特殊クエスト『致命兎の試験』は続く。既に7体のヴォーパルバニーを倒し8体目のヴォーパルバニーと戦っているユウヒはこのクエストで初めて杖を手放した。
杖を捨て空いた両手を駆使して殴り合いに応じたのである。
「シッ!」
兎の跳躍力を活かした接近で右横拳を繰り出したヴォーパルバニーに左構えの縦拳を放つ。ボクシングのジャブの様に素早く放たれた拳はヴォーパルバニーの顔面を捉えた。
「フッ!」
パンッと音がなりヴォーパルバニーは殴られた衝撃で顔を上に向けた。顔と一緒に視線が上に向きヴォーパルバニーはユウヒを捉えられていない。その隙を逃さないユウヒは腹にアッパーを叩き込みその衝撃で身体が更に浮いたヴォーパルバニーに回し蹴りを決め壁に叩きつけた。
8体目との戦闘開始から1分。
ユウヒはクエストの戦闘の中で最速でこのヴォーパルバニー。撃破した。
「次だ」
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9体目はガントレッグを装備したヴォーパルバニーだった。今まで戦ったどのヴォーパルバニーよりも大きく俺の身長の半分くらいの背丈があり。ガントレッグを使いこなす為に鍛えられたであろう足は太く今の俺が攻撃を受ければ最悪一発で死ぬ可能性があった。
そして、何より厄介だったのは
「クソッ、常に上を取られるのマジでムカつくなっ!!」
足を活かした跳躍による頭上への位置取りだった。
兎が空から強襲する鷹に捕まる様に
川を泳ぐ魚がカワセミに食われる様に
生物は自分より高い場所からの攻撃に凄く弱いと言う共通の弱点がある。では、何故高所からの攻撃に弱いのか。それは、反撃が難しいからだ。
高所から攻撃する時に使われるのは足だ。そして、足は腕よりも長い。つまり、上から来る足に対して腕で対抗しても確実に足の方が自分の身体に先に触れる事になる。
そして、生物。特に人間は何か起きた時咄嗟に頭を守ってしまう。上を捕られると頭を守るという意識が強くなりそして、守ってばかりでは反撃が出来ない。受け身の状態になってしまうのだ。
「クソッ」
この戦いで何度目かも分からない上からの蹴りを躱した俺はそう声を漏らした。俺の相手をするヴォーパルバニーは俺のことは一切気にせず着地からの蹴りを連続で放ってくる。
先程からコレの繰り返し。受けや回避を回ろうものなら次には連続の蹴りが飛んでくる。全て捌けているので問題は無いが受けに回るしかないこの状況はとてもフラストレーションが溜まる。
「ふぅ〜っ」
連続の蹴りを全て捌き距離をとった俺は苛立ちを吐き出すように息を吐き飛び上がったヴォーパルバニーを目を追いかける。
9体目の戦闘が始まって既に3分が経つ。ヴォーパルバニー自体の間合いは把握出来た為反撃に出たい所だが1つ厄介は事がある。
「あのガントレッグの仕組み…面倒くさすぎなんだよっ!」
そう、あのガントレッグだ。
あのガントレッグの踵部分には折りたたみ式の刃が取り付けられている。この刃が厄介なんだ。どんな仕組みかは分からないが、蹴りを避けても刃が開かれたり、普通に蹴ってきたりと間合いを掻き乱してくる。更に面倒い事に左右で刃の長さが違うのだ。そのせいで更に間合いがめちゃくちゃになる。
「上から来られると刃と足が一直線上に並ぶから見えずらいっていうのも面倒くささに拍車をかけてる」
正直、上から来るだけだったら簡単にカウンターを決められたのだが刃があるせいで簡単にカウンターを決めに行けなくなった。
(1回、焼き鳥みたいに串刺しになりかけたしね……)
だが、策はある。
その策を決める為に今まで受けに徹してきたのだ。次で決める。
意志を固めた俺は再び上からの蹴りと着地からの連続蹴りを捌き。距離をとった。身体は壁際、傍から見れば追い詰められた様に見えるだろう。
だが、それが狙いだ。
距離が出来たことで再び上に飛んだヴォーパルバニーは俺に蹴りを放つ刃は開かれ間合いは伸びている。それを確認した俺は
壁を使い2段ジャンプをしてオーバーヘッドキックをヴォーパルバニーの顬に決めた。
クリティカルが発生しヴォーパルバニーは蹴り飛ばされ勢いそのまま地面に激突し倒れた。
開始から5分近くたって俺は9体目をクリアした。
「流石だ、ユウヒ殿。まさか、私の鍛え上げた生徒達が一回も倒せずにやられるとは。いやはや、お主の強さは凄まじいな」
9体目をクリアするとエーベルトは拍手をしながらそう言ってきた。相変わらず怒りが隠せていないが厄介な敵の後だ。言い返すのは程々にしておこう。
「色んなヴォーパルバニーと戦えて楽しかったよ。次で最後なのが惜しいくらいだ」
「9兎と戦い抜いてもなお衰えない闘志と気迫。……やはり、ユウヒ殿を選んだ私の判断は間違ってはいなかったようだ」
「そうなのか?あんたの生徒の何兎かは俺を倒せる算段だったんじゃないのか?」
エーベルトのセリフに戦いながら気になっていたことを聞いてみたがエーベルトは「いいや」と言って首を横に振った。
「確かにここまでやられるとは思っていなかったが大量に勝ち星をあげられるとは思っていないさ。勝てても5回くらいになるだろうと思っていた」
「あぁ、それには納得だ。後半になるにつれ強くなってたし明らかにガントレッグのヤツは他とは厄介さが段違いだったしな。……ガントレッグのヤツは他の生徒より教えた期間が長いのか?」
エーベルトのセリフに納得した俺はふとそう訪ねるとエーベルトは首を縦に振った。
「あぁ、彼奴とガントレットを装備した者。そして、これから戦う者は他の生徒よりも長く教えた。正直、ガントレットのあの子が瞬殺されるとは思わなかったが……」
エーベルトのセリフに俺は苦笑いを浮かべた。
(実は、殴り合いにはステータス関係なく俺に分があるって直ぐに分かったので少し手加減してました。なんて言えねぇわ)
「どうかしのか、ユウヒ殿?」
ずっと苦笑いを浮かべている俺を不思議に思ったのかエーベルトがそう言って俺の顔を覗くが俺は「なんでもねぇよ」と応えてヴォーパルコロッセオの中央に歩き出した。
「少し休憩も取ったし次に行こう。さっさと最後の兎を出してくれ」
「わかった」
ユウヒのセリフに応えエーベルトは指を鳴らす。すると、コロッセオの扉が開き『杖を持ったヴォーパルバニー』が現れた。
「マジかよ……」
ヴォーパルバニーを見たユウヒは口角を釣り上げた。
先程のヴォーパルバニーと同じくらいのサイズだが武器が自分と同じだ。つまり、これから始まるのは試験であると同時にエーベルトが長く教えたヴォーパルバニーとの『どちらが杖の使い手として上かを決める戦い』という訳だ。
「やってくれるぜ」
そう言ってコロッセオの観客席に視線を向ければエーベルトは「お手並み拝見」と言った目でユウヒを見ていた。
「上等だ。………始めようぜっ!」
エーベルトの視線にそのセリフで応えたユウヒは笑みを深めてその場から飛び出した。