千紫万紅の樹海窟の北東。遺志の焔がレーダーの様に反応しウィンドウに記された「剣」の在り処を教えてくれた。
「この先か…」
「木がびっしり重なってますね」
俺達を遮る樹壁に手を添えて上を見上げる。クラウン・スパイダーが住んでいた樹よりは背丈の低い樹木だろうが下から見れば全部同じだ。
高い物は高い
この先にある「剣」に遺志の焔は反応している。
「ミュウラ、お前の不義遊戯で中にある何かと入れ替えられないか?」
そう簡単に行くわけない。と思いながらもダメもとでミュウラにそう尋ねてみる。しかし、ミュウラは首を横に振ると困り顔をした。
「中は魔力でいっぱいです。魔力が濃すぎて不義遊戯での入れ替えは無理です」
「お前……中の魔力が云々とか解るのか?」
「はい、全体像は無理ですが何となくなら……」
ミュウラのセリフに俺は驚いてしまった。
(魔力極振りだから魔力に関しては色々飛び抜けてるのか?)
ミュウラのステータスを思い出しながら心の中でそう考える。しかし、これで解った事が幾つかある。
1つ、中にモンスター等は恐らく居ないだろうという事。いればミュウラが気付くだろう。
2つ、樹壁の内側が高濃度の魔力で満たされている事。何かしらの特殊な空間になっている可能性がある。
3つ、不義遊戯は視界が遮られていてもミュウラが感知出来れば使用可能だという事。
「まぁ、ぶっ壊しても大丈夫ならぶっ壊すか…!」
この3つを考慮した上で俺は戦甲角杖を構えた。
「スキル『一心開動』!」
構えた状態で動きを止め力を溜める。スキルを同時に発動し樹壁へのダメージを上昇させる。
「ハッ!!」
30秒の溜めから振るった戦甲角杖は樹壁を抉り傷を付ける。しかし、削れたのは樹壁の1部で完全破壊は出来なかった。
「私が壊しますか?」
「いや、いい。俺の手で壊す」
肩に乗るミュウラにそう応えつつ俺は何度も杖を振るう。先に付けた傷に重なるように杖を振るい傷を広げつつ深めていく。
「呪いのお陰だな。こんなに時間かけててもモンスターが襲ってこない!」
時間のかかる作業をモンスターの領域でしているといのにモンスターに襲われない。自分より強い敵しか襲わなかったり弱いモンスターは遠ざけたりと、装備が使用出来ないのは痛いが色々と助けられている。
(御礼参り必須だな!)
心の中でそう思いつつ杖を振るうスピードを更に上げていく。すると
ガンッ!
戦甲角杖の戦端が硬い物に触れた。
「なんだ……鉄の…壁?」
抉った樹壁はちょうど俺の顔のサイズと同じくらい。そこから見える黒く硬い何かに俺は首を傾げる。
「ユウヒさん、何か彫ってありますよ」
肩の上から見ていたミュウラが何かを指差して俺に教えてくれた。指が示す方向に視線を移せば確かに何かが彫り込まれている。
「ほんとだ…よしっ」
俺は彫り物がされているであろう部分の樹壁の隙間に戦甲角杖の戦端を差し込んだ。
「何をするんですか?」
その行動にミュウラが首を傾げるが俺は答えずに先端を差し込んだ戦甲角杖に力を込めると自身に引き寄せて、梃子の原理で樹壁を剥がした。
「なるほど!」
それを見て何をするつもりなのか解ったのかミュウラが手を叩く。
「殴雷撃とかは威力高すぎてぶっ壊しそうだからな。時間かかるが剥がしていく、ミュウラは剥がした破片を避けてくれ」
「はい!」
セリフと共に肩から重さが消えた。俺は引き続き戦甲角杖の戦端を樹壁と鉄壁の間に差し込んで樹壁を剥がし続けた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「やっと終わったな……時間かかった。約1時間ってところだな」
「破片で山が出来てます…」
樹壁を剥がす事約1時間、俺達は壁の全体像を拝むことが出来た。
「凄い古そうな壁だな…でも、妙だ。あれだけ樹が茂っていたのに壁には苔や根のひとつも着いてねぇ」
「確かに不思議ですね。中の魔力のせいでしょうか?」
「魔力が濃いとそうなるのか?」
「解りません」
「……………………」
「どうかしました?」
「なんでもねぇ………」
真顔で即答したミュウラになんとも言えない気持ちになるが俺はそう言うと壁に触れる。ヒンヤリとしていて鋼鉄の壁と言った感じだ。
「装飾が彫られてるってことは何か意味のある物なんだろうが…………あぁ?」
「どうかしましたか?」
壁を触っていた手に伝わった妙な感触に俺はミュウラのセリフに答える間もなくその場所を再度触ってみた。
すると、装飾の1部が1段押し込まれている事に気が付いた。
「ココだけ凹んでる」
「本当ですね…ユウヒさんが触れた時でしょうか?」
「多分な」
ミュウラのセリフに応えつつ俺は凹んた装飾を更に押し込んだ。すると、装飾は奥へと消えて行き壁には朱の光が走った。
「なんだ!?」
朱の光が走る壁から離れる。すると、壁を走っていた光は壁の中心に集まり穴を作り出した。
「もしかして…」
その穴を見た俺はインベントリから古故解放の金装鍵を取り出し差し込んだ。読み通り鍵は穴になんの抵抗も無くはまった。
そして、鍵が光出す。
「これは輝苔の…!」
「眩しいです!」
アイテムの採取の時に見た往年の輝苔と同じ光に目を細める。暫くすると、光は収まり俺とミュウラは剣が1本地面に刺さった空間にいた。
「なんだ此処?」
「不気味で怖いです…」
千紫万紅の樹海窟にいたはずが草木が1本として生えてない空間に移動している。あるのは1本の「古びた刀」のみ。
ミュウラは俺の肩にしがみついて震えているが俺は目の前の「刀」に向けて歩き出した。
(遺志の焔がなんの反応も示していない。目的のモノまで辿り着いたからなのか?)
刀の前に立ち見ながら首を傾げる。
(近づいても何も無い。触れろ、という事なのか?)
なんの反応も起きない状況。訳が分からないが俺は地面に突き刺さった刀の柄尻に左手を乗せた。
(鬼が出るか蛇が出るか…何が来ても倒す!)
ミュウラは解らないが俺の気合いは十分、何が来ても大丈夫。そう思っていた。
だが、そんな思いは1秒で改める事になった。
「!?」
柄尻に触れていた俺の左手が斬られたのだ。切断はされていないが赤いポリゴンが飛び散るのを抑えてすぐにその場を離れる。すると、俺とミュウラしかいなかったはずの空間に誰かの何かの足音が聴こえた。
『ぬるい』
そして、声が聴こえた。
気がつくと俺が触れていた剣の傍に赤の長髪を一つに結った和装の男が立っていた。
「誰だ?」
「お化けです!」
突然現れた男に俺とミュウラはそれぞれそう言う。しかし、男はそんな俺たちに笑い声をあげた。
「フフフッ…お化けか。初めて言われたな…その様な事は」
第一声と一撃。"理解させられた"その容赦の無さからは想像もつかない程親しみ易い声で男は俺達に応えた。
「誰だ、あんた?」
(話が通じるのか…)
ウェザエモンの時と同じ様に話しが出来る存在として俺は話しかける。すると、男は刀を抜き鞘に納め
『貴様達こそ名を名乗れ』
俺達にそう言ってきた。
「ユウヒ」
「ヴァイスアッシュの娘のミュウラです」
男の指示通りに俺達は名を名乗った。すると、男は顎に手を添えると
『あのチビの娘…?いや…だが………………そうか、フッなるほどな。時が経ったという事か』
小さくそう呟いた。
『貴様達、此処に入ってこれたという事は【鍵】を持っているな?』
そして、俺に視線を合わせると口角を上げてそう言う。
「あぁ」
『そうか、そうか…ならば……』
そして、俺の答えにそう言うと柄に手を添え
「!」
『我が遺志を叶えて貰おう!』
その言葉と同時にウェザエモンにも劣らない抜刀術を放ってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユニークシナリオEX【世界に刻まれるは七つの遺志】進行。
【剣鬼の遺志】を開始します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
斬撃を躱すと同時にウィンドウが現れたユニークシナリオが進行した事を教えてくれた。
しかし
「事後報告かよ!」
そう叫ばずにはいられなかった。
今回は偶々、扉があっただけです。鍵はただの目印的なアイテム