「――ということなんだが」
アルベルトとリィエルがいる傍ら、オレは通信魔術でイヴに連絡を取っていた。
『…それは確かなの?』
「確証がなければこんなこと言わない。他に納得の行く答えが思いつくと言うのなら、是非ともアンタの口から聞きたいな」
『……』
暫くの間、通信先のイヴの沈黙が続く。
自分にどれだけの益があるか計算しているのだろう。
『―――いいわ。特務分室室長の権限で、王女護衛の任を一時的に解くわ。アルベルトとリィエルをサポートし、事態の収拾に務めなさい』
そうくるだろうな。手柄が欲しいこの女なら乗ってくると思った。
『ただし、特務分室の存在が公になるようなことは避けなさい。王室直属の護衛部隊と軍の衝突ともなれば、政府上層部の派閥争いにも大きな影響が出るから』
「注文が多いな」
そういうことはオレじゃなくてリィエルに言ってほしいな。どうせ無駄だろうが。
「それはこっちで考えておく。それじゃあもう切るぞ」
『ええ。良い報告を待っているわよ』
オレは通信魔術を解除し、アルベルト達の方を向く。
「…それで、具体的にどうするつもりだ?王室親衛隊は個々の武力・技量は非常に優れているが、主な任務は護衛のため、実戦経験は然程でもない。とはいえ、相手の数が多過ぎる。その上、連中の総隊長であるゼーロスは四十年前の奉神戦争で、聖エリサレス教会聖騎士団総長『剣聖』ヨハネスと互角に渡り合ったとされる戦歴の古強者だ。女王陛下にずっと張り付いている状況下で俺達が動けば周囲の目を引いてしまうことは避けられないぞ」
「どうやっても目を引いてしまうのなら、大衆の意識がオレ達に向かなければいいってことだろ?」
「なに?」
「つまりこうだ―――」
作戦を説明した(主にアルベルト)後、オレは二組のところに戻ると、キョロキョロ辺りを見回しているシスティーナを見かけた。
「どうしたシスティーナ?」
「それが、ルミアの姿が見当たらなくて……」
離れたか。
「午後の部には、もうあの子の出番はないけど、だからと言ってサボるような子じゃないわ。だから、何も言わずに姿を消したのはおかしいなって」
「…理由は大体察している」
「えっ、そうなの?」
「少しデリケートな話だからな。先生を交えて説明する」
「?わかったわ」
ひとまずシスティーナと共に、壁に背を預けて上の空のグレン先生に声をかけ、オレと先生でルミアと陛下との密会の顛末を声を潜めて話した。
「そんなことが……じゃあ、あの子がいなくなったのって……」
「十中八、九、お前の想像通りだろうな。そんな状況、俺だって一人になりたいわ」
やれやれ、とグレン先生はため息をついた。
「いや、一人にさせるのは流石にマズいじゃないですか?もしまた天の智慧研究会が来てるんならルミアを攫う絶好のチャンスですよ」
「えっ、あいつらがまた学院に?」
「競技祭は外部の人間が大勢来るからな。紛れ込むのは容易い」
「いや、一応俺も観客席を警戒しておいたんだけどよ。それっぽい奴は見当たらなかったぜ。やっぱお前の考え過ぎだったんじゃねえの?」
「そうでしょうか?」
敵が紛れ込んでいる場所が観客席だけとは限らないだろうに。
「まあなんにせよ、確かに一人にさせらんねえよね。一人になりたい気分はわかるが、一人になり過ぎるのもよくないな。なんの解決にもならんが、仲間達と一緒に騒いでいた方が気も幾ばくか紛れるだろ。どーせ、一人で塞ぎ込んで解決する話でもねーし」
そう言ってグレン先生は頭を掻きながら、面倒臭そうに壁から離れた。
「んじゃ、ちょっくらルミアを連れ戻しに行ってくる。白猫、クラスの連中は頼んだ」
「任せて!」
「ちょっと待ってください先生」
「なんだよキヨポン?」
悩める生徒に颯爽と駆け寄る理想の先生(?)になりきっていたグレン先生は、呼び止められたことで不機嫌そうに振り向いた。
「念の為、これを渡しておきます」
オレはポケットから半割れの宝石を出して、先生に渡す。
「あ?これって遠隔通信用の魔導器か?」
「念には念をです。緊急事態が起きた時に連絡を」
「だから心配しすぎだって…すぐに連れ戻して来るからよ」
「遅刻常習犯の先生に言われてもな……」
「うっせ。いったい何時の話だよ」
それからシスティーナに口にしたサンドイッチの感想を告げた後。グレン先生は競技場の外へ向かって歩き始めた。
一日分の食費を出す代わりに、ルミアの護衛を手伝ってもらう、そういう約束を交わしたからには、ちゃんと役に立ってもらわないと困る。
「……ところでシスティーナ」
「な、なによ」
「サンドイッチ食べて貰えて良かったな」
「にゃ!?にゃにゃにゃにゃによいきなり!?にゃんで私にそんなことを!?」
「いや。ひょっとして、グレン先生が食べたサンドイッチを作ったのってお前じゃないかと思ってな」
現にシスティーナの顔は耳のところまでリンゴのように真っ赤だ。あと嚙んでるし。
「し、ししし知らにゃいわよ!!あっ、ほら!テレサが一位を取ったみたいよ!!皆と一緒に拍手しないと!!」
わっかりやす。
♢♢
「わ……私が……陛下の暗殺をたくらんだ……?手打ち……?」
ルミアは呆然と、肩を震わせていた。
「おい、冗談にしちゃタチ悪いぞ。どういうことだよ、ルミアが陛下の暗殺を目論んだ?バカ言え。だったら、その証拠を見せてみろ」
「部外者に開示義務はないな。これはお前のような一般市民が触れてはならぬ、高度に政治的な問題なのだ」
衛士の一方的な態度に、グレンは業を煮やしたかのように、まくし立てる。
「ふざけんな⁉︎ だからと言って令状も裁判もなしに、その場で処刑だと⁉︎ ンなの通るかよ⁉︎」
「これは女王陛下直々の勅命である。どこの馬の骨か知らぬが、これ以上、その重罪人を庇い立てするようならば、貴様も共犯者としてこの場で処刑するが?」
「てめぇ、いい加減にしろよ……ッ⁉︎」
「待ってください、先生!」
グレンの怒りがヒートアップしそうなところにルミアが割り込む。
「……仰せの通りに致します」
「は!?ルミア」
「恐れ多くも女王陛下に仇為そうとしたその命、我が命をもって償いといたします。ですから、どうか先生だけは……」
「この馬鹿! お前、何を言って──」
自己犠牲をしようとするルミアを止めようとするグレンだが、さらに衛士に追い詰められる。
「無駄な抵抗はよせ、魔術師。我ら五人を同時に相手取れると思っているのか? 我々は戦闘の専門家だぞ?」
「あ? んなの、やってみなきゃわかん――――」
気付けば。目にも留まらぬ早業で五振りの剣が、四方からグレンの首筋や喉元に突きつけられていた。
「……う」
思わずグレンは言葉に詰まった。
「虚勢はよくないな。この間合いで魔術師ごときに何ができる?そもそも、我らは耐魔術装備に身を固めている。我々には、お前達お得意の三属攻性呪文も精神汚染呪文もそう簡単には通らん。それでもやるのか?己が身一つで、我ら五人の精鋭と?」
この距離、この状況では確かに何もできない。相打ち覚悟の三属攻性呪文や精神汚染呪文で一人か二人は倒せても、残る衛士達に串刺しにされるだろう。
それでは、ルミアを救うことはできない。
と、その時、突然魔力の共鳴音が響き渡ったかと思うと、衛士達の背後の空間が揺らぎ、虚空の穴が現れた。
「な、なんだ!?」
虚空に開かれた門から無数の蟲が現れた。
ブウウウンと羽音を立てるそれらのシルエットは、一言で表せば蜂のそれだった。
一匹一匹が平均的な成人の手のひらサイズで、腹部から生えた紫色の針は鉤爪の様に鋭利だ。
「ポイズンワスプだと!?危険度Sの蟲型魔獣が召喚されたのか!?」
「迂闊に刺激するな!あの毒針に掠っただけでも即死だぞ!」
衛士達の注意が突然の乱入者達に向いた。
魔獣は霊脈の関係で進化した生物であり、ポイズンワスプの場合、蟲型魔獣に分類される。
大きさは小さい方でも、腹部で分泌される毒で数百倍の大きさはある並の生物を即死させることができる程危険だ。
危険度Sと指定されてはいるが、元の蜂同様、基本的に巣や自分自身を守るために攻撃する。むやみに刺激しなければ、攻撃されることはほとんどないため、触らぬ神に祟りなしと、不干渉が常識となっている。
また危険察知能力がとても高い。
過去に何人もの魔術師が殺傷性の高いそれを使い魔として使役しようとして、即返り討ちにあった事例が多い。
そんな使役するのが非常に困難な魔獣が、王室親衛隊の衛士達を取り囲んだ。
それだけだ。攻撃するような素振りを見せず、大きな顎をカチカチと鳴らしながら威嚇しているようだ。
「な、なんかよく分からんが、今のうちに逃げるぞ!!」
「せ、先生…きゃっ!?」
膠着状態の中、グレンはルミアを横抱きに抱えると、学院を囲む鉄柵に向かって駆けだした。
「ま、待て!」
二人を止めようと衛士の一人が前に踏み出すが、それを阻むようにポイズンワスプが眼前に飛んできて、足を止めることを余儀なくされた。
「≪三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし≫ッ!」
グレンはルミアを抱えながら、三節のルーンで呪文を唱えながら跳躍。
すると、人の脚力ではありえない高さまで、二人の体が空へと舞い上がった。
黒魔【グラビティ・コントロール】。グレンは重力操作の呪文で自身にかかる重力を弱め、体重を羽のように軽くしたのだ。
学院を囲む鉄柵を大きく飛び越え、学院の外へ。そして呪文を解除しつつ、着地と同時に、そのまま市街の方へ猛然と走り始めた。
♢♢
足止めは上手くいったか。
現在オレは競技を観戦する傍ら、使い魔の蜂の視覚を通して、グレン先生がルミアを連れて王室親衛隊から逃走する様子を確認していた。
衛士達の前に蜂を遠隔起動で召喚させたのは、実はオレである。
といっても、衛士達の言うポイズンワスプ……ではない。
【セルフ・イリュージョン】で外側をそれっぽく見せただけの、ただの蜂だ。
大抵の人間は、下手に刺激すれば襲いかかってくる相手に萎縮してしまい、動けなくなる。
それによりできる隙を作ってやるためだ。
生徒の命が狙われている中、担任は期待通りの行動を取ってくれた。
進行方向は南西か。一般住宅街がある西地区に向かっているんだろう。ちなみに魔術学院と学生街があるのは北地区だ。
二人と合流しようと、アルベルトとリィエルがこっそりと後から追跡しているのも確認できた。
予定通りか。
人気のない路地裏で合流を果たした時、突然リィエルがグレン先生に斬りかかろうとして、アルベルトから放たれた黒魔【ライトニング・ピアス】で物理的に止められるという訳の分からない事態が起こったが………まあ、許容範囲内か。
オレは一同がアホを引きずって路地裏の奥へと移動したタイミングを見計らい、クラスから離れてから通信の魔導器を起動する。
『キヨトか!?』
起動してすぐ、宝石ごしにグレン先生が応じた。
余裕がない時はオレのことを名前呼びするな。
「二人と合流できたみたいですね」
『二人って………お前、こいつらが来てること知ってたのかよ!?』
「オレもさっき知ったんですよ。正確には先生がルミアを探しに行く前ですが……」
『結構前じゃねえかよ!どうして俺に言わなかったんだ!?』
「いや、先生はもう軍を辞めた身でしょ?あの時点で教えたりしたら情報漏洩の罪に問われちゃいますよ」
『ぐっ…た、確かにそうだが……』
ま、先生には十分役に立ってもらうがな。
「そんなことより、王室親衛隊がルミアを殺そうと躍起になっているみたいですね」
『あ、ああ。連中、絶対ありえない命令でっち上げてるからな。あいつらホント無茶苦茶だぜ。そういえばそっちでセリカはどうしてるんだ?』
「陛下の傍に座っていますよ。何も行動を起こす気はないみたいです。王室親衛隊の行動を女王陛下は把握しているらしいですが、黙認してるみたいです」
『わっかんねーなぁ。 陛下が黙認してるなんて、それこそあり得ねえし。セリカなら、いくらでも女王陛下を守って切り抜けられるはずなんだけどなぁ…王室親衛隊がルミアを特に狙う理由、わかるか?』
「大体察しがつきます」
『えっ!?』
「アルフォネア教授とは連絡を取りましたか?」
『ああ、だが、セリカの連中、まるで意味不明なことを言いやがった。”私には何もできない、言えないんだ”とか、”この状況を打破できるのはお前だけだ”とか。ああ、さっぱりわからん!とりあえず、女王陛下の前に来い、だそうだ』
先生だけ、この状況を突破できる、か。先生の取り柄で思い浮かぶことで該当することは限られる。
どうやら当たりのようだ。
「………そういえば、午後の競技に『グランツィア』がありましたね」
『は?なんだいきなり』
『グランツィア』は、制限時間内に結界でどれだけ陣地を奪うを奪うかの陣取り合戦で、二組からはアルフ、ビックス、シーサーが出る。
「グランツィアでは結界を構築する速度が重要になるから、選手達は結界構築速度を極限まで高める方向で練習する。まともにやりあえばあっという間に陣地を食われて終わりと考えたグレン先生は、三人にどんな秘策を授けましたか?」
『おい、今はそんな話を――』
「いいから答えろ――」
少し圧を込めて言ってやったら、グレン先生はすぐ押し黙った。
『………条件起動式だよ。この前の魔導戦術論で教えたが、対象とする場や物に初期設定した条件が達成される際、自動で術が起動する魔術起動法だ。あいつらに教えたのは”敵が一定得点以上のアブソリュート・フィールドを構築”を起動条件に、”サイレント・フィールドを発動”する術式だ』
「そんな便利なのがあるのなら、どうして誰も使わないんです?」
『お前この前授業をちゃんと聞いていなかったのか?条件起動式は昔から呪いや制約に散々使い古されてきた悪名高い術式だ。”○○しなければ、対象者は死ぬ”って感じで――――あ』
気付いたようだな。
『そうか!そういうことなら王室親衛隊がルミアを殺すことに躍起になっているのに説明がつく!』
『えっと……先生、なにかわかったんですか?』
『ああ、わかったぜルミア。多分陛下に条件起動型の呪いがかけられている。セリカが動かないのはあれこれと制約があるからなんだろう。制約を破ってしまえば、呪いが発動してかけられた相手は――死ぬ』
『じゃあ、私が狙われたのは……』
『陛下の命そのものを楯に取られてるから、だろうな。大方、解呪条件は”ルミアの殺害”なんだろう。そうでもなきゃ、ルミアを襲う理由にならねえ』
『そんな……じ、じゃあ私が死なないと陛下が………』
『多分、女王陛下の首のネックレス。あれが呪殺具だ。以前王宮で見たのとは違うものをしていたからな』
呪いがかけられたってことは、かけた人間がいるってことだ。タイミングからして、陛下がルミアに会うために警備を抜け出している間に、アルフォネア教授と王室親衛隊にそれを知らせたんだろう。
そして陛下を救うためにルミアを殺そうと親衛隊は大暴走。陛下が死ねばそれも良し……ルミアが殺されても後でいくらでも事情をでっち上げられる、という感じだ。
誰が仕組んだかについては、一般人のグレン先生には伝える必要ないか。
『それが正しければグレン。お前の固有魔術、【愚者の世界】ならどうにかなるだろうな』
『ああ。セリカが言っていた”この状況を打破できるのはお前だけだ”はそういう意味なんだろう。くそっ、もっと分かりやすいヒントを寄越せっての………』
「いや。呪殺具に関する知識が頭に入っているなら、少し考えれば気付くでしょ」
『ぐっ…』
『コイツは軍にいた頃からこんな感じだ。いざという時にしか頭が冴えない。おまけに魔術の知識が豊富だというのに、まともに扱える軍用の攻性呪文は基本三属くらいしかないという始末。はっきり言って宝の持ち腐れだ』
『お、お前ら本人の前で言いたい放題だな!流石の俺も泣くぞ!』
『あ、あはは……』
そんなのでよく今まで生き延びれてこれたな。
『そんなことよりもだグレン、お前の【愚者の世界】で女王陛下にかけられた呪いを封殺するにしても、一つだけ必須条件があるぞ』
『分かってる。俺はなんとか上手く、陛下の前に立たなきゃなんねえ』
『それなら私が作戦を考えた』
突然リィエルが会話に割り込んできた。
『グレンとキヨトがいるなら、もう少し高度な作戦が可能』
『ほう?言ってみろ』
『まず、わたしが敵に正面から突っ込む。次にグレンが敵に正面から突っ込む。そして、キヨトが敵に正面から突っ込む。最後にアルベルトが敵に正面から突っ込めばいい。…どう?』
『お前はいい加減、その脳筋思考をどうにかしろっての!?』
『痛い』
あの馬鹿、やっぱりオレの話を聞いてなかったな。いや、聞いていなかった方が大助かりか。
『…お前が居なくなった後の俺の苦労、少しは理解したか?』
宝石ごしに、淡々と放たれるアルベルトの言葉には、どこか確実に棘があった。
『……うん、ごめん。マジごめん』
『お前が何も言わずに俺達のもとから去った理由、今は聞かん。帰って来い、とも言わん。だが…いつか話せ。それがお前の通すべき筋だ』
『……ああ』
『そして、いつかわたしと決着をつけること。それがあなたの通すべき筋』
『嫌だよ!?』
『そう。いつか決着をつけるのは嫌、と。なら、今――』
『なんでそうなるんだ、勘弁してくれリィエル!?ひぃいいっ!?よ、寄るな!?』
…はあ。
「話、戻していいですか?」
『わ、悪い。王室親衛隊が守りを固める貴賓席に突撃するのは却下だ。アルベルトとリィエルがいてもあの数相手に無謀だ。特にあのゼーロスのおっさんがいるからな』
「そう悩むことじゃないと思いますよ。貴賓席に突撃が現実的でないなら、陛下が自分から出てくるところを狙えばいいんじゃないですか?」
『陛下が自分から?……あ、そうだ。あるじゃん。親衛隊に邪魔されずに陛下の前に近づける絶好の機会が!』
グレン先生が立案した作戦の内容を聞いた後、通信を終えてクラスのところに戻る。
二組の順位は、現在は四位か……やはり地力の差が出始めてしまったか。
「あっキヨト、先生とルミアを知らない?あれから戻ってきてなくて……」
着くとすぐにシスティーナがオレに気付いて、二人の行方を聞いてきた。
好都合だ。
「さっき連絡があった。今は二人共緊急事態でしばらく戻れない。今はそれしか言えない」
「……何かあったの?」
オレの緊急事態という言葉に嫌なものを感じたか、神妙な顔つきで聞いてくる。
「ひょっとして、あいつらがまた…?」
「いや、今回は違う」
当たらずとも遠からずだろうが。
「詳しいことは言えない。が、今日中には解決すると言っていた」
「そ、そう」
ほっ、と安堵のため息を吐くシスティーナ。
「それで、たまたまこっちに来ていた先生の元同僚、オレの同僚でもあるが、その人が先生に代わって二組の指揮を取ってくれることになった」
実質クラスの纏め役であるシスティーナを通して、クラスの皆に伝えておいた方が良いだろう。
クラスであまり目立っていないオレがやるよりは十分効果がある。
「同僚って……先生の前の職場の?」
「ああ。それと先生からの伝言だ。『優勝してくれ、頼む』だと」
「そう言われても……今二組は四位にまで落ちて厳しい状況よ。それに、みんなも……」
システィーナに言われて二組の面々の様子を見る。
所々諦めかけてる奴が出始めているようだ。
やっぱり、だめかも。いや、俺達にしては上出来じゃないか?……そんな弛緩した空気が流れ始めている感じだ。
先生の不在でここまで士気が落ちるとはな………。
あのロクでなしが特別賞与目当てでやる気出してたことを知ったら、一気にガタ落ちするだろうな。
「だがまだ負けが決まったわけじゃないんだろ?」
「それはそうなんだけど……」
「クラスのことはシスティーナに任せる」
「任せるって……そんな投げやりな」
「お前にしかできない役割だからな。お前の言葉なら皆耳を貸すだろう」
自分が役不足であることは自覚している。だから手筈通り進めるには、適任の奴を使うのが一番効率的だ。
「おっ、来たぞ」
二組の元に二人の姿が現れた。
「お前達が二組の連中だな?」
「そ、そうですけど…キヨト、この人達がそうなの?」
「ああ」
「俺は、グレン=レーダスの昔の友人、アルベルト。同じくこの女はリィエルだ」
「ん」
アルベルトは二組の面々にさっきオレが話した内容とほぼ同じことを告げる。
「優勝してくれって……」
「見ず知らずの人にそんな事言われても…」
システィーナ以外の面々がどう判断したら良いかわからず戸惑っている中、リィエルがシスティーナの手を取った。
「……お願い。信じて」
「!?貴方達は……」
システィーナはその手に何か感じたのか、二人をハッとした顔で交互に見比べる。
最後のオレの顔を見てくる。
その顔はほぼ確信している顔だったので、頷きで返した。
「……わかったわ。うちのクラスの指揮監督をお願いするわ、アルベルトさん」
そんなシスティーナに、クラス中の困惑の視線が集まった。
「大丈夫よ、この人達は信頼できるわ。それに誰が総指揮を執ろうが、どうせ私達のやることは変わらないでしょ?皆で優勝するんだって。グレン先生がいま、どこで何やってるのか知らないけど……」
ちらりと、システィーナは意味ありげにアルベルトを一瞥しつつ、堂々と宣言した。
「せっかくだから、皆で勝とう!先生のおかげで皆、ここまで来れたのよ!?後、もう少しじゃない!?諦めるのはまだ早いわ!」
「そ、それは……」
「そうだけどさ、システィーナ……」
「やっぱ、先生がいないとさ…俺達……」
システィーナがここまでクラスの面々はまだ弱気だ。
仕方ない。助け舟を出すか。
「優勝するしないにしても、ちゃんと結果を残さなかったら、先生にずっと嫌味を言われるかもしれないな……」
「確かに。私達が負けたらアイツ、『ぎゃははは!お前らって俺がついてないと全っ然ダメダメなんだなぁ!あっ、ゴメンねぇ、キミ達ぃ、途中でボク抜けちゃって~、てへぺろっ!』とか言うわよ、絶対……」
オレに便乗するように、システィーナが焚きつけるように言葉を放った。
というかシスティーナ、先生の真似うまいな。
「言いそう…」
「ウザイですわ。とてつもなくウザイですわ!」
「あのバカ講師にそんな事言われるのだけは断じて我慢ならないね」
効果覿面のようだな。皆想像しただけで腹が立ってきたんだろう。険しい表情を浮かべている。テレサの場合は、普段のように頬に手を添えながら微笑を浮かべているものの、額に青筋が立っていた。
「くそぉ!やるよ!やってやる!」
「皆であのロクでなし講師を見返してやろうぜ!ついでに一組もな!」
「「「「おお!」」」」
「お前ら単純すぎだろ……」
ボソッと小さく呟いたアルベルトの仏頂面が、若干頬を引き攣らせていたように見えたが気にしない。
何はともあれ、皆やる気になったようで、鎮火しかけていた雰囲気に再び熱気が戻ってきた。
さて………。
オレもオレで動くか。
Q;二組の生徒達に質問です。グレン先生の一番の特徴をあげてください
A:『屁理屈』『ナルシスト』
「……お前らマジなめんなよ」
次回からキヨポンの出番です
原作ではグレン先生は王室親衛隊に手を挙げていますが、今回は逃げただけです。
そのため、国家反逆罪が成立するかは微妙ですね