ようこそロクでなし魔術講師のいる教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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魔術競技祭編終盤まで来ました。


波乱の閉会式

 人間の行動にはそれぞれパターンがある。

 性格、経験、環境、状況など、多くの要素が影響し、個人によって大きく異なる。

 それは魔術師を目指す生徒達も例外ではない。

 オレを除いた九クラスの出場選手の魔術の技量(使っていた手札の強さや数)に左程差がなくとも、出す手札や次の手を打つ判断の速さがそれぞれ異なっていることは、同士討ちでの立ち回りを観察してわかった。

 その中でも目立つのが最後に残った三組の女子だ。

 使った攻性呪文は【ショック・ボルト】だけだったが、攻守立ち回りの上手さは出場選手の中で九クラスの中で一番と言っていい。その上発生した竜巻を凌いだことから対応力も高いようだ。

 もしオレが出ていなかったら、この競技は彼女の勝ちだっただろう。

 

 そういう相手に全力を出さずに勝つ方法として、彼女の行動パターンを逆用した罠を仕掛けた。

 

 

 参考にしたのは以前アルベルトが披露した技で、鏡の反射を利用した魔術狙撃だ。

 街中の狙撃では、彼方此方に錬金【形質変化法】と【根源素配列変換】で通路の壁面を鏡面化させ、その表面を魔力でコーティングした鏡を設置する。

 それらの鏡を中継地点とすることで、遠目の魔術、黒魔【アキュレイト・スコープ】の使用負担を軽減でき、かつ死角を大きくカバーし、【ライトニング・ピアス】を鏡に反射当てすることで複雑な狙撃を出来るというわけだ。

 特殊な魔術は一切使っておらず、すべて基礎的なことであるが、それを遥かに高めたのがアルベルトの魔術。

 トリッキーな攻撃としては有効ではある。

 とはいえ、鏡を複数設置したりの手間がかかるため、狙撃用ではなく攪乱に簡略化させたものを利用した。

 

 錬金術で作り出した鏡の表面は滑らかではなく敢えて凹凸にし、魔力でコーティングする。

 光の反射と同じ要領なら、滑らかな鏡面で反射する正反射とは異なり、当たった電撃が凹凸のある表面で不規則に拡散・跳ね返り、様々な方向に飛ぶ。

 つまり、彼女が結晶に【ショック・ボルト】を放てば、いくつにも分かれて自分に返ってくるわけだ。

 

 後は結晶に【ショック・ボルト】を放つ状況を作るため、【セルフ・イリュージョン】でオレの姿をかけた。

 ついでに偽物だと悟られないために、適当な茂みの中に身を潜めながら【サイ・テレキネシス】で結晶を動かし、幻影の動きに合わせて茂みを揺らす。

 そうして数分が経ち、狙い通り敵はまんまと罠にかかった。

 

 複数の電撃を回避したことには驚いたが、許容範囲内だ。

 

「《雷精の紫電よ》」

「がは――」

 

 注意が結晶に向いている隙を狙い、死角から黒魔【ショック・ボルト】を放つ。

 直撃した三組の女子は悲鳴を上げる余裕すらなく、びくんッと身体を痙攣させてから地面に倒れ込んだ。

 

「おっと」

 

 そのまま頭が地面に転がっている石にぶつかりそうになりそうだったため、寸でのところで三組の女子を抱き留める。

 完全に意識を失っていたため、取り敢えず石のない適当なところに寝かしておく。

 

 

 煙が晴れ、現在フィールドにオレ以外誰も立っていない。

 

『決まったあぁあああ!キヨト選手、一人残らず他選手を打ち倒して一人勝ちだああああ!! 』

 

 勝負が決着し、観客席から割れんばかりの大歓声が降り注いだ。

 興奮留まるところを知らぬとばかりに実況者が叫ぶ。二組の席を見れば揃いも揃って歓喜に沸いていた。

 

 で、二組のところに戻ってみれば、叩かれ褒められの揉みくちゃ状態になった。

 【セルフ・イリュージョン】での同士討ちや【ショック・ボルト】の失敗例、最後のトラップについて聞かれたりした際、『全てグレン先生から授かった策』ということにして誤魔化した。

 嘘も方便というやつだ。

 グレン先生の支持に従えば二組は勝てる。

 クラスの士気を更に上げるにはうってつけの噓だ。

 

 アルベルトからジト目を向けられたが、とにかくこれで一組と二組の間にあった差は一気に縮まった。

 

 残す競技は一つのみ。

 

 『さあて、いよいよ魔術競技祭、二年次生の部も大詰め!とうとう本日のメインイベント「決闘戦」の開催ですッ!ルールは例年通り三対三の団体戦、十の参加チームによるトーナメント!見事、頂点に輝くのは果たしてどのクラスか――ッ!?』

 

 最後の競技の準備のため、フィールドが変化して円形の決闘場に再構築される。

 

『集うのは各クラス最強の三人!皆、クラスの名誉を背負って正々堂々と戦ってくれることでしょう!なお、皆様ご注目のグレン先生率いる二組は、この「決闘戦」で見事最後まで勝ち残れば、現在総合一位のハーレイ先生の一組に逆転勝利が可能です!さぁ、どうなる――ッ!?』

 

 二組から出るのはシスティーナとギイブル、カッシュの三人。

 トーナメント方式であるこの競技で勝ち抜けば、二組の優勝だ。

 

 だがオレ達にとって重要なのはその後だ。

 競技の出番を終えたオレは、クラスとシスティーナ達を応援する振りをしながら、王室親衛隊の周りに仕掛けておいた使い魔たちを操作して準備を進める。

 

 オレの読みが正しければ、呪殺具を陛下に仕掛けた下手人は、王室親衛隊がちゃんとルミアを殺害したか動向を監視しているはずだ。

 貴賓席で陛下の傍にいたあのメイドの姿がどこにも見当たらないことから、下手人本人は親衛隊に呪殺具の存在を口にした後、会場から離れているんだろう。

 なら代わりに使い魔かなにかを気取られないよう、親衛隊の近くに配置して………。

 

 見つけた。

 小さな鼠が陰から貴賓席をジッと見ている。

 

 こっちに気づかれないように、こっそりと背後から鼠に近寄せる。

 

 オレが同調している使い魔は小さな蚊の形をしている。

 ヒトなどから血液を吸う吸血動物であり、種によっては各種の病気を媒介する衛生害虫の長い口吻を、鼠の首の後ろに突き刺した。

 

 

♢♢

 

 女王陛下のいる貴賓席周辺は、会場の盛り上がりとは裏腹に慌ただしい。

 

「まだか!?まだ、捕らえられんのかッ!?」 

 

 報告に来る衛士を、ゼーロスは苛立ち紛れに怒鳴りつけていた。

 

「そ、それが…例の魔術講師が逃亡を手助けしており、先ほどから申し上げているとおり、その男が予想以上に手強くて……ッ!」

「たかだか、魔術師一人に後れを取るなど!貴公らはそれでも誇り高き王室親衛隊の一員なのか!?」

「も、申し訳ございません!」

 

 すると、控えていた別の衛士がゼーロスに進言する。

 

「しかし、閣下。敵が手強いのは事実です。もはや我々のみの手に負えることではないのかもしれません。未確認ですが、連邦も動いているという情報もあります。ここはもう真実を明かし、学院側にも応援を要請――」

「ならぬ!」

 

 だが、ゼーロスは怒声でその意見を切り捨てる。

 

「それだけはならぬぞ!貴公、忘れたのか!?それをやれば我々はともかく、女王陛下が――それだけは絶対避けねばならぬ!」

「そ、そうでした…申し訳ありません!」

「ことが終われば、わしが全ての責任を負って自害する!わしは陛下に仇をなした反逆者としての汚名の下に果てよう!だが、陛下は!陛下だけは我々がお守りしなければならぬのだ!だから――」

 

 がくり、と。若い衛士が頭を垂れる。

 

「閣下はそこまで…わかりました。ルミア嬢とその逃亡を助ける男の捕捉を急ぎます」

「すまぬ…嫌な役目を押しつける。一刻も早くルミア嬢を―――殺せ」

 

 そう、全ては陛下のために――

 

 

♢♢

 

 

 『決闘戦』は二組が四組を始め、七組、五組、八組も打倒。トーナメントに勝ち続け、とうとう決勝戦に進出した。

 一組対二組の正真正銘の決勝戦、勝った方が優勝というドラマの様な展開となった。

 先鋒のカッシュは地力の差はあったものの、持ち前の身体能力と我慢強さで持久戦に持ち込んだが、一組のエナが唱えた【痹霧陣】によってカッシュは行動不能となり惜敗。

 続く中堅戦も持久戦となった。最初は互角だった二人だが、一組クライスの方に疲れが見え始めその隙を見逃さなかったギイブルの【コール・エレメンタル】によって召喚されたアース・エレメンタルがクライスを拘束。クライスが投了を宣言したことでギイブルの勝利となり、勝負は大将戦へ持ち越しとなった。 

 

 そして……

 

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》!」

「な、何だ!この呪文はッ?!」

 

 学院襲撃事件で見せたシスティーナの改変呪文【ストーム・ウォール】がハインケルが体勢を崩し、その隙にシスティーナ渾身の【ゲイル・ブロウ】が炸裂する。

 

「そこっ!《大いなる風よ》!」

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

 

 突風によりハインケルの身体を場外へと弾き飛ばした。

 

 この瞬間、オレ達二組の優勝が決まった。

 

 一瞬静寂が訪れたと思うと、次の瞬間には割れんばかりの大歓声が巻き起こる。

 

「やったぁあああああああああああ―――――ッ!」

「よっしゃぁああああああああああああああああああ――――――!」

「え!?その、きゃあッ!?」

 

 全員の力で優勝した二組の生徒たちは観客席から飛び出し、奮闘し勝利を収めたシスティーナを胴上げし始めた。宙で目を白黒させて慌てるシスティーナにお構いなく、二組の生徒達は歓喜のままにシスティーナの健闘を讃える。

 

『いや、当初、誰が予想したでしょうか、この結末を!今回の魔術競技祭は展開が二転三転する非常に劇的な試合となりました!そしてこの「決闘戦」の終了をもって、本日の魔術競技祭、二年次生の部、全競技が終了した事を会場の皆様にお伝え申し上げます。ご来賓の皆様方、本日は遠方からはるばる御足労ありがとうございました!生徒諸君、本当にお疲れさまでした!それではこの後、閉会の式と表彰に移ります。実況は私、実行委員会のアースがお送りしました――』 

 

 ようやく優勝ができたと同時に、やっと本星へ到達できる。

 グレン先生の作戦がいよいよ最終段階に入ろうとしていた。

 

 

 日が西の山に沈もうとする時間帯。

 魔術競技祭閉会式が一工程ずつ進む。

 国歌斉唱やら来賓の祝辞、結果発表が恙無く終わり、いよいよ迎える勲章の下賜。

 王室親衛隊隊長ゼーロスと学院が誇る第七階梯魔術師アルフォネア教授を伴い、アリシア女王陛下が表彰台に立つ。

 

『それでは、今大会で顕著な成績を収めたクラスに、これから女王陛下が勲章を下賜されます。二組の代表者は前へお願いします』

 

 代表が呼ばれ、アルベルトとリィエルが表彰台へと上がる。

 

「あら?貴方達は……」

 

 女王陛下は二組の担当がグレン先生だということを知っているため、アルベルト達がいることに不自然さを感じていた。

 

「陛下、こやつが担任のグレン=レーダスというやつなのですか?」

「いえ、違います……けど……」

 

 ゼーロスも戸惑っている中、アルフォネア教授は気付いているようだ。

 

「なあ、おっさん」

 

 厳めしい面構えのアルベルトが突然、似合わないくだけた口調で言い放った。

 

「なん、だと……ッ!?」

 

 すると、アルベルトとリィエル―――二人の周囲が一瞬ぐにゃりと歪んで――

 再び焦点が結像し、そこからグレン先生とルミアが現れた。

 

「き、貴様らは――ッ!?どういうことだ、ルミア殿は今、魔術講師と町中にいるはずでは──!?」

「入れ替わったんだよ。【セルフ・イリュージョン】を使ってな」

 

 ゼーロスの疑問に正体を明かしたグレン先生はそう答える。

 

 グレン先生が考えた作戦は、『先生とルミア、アルベルトとリィエルが黒魔【セルフ・イリュージョン】で互いの姿へと変身し、入れ替わる』だった。

 アルベルト達は親衛隊の引き付け、先生達は警備が最も手薄となるこの瞬間のために、二組の総合優勝を目指す。

 優勝すれば、陛下が表彰台に立ち、クラスを代表して担当講師が勲章を賜ることになっている。この瞬間だけは、陛下の威光と面子を潰してしまわないよう、王室親衛隊は陛下に対する徹底マークを一時的に外さざるをえない。

 護衛が限りなく手薄になるこの瞬間が、グレン先生が陛下に接触する唯一のチャンスだった。

 

 まあ、正直あまり分の良い賭けとは言えない。事情も何も知らぬ生徒達に左右されるというのは確実性に欠ける。

 オレからしてみれば、優勝したクラスの代表として近づくのなら、別に二組の優勝に拘る必要はない。どこかのクラスが優勝すれば、そのクラスの代表者達を気絶させて入れ替わるという手もあった。だがそこは空気を読んで敢えて言わなかった。

 

 最初から最後までグレン先生が動いた、ということにする必要がある。

 現に居合わせた観客席の来賓客や、整列している大勢の生徒達も、一体何が起きたのか、困惑にざわめいている。

 

 予定通りだ。

 

「こんな単純な手に引っかかるなんてお前、もうちょっと部下の教育した方がいいんじゃねーの?」

「くっ!親衛隊ッ!何をしている!?賊共を捕えろッ!」

「セリカっ!頼む!」

「《すっこんでろ》」

 

 グレン先生が大声を上げると、アルフォネア教授が魔術を行使する。

 無数の光が地面を駆け抜け、表彰台を中心に、陛下とアルフォネア教授、グレン先生、ルミア、ゼーロスの五人を囲み、結界が張られる。

 

 音すらも遮断する、断絶結界のようだ。

 親衛隊が剣を叩きつけてもびくともしない上、中の様子は全く見えない。

 

 それはこの様子を使い魔を通して見ている下手人も同じこと。

 中の様子が気になって仕方がないだろう。

 

 今がチャンスだ。

 オレは全員の注意が表彰台に向いている隙に、ポケットから一枚の紙切れを出す。

 昼休みに陛下に渡した二枚の護符に刻んだ術式を、遠隔起動するための簡易的な護符だ。

 

 起動方法は簡単。

 

 ビリッ

 

 普通の紙同様、破ればいい。

 

 

♢♢

 

「ほう?音も遮蔽する断絶結界か。ずいぶんと気が利くな、セリカ」

「セリカ殿…貴様、この期におよんで裏切るのか!?」

 

 結界の内側には、結界を起動したセリカ。そしてグレンとルミア、帝国女王アリシア七世、英雄ゼーロスのみが残された。

 

「さってと、オッサン。そっちの事情はもうわかってる。セリカが教えてくれたからな。まあ、余りにも判りづらいヒントだったが………あとは俺が陛下をお助けしてやる。俺が……陛下のネックレスを外してやるよ」

「なん…だと?」

 

 グレン先生の言葉に、ゼーロスが目に見えて狼狽し始めた。

 

―――ビンゴ。

 

「なぁ、おっさん。剣を納めてくれねーか?俺ならアレ、外せるんだけどな」

 

 ゼーロスの眉が吊り上がる。

 

「はったりも大概にしろ、魔術講師ッ!余計な真似をするならば斬るッ!」

「ま、そういう反応だよなぁ…こりゃ説得する暇もなさそうだわ…」

 

 グレンは右手に『愚者のアルカナ』を取り出し、アリシア陛下に見せる。だがゼーロスにはその意味が通じなかったようで細剣を鞘から二本抜く。

 

「っっ!頭のお堅い騎士が……!退けば全て解決出来るってのに……!」

「ならぬ!陛下の為、私が直々に引導を渡して――――」

 

 パリン

 

「「「え?」」」

 

 突然のガラスの割れたような甲高い音に、その場にいた全員の注意が音の発信源に向く。

 

「な――」

 

 アリシアの首に下がっている翠緑の宝石のネックレスが粉々に砕け、宝石部分の中から黒い靄のようなものが出てきていた。

 

「馬鹿な!?起動したというのか!?ネックレスを外していないというのに!?」

「グレン、急いでなんとかしろ!」

「ああ、わかってるよ!」

 

 セリカが声を大きく張り上げ、グレンはアリシアの方へ一気に駆け出す。

 だがもう遅い。

 グレンの【愚者の世界】は魔術の起動そのものをシャットアウトするだけのもの。すでに起動して現象として成り立っている魔術には意味がない。

 

 それでも一か八か。

 

(間に合え!) 

 

 【愚者の世界】の効果領域にアリシアが入る後一歩手前。

 

 宝石から出た黒い瘴気は、そのまま装着者である彼女へと―――

 

 向かわず霧散した。

 

「「「は?」」」

 

 突然の異常事態の連続に、全員呆気に取られる。

 

「…アリス?大丈夫か?」

「あ、はい。私は大丈夫です」

「な……」

 

 鬼気迫る表情だったゼーロスも、アリシアがピンピンしているのに呆然と言葉を失った。

 

「なぜ、呪いが発現しなかった……?グレンが間に合ったからか?」

「やっぱ条件起動式の呪いだったか。いや、既に起動した後だったからそれは無え」

 

 ネックレスは確かにアリシアの命を握っていた呪殺具だったはずだ。

 起動もしたはずのに、装着者である当の本人の命に別条はない。

 

「まさか、不発?」

 

 

 

 

 

 ほぼ、同時刻。

 

「がはぁッ!?」

 

 魔術学院から離れた南地区の裏通りにて、激しく咳き込みながら大量に血を吐く人物がいた。

 

「な゛ん……ごれ、は……呪、術!?」

 

 尋常な量ではない。心臓を絞ったかのようなおびただしい量の血が、女の口から流れ落ち、レンガの石畳を汚していく。

 

「何故、陛下にかけたはずの呪い(カース)が、わたくしに――っ!」

 

 メイド服が汚れることは気にせず、膝をつく女の前方に、いつの間にか二つの人影が現れていた。

 

「……俺達に与えられた任務は二つあった。一つは最近、過激な動向が目立つ王室親衛隊の監視。そしてもう一つは…女王陛下側近の内偵調査」

 

 現れた人影の片割れが、淡々と告げる。

 

「最近、どうにも俺達の動きが読まれていると思った。まさか、一番可能性が低いと思われていた貴女だったとはな。女王陛下付き侍女長、兼秘書官…いや、天の智慧研究会所属の外道魔術師、エレノア=シャーレット。はっきりとした出自、あまりにも優れた経歴、卓越した能力…今、思えば、その素性に何一つ傷がないからこそ怪しいと疑うべきだった」

「…帝国もぼんくらばかりではないようですね」

 

 アルベルトの淡々とした摘発に、口元をハンカチで拭う女――エレノアは薄ら寒い笑みを浮かべていた。

 

「成程………陛下にかけたはずの呪いをわたくしにふりかかるように仕組む……呪術が専門の東方の国では呪詛返しというのでしょうか。あの場でそのような芸当ができる魔術師の方がいたとしたら、思い当たる方は一人しかおりませんわ」

 

 先程まで吐血して苦しんでいたはずのエレノアが、くすくすと楽しげに笑い、何事もなかったかのように立ち上がる。

 それを見てアルベルト達の警戒心が一層高まった。

 

「『ホワイトルーム』の最高傑作………その実力は伊達ではありませんか」

「あの施設を調査したところ、天の智慧研究会からも出資を受けていたことが判明した。お前たちがヤツのことを知っていても、なんら不思議ではない」

「ええ。彼の実力は我らが指導者、大導師様の目に留まる程とお聞きしていました。本来なら我々と一緒に来るはずでしたが……まさかそちら側につくとは、残念ですわ」

 

 そう呟きながらも、エレノアの声色に落胆はない。

 

「………それについては今はいい。答えろ、お前達は一体、何が目的だ?以前は元王女を誘拐しようとしたが、今回は殺害しようとした…行動原理に一貫性が無い。お前の組織は一体、何を企んでいる?」

「……『禁忌教典』」

 

 意味不明のエレノアの返しに、アルベルトの眉が微かに吊り上がる。

 

「我々が目指すは大いなる天空の智慧…そのための王女とでも言っておきましょう…くすくすくす」

 

 大手を広げて空を仰ぎ、陶酔したように語るエレノア。

 そんなエレノアの足元に魔法陣が出現した。

 

「っ!転移魔術!」

「逃がさない、斬る!」

 

 リィエルがエレノアに向かって弾丸のように突進し、大剣を大きく振り上げる。

 

「いずれまたお会いしましょう――――」

 

 リィエルの剣は空を切り、地面に大きく激突する。 

 その衝撃から石畳が砕け、煙が舞った。

 

「ちっ」

 

 アルベルトは忌々しく舌打ちする。

 煙が晴れると、エレノアの姿はその場から跡形も無く消えていた。

 




次で種明かしと共に第二章は終わります。
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