廃棄世界のルツボ   作:スライムナイトスライム抜き

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バスク・ラム

 俺が獣人の集落の何でも屋に就任して1月が経過した。

 

 何でも屋というのは文字通り何でもやらされる係の事で獣人たちが分からない事や困ったことがあればとりあえず相談する相手だと思っていい。俺がこの集落に来る前は長老がこの係をやっていたそうだ。村の運営の上に獣人のお守りまでやらされていた長老は働き者だな(棒)

 

 仕事は多岐にわたる。一番多いのは長老の補助で生活に直結する農業などの手伝いだが、例えば獣人同士の喧嘩でテントがぶっ倒れたから直してくれ(喧嘩した二人をボコボコに殴った)だの託児係に預けた子供が足りない(荒野に遊びに出てワームドラゴンに食われていた)だのギャンブルをしたら掛け金を誤魔化された(なお、両者とも2以上の数を数えられないためいくらかけてるかも分かっていなかった)だの獣人の集落は毎日のように面倒ごとが起きている。

 

 ほとんどのもめ事がとりあえず物理でなんとかするしかない物ばかりで、老いた長老にやらせるには忍びないものばかりだったから頑張ったが、獣人たちに対するカルチャーショックを日々受け続ける毎日だ。

 

 というか子供がワームドラゴンに食われたのに「あ、そうだったんだー」とか言ってのける精神性がまるで理解できない。いくら何でも命が軽すぎやしないだろうか。

 

 

「獣人は毎日10人死んでも毎日20人増えるにゃ。そーいう生き物だにゃ」

 

 

 俺の感想に苦虫を嚙み潰したような表情でミケがそう口にする。獣人はかなり多産らしく一度に10人くらい生まれることもざらだしなんなら年に2回出産する場合もあるらしい。母親のおなかの中には大体半年いるそうだ。そして成人するまでの期間は獣に近い者ほど早くなり、最短5年で大人の体になるのだという。ミケのようなヒトガオと呼ばれる連中は人間に近いがそれでも10年ほどで大人になるのだという。

 

 元々がバンバン増える種族の上、この集落には娯楽も何もないから暇な奴は良く分からないギャンブルでわーきゃー騒ぐかパコパコやる位しか出来ることがない。そら増えるわ。バンバン増えるわ。

 

 そんな狂った増え方をするもんだから命に関しても非常にドライで子供が死のうが旦那が死のうが妻が死のうが「あ、そうなんだー」で済ませる価値観になってしまうのだという。

 

 

「長老が見所のある奴に『そんな考えじゃダメ』って教えてるけど、そーいう真面目な奴はヒトガオばっかにゃ」

 

 

 ヒトガオの獣人は基本的に一度の妊娠で一人の子供を産む人間に近い出産をするらしい。成長速度も他の獣人の倍かかるし人数も少ない。相対的に獣顔の獣人ばっかりになって結果そいつら基準の価値観が獣人全体の価値観になってしまっているんだろう。

 

――長老には悪いが、この集落にずっといても苦労ばっかりさせられそうだ。

 

 やはり早めに街へ出るのが望ましい。だが、そのためにも街の情報をもっと集めて、出来れば街中のコネも欲しい所だ。

 

 

 

 その機会は、割とすぐにやってきた。

 

 

「うっひょぉぉ!」

 

「たまんねぇぜ!」

 

「見ろよあの顔! 怯えてやがるぜぇ!」

 

「そーれ一気! 一気!」

 

「がんばえー! わーむどらごんがんばえー!」

 

 

 獣人たちが集落のはずれにあつまり、目の前で行われている処刑をわいわいがやがやと囃し立てている。

 

 処刑、そう。処刑だなあれは。

 

 トリケラに繋がれたローブの先に居る縛られた鶏顔の獣人が、必死になって荒野を駆けまわっている。両手を後ろ手に縛られているため随分と不格好な走り方だが、流石は獣人というべきかそこそこ早い。

 

 集落の獣人はそんな彼を応援――するのではなく、彼を追いかけるワームドラゴンに声援を送っている。

 

 

「ヒューマンの自宅に侵入し貯蔵してあったパンを盗み食いした罪。重罪ですね」

 

「街で盗みをしたにゃ? その場で撃ち殺されにゃいにゃんて珍しいにゃ」

 

「後の余罪は元いた集落の女を複数人力づくで手籠めにしたとかで手配されていたようです」

 

「そんにゃので手配されるにゃ?」

 

「よっぽど節操なしだったんでしょうね」

 

 

 長老とミケの会話を聞きながら、罪人の獣人がパクっとワームドラゴンに丸のみにされるシーンを目にする。俺も最初のロードの時はあれをやられたんだろうな。

 

 しかし、わざわざワームドラゴンに餌をやるような事を誰がしているのか、と考えていると、応えはすぐに荒野の向こうからやってきた。

 

 ブオン、ブオォォン!

 

 随分と久しぶりに耳にするエンジン音を響かせて、その一団は獣人一人を飲み込んでご満悦のワームドラゴンを尻目に獣人の集落へとやってきた。

 

――車だ。それに、バイクもある!

 

 

「久しぶりだなタヌコウ」

 

「お久しぶりでございます、バスク隊長」

 

 

 上部をむき出しにしたオープンカーのような車から、この一団の指揮官らしき豪奢な鎧を身に着けた大柄な男が下りてくる。

 

 彼の名前はバスク・ラム。この辺り一帯(フォーリング地方)を束ねる領主様、フォーリング卿に使える騎士団の隊長の一人だ。

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