糖水に思えてきた!!」
すると、話の流れと空気を変える為なのかサンラクがキマッた目をしながらそう言ってきた。
「新しいエナドリか?」
「ライオットブラットの新フレーバーだよ。アメリカの知り合いに教えてもらったヤツ、サンラクにも教えたの。俺も勇気出して飲んだけど常飲しようとは思わないね」
「あぁ……そう言えば変な柄の缶が一本冷蔵庫に入ってたけどそれの事か」
ログイン直前に飲んで回り始めているのだろう、目を見れば一目瞭然なサンラクに俺はそう言って毒ガエルみたいな色の缶を思い出した。
「そーだお前ら『便秘』で新バク技見つかったんだぜ!」
「「マジか!」」
そして、新たな話題に盛り上がる。これからシャングリラ・フロンティアでの前代未聞の挑戦をしようというのにその緊張感は一切なかった。
緊張感がありすぎるのも問題なのでいい流れと言えなくもない。
すると
「盛り上がってるね」
バク技話で盛り上がる俺らに声がかかった。
「お?きたきた」
「首尾は?」
「表情で察するなら上手くいったで感じだな」
遅れて花園にやってきたペンシルゴンに各々そう言ペンシルゴンは「ユウヒ君正解」と言って応える。
「なんか、アタックホルダーちゃんがやけに張り切っててさ。阿修羅会に個人的な恨みでもあったのかな?」
笑いながらそう言うペンシルゴンは「ま、みんなあるか」と言っているが阿修羅会には同情を禁じえない。
(可哀想だな…)
心の中で髪型しか思い出せない彼に手を合わせる。
「手引きしたのバレたら袋叩きにされるんじゃない?」
俺がそんな事をしている中、笑うペンシルゴンにカッツォが茶化してそう言うがペンシルゴンは気にした様子は無い。
「返り討ちにすればいいじゃない」
サラッとそう言う彼女にカッツォは「ごもっとも!」と笑う。そして、俺達は彼女から送られてきたパーティー申請を受諾し最後の準備を整えた。
「よし、それじゃあ。準備も整った事だし、今回の作戦を伝えるね」
パーティーを組み戦意を漲らせている俺達は彼女の言葉に頷く。ペンシルゴンは俺達を一瞥した後、ウィンドウを操作しギフトとしてあるモノを送ってきた。
「コレが…」
「初めて見たな」
「シャンフロでの蘇生アイテム…」
ギフトを受け取った俺達は各々、そのアイテムに声を漏らした。
「そ、シャングリラ・フロンティアに存在する蘇生アイテム『再誕の涙珠』と『生命の神薬』。1つお値段400万マーニのレアアイテム」
そんな俺達にペンシルゴンはにこやかに笑いながらそう言う。
「400ッ!?」
「高!?」
あまりの値段に俺とサンラクが驚くがペンシルゴンは至って冷静だった。
「それがあっても勝てるかどうかは分からない…。だけど、コレで仲間を回復してスイッチし続ければ勝てる可能性が出てくる。ウェザエモンは特殊勝利系のモンスター、今までの私の経験から察するに時間経過が勝利条件になる。まずは10分、全員の力とこのアイテムでこの条件を達成する」
再誕の涙珠を握り静かにそう告げる。アイテムを握る姿に彼女がどれだけの意思を込めているかがよくわかった。
「………みんな、準備は良い?」
数十秒の沈黙の末、ペンシルゴンは俺達にそう問いかける。彼女の言葉に俺達は頷き。ペンシルゴンも頷き俺達に応えるとセツナが座っていた大樹に歩を進める。
今日、彼女は此処にいない。ペンシルゴン曰く「満月の光がないとダメ」らしい。ペンシルゴンと彼女の願いの為に集まった俺達、此処にいない彼女にペンシルゴンは告げる。
「貴女の願い、私が……いいえ、私達が叶えてあげる」
条件が整い空間が歪み出す。その空間に手を伸ばし
「それじゃあ、会いに行こうか…『墓守のウェザエモン』に」
俺達は歪んだ空間に飲み込まれた。