ヴォーパルコロッセオに杖と杖がぶつかり合う音が響いていた。最後の試験が始まってから既に5分が経過している。しかし、ユウヒはヴォーパルバニーにダメージを与えられずにいた。
いや、全く与えていない訳では無いが杖で殴ってもピンピンしているのでダメージが入っているように見えないのだ。
(杖の扱いは互角…いや、俺の方が上。だが、身体のサイズの差がありすぎて上手くクリティカルにならねぇ……!)
杖は刀や槍、両刃の剣などと違い自分を傷つけることが無い。それ故に全てが持ち手であり全体で攻撃が可能な武器だ。9体の自分よりレベルが上のヴォーパルバニーを相手にする中でユウヒがほぼほぼダメージを負うことなく勝つことが出来たのは杖の特性を理解して使いこなしていた事が大きい。
しかし
(今回は、相手も杖の使い手でしかも俺よりも身体が小せぇときた。身体が小さいという事は面積が小さいという事。人間相手にするのとは勝手が違う!)
そう、普段道場で師匠相手に杖を振るっているユウヒ、もとい遊仁は当然ながら人間しか相手にした事がない。ここまでサイズに差のある相手と戦うのは初であり最適な間合いを掴めずにいた。
「クソッ!」
杖を振るうもヴォーパルバニーに僅かに当たらず空を切った杖を見て悪態をつく。ヴォーパルバニーの攻撃を捌きながらのこの5分で間合いは段々と合ってきている。
しかし、それ以上に厄介なのは
(コノヤロウッ!しっかり、体術まで攻めに組み込んできやがる!他とは大違いだ!!)
間合いを詰めてきたり詰められたりした際に体術を使ってくる事だった。
(今までの兎なら『攻められるのに攻めてこない』瞬間に隙が出来てそこから一気に畳めたのに、コイツは蹴りや徒手を普通に使ってきやがる!身体のサイズ差と兎の脚力も相まってやりずらさ倍増だな!)
ユウヒより小さい身体で自分の身体より長い杖を振るってくる。普段、相手にしない敵との戦い。悪態をつきながらもユウヒの口角がつり上がっているのを相手のヴォーパルバニーもエーベルトも見逃さなかった。そして
「おらッ!!」
戦闘開始から6分、ヴォーパルバニーの杖を上段で受けその反動を利用した最速の返しが肩に入った。
ヴォーパルの小さい身体にユウヒの間合いが完璧に合った瞬間だった。
ユウヒの笑みが深まる。
その瞬間を皮切りにラッシュが始まった。
肩を打たれ体勢を崩したヴォーパルバニーに真っ直ぐ蹴りを入れ更に体勢を崩す。苦しそうな顔をするヴォーパルバニーを無視してユウヒは杖を投擲し追撃を加えた。
「まだまだぁ!!」
走って杖を拾いそのままうつ伏せの様な体勢で身体を支えヴォーパルバニーの顔に蹴りを入れる。回転の勢いが着いた蹴りはヴォーパルバニーの首でクリティカルを発生させヴォーパルバニーを壁までを吹っ飛ばした。
ヴォーパルバニーは壁への激突でダメージを負った様子だが立ち上がると跳躍し上から杖を振り下ろしてきた。物理エンジンにより威力が増した杖の攻撃だがユウヒはそれをあえて受け反撃に利用した。
ゴンッ
ユウヒの杖とヴォーパルバニーの杖が接触した"瞬間"に鈍い音が響いた。攻撃を受けたユウヒの杖は接触した勢いで下へ落とされるはずだった。しかし、ユウヒはその勢いを反撃のための回転の勢いに転用。攻撃の勢いが強かった為ユウヒの杖はヴォーパルバニーの杖の振り下ろしより速く回転しヴォーパルバニーの脳天に直撃した。
頭は全ての生物の弱点。クリティカルが当然発生しダメージが入る。
「フラついてる余裕ねぇぞ!」
頭を打たれフラフラしてるいるヴォーパルバニーにユウヒはそう叫ぶと顎、心臓、大腿部に拳で打撃を加える。3回連続でクリティカルが発生しヴォーパルバニーは再び壁に叩きつけられてダメージを負った。
そして、それが最後になりヴォーパルバニーは倒れた。
「ありがとうございました」
ユウヒは倒れるヴォーパルバニーに礼をした。その礼はこのヴォーパルバニーに向けたものではなく戦った10体に向けての礼。観客席からその様子を見ていたエーベルトは「見事!!」と呟くとユウヒの前に跳んで移動した。
「素晴らしい戦いだったユウヒ殿。私の生徒を全員倒してしまうとは……。しかし、この敗北は必ずや生徒達を成長させてくれるだろう。私もユウヒ殿の技の冴えと『ヴォーパル魂』を見せてもらった。とても楽しい時間だったよ。ありがとう」
「あ〜、此方こそありがとう。……あんたの大事な生徒をボコって悪かったな。つい楽しくなっちまった」
「いやいや、私の我儘を受け入れてくれたのだ。感謝している。ただ、自分の生徒が一方的に倒されるのは気分が良くない。次の機会があるのなら次はこうならないようにしておくよ」
「それは楽しみだ。強いヤツと戦えるのなら何時でも歓迎だ。また呼んでくれ」
そう言って差し出されたエーベルトの手を掴み握手を交わす。お互いに笑顔で再び出会う日を願って。
『致命兎の最終試験は終了した』
『致命兎の将軍は新たな目標を手に入れた』
『開拓者は再会を約束した』
『致命兎の国に名が広まった』
『称号【戦に想いを馳せる者】を獲得しました』
『称号【将軍の友柄】を獲得しました』
『インベントリに【致命の闘杖】が収納されました』
握手と共に開かれたウィンドウ。称号やアイテムの入手等が書かれている。再会が約束された事がゲームシステムによって確定した事を嬉しく思いユウヒは笑う。
エーベルトもそんなユウヒにつられて笑うと結んでいた手を離し告げる。
「此度の件、感謝するユウヒ殿。其方にはここに留まって欲しいが、其方は開拓者。引き止める訳には行かぬ。其方と再び会える日を楽しみに今日は別れるとしよう。さらばだ!!」
そして、コロッセオに来た時と同じように球型のアイテムを地面に叩きつけて破壊するとユウヒは光に包まれた。
「あぁ、俺も楽しみにしてるぜ」
その言葉を残してユウヒは致命兎の国から消えたのだった。
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光が収まるとユウヒは森の中に立っていた。コロッセオに行く前にいた場所だ。クエストを進めている間に時間が過ぎた様で既に空が暗くなっている。
「戻ってきたのか」
当たりを見ながらそう呟く。するとSEが鳴りレベルアップとスキルの習得及び進化が知らされた。
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LEVEL UP
Lv6→18
条件達成
『アクセル』
『三連撃』
『タップステップ』
『見切り』
『インパクトステップ』
『乾坤一擲』
STポイント 205pt
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「おぉ!帰ってきた事でクエストが終了したことになったんだな!一気に18にレベルアップしてるしスキルも習得出来た。あの試験中はスキルには頼らずに戦ってたから気にしてなかったけど、スキル使ってたらもっと楽しく戦えてたのかな?……まぁ、タラレバ言っても意味ねぇか。そして、STポイントが大量!!『致命兎の秘宝』の効果だな。ありがとう!『致命兎の秘宝』!!」
跳梁跋扈の森でそう叫び天を仰ぐ。傍から見れば不審者だが本人は気にしない。
「スキルにSTポイントも嬉しいが…。コイツはもっと最高だ」
そして、下がらぬテンションのままインベントリから『致命の闘杖』を取り出す。
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『致命の闘杖』
クリティカルダメージに補正効果
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「俺には最適な武器だ。傭兵の闘杖をメインにいざと言う時の切り札として使おう」
武器を眺めて笑いそう言うとユウヒは時間を確認する。時刻は20時を示しており区切りを付けるにはいい時間だ。
「一応、宿とかに行って復活地点を更新しておくか…1番近い街は何処だ?」
地図を開くとユウヒはちょうどファステイアとせカンディルの中心地点にいる事がわかった。せカンディルに行きたい気持ちが湧くが第2の街に行くには恐らくエリアボスを倒さなければならない。
「一旦、切り上げるって決めたしなぁ。しょうがないファステイアに行くか…」
そう呟きユウヒはファステイアに向かって走り出した。少し時間がかかったがビギナーが集まる街なだけありプレイヤーからNPCまで着いたばかりのユウヒに優しくユウヒは直ぐに宿屋に辿り着くことが出来た。
「宿屋のベッドで寝ないと復活地点の更新が出来ないのか…中々に凝った作りだ」
そう呟きベッドに身体を預け復活地点が更新された事を確認しユウヒはログアウトした。