廃棄世界のルツボ   作:スライムナイトスライム抜き

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ゴミ捨て場のルツボ

――お前はゴミのように死んだ

 

――生きるための力をやる

 

――今度は上手くやれ

 

 

 

 なにも存在せず、ただ巨大な存在とちっぽけな自分が居るだけの空間。そこでたったの三言だけを伝えて、神を名乗る存在は消えた――いいや、消えたのではない。俺がかの存在の前から消えた、別の場所へ飛ばされたと言うべきだろう。

 

 一瞬の浮遊感のあと、両足に走る衝撃。どうやらどこかに着地したと頭が理解する前に、ぐわんぐわんと酔っぱらっているかのような揺らぐ視界に体を支えきれずそのまま倒れ込む。倒れた拍子に感じる土の香り、砂の味、手触り。どこかの地面に倒れているのは、間違いないようだ。

 

 両手で地面を握り締めて視界の揺れに耐えていると、やがて視界が定まってきた。一次的な不調だったようだ。体を起こして周囲を見渡すと、だだっ広い荒野のど真ん中に居ることに気付く。

 

 

――どうやらここは、日本じゃないらしい。

 

 

 立ち上がり、自分の手足を眺める。襤褸切れのような衣服と健康的な四肢。どうやら欠損などはないようで一安心だが、自身の手足だというのに全く身に覚えがない。少し記憶を探ると日本で生活していた記憶はあるが自分に対する記憶だけがごっそりと抜け落ちているようだった。

 

 

――まぁ良いか。特に不便は感じない。

 

 

 そう内心で結論付けると、口内が乾燥していることに気付いた。先ほど食んだ砂の感触も残っているし、水が欲しい。水だけではない。衣食住。人間が生きるために必要な3つを自身は今、一つも満足に手に入れられない状況だ。

 

 周辺を再度見渡すと、遠くの方に山脈の姿が見える。近場にある小高い丘からなら、もっと遠くまで地形が見えるだろう。周辺に何もないのを確認してから、俺は丘へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 丘の上から周囲を見渡すと、何もないと思っていた荒野にも幾つか見るべきポイントが存在する事が分かった。まず、最重要なのは少し離れたところにある家だろう。家というよりは掘立小屋というべきか。

 

 小屋の周辺には井戸もあり、水を確保できる可能性は高い。ただ周辺に畑の類が見当たらないため、生活の為の場ではなく今の自分のような緊急の事態に備えた、避難所のような場所の可能性もある。人が居ない可能性も考えるべきだ。

 

 次のポイントは周辺に潜む生き物たちだ。丘を登るまでは分からなかったが、この荒野にも幾らかの生き物の姿が見て取れる。決して多くはないが随所に生えているサボテンのような植物に、猫のようなサイズのネズミや、そのネズミに食われている芋虫のような生き物などだ。

 

 そして最後に、神とやらが語っていた力にも見当がついた。持っていた石ころに再度目を向けると、

 

 

【もちにくい石 重量0.08 形が悪く持ちづらい 収納可能 飲食不可】

 

 

 という文字が空中に浮かび上がってくるのだ。

 

 これはなんにでも浮かぶわけではない。例えば地面などを見てもなにも表示は出てこない。だが、地面の土を手に取るとそれには

 

 

【荒野の土 重量0.01 耕作に適さない土 収納可能 飲食不可】

 

 

 という文字が出てくる。

 

 どういう制限があるのか分からないが、間違いないのは手で持てるサイズのものは情報を見ることが出来るというものだ。恐らくはゲームや漫画で鑑定と呼ばれる能力だろう。

 

 これで出てくる情報がどこまでの精度かは分からないが、少なくとも飲食物かどうかの確認は行えるはず。なんの情報もない現状では、非常に助かる能力だ。井戸の水が使えるかどうかも含めて色々検証していかなければ。

 

 丘から見えた家に向かって歩きながら今後の予定を脳内でくみ上げていると、件の家に動きがあるのが見えた。家の中から随分と慌てた様子で誰かが飛び出してきたのだ。

 

 恐らくは女性、だろう。恐らくといったのは、彼もしくは彼女が身に着けている衣服が少しぶかっとした貫頭衣のため、体格が分かりづらい事。そして彼女の頭、頭頂部には犬のような耳が2対存在するためだ。

 

 明らかに日本、地球には存在しない人種だ。雌雄が存在するかどうかからまず確認するべき対象だろう彼もしくは彼女は、必死の形相で俺に向かって手を振り、そして背後の方を指さした。

 

 なんだ、何を伝えようとしている? 距離があり、彼女が叫んでいる事しか分からない。ジェスチャーに促されて背後に視線を向けた俺が最後に見たのは、無数の牙を持つ大きなナニカの(アギト)だった。

 

 

 

 

【現在、オートセーブデータしか存在しません】

 

 

【オートセーブからデータをロードします】

 

 

【弱者よ、死んでしまうとは情けない】

 

 

 

 それらの文字列を眺めた後、俺は再び地面の上に寝転がっていた。土の香り、砂の味、手触り。どこかの地面に倒れているのは、間違いないようだ。

 

 

――あ?

 

 

 死んだ、と思った。あの無数の牙は死を連想させるに余りある衝撃的な光景だった。

 

 生き残ったのか? そうぼんやりとした頭で思い浮かべるが、すぐさまその甘い考えを否定する。一瞬しか見ていなかったが、その一瞬で受け取れる情報もある。あれはどう考えても助かるような状況ではなかった。

 

 そうなると、だ。自身が見たと感じていた、あの3列の文字を思い起こす。

 

 あれが自身のショックによって頭に浮かんだ妄想でなければ。つまりは。

 

 

――セーブとロードが出来るとでも言いたいのか? 現実で。

 

 

 生きるための力と言っていたが流石にそれは破格すぎやしないかね、神様。

 

 

 

 

 丘の上へと昇るのは、止めておこう。周囲に危険な生物がいるならいい的になってしまう。

 

 丘の上から見渡した限りではそんな奴は目に入らなかったが、つまりはこの荒野にはなにかしらの方法で身を隠して獲物を狙っている奴が居る、という事だ。

 

 

――小屋に行こう。出来る限り急いで、気を付けながら。

 

 

 頭の中に周辺の地形を思い起こし、出来る限り高台へ上らずに小屋へと向かうルートを構築。気休め以上の何物でもないが、近場に落ちていた石を持ち、小屋に向かって歩き始める。

 

 そして、念のためにここでセーブを、と思ったのだがやり方が分からない。まぁ、オートでされているセーブのポイントは最初の場所だったようだから小まめにセーブがされるということはなさそうだ。次にオートセーブがされるのはあの小屋にたどり着いた辺りかな。

 

 ゆっくりと周辺に気を向けながら、半時間ほどかけて掘立小屋にたどり着く。ロード前の光景を思い返すと誰かが屋内に居るのは間違いないが、ロード自体が時間を巻き戻しているのか分からない。もしかしたら死んだあとに体だけが元の場所に戻されている場合もありえるのだ。そうなると今もこの場所に誰かが居る、とは確定できない。その場合、先ほど丘で襲われた俺を助けに丘に向かってしまった可能性もあるからな。

 

 まぁ、今回はそんな心配はあくまで心配で終わったようだが。

 

 小屋の玄関からぴょこんとこちらを覗く2対の耳と目に安どのため息を零しながら声をかける。一先ず独りぼっちは終わったようだ。




よろしくお願いします。
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