『水晶巣崖』
奥古来魂の渓谷を登った先、薄暗い瘴気を抜けると大小様々な水晶によって創られたエリアが現れる。
シャングリラ・フロンティアをプレイして日の浅い俺はそんな中でも美しい光景を沢山見てきた。
美しさの影に隠れた危険なモンスターも沢山相手にしてきたと自負している。
しかし
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉッ!俺を殺してみやがれ蠍共ぉ!!」
正直、この水晶巣崖程危険で厄介な場所はないと思う。
「ユウヒさんっ叫んだらまた水晶群蠍が出てきてしまいます!!」
「この状況で叫ばずにいられるかっ!」
俺を追いかける水晶群蠍を背に俺はミュウラにそう応えた。
水晶群蠍のレベルは111。ヴォーパル・コロッセオで過去に戦った時とレベルは変わらない。だが、数が違う。何体いるのかさえ分からん。
「倒しても倒しても湧いて出やがる!!どんだけいんだよ!!」
水晶巣崖に来た時に出た声に反応したのか、大量に現れた水晶群蠍は地形を利用して群れ一つを玉突き事故よろしく互いに衝突させて倒してやった。しかし、その時に散った水晶群蠍の残骸が周りの水晶に当たり振動させた事で『おかわり』が来てしまった。
「クソが!まだ、素材回収してる最中だったんだぞ!!」
倒した水晶群蠍のドロップアイテムを全て回収する前に追いかけっこが始まってしまった為、残された素材達は既に引き潰されて粉になっているだろう(そう言う演出があるかは知らないが)。
(さっきは引き付けた群れは後ろに回り込んで殴る事で互いに衝突させて倒した。でも、この数じゃそれは出来ない。真正面から倒すのも無理。質量で押しつぶされるのがオチだ、この状況を切り抜けるには水晶群蠍の残骸が余計な事をしない場所で群れを倒すか倒した後速攻で水晶巣崖から離脱出来る場所で倒す事だが……)
自身のスタミナを気にしながら後ろにいる水晶群蠍を見る。方法は2つに1つだ。
(いやいやいや!前者しかないだろ!!離脱しようにも追いかけ回されすぎて現在位置が分かんねぇよ!)
既に纏雷は発動済みでそろそろ1回目の使用から30分が経つ。速度が落ちれば轢き殺されるだけだが逃げ続けた結果、自分がどの辺にいるのか分からなくなってしまった。
離脱は現実的ではないので「残骸が余計な事をしない場所で水晶群蠍を倒す」しかない。
「でも、どうするかなぁ…?」
残骸が派手に散っても問題のない場所。言うだけなら簡単だが見つけるのは難しい。
なので、相棒に見つけてもらう事にする。
「ミュウラ!今からお前を上に投げるぞ!」
「はいっ!……ってえぇ!?どういう事ですか!?私に『死ね』って言ってるんですか!?」
俺のセリフを聞いたミュウラは混乱した様子で俺の髪を引っ張りまくる。俺はそんなミュウラに「最後まで聞け!」と言って狙いを話した。
「俺は此奴らから逃げるのに必死だ。だが、逃げ続ける気は無い!キッチリ全員死んでもらうつもりだ!その為には此奴らが大きな音とかを立てて死んでも問題のない場所を探さなきゃならない!お前にはその場所を探す役をやって貰いたい!」
「どういう場所を探せばいいんですか!?」
「崖だ!!上から下へ水晶群蠍を落とす!!」
「解りました!!……でも、私はどう生き延びればいいんですかっ?」
水晶群蠍撃破作戦を伝えただけで頷いてくれたミュウラだったが肝心の生存策が気になる様だ。しかし、生き延びる方法を持っているのは俺ではない。ミュウラ自身だ。
「あるだろ?お前の一番得意な魔法が!」
「なるほど!!」
俺のセリフに納得が言ったのかミュウラはそう言って手を叩いた。
「俺の右手に乗れ!」
「はいっ」
走りながらミュウラにそう指示して準備を整える。右手に乗ったミュウラは身体を丸くして「準備完了です」と伝えてくれた。
「行くぞ!」
そして、俺は1歩づつのストライドを大きくして踏み込むと水晶群蠍から少し距離を取って
「行けぇ!!」
ミュウラを上にぶん投げた。
「ピュアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
上に投げたミュウラから叫び声が聞こえるが構っている暇は無い俺はミュウラをチラ見して観察しながら近くにあった水晶の欠片を手に掴んだ。
「見つけました!!」
そして、投擲から数秒待っていた報告を耳が捉えた
「何時でもいいぞ!!」
その瞬間に俺はミュウラにそう叫んだ。瞬間、手に持っていた水晶とミュウラの位置が変わる。
「作戦成功!どっちだ!?」
「10時の方向です!」
戻ってきたミュウラからの報告に俺は頷き方向を変えて走り出す。
(間に合え!!)
走って走って走り続けて俺は纏雷の効果が切れる瞬間が来る前に崖まで辿り着こうとした。
だが、俺達に中指を立てるのが大好きな乱数の女神様はゴール直前で纏雷の効果を切ってきやがった。
走る速度が落ちて水晶群蠍が迫ってくる。
「もうお終いです!!」
肩の上ではミュウラがそう叫び俺もそう思った。
だが
「「へ?」」
幸運なのか、俺達は走っていた水晶事落ちた。
水晶群蠍の数が多すぎたのか崖を作っていた水晶が壊れたのだ。破片を撒き散らしながら俺もミュウラも水晶群蠍も落ちていく。
「運も実力の内!いや、実力で運を掴んだ感じか!?」
しかし、俺はこの状況にそう叫ぶと一緒に落ちた水晶を足場にスキルを発動させた。
「グラスホッパー!!」
『グラスホッパー』空中にある物体を足場にした移動の際にAGIに補正をかけるスキル。
それを使い水晶を走り「フロントシップ」と「遮那王憑き」を発動し上に跳躍した。
「ミュウラ!あの一番上にある水晶と位置の入れ替えだ!」
「はい!」
落ちていく水晶群蠍を知り目に上に飛びながらミュウラに指示を出す。パンっ、と音が聞こえて俺達は一瞬で一番上の安置まで到達した。
そして、落下しながら魔力とスタミナを完全回復させる。
「ユウヒさんっ?何してるんですか!?」
空中でポーションを飲む俺にミュウラが焦った顔でそう言うが俺は飲み終えたポーションの瓶を捨てると
「あの一番後ろにいる水晶群蠍と位置替えしてくれ」
最後尾にいる個体を指差ししてミュウラにそう伝えた。
再びパンっと言う音が鳴り俺はミュウラと共に水晶群蠍の群れ、その最後尾の個体と入れ替わった。
「今頃、俺達と入れ替わった個体は混乱しながら死んで言ってるんだろうな」
「真顔で凄い事言ってますね」
安置に到達しどんどん崖下へと落ちていく水晶群蠍を眺めながらそう呟く。そして、1分位だろうか俺を追っていた水晶群蠍は全て落下しその生涯に幕を下ろした。
「行くぞ、ドロップアイテムの確認だ」
「この上なく軽いですね…」
落下を見届けた俺はレベルアップのSEをBGMに慎重に歩いていく。ここに来てもう1回おかわりはごめんだ。
「ミュウラ、しっかり捕まってろよ」
「はいっ」
そして、インベントリから致命の包丁を取り出すとそう言って崖から飛び降りた。
「ピュアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
「うるせぇよ!」
高所からの落下にミュウラが叫ぶが俺はそう言って耳を抑える。絶叫のせいで意識が削がれるが、自身が死なない為に見つけなければならない水晶がある。そして、落下しながらちょうど良く出っ張っている水晶を見つけると致命の包丁を突き刺した。
「うおっ!」
「んびっ!」
急な停止で物凄い衝撃が腕に伝わった。物理エンジンが正常に作動している証拠だが、ミュウラは変な声を出し俺も衝撃でダメージが入ってしまった。
「急に止まらないで下さい…」
「悪い…」
次はもう少し早いタイミングで止まろうと決めて俺は水晶から包丁を抜き再び自由落下を始めたのだった。