廃棄世界のルツボ   作:スライムナイトスライム抜き

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ミケ

「そこで止まるにゃ。ゾンビじゃにゃいにゃ?」

 

 

 掘立小屋に備え付けられた粗末な扉から頭を出して、猫耳が眉根を寄せてそう問いかけてくる。この声音は女か。ゾンビ? 映画やゲームに出てくる動く死体の事を言っているのだろうか。しかし丘の上から見渡した限り、この荒野で人型の生き物は俺と目の前の猫耳くらいの筈だ。

 

【ミケ(警戒中) 年齢:15 獣人:女 ステータス:(封印中)】

 

 猫耳の顔を見ていると、空中に黄色い枠の文字枠が出てくる。黄色い枠だとか警戒中だとか気になる単語が多いな。石を見た時には、確か白い枠だった筈だが。首をかしげていると、頭だけを出していた猫耳が訝し気な表情を浮かべる。ゾンビという意味が分からないと伝えると猫耳は目をぱちくりと瞬かせた後、バタンと掘立小屋の扉を閉めた。

 

 

――アレ?

 

 

 悪くないコミュニケーションの筈だったんだが、なにか失敗したのか? 井戸を使わせてもらえないか確認をしたかったんだが。

 

 まぁ少し飲むくらいなら許可をとるまでもないだろう。

 

 錆が浮いている手漕ぎポンプ式の井戸をギィコギィコと動かすと、少しした後に水が出始めてくる。出始めの水は錆などが混じっている可能性がある。透明度は高いようだが、少し水を出した後に口をつけるとしよう。

 

 喉を潤していると掘立小屋の扉が開く。勝手に井戸を使ったのは不味かったかな。恐る恐る掘立小屋に視線を向けると、猫耳が随分と着飾った格好で姿を現した。着飾ったというよりは胸元が随分と開いたドレス……商売女が仕事の際に身に着けるような服だ。

 

 

「お、墜ち人さんにゃ? アンタ、墜ち人さんだにゃ?」

 

 

 猫耳――恐らくミケという名前の女はチラチラと顔を赤らめながらそう訪ねてくる。墜ち人、か。また新しい単語が出てきたな。墜ち人というものが何かは分からないが、神様の前からここに放り棄てられたのを墜ちると表現するのなら墜ち人という表現も分からなくもない。

 

 頷くと猫耳は嬉しそうに表情を赤らめて、もじもじと体の前で腕を組む。もしかして俺に気があるのかと勘違いしてしまいそうな仕草だが、わざわざ着替えて出てきた点と、未だにミケから浮き出ている文字の枠が(警戒中)のままなので残念ながらその線は薄そうだ。

 

 水を勝手に使ったことを謝罪すると、ミケは手と頭をブンブン振って気にしないでくれと言う。流石に気が咎める――というよりもタダより高いものはない、という考えの元なにか返せるものはないかと尋ねると、ミケは少し考えた後に俺の事を教えてほしいと言い出した。

 

 例えば名前、年齢といった俺自身の事や、どういった世界からやってきたのかまで。掘立小屋の中にある粗末な椅子に座り、ミケは様々な事を質問してきた。

 

 特に過去の事に関して、ミケは俺の答えに一喜一憂しているように感じる。自身の事はなにも覚えてないと言ったときは明らかに残念そうなのに、過去の世界。特に日本での暮らしについてを話すと目に見えてテンションが高くなり、

 

 

「墜ち人さんはどんにゃ生活をしていたのかにゃ? 技師様かにゃ? それとも学者様かにゃ?」

 

 

 俺から一通りの話を聞いた後ミケがそう呟いたのを耳にして、彼女が俺に望んでいることがなんとなく理解できた。技術者か学者であればいいと考えているのだ。

 

 

――つまり、俺を利用する気満々なわけだ。

 

 

 その考えを補強するようにミケから浮かび上がる文字列、というよりは簡易プロフィールというべき項目は黄色から緑色に枠色が変化し、名前の隣の(警戒中)の文字も(興味)に切り替わっている。彼女の警戒心が解けたのは良いが、こちらを利用する気の相手である以上気を抜く事も出来ない。目の前で油断していたらその隙をついてあっさり裏切られる、なんて事も起こり得るのだ。

 

 しかし、彼女と違ってこちらは現状の把握すら満足にできていない状況。こちらの話をする際に彼女から幾らか漏れてきた情報を纏めると、ここは近隣の村から少し離れた位置にあり墜ち人が現れた際のセーフハウス的な役割の場所だという。

 

 彼女は墜ち人がいつ現れても良いよう当番でこの部屋に詰める人員の一人だと言っているのだが、その際にあからさまに目を泳がせていたため信憑性は限りなく低いと言わざるを得ない。

 

 困ったな。頼るべき相手であるのに微塵も信頼ができない。

 

 何か手はないかと悩んでいると、自分の体にもプロフィール欄があることに気付いた。自分の手を注視すると、空中にプロフィール欄の文字枠が出てきたのだ。

 

 文字枠の色は白。石の情報を呼んだ時と同じ色あいだ。文字枠が黄色になったり緑になったりとするのは他者だけか、もしくは生き物のプロフィールを眺めるときだけなのかもしれない。

 

【ルツボ 年齢:X 只人:男 ステータス:解放可】

 

 

――これはまた。中々困らせてくる内容だな

 

 

 ルツボ。これは自分の名前だろう。そうか、自分はルツボというのか。唐突に消え去った自身の記憶の一部を取り戻してしまった。年齢の欄は、これはなんだ。10という意味になるのか?

 

 いいや、それよりも、だ。ステータスと書かれている所。これが今は非常に気になる。ステータス:解放可とはどういう意味合いだろうか。そういえばミケのプロフィールではこの欄には封印中と書かれていたな。

 

 どうすれば操作が出来るだろうか? 右手の人差し指で空中に浮かぶ解放可の文字を押してみる。

 

 

――おお?

 

 

 変化は劇的だった。周辺一帯が暗く、それこそ影の中にいるような風景に移り変わり、新たな文字列が空中に浮かんだ。

 

 

【ルツボ レベル1】

【力:1 体力:1 素早さ:1 器用さ:1 魔力:1 運:1】

【所持スキル:なし】

【残スキルポイント:20】

 

 

 ステータス欄というやつだろおうか。ますますもってゲームのような光景だな。そう独り言ちて、視線を右に滑らせる。ステータス欄の右隣は持ち物欄らしく、現在は自身が身に着けている襤褸切れだけが存在している。

 

 更に視線を滑らせると、スキル取得と書かれた欄に移り変わる。先ほどステータス欄にあった残スキルポイントという項目はここで利用するようだ。

 

 スキルは近接格闘、射撃術、交渉術などという文字が表のように並べられており、一番上には【現在のオススメ】と書かれたものもある。これはその時の状況に最もマッチしたスキルが紹介される項目らしい。場所を移動した際には別のものになるのだろうか。要検証だな。

 

 そんな事を考えながら現在のオススメを開くと、そこには【レディキラー(女殺し)】というスキル名と詳細な効果が記載されていた。これが今、最も状況に適したスキルである、らしい。

 

――……なるほど、今に最も適した……試してみる価値はあるかな?

 

 

 

 

 

 

「旦にゃ様ぁ。にゃーは、にゃーはもう旦にゃ様から離れられにゃいにゃぁ」

 

 

 掘立小屋の粗末な布団で迎える朝は黄色かった。

 

 ミケのプロフィール欄は緑色からピンク色に変わり、名前の横の文字は(思慕)となっている。【レディキラー(女殺し)】は効果抜群だった。

 

 ステータス空間から戻った瞬間、体が勝手に動いてミケに口づけしたのだ。自分の前世がジゴロだとは思いたくないから、これはスキルの影響だろう。多分、きっとメイビー。

 

 精神状態か関係性が原因で文字枠の色が変わったのか、どちらが原因で変色したのか判断できなかったのは痛いな。

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