戦闘狂が行く理想郷   作:烏鷺

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意図せず当たりを引く・其ノ参

「特殊クエストだと!?」

 

俺は突如として出現したクエストに目を見開き固まってしまう。現れた黒毛のヴォーパルバニーは俺の選択を待っているのかその場から一歩も動かずに俺をジッと見つめている。

 

(どう言う事だ?まだゲームを始めて1時間ちょっとだぞ、なんでいきなり??…!…まさかクエストやシナリオの展開もプレイヤーの行動が影響するのか!?)

 

「いや、それしか考えられない。なら、フラグが立ったのはさっきの戦闘のはずだ。戦いの中でクエストの発生フラグを達成したんだ」

 

考えた末に納得出来る答えを見つけることが出来た俺はコチラをジッと見つめるヴォーパルバニーを見る。

 

「俺を急かすことも無くただただ選択を待っているのか……面白ぇ!受けてやるよ!!」

 

ヴォーパルバニーに「お前はどちらを選ぶ?」と問われた気がした俺はそう言うとYESを選択した。

 

気合十分にYESを選択するとヴォーパルバニーは笑い俺に背を向けて走り出した。

 

「待て、お前っ!」

 

まるで「着いてこい」と言わんばかりの行動。ヴォーパルバニーを追って俺も走り出す。しばらくすると俺とヴォーパルバニーはだだっ広い場所に到着した。

 

「なんだここ?木も草も何も生えてない。なんでここだけ?」

 

明らかに手が加えられてそうなった様なその場所に首を捻る。すると、ヴォーパルバニーが球型のアイテムを取り出した。

 

「っ!」

 

戦闘開始かと思い武器を取り出すがヴォーパルバニーは武器を構える俺を無視して球を地面に叩きつけた。

 

地面に叩きつけられた球はパリンっと音を立てて割れると光を放ち始める。

 

「なんだっ!?」

 

あまりの眩しさに俺は声を上げて瞼を閉じる。しばらくして瞼を閉じていても薄く見えていた光が消え俺は瞼を開いた。そして

 

「なんだここ????」

 

視界に映る石壁で囲まれた闘技場のような場所を見てそう呟いた。

 

「よく来た。開拓者殿」

 

「誰だ!?」

 

視界に映る闘技場に目を奪われていた俺は背後から聞こえた声に過剰に反応してしまった。振り向きながらも後ろに跳んで距離を取り武器を構える。しかし、声の主はそんな俺に人の良さそうな声で笑った。

 

「はははっ、いや、驚かせて済まない。ここに来る開拓者は初めてなもので印象に残りそうな登場を考えていたんだがまさか、そこまで過剰に反応してくれるとは思ってなかったよ」

 

いや、『人の良さそうな』ではなかった。『兎の良さそうな』だ。警戒し武器を構える俺の視線の先には、額にハチマキを巻き軽装な鎧を着た兎がいる。

 

なんで、ヴォーパルバニーが鎧を着てるんだとか、色々言いたいがまず1つ。

 

「喋ってる!」

 

そう、俺に背後から声をかけた時と言い今と言いこのヴォーパルバニーは喋っているのだ。モンスターが喋るゲームは珍しくないがシャンフロでは、はじめましてなので驚いてしまう。

 

「はははっ、確かに君たちが相対する連中は喋らずに襲ってくるからね驚くのも無理は無い。…戦いでは一瞬の気の緩みが命取りになる。会話など無意味だろ?」

 

「確かに……その意見には賛成だな」

 

ヴォーパルバニーのセリフに俺は武器を構えたままそう応える。会って1分も経ってないが俺はこの兎と相性が良いと感じてしまった。

 

「ふむ……会話に応えながらも構えは解かないか。素晴らしい!君をここに呼び寄せた甲斐があった。まだ、名乗っていなかったね。私は『エーベルト』。ヴォーパルバニー達の指導官をしている」

 

「俺はユウヒ。よろしく」

 

「あぁ、よろしく」

 

名乗ったエーベルトに応えて俺も名乗り武器をしまう。先程のセリフから俺への好意的な感情が感じられた為、強襲はないと判断したからだ。

 

「それで?エーベルトとやら。『ココ』はどこで俺に『何を』させたい?さっき呼び寄せたとか言ってたが……」

 

当たりを観察しながら俺はエーベルトにそう問いかける。するとエーベルトは笛を取り出し「ピィーッ!!」と音を鳴らした。

 

すると、バッと音を立ててエーベルトの後ろに10体のヴォーパルバニーか現れた。全員がビシッと姿勢を正し後ろで手を組んでいる。さながら軍隊の様だ。

 

「ユウヒ殿、お主をココ『ヴォーパルコロッセオ』に呼び寄せた理由は他でもない。ここに居る私の鍛え上げた生徒たちと戦ってもらう為だ!ユウヒ殿には、訓練の最終試験の試験官になっていただきたい!」

 

そして、10体のヴォーパルバニーの統率された動きに目を奪われていた俺にエーベルトは不敵な笑みを浮かべてそう言てきた。

 

「試験官?」

 

「うむ、森での戦いを私の部下が持つ水晶から見ていてな。ユウヒ殿こそ試験官に相応しいと思ったのだ」

 

エーベルトのセリフに俺は「いつの間に…」と思ってしまった。あの戦闘の中、俺は第三者の乱入に対応出来るように常に気を張っていた。だが、エーベルトの部下は俺に気づかれずに俺の戦闘を観察していたらしい。気づけなかった事を悔しく思うが今はどうでもいい。

 

「その心は?」

 

エーベルトにその真意を問いかける。何をどう判断して俺にそんな事を頼むのか、それを知りたかった。

 

「お主、あの戦いの中で手を抜いていだろう」

 

そして、俺の問いにエーベルトはまた不敵な笑みを浮かべてそう言ってきた。

 

「!」

 

「いや、『手を抜いていた』訳では無いな。お主は、明らかに自分より早く、力強い敵と戦いながら第三者が乱入してきてもまとめて相手が出来るように戦っていた。つまり、お主には『余裕』があったのだ」

 

エーベルトのセリフに俺は声に出さないが驚愕していた。確かに、ヴォーパルバニーのレベルは今の俺より高い。つまり、基礎的なステータスが今の俺よりも高いのだ。だが、この「シャングリラ・フロンティア」はレベル差があっても自前のスキルで戦うことが出来る。それを見抜かれた。

 

「自分より強い敵の攻撃を『技』で捌き。『余裕』を持って的確に仕留めた。私は、君のその『強さ』に感動した。それが君を呼び寄せた理由だ」

 

俺の驚愕を他所にエーベルトはそう言って締めくくる。そして、俺はエーベルトのセリフに口角を吊り上げた。

 

特別なヴォーパルバニーに選ばれたから?『否』

 

シャンフロを始めてすぐに特殊クエストを受注できたから?

『否』

 

「現状…レベルだけ見れば俺より強い奴らと戦える…!」

 

そう、ユウヒが笑った理由はソレだった。跳梁跋扈の森でエンカウントしたヴォーパルバニーは、簡単に倒すことが出来た。しかし、今、目の前に並ぶヴォーパルバニーは特殊クエストのヴォーパルバニー。跳梁跋扈の森に出現するヴォーパルバニーとは違うだろう。

 

強い敵と戦える。それが本当に嬉しい。

 

「俺が試験官だってんならよ。ソイツらぶっ倒しても良いんだよな?」

 

ワクワクを態度に出しすぎない様にしながら俺はエーベルトにそう問いかける。

 

「勿論だ」

 

エーベルトは、俺の問いにニヤリと笑い短くそう答えた。

 

「上等だ。全員ぶっ倒してやるよ」

 

そして、そんなエーベルトに俺はそう言い放ちヴォーパルバニー達の試験が始まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうした、どうした!?まだまだこんなもんじゃないぞ!!」

 

ヴォーパルバニー達の試験が始まり早くも3体目。1体目、2体目を手早く倒した俺は3体目の二刀流で戦うヴォーパルバニーの攻撃をパリィしながらそう叫んだ。

 

ちなみに、1体目は身体に見合わないサイズの刀を持ったヴォーパルバニーであり刀の遠心力を利用した連撃は他にはない強さだったが間合いが自在な杖に対して間合いがある程度固定されている刀では俺に分がある。タコ殴りにして終わらせた。

 

2体目は槍を持ったヴォーパルバニー。巧みに槍を使いこなしていたが槍を上段から振り下ろし地面に刺さった所を上から抑える様にして俺も杖を突き刺しがら空きになった身体に後ろ回し蹴りを決めると槍を手放したので、再び槍を手に取らせない様に立ち回りつつ殴り倒して終わらせた。

 

3体目のコイツも強いが致命の包丁の間合いが全く同じなのでパリィは難しくない。刀と脇差の様に各々の間合いが違うなら話は変わるがそれはどうでもいいだろう。

 

「二刀流は、確かに攻撃パターンが増えるし速度のあるヴォーパルバニーにはいい武器だろうが間合いが同じなら意味ないぞ」

 

致命の包丁の連撃をパリィし続けていた俺だがそう言うと右の致命の包丁を杖の先で大きく弾き同時に半歩前に出て距離を詰める。ヴォーパルバニーはそんな俺を倒すために左の致命の包丁を振るうが俺は刃が届くより先にコンパクトな動きで体当たりを決める。

 

「こういう瞬間の為に間合いの違う武器を持たなきゃなんねぇんだよ」

 

体当たりで吹っ飛んだヴォーパルバニーに俺はそう言うと追撃の為に走って距離をつめると地面に倒れるヴォーパルバニーに杖を振りまた吹っ飛ばす。

 

ヴォーパルバニーは身体をバウンドさせたがすぐに立ち上がり致命の包丁を構えた。しかし、俺はヴォーパルバニーが構えを取る瞬間を狙って杖を投擲し出鼻をくじく、身体に杖が当たり体勢を崩したヴォーパルバニーは俺にとってサンドバッグでしかなかった。

 

蹴りと殴りをラッシュで叩き込み3体目は倒れた。

 

「次」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

特殊クエスト『致命兎の訓練』は着々と進んでいた。恐らく、エーベルトの思惑とは違う形で。

 

(恐らく、全兎が俺を倒して試験クリアって事にしたかったんだろうな…)

 

7体目の戦鎚を持ったヴォーパルバニーの攻撃を杖で受け止めながら俺はそんなことを考えていた。

 

重量級の武器を振るうヴォーパルバニーは今まで相手をしたどのヴォーパルバニーよりも身体が大きく筋肉質な見た目だが素早くない。戦鎚の重さと遠心力を利用した攻撃と兎の跳躍力と戦鎚の重さを掛け合わせた振り下ろしは杖が武器の俺にとって脅威だがそれ以外は大した事ない。

 

全身を使って戦鎚を払い距離をとった俺はヒットアンドアウェイでダメージを与えていく。

 

(しかし、よく鍛えられてはいるが、なんだかんだ言って隙が多いんだよな)

 

コイツを含め7体のヴォーパルバニーと戦ってきたが武器の取り扱い以外の部分で隙が目立つ。勿論、ビギナーエリアに出るモンスターとしては強いがビギナーではない相手にはレアドロップを運ぶ宝箱の様なものだろう。

 

今だって戦鎚の振り下ろしを身体を回転させて避けた俺に体術による攻撃をしてこない。せっかく、地面に戦鎚が埋まり固定されているのだがら上手く使って蹴りでも決めに来ればいいものを何もしてこないのでその一瞬が隙になっている。

 

隙が出来れば当然俺はそこを攻める。

 

「チンタラしてんなよっ」

 

回転の力を利用しヴォーパルバニーの顔に裏拳を叩き込む。クリティカルが発生し吹っ飛んだヴォーパルバニーは動かなくなった。

 

「ふぅ、これで7体目クリア。残り3体か」

 

「いや〜、流石に参ったね。まさか7体兎もやられてしまうとはユウヒ殿の強さを見誤っていたと言わざるを得ないね」

 

息を吐く俺にエーベルトは手を叩いてそう言う。しかし、目には言葉とは裏腹の感情が宿っているのがすぐに分かる。

 

「よく言うぜ、俺に生徒をボコられてはらわた煮えくり返ってるクセによ」

 

「はははっ、目の前で弟子が倒されて嬉しい師なんているわけないだろう?」

 

「そりゃそうだ」

 

怒りむき出しでそう言うエーベルトに俺はそう応えると8体目、腕にガントレットを装備したヴォーパルバニーと向き合った。

 

「ガントレットか…。殴り合いを楽しみたいが今の俺のステータスだと一瞬で倒されるからなぁ…。ちくしょう、このクエストがこんな仕様じゃなきゃ本当に楽しめたのに……」

 

杖を構えてエーベルトを睨みながらそう言う。何故こんなことを言うのか?それは2体目を倒した後まで時計の針を戻さなければならない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふッ」

 

槍を使うヴォーパルバニーの腹に俺の拳が入った。拳に肉を打った時に感じる独特な感触が伝わる。俺はそのまま、拳を振り抜きヴォーパルバニーはコロッセオの壁に身体を叩きつけられて倒れた。

 

「うっし、2体目!」

 

槍の攻撃を捌き蹴りを入れ相手に武器を再度取らせないように立ち回り倒した。ヴォーパルバニーが何処かへと運ばれる様子を見ながら俺はあるコトが起こるのを待った。

 

しかし

 

「……………………………………………………………あれ?レベル上がらなくね?」

 

ソレは起こらなかった。

 

そうなのだ。俺がこの特殊クエスト『致命兎の訓練』を始めた時のレベルは6。その後、1体目を倒した訳だが普通のヴォーパルバニーとは違う明らかなレアなヴォーパルバニーを倒したはずなのにレベルは上がらなかった。その時は「次を倒せば上がるか」とか思っていたが上がらない。意味がわからずステータスを確認するがなんの変化も起きていない。

 

「おいっエーベルト!俺のレベルとか色々上がってないんだけどなんで!?」

 

たまらず俺はコロッセオの観客席で高みの見物を決めているエーベルトにそう言う。すると、エーベルトは「あぁ、そういえば」と言ったかと思うと信じられないことを言いやがった。

 

「この試験の間はお主のレベルは上がらぬ。試験の間に強くなられてはワンサイドゲームになってしまうからな」

 

「なっ………!?」

 

驚きすぎて言葉が出ない。そんな事があるのか。信じられずに俺は地面に膝と手をついた。

 

「マジか……あんなレアで面白い敵と戦って恩恵なしかよ……」

 

全身から力という力が抜けてしまった。もう立ち上がれないかもしれない。そのレベルの精神的ダメージだ。

 

しかし

 

「ユウヒ殿、項垂れるのはまだ早いぞ。アレを見ろ!」

 

運営は俺を見捨ててはいなかった。いつの間にか傍に来ていたエーベルトに示された方を見ると、そこには深緑色の宝石が置かれていた。

 

「何アレ?」

 

「あの宝石はこの試験の時に使われるヴォーパルバニーの秘宝だ。あの宝石がユウヒ殿のレベルアップを止めている」

 

「何!?じゃあアレを破壊すれば「それは出来ない」

 

エーベルトのセリフで一気に身体に力が入り俺は杖を手に宝石を破壊しようと立ち上がったがエーベルトはそう言って俺を止めた。

 

「何で!?」

 

僅かな希望が潰された怒りでそう叫ぶとエーベルトは落ち着いた口調で「話は最後まで聞きなさい」と言ってきた。

 

「秘宝はヴォーパルバニーの宝で見えないが結界が張ってある。それにあの秘宝はユウヒ殿のレベルアップを止めているがそれはこの試験の間、つまりこの試験が終わればレベルアップが始まる」

 

「それはわかるよ」

 

「最後まで聞け。いいか?この時に重要なのはこの試験中に溜まった経験値が試験の終了と同時に一気に精算されると言う事だ。そして、その時にお主には他の開拓者には与えられない特別な恩恵が与えられる。詳しくは秘宝を調べてみなさい」

 

エーベルトのセリフに俺は歓喜した。俺は今まで試験の間レベルは上がらず終わってからもレベル6のままだと思っていた。しかし、そうではなくクエストが終われば一気にレベルアップの時間が始まると言う。そして「特別な恩恵」エーベルトの言ったその内容を調べる為に秘宝に近づくとウィンドウが表示された。そこには

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

致命兎の秘宝

 

致命兎の試験に関わる者の経験値の精算を強制的に止める秘宝。試験終了時に効果は切れ蓄積された経験値は精算される。レベルアップの際に獲得するステータスポイントが3倍になる。

それは、致命兎に協力しながらも枷をつけてしまった事への謝罪と感謝。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「嘘だろ……」

 

あまりの効果に俺は言葉を失ってしまった。獲得ステータスポイントが3倍。低レベルでレアエネミーを10体抜きする事への返礼としては破格すぎる効果だ。

 

「はははっ!」

 

凄すぎて笑うしかない。

 

「エーベルト!次だ!!試験を進めようぜ!!」

 

驚きで立つ力さえ失っていたのが嘘のようだ。全身に力が漲った俺はエーベルトにそう言ってコロッセオの中央に戻った。そこには、既に両手に致命の包丁を装備したヴォーパルバニーが準備しており戦意むき出しの状態だった。

 

「いいんじゃない?俺も今は色々と漲ってんだ。全力で行くぜ!!」

 

ヴォーパルバニーの戦意にそう答えて俺は試験を再開した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まっ、タラレバ言ったってどうしようもねぇわ。8体目、お前を倒せばあと2体。更にギア上げさせてもらうぜ……!」

 

ガントレットを装備したヴォーパルバニーにそう呟き走り出した。

 

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