『
ビィラックがクアッドビートルの角から作った新たな闘杖。先程使っていた紫毒の闘杖の様な特殊な能力はない。
なら何故、俺はこの武器を選んだのか
それは、この武器の耐久値にある。戦甲角杖は特殊な能力を持たない代わりに異常な程耐久値が高い。現状、俺が持っている武器の中で一番の耐久値を誇っている。
(耐久戦にはもってこいの武器!)
「行くぞ!」
戦甲角杖を構えスキルを発動する。特技剪定所での合体により生み出されたスキル「詠唱破棄」、その効果は魔法発動に伴う詠唱を破棄すると言うもの、効果だけ見れば使い勝手の良いスキルだが制約はあり重複して同じ魔法を使用する際とその回数が10回以上の魔法でないと発動が出来ない。
スキルでカバーすることの出来る詠唱回数は20回まで、纏雷を重ねて使用しまくり「圧縮詠唱」と「短縮詠唱」を獲得した俺の経験が反映されたスキルだ。
最大バフ状態になり身体からパチパチと細かく電気が散る。AGIが上がり今までよりも速くウェザエモンに接近する。
「入道雲!」
そんな俺にウェザエモンは太刀を持たない右手を掲げ雲で作られた巨腕を振り下ろしてきた。
「当たるかよ!」
モーションの大きい攻撃にそう叫び、直進してウェザエモンの背後を取る。雲の巨腕は俺のいた場所を薙ぎ払い地面を大きく抉った。
俺は入道雲を使い若干前傾になったウェザエモンの頭に飛び上がりつつ戦甲角杖を振り下ろす。鈍い音が響くだけで意味が無い攻撃だったがやらないよりはマシな気がするのだ。
ウェザエモンはそんな俺を振り向きざまに右手で掴もうとして来たが俺はその腕を右足で蹴りつつ身体を反動で押し出すと距離を取ってから再度肉迫した。
ウェザエモンの剣戟、肉迫する俺を間合いの広い太刀で斬り殺しに来る。パリィと身体操作でそれを躱し、防ぎ、攻撃を加える。
そして
「断か「させるかよ」
「嘘……」
「はぁ!?」
「マジか!!!!」
俺はウェザエモンを断風を発動前に停止させた。
戦いが始まって3分4秒での光景である。
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私は、私達は目の前の光景に見入っていた。
目の前ではユウヒ君がふらっと歩きその横をウェザエモンの断風が通り過ぎるという訳の分からない事が起こっていた。
「凄い…」
ただ、そう言う事しか出来ない。カッツォ君だって目を見開いて「どうなってんの」って言ってる。サンラク君だけは驚いてはいるけど私達とは少し違う感じだ。
「サンラク君、ユウヒ君は何をやったの…?」
私は目の前の光景に目を離せず言葉だけでサンラク君にそう問いかけた。しかし、サンラク君は両手を上げると
「俺にも解らん」
茶化すようにそう言ってきた。
「戦いにおける彼奴の思考考察能力と速度、深度は俺よりも遥かに上だ。リアルでの経験値がある分天と地の差が有るだろうよ。だから、彼奴が何をやってるかの説明は出来ねぇ。………でも、ああ言うのは今に始まった事じゃねぇな」
そして、真剣な顔と眼差しでユウヒ君を見てそう言ってきた。
「そう、なんだ?」
「あぁ、戦いになると生き生きするんだよ、特に相手が強いと尚更な。リアルでもゲームでもさ、ペンシルゴンが嫌ってる幕末でもそうだったんだぜ?」
普段あまり見ることの無いサンラク君の真面目な顔に内心驚いて変な答え方をしてしまったが彼は気にした様子なく笑ってそう言う。
「あぁ『ぼくらの七日間戦争』ね」
サンラクの言葉にカッツォ君が呆れた表情でそう言う。
「『ぼくらの七日間戦争』?」
幕末を止めて長い私は言っている事が解らずに首を傾げるがサンラク君とカッツォ君は楽しそうに話し始めた。
「彼奴、俺とソフトを共有してゲームしてんだけどさ。1年前くらいかな?勝手に俺の部屋から幕末持って行って遊び始めたんだよ」
「俺にも連絡来て付き合ったけどあの時はヤバかったよ。彼奴、初めて早々50人くらいプレイヤー斬り殺してそのままランカーに喧嘩売ったの」
「はぁ??」
カッツォ君の言う事に私は理解が追い付かずそう言ってしまった。そんな私にカッツォ君は「普通はそう言う反応だよな」と笑う
「それを聞いた時は俺も耳を疑ったしそう言う反応したよ。だってまだ初日なんだぜ?武器も何も揃ってないのにランカーに喧嘩売るとか頭可笑しいよな」
サンラク君は当時の事を思い出したのか笑ってそう言った。
「でも、彼奴は6日間で2位までの上位ランカーのありとあらゆるテクを吸収して斬り殺し7日目にユラに喧嘩を売った」
「そんで、勝った。始めて7日目でありとあらゆるテクを使いあの
「だから『ぼくらの七日間戦争』って言われてるのさ。ユラを倒すために吸収したランカーのテクを全て使ったからね」
「有り得ないことをやってのける…。今回と同じだ、俺はそれを何回も見てきた。だから、お前ら程の驚きはねぇな」
そう言って話を締めくくったサンラク君の顔は何処か晴れやかで気持ちのいい表情だった。
「そんなのが兄弟なんてお前も大変だよな」
カッツォ君はそう言っているが私はそんな事は思わなかった。ただ、サンラク君にこんな表情をさせる彼をもっと知りたくなった。
目の前では私達が話している間にも戦闘が続いている。雷鐘、大時化、入道雲、阿修羅会が何度も何度も挑んでやっと見る事が出来た技を使わせそれを捌き、躱す。
「綺麗……」
まるで、踊るように戦い距離を取りまた戦う。そんなユウヒ君の姿に私はそう呟き見入っていた。
そして
「断か「させるかよ」
私達は再び信じられない光景を目にした。
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「断か「させるかよ」
ペンシルゴンとサンラク、カッツォが自分について話している事など露知らず。ユウヒはウェザエモンの断風を発動前に防いだ。
ペンシルゴン達の声など聞こえない程に集中したユウヒは少しだけ体勢を崩したウェザエモンに静かに語りかける。
「予想してた。アンタの攻撃は受ける事は出来ない。レベル差と攻撃性能であっさりと殺される。だが、さっきアンタの攻撃を蹴りで防ぐことができた時、攻撃前の体勢を崩す事が出来れば技そのものをキャンセル出来るのではないかと、予想していた」
静かに語りながら俺はウェザエモンの攻撃を躱す。
「考えれば道理だ。どんな達人も技の起こりを潰されれば意味が無い。師匠ですらそうなんだ。これだけ世界観が作り込まれたゲームで、そのユニークモンスターがその道理から外れるなんてあるわけが無い。それにアンタは武士だしな」
「雷鐘!」
集中が深くなっていく。それを自覚しながら俺は降り注ぐ雷を走って回避する。ウェザエモンは走る俺に太刀を構えて切り込んで来るが俺は足を止めずに応戦した。
先程、俺がウェザエモンの断風を止めることが出来たのにはカラクリがある。至極単純な事だが構えを終えた瞬間にAGIに補正をかけるスキル「ブーストアクション」と「無拳有時」を使い体当たりをしたのだ。
ウェザエモンには俺の攻撃は効かないが慣性は作用する。蹴りで攻撃を回避出来たのだから当たり前だ。それを利用し体勢が整う前に技を潰した。
結果、ウェザエモンは半歩後ろに体勢を崩し断風は無効化出来た。
だが
(スキルを2つも使った上に強力な技がまだまだある。比較的発動がわかり易い断風だったから出来ただけでそれ以外の攻撃は無理だな)
5秒の落雷が終わりウェザエモンの太刀を躱し距離を取る。ウェザエモンは入道雲を発動して来るが俺は巨腕が形成され始めた瞬間に走り出し背後に回り込んだ。
(背後が安地、入道雲の回避は容易いな)
回り込み攻撃を加える。その為に戦甲角杖を振り上げた。
その時だった
「雷…鐘!!」
自分すら巻き込む雷の雨でウェザエモンは俺を焼き殺した。