よう実も同じような轍を踏まないよう、一年生編を一気見しました。
二年生編が楽しみですね。キャラクタデザインはそのままで。
一週間の練習期間があっという間に過ぎさり、魔術競技祭当日。
この日、
正門から本館校舎の来客用正面玄関に向かって人垣の道ができているが、複数の衛士達によって仕切られていた。
盾と翼の文様をあしらった緋色の陣羽織を身に纏い、腰に細剣を下げているそいつらは王室親衛隊と言い、陛下直属の護衛部隊で、高度な剣術と一通りの軍用魔術を修めた帝国軍屈指の精鋭、だったか。
今ここにいる面々は先発隊で、陛下が通る道の安全確保のため、周囲に目を光らせているようだ。
「ていうか……本当に陛下来んのか?」
「貴方、いまさら何、馬鹿なこと言ってるのよ!?」
人垣の中、オレの隣で何時ものようにとぼけたことを呟くグレン先生を、システィーナが呆れたようにたしなめている。
「いや、だってさぁ、帝都からここまでめっちゃ遠いじゃん?転送法陣もこの前の一件で今は使えねえし…俺が陛下だったら絶対、面倒臭くて来ねぇ」
「アンタみたいな出不精と女王陛下を一緒にすんなッ!不敬でしょうが!」
ぺちん、とシスティーナはグレン先生の背中をはたいた。すると、たいした力を加えたわけでもないのに、グレン先生がよろめいた。
「っと」
「す、すまんキヨポン」
オレはよろめく先生の脇下に腕を入れて支える。
「……せ、先生!?大丈夫ですか!?」
「わ、私そんなに強く叩いちゃった!?」
「い、いや…大丈夫、じゃないな。つーかさ、来るならさっさと来て欲しいんですけど……俺、もう、こうやって立ってるだけで限界……は、腹が…」
ルミアとシスティーナは気付いていないようだが、グレン先生はこの一週間の断食で顔に窪みが見える程痩せこけていた。餓死を回避するためか、なにかの木の枝を咥えている。
賭け以前に今日生きられるのかすら怪しい。
ちなみにハーレイ先生との賭けの後、ギャンブル依存症患者からしつこく無心をされたが、貸したら絶対返ってこない可能性があるため、オレは無視し続けて一リルも貸していない。
「……先生、どさくさに紛れて人の財布スろうとするのやめてくれませんか?」
「ちっ」
意外とまだ余裕があるようだ。
こっそりオレのポケットへ伸びていたその手を、空いていた手で寸前でつかんで防いだ。
二度と出来ないよう、このまま握力で粉砕骨折させようか考えていた時、
「女王陛下の御成りぃ~ッ!女王陛下の御成りぃ~ッ!」
人垣の道の中央を、馬に騎乗した衛士が叫びながら駆け抜けて行く。
それを受け、待機していた楽奏隊が歓迎のパレードマーチを演奏し始めると、生徒達一同は大歓声を上げながら盛大な拍手を巻き起こした。
やがて、人垣でできた道の間を護衛の親衛隊に囲まれた豪奢な馬車が悠然と進んで行く。
馬四頭に牽引されるその馬車は、要所要所に金銀細工のリレーフが施され、いかにも貴人専用といった豪奢なしつらえとなっている。そして大きく印象的な、帝国王室を象徴する翼を広げた鷹の紋があった。ロイヤル・ホースカートと言う奴か。
馬車の窓からドレスを着た金髪の女性、帝国の実質的トップである女王アリシア七世が身を乗り出し、生徒達の歓声と拍手に応えるように手を振ると、さらに拍手と歓声の音量が上がった。
やはり、親子だけあってどこかルミアに彼女の面影を感じるな。
オレはチラリと、ルミアを流し見る。ルミアは首にかけられたロケットらしいものを手に、それを開いていた。
気になったのかシスティーナがロケットの中身の事を聞くと、中身は何も入っていないことに気づく。いきなりのことに戸惑ったのか、ルミアは動揺してなんでもないように振る舞う。
ルミア=ティンジェルは本名ではない。ルミアの本当の名前はエルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ。帝国王室直系の正統な血筋を引く、元・王位継承権第二位――つまりはアルザーノ帝国の王女様だ。
ルミアは本来ならば、このような場所にいるはずのない貴人なのだ。だが、三年前、ルミアが『感応増幅者』と呼ばれる先天的異能者であることが発覚し、様々な政治的都合から表向きは病で崩御なされたとして、その存在を抹消されたそうだ。
神聖不可侵とされている帝国王室の血筋から、帝国内で悪魔の生まれ変わりであると、広く堅く信じられている異能者が生まれてしまったことが知られた場合に起こる威信の失墜、及び四十年前に戦争を仕掛けた隣国レザリア王国とその国教である聖エリサレス教会に再び戦争を仕掛けられる口実を作ってしまい『第二次奉神戦争』の勃発、などの事態を避けるためという政治的な理由で、彼女は自分の意思に関係なく家族の下を去ることを強いられ、今に至るそうだ。
存在を消された娘と、その娘を王室から追放した張本人である母。
両者の関係は複雑といっていい。捨てても尚、娘の身を案じてオレを護衛として送り込んだという事実があるとしてもだ。
今オレがルミアになにか言葉をかけたところで意味がない。
姉妹同然の関係であるシスティーナですらどんな言葉をかけていいかわからないといった様子だった。
「ん?」
「あ?どうした」
「いえ…」
今一瞬、なんかねっとりとした視線を感じたが………気のせいか。
♢♢
『我が国の未来を担う若き魔術師の卵達よ。その溢れる才気のまま、存分に力を競い合ってください。それでは、アルザーノ帝国女王アリシア七世の名のもとに、魔術競技祭の開催をここに宣言します』
「「「「わああああああああ!」」」」
魔術競技祭開催式では、魔術学院の敷地北東部にある魔術競技場にて、開式の言葉、国家斉唱、関係各者の式辞、生徒代表による選手宣誓——式は粛々と進んでいく。
そして、女王陛下の激励の言葉と共に開会宣言を行われ、競技場が拍手喝采で響き渡った。
まるで石で作られた円形の闘技場のような構造の競技場の中央、芝生が敷き詰められた競技用フィールド上に競技に参加する生徒一同が集合整列している。
観客席にいるのは学院の生徒達だけではない。生徒達の両親や、学院の卒業生など、学院の関係者が続々と集まっている。
「おや?競技に参加する生徒の人数がやけに多いクラスがありますな」
「二組……ああ、最近入った新任講師のクラスですな。確かグレン=レーダスとかいう…………」
フィールド上にいる二組のクラスは、他クラスだけでなく観客から奇異の目を集めていた。
「なんでもクラス全員を参加させるとか」
「全員!?それはまた豪気な……」
「思い出作りのつもりですかな?陛下の御前で礼を欠いてるのでは?」
「はは……まあまあ」
「それよりも見るべきは一組でしょう?」
「ええ、あの若さで第五階梯にまで至ったハーレイ=アストレイ率いる大本命の組、あそこがいる以上勝負を投げる組も出てくるでしょう」
「確かに」
誰もグレンの担当しているクラスに期待などしていなかった。勝負になるとすら思っていなかった。
♢♢
競技祭参加クラス用の待機観客席にて、オレ達は今行われている最初の競技『飛行競争』を観戦していた。
『そして、さしかかった最終コーナーッ!二組のロッド君がぁ、ロッド君がぁああ――ぬ、抜いた――ッ!?どういうことだッ!?まさかの二組が、まさかの二組が――これは一体、どうことだぁあああ――ッ!?』
実況が興奮気味の奇声を張り上げている。一位、二位確定の先頭集団はそっちのけで、二組にご執心のようであった。
『そのまま、ゴォオオオル――ッ!?なんとぉおおお!?「飛行競争」は二組が三位!あの二組が三位だぁ――ッ!誰が、誰がこの結果を予想したァアアアアア――ッ!?』
ゴールの合図と共に、観客席からの実況にも負けない拍手喝采。トップでゴールした一組よりも盛り上がっていた。
拍手の大半は競技祭に参加せず見学に回っている生徒達か。 二組クラスとは別のクラスだが、何か共感できるものがあったということだろうか。
「やったぁ、凄い!キヨト君、三位!ロッド君とカイ君、三位だよ!?」
「ああ、そうだな」
オレの隣では、ルミアが手を打ち鳴らして大喜びしている。
そばで二組の面々も大盛り上がりする中、二組の監督をしていたグレン先生は、
「うそん…」
目を点にして呆然としていた。
いや、アドバイスした本人が何一番意外そうな顔してるんだ。ここまで奮闘できるとは思ってなかったようだ。
「幸先良いですね、先生!飛行速度の向上は無視してペース配分だけ練習しろって、どういうことかと思っていましたけど……ひょっとして、この展開、先生の計算済みですか?」
「え……そ、そりゃ当然だ。一周二周のレースだったら速度がモノを言っていただろうが、今回は去年と違い、一周五キロスのコース二十周とやたら距離の長いレースだからな。みんなが去年の『飛行競争』と同じ物差しで練習に臨んでたのを見た時からこうなるのは予想しきっていた。去年と同様のペースで飛行し続けていれば後半には自滅する選手が続出するだろうからあの二人には死んでもペースを守っとけって念を押した甲斐があったってもんだ。まあ、欲を言えばもうひとつ上が欲しかったが、序盤としては上々だ」
予想外の奮闘ぶりを見て興奮していたシスティーナに、グレン先生は余裕の態度を装って最初からこうなることを見越していた風に話した。
席に深く背を預けて足を組み、余裕綽々な表情を掌で隠し、指の隙間から不敵にほくそ笑むその様は、いかにも大策略家な雰囲気を(見た目だけは)かもし出していた(内容はすごい後付け感があったが)。
「ひょ、ひょっとして俺達……」
「あぁ……まさか……とは思ったが、先生についていけば、ひょっとしたら……」
「……ちっ!たまたま勝ったからといっていい気になりやがって……ッ!」
「たまたまじゃない!これは全部、グレン先生の策略なんだ!」
「そうだそうだ!お前らはしょせん、先生の掌の上で踊っているに過ぎないんだよ!」
「な、なんだと!?くっ……おのれ二組、いきがりやがって!俺達四組はこれから、お前達二組を率先して潰していくからな!覚悟しろよッ!?」
「返り討ちにしてやるぜ!なんてったって俺達にはグレン先生がついているんだ!」
「ああ、先生がいる限り、俺達は負けない!」
うわぁ…。グレン先生のハードルがどんどん上がっていくな。
自分そっちのけで盛り上がってる状況を見て、グレン先生は顔に脂汗が滲み、胃を押さえている様子から、自分達が圧倒的に有利だという事にまったく気付いていないようだ。
この魔術競技祭、二組が負けない条件がいくつも転がっていた。その中でも挙げるのは三つ。
まず一つ目は参加する競技を一つに集中させたことだ。
この一週間、全員出場のオレ達二組が担当する競技は一人一つに対し、成績上位者を使い回している他クラスは一人複数だった。
限られた時間の中でできる練習のメニューなんて、たかが知れている。
一つの競技だけを練習してきた奴と、複数の競技の練習の片手間にしか練習してこなかった奴や練習する暇がまったくなかった奴とでは必然的に差が出てくるわけだ。
二つ目は戦術の合理性だ。
使い回される他クラスの成績上位者が後に残された競技のために、魔力を温存しなければならないのに対し、二組はその競技だけに全魔力を尽くせるという構造的有利である。
結果から見て、他クラスの講師達は、魔術師としての体裁や格式に拘るあまり墓穴を掘ったとしか言いようがない。
そして三つ目は傲慢さだ。
基本的に魔術師は自分より下の奴を見下す傾向がある。二組以外の選手達が得意顔でオレ達を見下すような目を向けていたのが良い証拠だ。
成績上位者である自分達が成績下位者に負ける筈がない。言い方を変えれば、成績下位者も参加している二組なんか警戒するに値しない、という感じだろう。
それはオレ達二組に付け入る隙を与えることに繋がる。
もっとも、このまま二組の快進撃が続けば話が変わるだろうが。
偶然それらの条件が揃った結果、それからも二組のクラスの快進撃は続いた。
『あ、中てた――ッ!?二組選手セシル君、三百メトラ先の空飛ぶ円盤を見事、【ショック・ボルト】の呪文で撃ち抜いた――ッ!?「魔術狙撃」のセシル君、これで四位以内は確定!?またまた盛大な番狂わせだぁああああああ――ッ!?』
『いった――ッ!?正解のファンファーレが盛大に鳴り響いた――ッ!ウェンディ選手、「暗号解読」圧勝――ッ!文句なしの一位だぁあああ――ッ!』
どの競技も成績が平凡な生徒達は予想外の奮闘を、成績上位者は安定して好成績を収め続ける。
「すごいねキヨト君、みんな上位をキープしているよ」
「まあ当然の結果だろうな。グレン先生の考えた戦術は、勝つという一点に関して、とても合理的だったわけだ」
「へえ、そうなんだ」
まぐれもあるが。
現在二組は十クラス中の三位。一組は一位である。
一位から三位までは、それほど大きな得点差はないが、じりじりと一組に離されているのが数字に出てきている。
今は勢いだけで誤魔化しているが、競技が進行すればするほど、本来の地力の差が現れ、じりじりと突き放されていく展開になることは想像がつく。
「……ねえ、キヨト君。今楽しい?」
「?突然どうした」
ルミアが少し不安げな表情でオレの顔を見てくる。
「その、キヨト君あんまり楽しそうに見えなかったから。皆が盛り上がるのを眺めてるだけだったよね」
「ちゃんと楽しんでいた。顔に出すのが苦手なだけだ」
「……そうなんだ」
やろうと思えばできるかもしれない。が、それを人に見せる必要はないとジャッジしたまでだ。
「それはそうと、そろそろルミアが出る競技だな」
「あっ、うん…」
「緊張しているのか?」
「ちょっとだけね? 私以外の選手は男の子ばっかりだし、去年も凄いことになってたから」
あはは、とルミアは苦笑で返した。
もうすぐ午前の部が終わる。
次のは午前中最後の競技『精神防御』。二組からはルミアが選手として出場する。
競技内容はシンプルに我慢比べだ。精神汚染攻撃に対し、自己精神強化の術を用いて耐えるという形で競わされる。そして、少しずつ受ける攻撃の威力は上がっていき、最終的に正常な精神状態を保って残った者が勝者となる敗者脱落方式の耐久勝負。
その性質上、出場選手は毎年男子だけ、女子が出ることなど一度もないとのこと。
出場する女子は自分だけ、という不安もあるだろうが、ここまで他の生徒達が好成績を残してきたのも少なからずプレッシャーになっているのだろう。
「……気楽にいけ、とは言えないが、今慌てたって仕方ないし今日まで頑張ってきたのは確かだ。余計なことを考えず、ただそれを発揮するだけでいいと思う」
「…うん、ありがと。なんだか気が軽くなったみたい」
笑顔を咲かせるルミア。さっきとは打って変わって、不安の色は見られない。
「言っておくが無理はするなよ。辛くなったら棄権しろ」
「心配しなくても大丈夫だって。私、頑張ってくるよ」
行ってくるね、と言ってルミアはフィールドへ向かった。
……口ではああ言ってたが、あいつ絶対無理しそうだよな。
それからしばらくして、『精神防御』の競技の準備が整い、実況の説明が始まろうとしていた。
『ただいまより精神防御の競技を開始したいと思います。今年も第六階梯のツェスト男爵にお願いいたします!』
参加生徒達が組んでいる円陣の中心に、突如どろんと煙が巻き起こり、その煙の中から燕尾服にシルクハット、髭と言った伊達姿の中年男性が現れた。
「ふっ、紳士淑女の皆さん、ご機嫌よう。ツェスト=ル=ノワール男爵です」
短距離転移魔術でも使ったのか、芝居げたっぷりに現れた男が一礼する。
「さて、さっそく競技を開始しよう。私の華麗な魔技にどこまで耐えられるかな?」
ツェスト男爵がそう言って競技が始まる。いきなり【マインド・ブレイク】を使うわけではなく、まずは【スリープ・サウンド】などから始まっていく。それでも【マインド・アップ】を唱え終えている生徒の一部が魔術にかかり寝ていく。
ちなみに第一ラウンドでいきなり脱落したのは一組だ。
『ちょ、これ完全に捨て駒だ――ッ!?やる気なさ過ぎでしょハーレイ先生ッ!?』
「うーむ、私としては、もうちょっと耐えて欲しかったのだがね……」
『まぁ、去年の覇者、五組のジャイル君がいますからねー、きっと主力温存作戦でしょう。彼の勝利がもう決まっているようなものですから、イマイチ盛り上がりも欠けますしね。というわけで、実況の僕としては、紅一点、二組のルミアちゃんがどこまで残れるか…これが見所だと思うんですけど、どうです?男爵?』
「ふっ、そうだな。可憐な少女がどこまで私の精神操作呪文に耐えてくれるか、いたいけな少女の心をどのように汚染し尽くしてやるか、実に楽しみだ・・・ふひ・・・ふひひ・・・・・・」
男爵が気持ち悪い笑みを浮かべながら、ルミアを一瞥した。
『ここで男爵、まさかの嫌な性癖大暴露!!ていうか、男爵ってまさかそういう変態的な人だったんですか?』
「何を言うか、私は断じて変態ではないッ!私はただ、喪心しちゃったり、心が病んじゃったり、混乱しちゃったり、恐慌を起こしちゃったりした女の子の姿に、魂が打ち震えるような興奮を覚えるだけだッ!」
「「「『へ、変態だァアアアアアアアアアアアア――ッ!?』」」」
うわぁ…。マジかコイツ。
フィールド上にいたルミアや二組、観客席にいた人間も引いている。
ここの講師はあんなのばっかなのか?あれだけが特殊だと思いたい。
そこからはある意味地獄だった。
男爵は次々と威力を高めながら精神操作系呪文を唱えていき、生徒達も必死に【マインド・アップ】を唱えて対抗し、ラウンドは着々と進んでいく。
『ツェスト男爵の白魔【コンフュージョン・マインド】がきまったーーーーッ!?うわぁ、やばい!?八組の生徒耐えられなかったぁあああーーッ!?』
「あばばばばばばばば・・・暑い!暑い!」
「ぎゃぁあああーーーッ!?ちょっと君!男子生徒に脱がれても私はちっとも嬉しくないのだが!?どうせならルミア君────」
『おい、やめろ!ちったぁ欲望隠せよ、この馬鹿男爵!救護班、早く八組の生徒連れてって!大至急!』
「次は白魔【マリオネット・ワーク】だ!皆を私の操り人形にしてせんじよう!さぁ、踊れ!」
『ぷっ!だっははははーーッ!耐えきれなかった十組の生徒が踊り出したーーッ!ていうか男にセクシーダンス踊らせんな、馬鹿男爵!キモいんだよッ!』
「・・・ちっ」
『ちょっ、男爵、あんた何ルミアちゃんの方見て舌打ちしてんの!?いい加減にしろよ、この変態エロ親父ッ!?』
「だ、男爵・・・俺、実は男爵のことがずっと好きで・・・・・・」
「ぎゃぁあああーーッ!?嫌ぁあああーーッ!?じ、蕁麻疹がぁあああ!?」
『く、腐ったぁあああーーッ!?男爵の下心全開の白魔【チャーム・マインド】!ド裏目だぁあああーーッ!?ていうか、ホント誰かなんとかしろよ!この変態犯罪貴族!救護班はとりあえず精神浄化!ついでに男爵の頭も浄化したれ!早く!ていうか毎年思うんだけど、何でこの競技禁止になんないの!?』
毎年やってるのかよ。女子が出ない理由がわかった気がする。
男爵の気持ち悪さが観客席にまで飛び火しているようで、吐き気を催している二次被害者が大勢いる。
だが、ラウンドが進んでいくうちに、ざわざわと観客席はどよめき始めた。
二組のルミアがいつまでも残っているからだろう。
他の選手達みたいに頭をかきむしったり、爪を噛みながら必死に耐えようとしているわけではなく、平然としている。
『九組いきなり両手で地面を叩きながら奇声を上げ脱落――ッ!?なんと、誰が予想したでしょうかこの展開――ッ!?これで五組代表ジャイル君と、二組代表ルミアちゃんの一騎討ちだぁあああああ――ッ!?』
当然と言えば当然だ。
一ヶ月ほど前に学院で起きたテロ事件。あの時のルミアはテロリストの外道魔術師達を相手に一歩も引くことなく、毅然としていた。少し間違えばすぐに殺されるかもしれなかったというのに。あいつは平時でも常に死ぬ覚悟ができている。
いや、自分が生きることを諦めているが正しいか。
とはいえ、五組代表のジャイルという生徒も異常だ。一体どういう修羅場を潜って来たんだか。というか、ガラの悪い不良みたいな外見なうえ筋骨隆々な体つきをしている。明らかに魔術より身体を鍛えてると言った見た目だった。
そのまま二人の戦いはクライマックスに突入し、ツェスト男爵が白魔【マインド・ブレイク】の威力を徐々に上げながら二人に掛け続ける。
それが三十回程繰り返され、第三十一ラウンドに入ろうとしたところで、ルミアが膝をついた。
潮時だな。
「先生、もういいでしょ?」
「ああ、わかってる……」
「ルミア!」
オレがグレン先生にルミアの状態を危惧すると、先生はシスティーナを連れてフィールドへ向かい、棄権を宣言した。
「二組は三十一ラウンドクリアした段階で棄権する!これ以上はルミアが無理だ」
『な、なんと!二組のルミアちゃんは棄権!今年の『精神防御』もジャイル君の勝利だぁぁぁぁぁぁ!』
観客たちからブーイングが起きるが、グレン先生はまったく気にも留めない。
自分はまだいける、とルミアが抗議するが、先生は彼女が既に限界であることに気付いていた。
勝ちにこだわって三日間も昏睡させるようなリスクを取るか、生徒の安全を優先して勝ちを捨てるか。グレン先生は後者を選んだ。
システィーナにも諭され、ルミアはようやく棄権を受け入れる。
二組の面々もこれに文句を言わず、むしろ奮戦したルミアを褒め称えていた。
そうこうしているうちに、実況の話題は勝者インタビューに移ったようだった。観客の意識を、なんとかブーイングからそらそうと実況は必死のようだ。
『えー、それでは、去年に続いて見事、「精神防御」の勝負を制した五組代表ジャイル君。何か一言お願いします』
実況がそう言った後、ツェスト男爵がずっと仁王立ちしているジャイルに呼びかけるが反応がない。
「ふっ、流石だね、ジャイル君。……ん?……ジャイル君?」
『おや?どうかしましたか?男爵』
「じゃ、ジャイル君はすでに――」
『え?ジャイル君がどうしたんですか?』
「た、立ったまま気絶している――」
『……は?』
今の今までグレン先生に対するブーイングの嵐だった場内が静まり返った。
正直オレも困惑している。
『えーと?ということは……?』
「……ルミア君の勝ちだろう。棄権したとはいえ、第三十一ラウンドをクリアできなかったジャイル君に対し、ルミア君は一応、クリアはしたからね」
マジか。
『……な、なんとぉおおおお――ッ!?なんというどんでん返し!この勝負を制したのは紅一点、二組のルミアちゃんだったぁああああ――ッ!?』
まさかの逆転勝利に、再び爆音のような大歓声が渦巻いた。
「うおおおお!すげえぞルミアちゃん!!」
「本当に見事でしたわぁ!!」
二組のクラス全員が観客席から飛び降り、一直線に駆け寄ってルミアを取囲み、その健闘を次々と口早に讃える。
オレも流れに乗ってルミアの近くに行くと、気のせいか、目が合った。彼女はオレ(多分)の方を向くと、嬉しそうに笑った。
それは何一つ曇りも憂いもない、花のような笑顔、という感じだった。
♢♢
午前の部が終わり、小一時間ほどの昼休みに入った。
競技場に集まっていた生徒達は学院内の学食に行く者、学院外の外食店に赴く者、あるいは弁当を用意してきた者と分かれて、ぞろぞろと移動し始めていた。クラスの生徒達も一旦解散し、昼食のために各自分かれて移動し始めている。
昼飯はどこで済まそうか。
確か学院の近くに安い飲食店があったはずだ。
「……ん?」
中庭を歩いていると、見覚えのある小柄な女子が周りをきょろきょろしていた。
「どうした?」
「……ひゃっ!?」
少女はびくりと飛び上がり、こちらに振り向く。やはりリンか。
「悪い。驚かせて」
「う、ううん……」
振り向いたリンの顔は、なぜか少し泣きそうな顔をしていた。
「大丈夫か?なんか泣きそうなんだが」
「そ、その…えっと…」
「……誰かを探しているのなら、一緒に探そうか?」
「え、えと……そう、なんだけど、その……キヨト君でもいいから……その……」
とにかく誰かに自分の話を聞いてほしいという感じなのか。
「ひょっとして、競技のことで不安なのか?」
「う、うん、その……」
リンがおどおどしながら、少しずつ心の中をまとめるように呟いていく。
「えっと…私の出番が午後なんだけど…その、自信がなくて…………変身の魔術は一生懸命練習してきたんだけど……今日になったら緊張してきて……全然、上手くいかなくなっちゃって……それで、私を他の誰かに代えてくれないかと、グレン先生を探していて……」
「……リンはどうしたいんだ?」
「そ、それは……」
しばらくの間、リンは自分の心の内をさらうように押し黙って、そして――
「本当は……私も出たい……でも、皆に迷惑かかるから……せ、せっかくクラスの皆が一丸になって一生懸命、優勝のために頑張っているのに……私が足を引っ張っちゃったら、皆に申し訳なくて……その……だから……私を、他の誰かに代えて……ほしくて……ッ!」
肩を震わせ、目尻に少し涙を浮かべてリンが心情を吐露する。
彼女が出たいのは間違いないだろう。だがプレッシャーの影響で萎縮した自分はクラスの優勝のために出るべきではないと、葛藤が混じっているだろう。
「………確認だが、変身の魔術は好きか?」
「え?う、うん……私……昔から気が弱くて、優柔不断だけど……変身の魔術は、その……なんだか違う私になれるみたいで……」
「なら、出ればいいじゃないか?」
「え?」
オレからの言葉に、リンが泣きそうな表情からキョトンと色を変えてこちらを見た。
「で、でも…私が出たら、皆に迷惑が………それに、皆で優勝目指すって盛り上がってて……先生もそう言って……」
あのろくでなしが金目当てに動いているだけだからそこまで深刻に考えなくていい気がする。だがリンは真面目な性格だから重く受け止めてしまっているのだろう。
「百戦して百勝、というわけにもいかないだろ?」
「?」
「使い回し云々のハンデがあるとはいえ、他クラス選手との地力の差があるのは午前の部を見てわかる。オレ達のクラス全員が競技で一位を取るなんて難しい話。ならオレ達にできることといえば、この一週間の練習の成果を発揮させるくらいが精一杯だ」
「そう、だけど……」
「仮にうち一人が上位を取れなかったとしてもだ。一度の敗北なんて、後の奴の一度の勝利で巻き返せばいい。それが先生の言うチームワークじゃないのか?」
ま、その場のノリででた台詞だろうがな。一度口にした言葉には、最後まで責任を取ってもらう。
「そもそも魔術競技祭はただの祭りだ。目一杯楽しんだ上で優勝できればいいというのが先生の考えだと思う。だから祭りで迷惑とか足を引っ張るとか、そういうのは気にしなくていいし、自分一人だけ気負う必要もない」
「……そう……なの?」
戸惑うリンに、オレはさらに言葉を畳み掛ける。
「先生の真意はどうあれだ。クラスのため、優勝のため…そんな考えは一度全部捨てろ」
「全部…捨てる?」
「あれもこれも考えて、抱え込まなくていい。競技に出るのは、リン自身の為だ」
「私の………為?」
オレ自身競技祭の優勝になんて興味の欠片もない。女王陛下から勲章を賜る栄誉も要らない。だから誰が競技で失敗しようと責める気もない。
オレの興味の対象は、クラスメイトの競技を通しての『成長』にある。
「好きなことを楽しんでやる。それで十分だろ?」
「あっ………」
「まあ、学院に通ってそんなに経っていないオレが何言ってんだと思うだろうがな」
ちょうど中庭に傍を餓死寸前の担任が徘徊しているのが見えた。
「まだ不安なら先生に相談をするといい。調子が出ない時の解決策も教えてくれるだろう」
「わ、わかった……ありがとう」
「じゃあオレは行くから。またな」
「う、うん…………」
また…小さな声で挨拶が返された。
オレは振り返ることなく、片手を挙げることで応えて、その場から立ち去る。
さて――――
「で、いつまでついてきてるんだ?」
ずっとオレの後をついてきていた不審者に声を掛ける。
「あら、気付かれてましたか」
隠蔽の魔術が解除され、その姿がハッキリと見えるようになる。
「セリカが掛けた魔術を見破るなんて、やはり貴方は優秀ですね。なんて」
「………なにやってるんですか女王陛下?」
悪戯のバレた子供のような笑みをうかべる女性。この国の頂点、アリシア七世に、オレは思わずため息を吐いた。
ヒロインじゃなくても好きなキャラクターとの絡みを書きたいと考えた時、素人考えで、そのキャラクターの性格や容姿、交友関係などの構成要素を分析してみました。
例えばリンの場合、小柄で引っ込み思案でウェンディ、テレサと仲が良いなどで、これらの要素から思い浮かんだ展開は、小柄なため本を代わりに取ってあげる、競技出場を後押し、などです。
本を代わりに取ってあげる、はよう実原作からの流用です。
もう少しキャラクターを深堀出来れば、絡みの展開も多く書けるかもしれません