廃棄世界のルツボ   作:スライムナイトスライム抜き

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長老

「はぁ。ありがとうございます。先生には本当に感謝してもしたりません。知識を持ったヒューマンは獣人の集落になんぞ絶対に来てくれませんからね。はぁ……」

 

 

 トリケラの健康診断を終えた後、作業終了を報告するために長老に声をかけると彼はいつものため息塗れの言葉で礼を言ってきた。

 

 ため息の間に言葉を話しため息を零す。どれだけ疲れてるんだと思うかもしれないがこの集落の長老は大体いつもこんな話し方をする人だ。年老いたでっかい狸のような外見の長老は四則演算もこなせる獣人族随一の頭脳派で若いころは街の中で領主様に直接お仕えしていた事もあるという立志伝中の人でもある。

 

 

「はぁ。凄い凄いと言われるんですがね。獣人の中で計算が出来るのが私だけで、税とかを毎年忘れずに持ってってただけなんですよ。はぁ……」

 

「両手の指でならにゃーも計算できるにゃ」

 

「はぁ……ミケは本当に優秀ですねぇ」

 

 

 長老はお世辞抜きでそう言っているようで、ミケの頭を優しい表情を浮かべて撫でる。

 

 実際にミケは獣人の中ではかなり計算が出来る方だ。両手の指でと言っているが獣人には1つ、2つ、たくさんが数の基準だと思っている連中がごろごろいる。というより100人いたら99人がそうだと思っていい。

 

 獣人族はその種族の中でも結構な特色が出ており、例えばミケのように獣の耳と尻尾があるだけでかなりヒューマンに近い見た目の場合は、特徴や能力もヒューマン種に近いものになるのだ。獣人はそもそも人間よりも身体能力に優れた人種だが、その分知力的や器用さといったものが人間に劣っている。

 

 だが、ミケのようなヒューマンに近い見た目のものは獣の特徴が色濃く出る獣人たちよりも計算に強かったり器用だったりする。獣人とヒューマンのちょうど間のような能力になりやすいのだ。もちろん、長老のような例外も居るが。

 

 また獣人の中でも元になった種族によって能力差が出来たりする。たとえばミケのような猫型の獣人はすばしっこい、長老のような狸型の獣人は体力がある、といった具合に獣人という括りでも結構差があるのだ。

 

 そしてそんな人間よりのミケでも両手の指を使えば。つまり10まで数えるのが限界であり、集落の運営に必要な能力には文字通り桁違いに足りてない。

 

 長老は獣人の中でも長命で御年50歳。5歳で成人した後30年生きれば長生きという獣人の寿命を一人で伸ばし続けているのだが、彼が成人する前と後では獣人族の生活も扱いも段違いで変わったそうだ。

 

 なんなら彼が成人する前の集落の長(故人)は納税すら忘れる事もしばしあったそうだ。もちろん其の度に非常にキツイお叱りがあったそうだが獣人たちには良く分からない。難しい言葉喋ってるスゲーくらいの感じで聞き流していたらしい。

 

 

――いや、普通にそういうのって厳罰というかなにかしらの刑に処されるものじゃないのか?

 

 

 そう疑問に思ったので尋ねてみると、それはもちろんその通り。ちゃんと街には法が敷かれておりそれに違反したらしっかり罰されるのだが、そもそもの話過酷な荒野で勝手に生きている獣人とかいう連中に与える罰なんてぶっ殺すくらいしかない。

 

 牢に投獄するにしても荒野の方が過酷な環境で罰にならないし、じゃあ強制労働をさせるにも獣人は団体行動が死ぬほど下手な種族で一つの作業をやらせるにも監督官の方が過労死しかねない。痛めつけるとどんな状況かも理解せずに歯向かってきてそのままぶっ殺される、の繰り返しになるため役人側の方がダメージが大きくなる。

 

 人顔の獣人はもうちょっと管理しやすいのだが、人顔の獣人はヒューマンと獣人の間にしか生まれず、ヒューマンと獣人の場合は非常に子供ができにくく獣人100人に対して人顔の獣人は1人いれば良い方という割合だ。

 

 獣人の一番の使い方は勝手に荒野で生きさせてたまに持ってくる上がりを税とする。街の支配層は随分前からそういうスタンスで彼らを扱っており、実際それが一番効率が良さそうなのだ。

 

 そしてその状況を一人で覆した長老という存在を街側がどう思ってるかも容易に想像できる。こんなに便利な歯車はそうそう見つからないってレベルの使い勝手のよさだろうな。領主様が直臣扱いしているというのもまぁ無理もないだろう。

 

 

「ところでりょーしゅ様って誰にゃ?」

 

この辺り一帯(フォーリング地方)を支配しているお貴族様だよミケ。13度回教えてるからそろそろ覚えようね」

 

 

 疑問に思ったことをそのまま口にしたミケに長老が応える。あんまり興味はなく、単に知らない単語だから口にして尋ねただけだろうな。多分、また明日になったら忘れてしまうだろう。

 

 しかし、領主様、か。長老からの話では、ワームドラゴンが居るせいで発展できない荒野の現状をなんとかしようと頑張っているらしいが、現状を鑑みるにそれほど有能だという印象が伺えない。もし仮に俺が同じ立場なら、なんとかしてワームドラゴンを駆除するかトリケラの数を増やすんだが。

 

 俺が上手い事この荒野で生きるためにもご領主様にはもう少し頑張って環境を整えてほしいものだ。

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