「雷鐘、入道雲!」
私は目の前の光景が信じられなかった。
目の前で、あのウェザエモン相手に信じられないくらい優勢に戦っていたユウヒ君とサンラク君が、落雷に焼かれ、雲腕に薙ぎ払われて死んだ。
戦況を見て秘密兵器の使い所を探していた私はその光景に絶句した。
「あ」
そんな私の耳に届いたのはカッツォ君の間の抜けた声。
「カッツォ君!?」
「俺はいいから早く2人を!!」
騏驎から落ちるカッツォを見た私は彼にそう言われて即座に動き出した。
(何をやってるの!?2人が殺られたら全てが水泡に帰る!)
自分のミスに悪態をついて2人に再誕の涙珠を投げる。既にギリギリだったが何とか間に合ったようだ。
「サンキュー!ペンシルゴン!!」
「助かった!!」
「ううん、2人が殺られて呆けてた…遅れてごめん!」
復活し私の隣までバックステップしてきた2人にそう言って私達はウェザエモンを見る。
「今の何だか解るか?」
油断なくウェザエモンを見ながらユウヒ君がそう訪ねてくる。
「ごめん、解らない…。連続スキル攻撃と同じく今回が初の未知のスキルだと思う」
ユウヒ君の問に私は力無く答えることしか出来なかった。万全に対策をしたつもりだったのにこの有様。私の都合に皆を付き合わせてデータ不足で戦わせている。
その事実に力が抜けてしまった。
「連続発動の次は同時出しかよ…たまんねぇな」
「あぁ、攻略しがいのある敵じゃねぇの」
だが、私の耳に届いたのは歓喜の色を含んだ声。顔を上げて2人の顔を見ればユウヒ君もサンラク君も笑っている。
「逆境…最高だな。ラク」
「あぁ、燃えるな。ユウ」
そして、そう言うと2人揃って前に出た。
「ペンシルゴン、その天秤…何か策があるんだろ?任せたぞ」
そして、ユウヒ君はそう言うとMPを回復し纏雷を発動するとサンラク君と一緒に走り出した。
「なんで…」
ユウヒ君の言葉に、行動に私はそう呟いた。何で、あんな理不尽な攻撃を食らった直後に笑っていられるのだろう。何故、私を責めないのだろう。
そんな事が頭の中でぐるぐると回っている。
でも
「私が折れたらダメだ」
そう言って私は頭の中の雑念を振り払った。此処で、私が手を止めたら今度こそ終わる。セッちゃんの為にも協力してくれている皆の為にもそんな事は許されない。
「行くよ、対価の天秤!」
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俺とサンラクは走っていた。ウェザエモンに接近する為に
「雷鐘」
ウェザエモンはそんな俺達に容赦なく仕掛けてくるが全て躱して接近していく。頭の中で考えているのはさっきのスキル同時出しの攻撃の事。
(スキル連続攻撃の後から約1分くらいだったか…まさか、此処に来てまだ難易度が上がるなんてな!)
先のスキル連続攻撃。第2フェーズ開始から約1分で放たれた。そして、今回の同時出しも約1分。恐らく、第1フェーズと違い各々1分のリキャストタイムでそのスキルを発動出来るのだろう。
(スキル連続攻撃と同時出しは違うスキルとして…それを連続で使う事は出来るのか?なら、組み合わせは?あぁ〜考える事が多すぎる!!)
要求させる集中力と思考力が増大し疲労が溜まっていく。しかし、感じていた。
自分のプレイヤースキルがどんどん向上しているのを
『逆境でこそ人は成長する事が出来る』
師匠にさんざっぱら言われた事。つまり、此処は俺にとっての逆境と言うことだ。
「負けられねぇな……!」
そう呟き自分に喝を入れ俺はウェザエモンへの接近を急いだ。
「断風!」
そして、断風を躱し自ら接近してきたウェザエモンと武器を打ち合う。弾き、躱し、殴り、躱し、弾き、殴って殴って殴った。
「巫山戯たスキルばっか持ちやがって…あんまワクワクさせんなよ!!」
上がるプレイヤースキル、テンション。全てを使ってウェザエモンと戦う。
「ふはははははっ、はははははは!!最高じゃねぇかウェザエモン!!」
そして、俺と同様にテンションが上がり始めたサンラクも仕掛け始めた。合図なんて何も無い。既に互いが互いに好き勝手に動いている。
「邪魔!」
「危ねぇ!」
俺の攻撃がウェザエモンだけじゃなくて同じく接近して戦っているサンラクにも当たりそうになったがギリギリで躱してくれた。
「入道雲!」
「馬鹿が!!」
俺の攻撃を避けたサンラクを狙ってウェザエモンが雲腕を作り出すが俺もサンラクと直ぐに背後に入り込み同時に背中に攻撃を叩き込んだ。
「ドリルピアッサー!」
「浸透打ち!」
背中に打ち込まれた攻撃にウェザエモンはよろける。そして、その隙を逃がす事は無い。
「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
二人で左右からの連撃を叩き込んでいく。そして
「雷鐘、入道雲!」
ウェザエモンは自分も巻き込んで再び同時出しを発動してきた。
落雷を躱しながら雲腕の動きを見る。今、まさに俺達を薙ぎ払う為に雲腕は動いている。しかし、今度こそ俺達はスキルの同時出しを回避することが出来た。
「危ねぇな!」
「ウェザエモンの近くにいなかったらまた殺られてた、難易度高いが『近くにいること』が攻略方法だ!」
「あぁ、そうだな。距離がある時にあれをやられると背後に入る前に落雷で邪魔されて結局入道雲に殺られる!」
お互いに攻撃をしながらそう言い合う。お互いの意見の一致に頷いた俺達は接近戦に重点を置いてまた好きに動き始めた。
その時だった
『ドクンッ』
「うお!?」
「何だ!?」
心臓が跳ねたような感覚が伝わり俺達の身体をエネルギーが包んだ。そして、視線を向けるとペンシルゴンが天秤を片手に頷いてきた。
「なるほどペンシルゴンの秘策か!!」
彼女の頷きにそう叫び俺とサンラクはウェザエモンから少し距離を取って自分の状態を確認した。
「敏捷が上がってる!」
「俺は幸運とスタミナだ!」
状態を確認すればステイタスに表記されているAGIが上昇していた。恐らくあの天秤の効果だろう。
「いいんじゃない?」
俺はついでにスタミナを回復して武器を構えた。
「俺も行くぜ」
隣を見ればサンラクもスタミナを回復して武器を構えている。
「行くぜウェザエモン。ここからだ!」
そして、そう叫んで俺とサンラクは走り出した。
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「カッツォ君!まだ、騏驎を制御出来る!?」
天秤を構えた私は騏驎の頭に乗って上手くあのじゃじゃ馬をコントロールしているカッツォ君にそう尋ねた。
「あぁ!此方はまだまだ大丈夫!!」
「頼もしいねぇ!」
そして、カッツォ君の自信満々の返答にそう返すと私は詠唱を始めた。
「『天秤は均衡を保つ、価値を数値に』」
ずっとウェザエモンも戦り合う2人を見ていた。私が出来る最大のサポートをする為に
「『万夫不当の力を』」
彼らの武器を更に向上させる為に
「一時的と言う制限のもと『追加ステータスポイント』の恩恵を得る。レートは10万マーニで1ポイント…私の全財産、合計300ポイント…!!」
構えた対価の天秤の左の皿に私の全財産を捧げる。
「セッちゃんの為に50ポイントづつ。持って行って!!」
そして、私はユウヒ君とサンラク君に対価の天秤からの恩恵を授けた。