「やっぱりいたね」
俺達が花園から千紫万紅の樹海窟へ出ると花園の入口でたむろしている阿修羅会のメンバーと出くわした。
「あ、前にあった奴」
「お、お前らぁっ」
1番前に見知った顔がいたので反応してしまったが、当の本人はそんな状態では無いらしい。
「此奴が例の?なんだっけ…赤点のオルスロット??」
「んだそのダサい2つ名。ウェザエモンかよ」
「あははっ、ウチの愚弟にそんな仰々しい名前いらないよ」
俺達に何か言いたそうに口を開いたオルスロットだが、サンラクやカッツォ、ペンシルゴンに言葉を被せられ喋れなくなってしまった。
しかも、辻斬り的にディスられた事で額に浮かべた青筋を更に濃くしている。
「此奴らはPKの粋を理解していない。イキっているだけの三流だ」
「やはり、拠点の場所を漏らしたのはお前だな!?」
ペンシルゴンのセリフから事態を完璧に理解したのかオルスロットはそう叫ぶがペンシルゴンは柳に風とニヤリと笑って受け流した。
「やったらやり返される。ぶくぶく太って痩せるのが怖いからって、チキンになっちゃってさぁ…。だから、私が腹パンして腹の中のモノ全部吐かせた。それだけだよ」
「うわぁ…」
「PKに一家言姉貴怖いですわぁ」
「いい顔してんじゃん」
実の弟を「愚弟」と言い切るだけの事はある。実にゲスく迫力のある笑みでそう言うペンシルゴンに俺は笑ってしまった。
「余裕かましやがって…!!」
ペンシルゴンの発言にオルスロットは歯ぎしりして怒りを噛み締めるがとうとう我慢の限界だったのか剣を抜いて仲間たちと襲ってきた。
「どうせウェザエモン戦で疲弊してんだろ!?お前ら全員ぶっ殺して、ドロップアイテム根こそぎ接収してやるぜ…!!」
「いいね!」
激闘の後とは言え最強種を討伐したプレイヤー達に挑む。そんなオルスロット達の気概に俺はインベントリから武器を取り出して前に出るが
「はいストップ、ユウヒ君。もう手を打ってあるから」
ペンシルゴンに首根っこを掴まれて止められてしまった。俺はペンシルゴンに「なんだよ手って?」と問いかけたがその答えは彼女が答えるより先に
「お待たせしました。サンラクさん」
俺達とオルスロットの間に魔法陣が展開され中に人が現れる。
「オルスロットさん!!此奴は!!」
白の鎧に190cmの巨体。
「んな…!?」
そして、その手に持つ黒の大剣。
「また、テメェか!!
はじめましてのプレイヤーだが、一目でわかる。圧倒的にオルスロット立ち寄りも強い。そんなプレイヤーが彼等の前に立ちはだかった。
「いや〜、急に悪いね。サイガ-0さん」
「…いえ」
(サイガ?)
どうやらサンラクの知り合いらしいサイガ-0と呼ばれるプレイヤーに俺は何か引っかかり首を傾げるが、彼はサンラクに静かに答えるとオルスロット達に視線を移し告げた。
「阿修羅会の残党…。
ペンシルゴンが前に言っていた作戦の内容的にも逃げてきた事は確定だった訳だが、煽りにしか聞こえないセリフにオルスロットが額に青筋を浮かべた。
「どいつもこいつも…俺達を舐めやがって!!」
そして、絶対に叶うわけがないサイガ-0に彼等は武器を振り上げて向かっていった。
「あーあ、可哀想だな。てか、どう言うシステムだ?」
「『救難信号』ってシステムだよ。PK対策の1つでフレンドに信号を出して助けてもらうの。まぁ、フレンドが『
目の前でサイガ-0に蹴散らされていく阿修羅会の連中を眺めながらペンシルゴンのセリフに相槌を打つ。当たり前の事だが、始めたばかり過ぎて知らない事が多すぎると実感させられてしまった。
「ペンシルゴンもやられたことあんの?」
ふと気になり俺は隣で説明してくれたペンシルゴンにそう尋ねる。
「やられた事はあるけど、私は召喚されたプレイヤーもキルしてたから実害はなかったかな」
「流石」
笑ってそう言う彼女に俺はそう返し前を見る。
「お、倒れた」
すると、ちょうど最後まで残っていたオルスロットが力尽きたように倒れた。
(中々良い太刀筋だったな。リアルで剣を振ったことがあると見た)
俺はオルスロット達を蹴散らしたサイガ-0にそんな感想を抱いたがペンシルゴンは倒れたオルスロットにナイフを持って近づいていく。
「お、俺の築き上げて来たものが…お前らなんかに…」
自身に近づいてくるペンシルゴンにオルスロットは悔しそうにそう言うがペンシルゴンは「えい」と軽い口調で手にしたナイフを投げた。
背中にナイフが刺さったオルスロットはそのまま身体をポリゴンへと変えて散った。場には彼等が持っていたアイテムが散らばりペンシルゴンはそのアイテムを自らのインベントリにしまい始めた。
「本当にありがとうサイガ-0さん。早く来てくれて助かったよ」
「ありがとうございます」
「助かりました」
ペンシルゴンの様子を見ながら俺達はサイガ-0に近づき礼を言う。サンラクに続きカッツォ、俺と礼を言う。しかし、彼は先程の戦いぶりとは打って変わって慌てた様子で「き、気にしなくて…いい…」と言ってきた。
「それよりも…ユニークモンスター討伐…おめでとう…ございます!!」
続く言葉も何処か慌てて落ち着きがなく俺達はそんな様子に首を傾げてしまった。すると
「サイガ-0ちゃん」
オルスロット達が持っていたアイテムの回収を終えたペンシルゴンが1本の剣を持ってサイガ-0に話しかけた。
「悪いけど、ついでに私の事もキルしてもらえる?」
そして、笑顔でこんな事を言いやがった。
「「「は?」」」
俺、サンラク、カッツォの声が重なる。
「報酬は再誕の涙珠全てと阿修羅会が保有していたアイテム全てでどうかな?」
「おいおい、良いの?確かPKKのペナルティは全アイテム没収に加えて罪の重さに応じて莫大な罰金も支払う事になるんだよね」
「ペンシルゴンの事だから凄い金額になりそうだな」
「アイテムの没収もあるのか…マジで良いのか?」
理屈で言えばウェザエモンの戦利品まで持っていかれてしまう。ペンシルゴンの考えが読めない俺達はそう言うが彼女は「大丈夫、大丈夫」と答え続ける。
「私だけノーリスクなんて愚弟以下のマンチキンだし?いい加減PKも飽きてきたからここらでスパッと罪を精算しようかなってね」
目標としていたウェザエモンの討伐を成し遂げたからなのかあまりにもあっさりとした様子に俺達は唖然としてしまう。
「とは言え…私もプレイヤーキラーの端くれ、首切り介錯を大人しく待つ程良い子ちゃんじゃない…」
しかし、ペンシルゴンはそう言いサイガ-0に手にした剣の鋒を向けて言い放った。
「『最大火力』の称号と1度本気で殺り合いたかったんだよね…!!」
あっさりとした様子から打って変わって真剣な目をするペンシルゴンを見つめたサイガ-0は最後にサンラクの事を見つめると自身も剣を取った。
「受けて立つ…。魔王天帝…反転…【天帝魔王】!」
サイガ-0の詠唱と共に黒の大剣が白の大剣へと変化し同時に鎧が白から黒へと変化する。
「噂に名高い『最大火力』のユニーク武器【神魔の大剣】か…まさか『反転』まで見せてくれるなんて、太っ腹だねぇ」
イメージ的な問題なのか、白より黒の方が強そうに見える。ユニーク武器という事なので他の武具とは一線を画すであろうその武器をペンシルゴンへと向けてサイガ-0が話し出す。
「姉さ…団長から貴女の事は聞いている。すぐ逃げるので油断せず、見つけ次第一撃で確殺しろ、と」
「「蜚蠊の話か(してる)?」」
「あ?アンタたち確殺決定」
「あーあ、やらかしたね。2人とも」
俺達のセリフに青筋を浮かべたペンシルゴンにカッツォが笑う。サンラクは何故か俺の背中に隠れて無言のドヤ顔をしているが助ける事を期待しているのならそれはお門違いだ。
「殺しにくるなら殺すけど、此奴を殺すのには兎や角言わないから自由にやっていいぞ」
「なんて事言うんだ、弟よ!?」
サンラクが凝視の鳥面越しでも解る悲痛な表情でそう言うがサンラクがこう言う反応をしている時は得に何ともない時なのでシカトした。
「ふふふっ、君達ってやっぱり似てるね。…でも今は『最大火力』を待たせてるからそれはまた今度にしようか」
そんな俺達にペンシルゴンは笑い剣を構える。
「『血を啜れ、肉を喰い千切れ、死を噛み締め命を吐き捨てよ。汝は殺戮者。屍の山で高らかに謳え』」
そして、剣の変形と詠唱と共に自らにバフをかけた。
「おお!スゲェ!!強力なバフのてんこ盛りだ!!」
「何あの剣…キモっ」
「手首の固定とか…寧ろ弱体化だろ」
ペンシルゴンが放つバフのオーラにサンラクがテンションを上げているが俺とカッツォは平然とそう言う。
「『廃人狩り』。貴女が相手なら容赦は…しない!!」
そして、ペンシルゴンに対抗するようにサイガ-0も自らにバフを施しオーラを放つ。
「おーとっ!こっちはこっちでえげつない事になってるぞ!?」
「もはや魔王だね」
「良いね」
互いの本気でのぶつかり合い。その前兆の張り詰めた空気の中、俺は口角を上げてそう呟いた。
そして
「さぁ!始めようか!!」
ペンシルゴンのセリフと共に火蓋が切って落とされた。
「行ったァ!!お互い最大バフでのぶつかり合いだぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「ウェザエモンのやり合ったあとなのに何でそのテンションで行けるのお前?」
「阿呆だなカッツォ。あの戦いの後だからだよ」
激闘の熱が冷めきらないまま面白い戦いに遭遇してしまったが故のハイテンションを見せるサンラクに俺はそう言いペンシルゴン達を見る。
樹木を利用した立体機動をものともせずサイガ-0は武器を持っていたペンシルゴンの腕を切り落とすが、彼女はその腕事武器を振りサイガ-0に攻撃を仕掛けた。
「ならば…これで終わらせる」
サイガ-0はペンシルゴンの攻撃を剣で受けるとそう呟き詠唱を始めた。
「『相反する摂理、反発する光と闇。拒絶を否定し断たれし運命を縫い繋ぐ。我が身は光に染まり、闇に浸る。混沌よ世界を喰らえ』」
滑らかかつ丁寧。戦いの中で完璧に詠唱されまた魔法はその効果を遺憾無く発揮する。
「『ケイオス・ヴォイド』!!」
その瞬間、ペンシルゴンは跡形もなく消え去り俺達は舞い散る破片をただ呆然と眺めた。
「「「わーお」」」
間の抜けた言葉しか出てこない。そして、長い沈黙が場を支配するが俺達は一斉に動きだしペンシルゴンが落としたアイテム類を全て回収しサイガ-0に差し出した。
「「「どうぞ」」」
「あ、ありがとう…ございます」
『最大火力』の称号にたがわない実力を見せつけられ俺達は腰が低くなってしまう。だが、何故だろうか、サイガ-0の方も俺たちと同じくらい腰が低い。
「あの……」
すると、アイテムをインベントリにしまったサイガ-0が俺に話しかけてきた。
「何でしょうか?」
「先日は…ウチの団の副団長達が大変…失礼しました」
応えた俺にサイガ-0がそう言って頭を下げてくる。戦闘時との雰囲気のギャップに頭がバグりそうだったが何を言っているのかを理解した俺は手を叩く。
「あ〜あの時の事か…。まぁ、追い掛け回された以外は実害なかったんで大丈夫でしたよ。以降、俺のゲームライフを邪魔してくれなければ何もしないんで気にしないで下さい。やったの貴方じゃないし」
「そう言って頂けると助かります。姉さん…団長はその事を知らずに貴方と接触しようとしたみたいです…。貴方と会った後に副団長達にはキツイお叱りが飛んだので…もう大丈夫だと思います」
「そうですか…。団長さんには『強引に来なければ良い』とだけ伝えてください。……まぁ、来たらそれ相応の覚悟は決めてもらいますが…」
「「怖っ」」
「は、はい…。伝えておきます」
俺の言葉にサイガ-0は再び頭を下げてそう応えた。
(あまりの低姿勢に毒気抜かれるな…全く…)
その姿に心の中でそう呟くがサイガ-0は次にサンラクを見つめるとぎこちない様子でサンラクに話しかけた。
「あ、あの…サンラクさん…」
「は、はい!」
まさか、自分に話しかけてくるとは思っていなかったのだろう。サンラクは慌てて応える。
「あ、あの…ペンシルゴン…氏とはどう言ったご関係、なのでしょうか?」
「「「は?」」」
俺達は間の抜けた声を漏らした。だってそうだろう、ペンシルゴンを一瞬で塵にしたプレイヤーが何を尋ねるかと思えばこんな事を聞いてきたのだ。流石にこう言う反応にもなる。
「え、ご関係…ゲーム友達?」
サンラクは俺達と顔を見合わせて戸惑いながらもサイガ-0にそう答えた。その答えにサイガ-0は何故か喜び声のトーンを上げる。
(あ〜…もしかして…いやでも、そしたらこの人………あ、そういう事か)
その反応に俺はある程度察しがついてしまい心の中で1人納得し頷く。その間に二人の間で話が進んだのかサイガ-0は「今度、一緒に冒険を」と言う言葉を残して消えていった。
「「「…………」」」
一瞬の静寂が場を支配する。
「嵐が去ったか…」
「「だな」」
しかし、サンラクのセリフで静寂は解かれ俺達は帰路についた(ちなみに、ペンシルゴンが使っていた剣が放置されたがその剣は俺が回収してある)。
「あ〜なんかドッと疲れた…。今日はもう寝るよ」
「俺達は相棒の所に行かないとだからまだプレイ続けるわ」
「だな、このまま落ちたら後々大変な事になりそうだし」
樹海窟を進みながら俺はミュウラから借りたブレスレットを見てそう呟く。
(そう言えば、ウェザエモンが変な事を言っていたがあのセリフの真実はこの先で解るのか?)
最後まで謎が残った戦いであったが俺達は長い夜を終えたのだった。