最後の再誕の涙珠を使い蘇生を果たしたユウヒとサンラクは正眼で太刀を構えるウェザエモンと対峙していた。
「晴天大征」
「断風」
そして、ウェザエモンの攻撃に反射して動き始める。
「断風」
「断風」
「断風」
一瞬の静寂を無かったことにする程、大きい音が鳴り緊張の糸がどんどん張られていく。
「雷鐘!」
降り注ぐ落雷をユウヒとサンラクは巧みに躱しウェザエモンへの接近を試みる。
しかし、ウェザエモンの技は止まらない。
「火砕龍!」
雷鐘とセットで襲ってきた第3の腕を交わしていた2人にノータイムで火の龍が迫る。しかし、既に何回も見た攻撃、2人は完璧に回避し続く「灰吹雪」も完璧に回避した。
「入道雲」
そして、ウェザエモンはユウヒを標的にし雲腕を伸ばす。スキル「インパクトステップ」と「スライドムーブ」を使いそれを回避する。
背後に侵入したユウヒは迫り来る第3の腕を警戒して横へと跳ぼうと足を止めた。
「ユウ!」
「大時化!」
ウェザエモンは第3の腕の動きを止めると左手をユウヒへと伸ばしてきた。
(囮か!!)
今までに無かった動きに驚くがユウヒは反射的に上へ跳ぶ。体勢の整わない跳躍の為、高くはないが足を限界まで曲げてギリギリで大時化を回避した。
そして、その隙にサンラクが背後から近づきその背中に斬撃を決める。クリティカルが発生し兎月【上弦】【下弦】の合体ゲージを蓄積した。
「天…晴!」
「止まらねぇのか!」
しかし、ウェザエモンはダメージを気にする事なく太刀を振るう。その姿にユウヒは口角を上げて呟く。先程とは違い今度はユウヒだけを斬り殺しその身体をポリゴン塊へと変えさせようとした。
「行け!」
サンラクは急ぎインベントリから生命の神薬を取り出して投擲した。ユウヒの身体でワンバウンドした神薬はユウヒを蘇生し再び立ち上がらせた。
「ありがとな!」
立ち上がったユウヒはそう言いつつウェザエモンと距離を取り兎月【満月】を構える。
(「晴天大征」…ここまで喰らってわかったことがある。まず第一にこの技は喰らうと必ず死ぬと言うこと。レベル99のプレイヤーが防御にバフを積んでも確実に死ぬ。そして、この技は最後に「天晴」を放たなければ終わらないと言う事。そして、最後にウェザエモンの言葉から察するに最後の「天晴」を攻略しないとウェザエモンは倒せないと言うこと…)
「はははっ」
視線の先にいるウェザエモンへの考察に笑いが出る。攻略の鍵が見つかった事で出た笑いではない。その難易度の高さに出た笑みだ。
(世界観がここまで作り込まれたゲームだ…。現実のルールに沿っている部分は完璧に沿っているはずだ。つまり、あの「天晴」を攻略する為には、太刀の側面にダメージを与えて太刀を破壊しなければならない)
刀は折れやすい。剣刃に真っ直ぐ力を乗せる事が出来なければ斬ることが出来ない上に刃と峰の強度の違いから世界最強の刃物と呼ばれながらも横からの衝撃に脆いという弱点がある。
ユウヒはシャングリラ・フロンティアと言うゲームの理不尽さを楽しみながら製作者の徹底したリアルへの追求をこの戦いの中で感じ取っていた。
(リアルを追求出来なきゃウェザエモンにあんな動きをさせるのは無理だもんな)
第3フェイズに入ってから明らかに変わったウェザエモンの動き。恐らくそれはサンラクも感じていた事だが、ユウヒだけがその動きが正しい武士の動きである事に気がついていた。
そして、モンスターから武士へと変わったウェザエモンに対してユウヒは「感謝」の念に近いものを抱いていた。
「断風!!」
自分とサンラクを両断する為に放たれた斬撃を躱し接近し兎月で殴る
(嬉しいぜ…アンタみたいな強者と戦えて)
「断風!!」
最小の動きは斬撃を空振りにし、その隙をつく
(この世界でアンタと対峙出来ている……どれ程のことかっ)
「火砕龍!!」
地から溢れ出る炎の龍を躱し続け
(あぁ…!!)
「灰吹雪!!」
天に作られた黒雲からの攻撃を躱し
(本当に…)
「雷鐘!!」
降り注ぐ雷の雨を走り抜け
(本当に…)
「大時化!!」
迫り来る右腕を蹴り上げ
(本当に…)
「入道雲!!」
左腕から溢れ出した雲で作られた巨腕を背後へ走り抜ける事で回避し
(本当に…)
「天晴!!」
足を固められ襲い来る白刃を見つめ
(なんて美しいんだッ!最高だ!!シャングリラ・フロンティア!!)
自身の身体を両断する相手に対して抱く感情ではない。ゲームだからこそ抱く感情なのだろう。全ての技を躱しきり迫り来る白刃を前にユウヒは笑っていた。
だからこそ
「勝つ!!」
そして、サンラクの手で蘇生したユウヒは口角を釣り上げてそう言葉に出した。
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一方、サンラクもユウヒと同様にウェザエモンの攻略の方法に辿り着いていた。
(『超えなければ倒せない』…つまり、あの天晴を真正面から打ち破らなければならないと言う事。何度も斬られたから解る。あの技を攻略する為には刃ではなくその側面を弾かなければ意味が無い。その為には俺とユウがタイミングを合わせて確実に太刀を破壊するしかない)
「断風!!」
「断風!!」
自分とユウヒを両断する為に放たれる斬撃を躱し
(出来るか?俺に)
「火砕龍!!」
地から溢れ出る炎の龍の猛攻を躱し
(いや!やるんだよ!!)
「灰吹雪!!」
天に作られた黒雲からの攻撃を躱し
(ウェザエモンには負けねぇし…)
「雷鐘!!」
降り注ぐ雷の雨の中を走り抜け
(ユウにも負けねぇ!!)
「大時化!!」
(成功以外に価値は無し!)
ユウヒを狙う右腕と同時に動き出した第3の腕の攻撃を躱し
「入道雲!!」
(必ず成功させて…)
巨大な雲腕が自身を殺す前に背後へ走り抜け
「勝つ!!」
ウェザエモンの手で斬られたユウヒへ生命の神薬を投げつけてサンラクはその言葉を口にした。
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生命の神薬。プレイヤー一人につき5個の所有を認められる蘇生アイテム。1回の使用で最大HPまで回復することの出来る再誕の涙珠とは違いHP半分での回復となるが、生命の神薬がユウヒとサンラクの生命線だった。
そして、もう一つの生命線。それはユウヒとサンラクが手にする武器であった。
第3フェイズが始まってからクリティカルの発生条件が比較的緩和され蓄積は十分に進んでいた。そして、ウェザエモンが「晴天大征」を発動してからも回避の合間を縫うように少しずつ少しずつ攻撃を加えてゲージの蓄積を進めていた。
そして
「間に合ったな」
「ようやくだぜ」
何度も何度も斬り殺され最後の生命の神薬を使用したユウヒとサンラクは立ち上がり
「余剰分のMPの完全蓄積完了!!兎月【満月】…変形ゲージMAX!!」
「『餓狼の闘志』『クライマックス・ブースト』共にリキャストタイム終了。兎月【上弦】【下弦】…合体ゲージMAX!!」
ユウヒは身体に雷を纏い、サンラクは頭装備を半壊した戦角兜【四甲】から凝視の鳥面へ変更し武器を構えた。
「「究極の一太刀、攻略して
最後の攻防、蘇生方法を失いつつも準備の整ったユウヒとサンラクは武器の姿を変える。
ユウヒの兎月【満月】は白い杖体を漆黒へ変えて三節に分かれ
サンラクの兎月【上弦】【下弦】はその刀身を重ね合わせて対刃剣から太刀へ
その姿を変えた。
「
「
「晴天大征……断風!」
そして、最後の覚悟を決め武器を構える2人にウェザエモンは斬撃を放つ。見切った攻撃を2人は最小の動きで回避し
「火砕龍!」
ウェザエモンが太刀を地面に突き刺した瞬間に2人は走り出していた。炎の龍がユウヒとサンラクを焼き殺す為に襲いかかり生み出された灰が天に登っていく。
「灰吹雪!」
灰は集まり体を成す。出来上がった黒雲は上空からユウヒとサンラクを攻め立てるがユウヒは纏雷で上がったスピードで攻撃範囲から即座に離脱し、サンラクは範囲内で全てを避けて凌いだ。
「入道…雲!」
そして、距離が離れたユウヒを無視してウェザエモンは近くにいるサンラクに雲腕を伸ばす。それに対しサンラクはウェザエモンの背後に走り抜け、ユウヒはウェザエモンがサンラクへ動いた瞬間にあえて動き近づく事で第3の腕のヘイトを稼ぐ事でサンラクへの追撃を防止した。
「大時化!」
近づいて来たユウヒを狙うようにウェザエモンは左腕を伸ばす。しかし、ユウヒはギリギリの回避からウェザエモンの背後に回り込んだ。サンラクは、先程のユウヒと同様に第3の腕のヘイトを稼ぐ為にユウヒよりも更にウェザエモンへ近づき背後へ周り込む。
そして、第3の腕が上段からの振り下ろしで地面を砕くのをサンラクはステップで、ユウヒは跳躍で回避する。
「『インパクトステップ』」
ユウヒは着地と同時にスキルを発動し兎月【新月】を構えた状態でサンラクと左右で並んだ。今までの攻防の中で調整していた自分とサンラクの位置が噛み合っう。途端、足が固定され2人の持ち味である敏捷が封じられてしまう。
「グッ…」
そして、サンラクは足が固定された瞬間に双弦月で自身の胸を突き刺した。HPがみるみる減少していきとうとう1まで減ってしまった。
しかし、そこで減少は止まる。
偶然ではない。運営によって実施された「夏の大型アップデート」それにより『食いしばり』の発動条件が変更されたのだ。
(幸運値が50以上かつ、自傷ダメージ及び反動ダメージで戦闘不能になった場合1度だけ、体力1で確定で耐える事が出来る!)
そして、HPが1になった事により条件が揃いスキルが唸りを上げる。
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「クライマックス・ブースト」
HPが3分の1以下の状態時のみ発動から5分間、敵のレベルが自身より高いほど全ステータスの上昇率が強化される。
「
自身が空腹かつ体力が少ない程1分間だけSTR、AGI、VITにバフが付与され代償としてSTM、DEX、TECにデバフが付与される。
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ユウヒと違い纏雷を持たないサンラクにとってウェザエモンの天晴に食らいつく為には必須のスキル。
そして、サンラクと並んだユウヒは兎月【新月】を構え
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「
溜めからの行動時AGIにバフが付与される。
「
自身よりレベルの高い相手との戦闘時、全ステータスにバフが付与される。
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2つのスキルを発動させ最大バフの纏雷でも僅かに足りないAGIを強化する。
「天……晴!!」
「
「
足を封じ行動の取れなくなったユウヒとサンラクに上段からの振り下ろしが迫る。しかし、それと同時にユウヒとサンラクは各々の武器を両側から振るいユウヒは中節を、サンラクは鋒をウェザエモンの太刀の側面に叩き込んだ。
武器と武器のぶつかり合い。轟音が響き渡り雷光が弾け衝撃が走り地面を割る。
「終われ!墓守のウェザエモン!!」
「眠りな!墓守のウェザエモン!!」
ユウヒとサンラクの言葉と同時にウェザエモンの太刀にヒビが入り、そしてユウヒの振るう三節棍、兎月【新月】の一節が一瞬遅れてウェザエモンの顔を捉えていた。
太刀の破壊と同時にウェザエモンの顔のアーマーが破壊され2人の攻撃によって吹き飛ぶ。太刀を持っていた両腕も壊れもう技を使う事は出来ないだろう。
「ありがとう、ウェザエモン」
「ウェザエモン、お前は強かった」
「「究極の一太刀、攻略完了だ!!」」
そして、最後の一撃を決めた2人は笑顔でウェザエモンにそう告げた。