廃棄世界のルツボ   作:スライムナイトスライム抜き

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ワームドラゴン

「お前ヒューマンなのに獣人の集落で生活してるのか? ええと、その。大丈夫か?」

 

 

 挨拶を交わしたところ、バスク隊長は二度ほど俺の顔を見て言いづらそうにそう尋ねてくる。大丈夫? という辺りで俺の背後で連れてこられた犯罪者たちを磔にしてリンゴのないウィリアム・テルごっこをしている獣人たちを指しているのだろうが、連中は自分より強いと認めた相手には非常に従順なため特に問題はない。

 

 まぁこの集落に来た最初の日にはあからさまに舐め散らかした奴が居たが、俺のステータス欄は手持ちのポイント分は自由に弄れる仕様だ。力と速さに全振りして突っかかってきた奴を地面のシミにしたら次の日からは下にも置かない扱いになった。ミケは大喜びで「やったにゃ! 墜ち人ガチャ大当たりだにゃ!」と叫んでいた。この世界にもあの文明が生み出した最悪の金儲けが存在すると知って涙が出たね。

 

 

「旦にゃ様は集落で一等強い男だにゃ。それに頭も凄いにゃ。医者と技術者と学者も全部できるにゃ」

 

「えぇ……ワームドラゴン以前の墜ち人でそこまで出来る奴知らねぇぞ」

 

 

 たったひと月の間に俺がやらされた仕事の数々を聞いてバスク隊長が若干引き気味になっている。まぁ、たった一人の人間にそこまで役割振るわけないし振ったところで出来るわけがないからな。

 

 だが俺の場合は、スキルにポイントを割り振ればその技能と知識が使えるし必要なタイミングで必要な技能が手に入る。それにスキルを手に入れた後に必要が無くなればそのスキルを外してスキルポイントに戻すことも出来る。身の安全のためにスキルポイントの内15は常にステータスに振ってあるから、スキルに使えるポイントは残りだけになるが必要なものを付け替えればポイントが足りなくなるという事もないのだ。

 

 これに毎朝家で駆けてあるセーブが組み合わされば、初日のような事故ロードもほぼ起きなくなる。はずだ。

 

 

――少し考えがそれた。ところで今、バスク隊長が聞き逃せない事を言っていたな?

 

 

 ワームドラゴン以前の墜ち人、というが、ワームドラゴンは昔からこの荒野に巣食っているのではないのだろうか?

 

 

 ミケに尋ねてみると、ミケは「んー? そうじゃないかにゃ?」と不思議そうな顔を浮かべて首をかしげる。どうやらミケもワームドラゴンは昔から荒野に居ると思っていたようだ。

 

 

「ああ。ワームドラゴンは30年ほど前に落ちてきた墜ちドラゴンなんですよ」

 

 

 墜ちドラゴン。なんだかすごい単語が出てきたぞ?

 

 

「30年前にワームドラゴンが落ちてくるまでは荒野の砂地は比較的楽に横断できる場所でしてねぇ。この集落も半年か1年に1度落ちてくる墜ち人さんを街まで案内するっていう役割があったんですが、ワームドラゴンが落ちてきてからはみぃんなアイツが食べちゃうんで」

 

「一人食べれば満腹になって2,3日は人を襲わないから、こまめに犯罪者を荒野で餌にしてるんだがなぁ。役に立ったのは今回が初めてだ」

 

「役に立ってないにゃ。旦にゃ様は自力で墜ち人小屋まで歩いてきたにゃ」

 

 

 長老たちの会話を聞きながら背後を見る。ウィリアム・テルごっこで脳天を射抜かれた犯罪者の死体を獣人たちが荒野に投げ捨てているが、ワームドラゴンはどうやら満腹らしく死体の近くをウロウロとうろついている。満腹だけどもったいないからどうしよう、と副音声が聞こえてきそうだ。

 

 あいつも俺と同じでどっかから落とされてきたのか。いつかリベンジしようと考えていたが、なんだか親近感が湧いてきてしまった。

 

 ところで墜ち人を街へ案内するっていうのは初耳だったんだが、どういう事かな、長老。怒らないから話してくれないか?

 

 

 

 

 この集落に保護された墜ち人は、騎士団の見回りや街への納税の際など何かの折を見て街へと移動することになっている。必死になって首を振る長老を尻目にバスク隊長から告げられた言葉は、俺がここ最近ずっと望んでいたものだった。

 

 

「どうせひと月も隠せないのに必死すぎにゃ」

 

「しかしだな、ミケ。先生が居れば、この集落の問題がどれだけ解決するか……!」

 

 

 ミケは長老から肉を優先配給する代わりに口留めをされていたらしい。ただずっと俺に黙っているつもりではなく、結局騎士団か街の人間がやってくればバレる事だから、その間は得をするのを選んだそうだ。

 

 実際、バスク隊長たちが来るまで集落に足止めされていたのは変わらないのだから、その判断は間違っていなかった。騙されていたという気持ちがないでもないが、そのミケの判断で毎日ネズミモグラの肉が入ったスープを食えていたのだから感謝するべきだろう。

 

 

「ところでそっちのネコミミちゃんは先生のコレかい?」

 

 

 バスク隊長が小指を立ててそう尋ねてくる。この世界にもこんなジェスチャーあるんだな。

 

 しかし、ミケか。まぁ初日についヤっちゃってからなし崩しに世話を焼かれてひと月以上共同生活をしているし、もう大分情を持ってしまっている。うん、そうだな。確かにコレで間違いないだろう。

 

 首を縦に振ると、バスク隊長はヒュー♪と口笛を吹き、ミケはいやんいやんと嬉しそうな顔で尻尾を振っている。そこまで喜ばれるのは、その。嬉しいもんだな。

 

 

「やったにゃ! これで街の中に戻れるにゃ! こんにゃチンケにゃ集落とはおさらばにゃ!」

 

「ああ、なんだ嬢ちゃん元は街のもんだったのか。じゃぁ墜ち人の関係者は街に住めるのを分かってたんだな」

 

「もちのろんだにゃ! その為に危険な墜ち人小屋当番をしてたにゃ」

 

 

 ミケさん。ちょっとミケさん。流石にそこまで目的重視で喜ばれるとこちらとしても悲しいんだけど。

 

 まぁ、初対面の時はこっちを利用する気満々だったのは知ってるし、それ以降の付き合いでそれだけの関係じゃないとは分かってるけどさ。もう少しこう、言葉に手心をね?

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