廃棄世界のルツボ   作:スライムナイトスライム抜き

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獣人の集落

「旦にゃ様ぁ、そろそろ起きるにゃ」

 

 

 ゆさゆさと体を揺さぶられ、夢の世界から現実へ引き戻される。目を開けると、ここ最近見慣れてきたミケの顔がこちらを覗き込んでいた。それに合わせて【セーブしますか? Y/N】と表示が出てくるため、Yを選択しておく。毎回新しいセーブスロットにセーブを残しているため、これで5個目のセーブデータだ。

 

 さて、起きようか。藁を敷き詰めた寝床は悪くない寝心地だが藁くずが体に着くのが難点だな。服や頭についた藁くずをはたき落とす。今日もまた、朝がやってきた。

 

 

「旦にゃ様、長老が呼んでるにゃ。畑に使うトリケロの調子が悪いから診てほしいにゃ」

 

 

 ミケの作った朝食のスープを飲んでいると、俺の横に座って一緒に食事を始めたミケがそう言った。俺が寝ている間に使いが来ていたようだ。

 

 早速今日の最初の仕事が舞い込んできたな。スープの中に入っていたネズミモグラの肉を咀嚼し、一気にスープを胃に流し込む。

 

 今、俺はミケの家に厄介になっている。ミケの家は墜ち人のセーフハウスから大体3時間ほどミケ曰く北に歩いた所にある、ちょっとした林の中の集落に存在している。林があるほどに木が根を張っている場所のため、地盤がしっかりしていて危険な地中動物が襲ってこない場所なのだという。

 

 危険な地中動物というのは、恐らく俺が初めてロードする羽目になった生き物の事だ。ワームドラゴンと呼ばれるそいつは、荒野の砂地をの中を自在に移動する、人間など一飲みしてしまうような巨大なミミズの化け物だ。荒野を生きる生物にとっての死神のような存在で、こいつがいるせいで獣人たちはこの小さな林に掘立小屋を所狭しと並べて生活しているそうだ。

 

 俺が初めてミケと出会った小屋のはこの条件とは違うが、土中に岩が多く含まれるエリアでワームドラゴンも近づけない場所らしい。荒野を歩く際は砂地ではなく岩場に近い場所を極力歩くのが生き残るコツなのだと、集落に始めてくる際ミケが自慢げにしながら教えてくれた。

 

 俺個人としては一度食い殺された記憶があるため、いつかリベンジをしたいと思っているのだがね。仕事用の頑丈な皮のコートを羽織り、仕事道具をミケに持ってもらって家から出る。今日も一日、ご安全に。

 

 

 

 トリケロというのはトリケラトプスに似た4足歩行の生き物だ。サイズ感はツキノワグマ並という所で、サイズがデカいためかワームドラゴンも余り襲ってこないため、獣人が荒野を渡る際に騎乗したりもするらしい。襲われることもあるらしいがな。トリケラトプスと違うのは2本の角が上向きではなく下向きに生えており、獣人たちは畑仕事の際にこのトリケロの角を地面に突っ込ませて畑の土を掘り返している。

 

 このトリケロの調子が悪いと食料の生産、つまり生存性に直結するため、不調があればそれを診て治せるようなら治してほしい、というのが獣人の長老からの依頼となる。言ってみれば獣医だな。

 

 トリケロは日本の重機のようにガソリンが無くても動く非常にエコな生き物で、狭い土地を効率よく耕すには非常に便利だ。だが、こいつが便利すぎて耕作用の道具はあまり発展していないという弊害の元でもある。これには獣人の種族的な特徴も影響しているのだが、獣人はそもそも種族としてあまり考えることに向いていないらしく、自力で新しい道具を開発したり作ったりという事は非常に苦手だという。

 

 扱っている道具も山脈のふもとにある町からのおさがり品くらいしか存在しないらしく、当然のように村には医者も鍛冶屋も、それどころか農耕の専門家すら存在しない。唯一長老だけが過去の経験上、こうしたら実りが良い、程度の知識を持っているくらいだ。

 

 とはいえ獣人にはヒューマン、つまり俺のような普通の人間よりも数段優れた身体能力に優れた直感という強みがある。戦う者として見ると非常に恐ろしく、頼もしい存在だ。

 

 

「にゃーたちは狩猟民族にゃ。学者様とか技師様ににゃるのは難しいけど、ハンターとか娼婦をやってる仲間(にゃかま)はどの町にも居るにゃ」

 

――でもワームドラゴンには勝てないんだがな

 

 

 地面の下からいきなり襲い掛かってくるワームドラゴンには、多少力が強いだの足が速いだのは関係ないのだろう。あ、いや。足が速ければ走って逃げられるからそこは関係があるか。集落の外に出る獣人は皆数回ワームドラゴンから逃げた経験があるらしいし。

 

 言外に俺が言いたい事を察したのだろう、ミケが頭頂部にある猫耳をペタッと伏せて唇を尖らせる。これは言いたい事はあるけど言い負かされると分かっているから黙り込んでいる時の顔だ。初めて会ってから5日。毎晩のように肌を合わせているせいか、互いに相手がなにを考えているのかがなんとなく分かるようになってきた気がする。

 

 

――初めて会ってから5日か。この世界に堕ちてから、もうそれほど経っているのだな。

 

 

 初手で女殺し(レディキラー)は今思うとちょっと悪い事をした気がしないでもないが、互いに警戒していた中での結果だからな。まぁ、ミケの場合知識人がどうしても欲しくて切羽詰まっていた感じだったから、あの時の俺にそれを警戒するな、と伝えてもはいそうですかとはならなかっただろう。

 

 話す気はないがもしバレた時には情状酌量くらいは欲しいものだ。それに初対面の際はミケの側もこちらを利用する気満々だったし、結果としては彼女が望んだ働きを今、この集落で行っているのだからむしろ感謝くらいは貰ってもバチは当たらないんじゃなかろうか。

 

 

――うん。足の裏に骨が突き刺さっていたね。これが動きが鈍かった原因だろう

 

 

「にゃ! 足にこんなに大きにゃのが刺さってたにゃ。痛かったね、トリケロ。もう大丈夫にゃよ」

 

 

 今現在、この集落での自分に期待されている働きは技術者兼医者兼農業指導者である。場合によってはこれらに戦闘員や料理長も付け足されるかもしれない。

 

 うん、ここまで働いてるんだから、むしろもっと感謝してくれないかな。

 

 ステータスを使ったインチキで技能を手に入れているとはいえ、忙しさによって心がささくれ立つのは防ぎようがないしね。




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