ようこそロクでなし魔術講師のいる教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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ここまで来ました。
種明かしというかエピローグです。


打ち上げ

 呪殺具とは、ある条件を成立させると呪いを対象にかける、という条件起動型の呪いが付呪されている魔導具であり、だいたいが『呪殺具装着から一定時間の経過』、『呪殺具の勝手な脱装』、『呪殺具の情報を第三者に開示』という三点式で装着者を殺す、帝国の魔術史上において使い古されてきた古典的な呪法である。

 陳腐な手ではあるが、効果があるからこそ常用されるし、常用されるからこそ陳腐にもなるということだ。

 

 もし天の智慧研究会がルミアの身柄の確保に生死を問わず、競技祭の最中に仕掛けてくる際の戦術をいくつか考えてみたが、思いついた中で『来賓として来る女王陛下を人質にし、護衛にルミアを殺すよう強要する』が一番効果的だった。護衛やアルフォネア教授を出し抜くなら、本人達が気付く前に呪殺具を装着させてしまえばいい。

 だが、陛下の周りにいる身内、特に傍付きの侍女が天の智慧研究会のスパイであることが前提条件である。

 確認のしようが無いから、昼休みに陛下と会うまではあくまでも可能性の範囲内だった。

 

 それでも念には念をと、用意しておいた呪い対策の護符を陛下に渡すことができたのは幸運だったと言える。

 

 呪殺具にもいくつか欠点はある。

 呪いというものは、標的を定めるのが難しい。

 呪術を極めた陰陽師がいる東方では、対象の名前や髪の毛、爪などを用意して、遠くから相手を呪い殺せるそうだが、帝国では『呪殺具を装着した人間』に条件を絞り込んでいるのが殆ど。

 どんな条件で狙いを定めていても、標的がばれてしまえば対策を練れる。

 例えば、標的が別の要因で死んでいたり、何かしらのバグが発生して、定めていたはずの狙いを外す、”術式が改変されて標的が別人に変わる”ことになったとしても、呪いは標的がどうなっているか、仕掛けた術をかけている側からもわからない。

 他にも、相手に解呪の心得があったり、『魔術そのものの起動を封殺できる専門家』を雇われたりすれば意味を成さなくなる。

 そして呪いの最大の欠点が、やり方次第では、呪いをかけた術者にはね返せることだ。東方で言うところの『呪詛返し』である。

 呪術専門の陰陽師の手に罹れば、返った呪いは元の何倍もの威力となって術者へ襲いかかるとのこと。

 つまり呪いとは、決して遠くから安全に行使できる術ではない、一転して自身の窮地に陥る場合もある危険な術だ。

 

 

 オレが陛下に渡した護符は二種類。『呪詛返し』を再現するための術式をそれぞれ刻んでおいた。

 

 一つは、近くの魔導具に残っている残留思念を読み取るというもの。魔術師にとって情報を収集する常套手段の一つだ。

 陛下にネックレス型の呪殺具を装着させるには必ず術者かその関係者が触れていないといけない。だから下手人の情報の取得は簡単だ。

 あとは二つ目の術式が近くにある条件起動術式に干渉し、標的設定をその下手人に改変。改変後の術式を発動させる。

 この二つの術式の組み合わせにより、陛下にかかる呪いを使用人に移し替えることができたわけだが………。

 

『逃げられたって、どういうこと?』

『………すまない。あの状態で転移魔術を使ってくるとは思いもしなく』

『言い訳はいいわよ』

 

 滅茶苦茶不機嫌だなイヴの奴。

 閉会式での騒動の後、二組優勝の祝杯(先生の奢りで)を上げるため、北地区学生街にある高級レストランで打ち上げをすることとなったが、オレは途中で抜け出し、店外で通信魔術でのリモート会議に参加していた。

 

 イヴとペアの魔導器と、アルベルトとペアの魔導器を傍に置く。

 片方の魔導器から発せられる声を、もう片方に聞かせることで、一度にそれぞれ別の場所にいる複数の相手とリアルタイムで通信できる。

 

『キヨト、貴方の呪詛返しの効果が弱すぎたんじゃないの?』

 

 イヴの怒りがオレにまで飛び火した。

 

「正確には呪詛返しに近い効果だが………アルベルト、あの侍女は血を吐いていたか?」

『ああ。かなり大量に吐血していたが、しばらくしたらまるで何事もなかったかのように振舞っていた』

「効いてはいたという事か」

 

 おかしいな。

 ギリギリ死なない程度に効果を弱めていたとはいえ、魂を直接攻撃する呪いを受けた後に回復した、か。

 並の人間でそんなことはあり得ない。人外の域に達していない限り…

 

『まったく、せっかく極秘で内偵調査を進めたっていうのに、肝心の内通者を確保できなかったなんて………』

 

 オレは内偵調査の話を聞いていない。

 王室親衛隊の監視だけが任務じゃなかったのか。いかにも監視任務に向かないリィエルがいる時点で大体察してはいたが。

 

「一応アンタに言われた通り、特務分室の存在が観客たちに知られていない。事件解決の立役者がグレン先生だと皆信じている」

 

 結界が解除された後、閉会式での騒動はすぐに収まった。

 ゼーロスの投降宣言に伴い、暴走する王室親衛隊は沈静化。

 そして、陛下が自身の身に降りかかった事件を学院生徒達の前で演説した。

 帝国政府に敵対するテロ組織の卑怯な罠に陥ったこと。そして、勇敢な魔術講師と学院生徒の活躍で事なきを得たこと。

 陛下の巧みな話術による事情説明で、大きな混乱もなく事件は終息した。

 

「表彰台に仕込んでおいた使い魔で確認したが、なにも知らない連中は呪殺具が不発に終わったということで結論づけた。事実を陛下に報告するかどうかはアンタの好きにしろ」

『それについてはもう少し考えるわ………グレンは自分が道化だったことに気付いていないのね?』

「ああ。いらぬ仕事をしたとアルフォネア教授に文句をつけていたぞ」

 

 そう。呪詛返しのことも、オレの考えた作戦もグレン先生には伝えていない。

 入れ替わり作戦で陛下の前に近付いたグレン先生は、あくまでもゼーロスと下手人、あの場にいた全ての人間の注意を引き付けるための囮だ。

 アルベルト達と合流したタイミングを見計らって、オレが通信を通してグレン先生が呪殺具の存在に気付くよう誘導。アルベルトはその補助だ。

 入れ替わり作戦でアルベルト達が王室親衛隊から逃げている間に、オレが下手人の使い魔にハッキングし、下手人本人の所在を特定。

 表彰台へ注意がいっている隙を狙って呪詛返しを発動した。後はアルベルト達が現地で身柄を拘束する手はずだった。

 

 グレン先生の固有魔術【愚者の世界】ならどんな魔術の起動を完璧に封殺できるわけだが、効果範囲に制限があったり、最初からあるいは範囲外で起動した魔術を封じることはできない。

 グレン先生が陛下の近づくものなら、頭の硬い護衛が立ちはだかるのは目に見えていた。

 そうなれば当然肝心の魔術封殺も届かず、結局陛下かルミアのどちらかが死ぬことに繋がる。

 だからベストな選択(魔術封殺)の他にベターな選択(呪詛返し)を用意し、後者を実行したわけだ。

 

 閉会式の前に発動することもできたが、親衛隊の中に伏兵が潜んでいる可能性を否めなかったため、護衛達が陛下から離れることになる閉会式を狙うしかなかった。

 仮にゼーロスが伏兵か、呪殺具関係なしに異能者であるルミアを殺そうと動いたとしても、一緒にいるアルフォネア教授なら一人程度対処できるだろうし。

 

 下手人の捕縛には失敗したが、結果的にグレン先生を隠れ蓑にした陛下救出の方は成功した。

 

『馬鹿なグレン。自分が利用されているとは知らずに……フフフ』 

 

 通信の向こうでイヴが気分を良くしたようだ。グレン先生を囮に使う作戦にアルベルトは渋っていたのに対し、室長であるイヴは快く採用していた様子から、先生のことが嫌いなことは分かった。

 

『そういえば、今回、不手際をした王室親衛隊の処分はどうなっていたの?』

「陛下直々の御裁定でお咎めなしだと」

『……そもそも、騒動の黒幕――エレノアを抜擢した人事院の失態もあるし、王室親衛隊の衛士達はゼーロスの命令に従っていただけということもある。総隊長であるゼーロスには建前上、厳しい懲戒処分が下さるだろうが、全て女王陛下を守るために行ったこと、酌量の余地は充分にあるだろう。だが、王室親衛隊がフェジテで起こした騒ぎを既に多くの住民が目撃している』

 

 ああ。入れ替わり作戦で街中を逃げ回っていた時か。

 

『去年の事件に続き今回の騒動。反魔術師主義の連中が黙っていないだろうな』

「人間主義者って奴らの事か?」

『そうだ。一年前、ある宮廷魔導士が帝都オルランドで引き起こした惨劇。あれで帝国政府の要人や軍の高位魔導士達、多くの一般市民たちが巻き込まれて犠牲になった。国に仕えるべき帝国軍の魔導士が引き起こしたこの凶行をきっかけに、一般市民達の間で魔術師に対する忌避感が増長。”人間は人間に許された力だけで生きるべきだ”と、彼らの政府への抗議活動が活発になりだした』

 

 魔術と共に発展してきたこの魔導大国を否定するか。

 ある意味健全な主張かもしれないが…。

 

『それだけではない。それだけの影響を与えたとして、魔導省を含む反国軍省は帝国軍に監督責任を問い、国軍省や強硬派議員を筆頭とする『武断派』と、魔導省や穏健派議員を筆頭とする『文治派』との対立が深まった』

「隣国と戦争するか休戦協定を結ぶかで騒いでいるアレか………ちなみに、陛下はどっち派についている?」

『…文治派だ』

 

 へぇ………。

 王室相手に内偵調査を進めたのも、軍の作戦失敗の責任が王室側にあるという証拠を掴むつもりだったからか。

 そこに王室親衛隊の暴走。結果的に王室派と文治派を弱体化に繋がる。

 オレ達は軍上層部のそんな政治的思惑に、まんまと加担してしまったわけだ。

 

『………それらの件に関して貴方達が考える必要はないわ。女王陛下付きの侍女長…しかも四位下の官位を持つレベルにまで天の智慧研究会の手の者が入り込んでいたのよ。他にも帝国政府内に潜んでいる可能性が高いわ』

 

 軍内部にも潜んでいるかもしれないということか。

 

『早急な対処が必要になるわけだ』

『アルベルト、リィエルと一緒に一度帝都に戻って来なさい。次の指示を出すわ』

『了解した』

『キヨトは廃棄王女の監視と護衛の任務に戻りなさい』

「いつも通りなわけか」

 

 いや、天の智慧研究会がルミアの身柄確保に執着している(生死を問わない)ことが分かっている現状、軍はどこかのタイミングでルミアを囮として利用するかもしれないな。

 

『それじゃあ、切るわよ』

『ああ』

 

 通信魔術を解除し、リモート会議が終わる。

 

「あっ、キヨト君!」

 

 店内に戻ろうと扉に手をかけようとしたとき、学院の方角からルミアがトコトコと子犬のように駆け寄って来た。その後をグレン先生が歩いてきている。

 

「こんなところで何してるの?」

「職場の報告会を少しな。そっちは事情聴取が終わったみたいだな」

「ああ、くそ長かったぜ。俺ら被害者だってのに、また後日召喚だとか面倒臭ぇ…」

「大変ですね」

「んな他人事みたいに言うな。お前だけ無関係を装いやがって」

「表彰台まで同行しなかったのは襲撃事件の時と同じ理由ですよ。無関係を装っていないと、オレがルミアを護衛していると悟られる危険があります」

 

 襲撃事件はたまたま巻き込まれたことになったが、二回目、三回目も同じ面子となると誰だって怪しむ。

 

「だから目立つようなことは別の誰かに任せて注意を逸らすべきかと」

「うへえ、要するに面倒なことの大部分は俺に押し付けるってことじゃねえか……前から思っちゃいたが、お前結構性格悪いだろ」

「ギャンブル依存症のロクでなし金欠講師に言われたくありませんね」

「え?ギャンブル依存症?金欠?」

「ああ。実はグレン先生がギャンブルで全財産を全部スッてしまってな―――」

「ちょっ、キヨポン!?」

「で、特別賞与目当てに、二組を勝たせるのに躍起になってたんだ」

「えぇ………」

「おいこら、なんでバラすんだよ!」

「優勝した後だから黙っておく必要ないでしょ?」

 

 オレの口を塞ごうとした先生の手を抑えて、ルミアに最後まで話す。

 先生の不純な同期に流石のルミアも軽く引いていた。

 

「というか貸した金返してくれますか?特別賞与と給料3ヶ月分なら払えると思いますが」

「わ、分かってるって。ただその前に酒でも飲んで今日の不幸全部忘れてえよ」

「借金返済は覚えておいてくださいよ」

 

 早めに回収しておかないとまたギャンブルで消えてしまうだろうし。

 

 そう話しながら扉を開けると、

 

『『『あ、先生っ! お先にやってまーす!』』』

 

 さっきとは状況が変わっていた。全員顔が真っ赤でテンションが最初より高い。

 

「……おい、何だこの皿と空き瓶の量は?」

 

 グレン先生はテーブルに積み重ねられていた皿の数と所々に散乱されてる空き瓶の数を確認しだした。

 

「こ、この皿に微かに残ってるソースからして料理は……しかも、この瓶は『リュ=サフィーレ』……貴族御用達の高級ワインじゃねぇか。誰だこんなバカ高いもん頼みまくったの!?」

「先生〜!やっと来たんですか〜?」

 

 グレン先生がキレると、横からシスティーナが抱きついた。

 

「先生〜……今回もまたルミアを助けてくれてぇ〜。私見直しちゃったぁ〜」

「ど、どうしたのシスティ!?」

「や、やめろ!くっ付くな!おい!止めろ白猫!つーか酒臭い!犯人お前か!?」

 

 大方、葡萄ジュースと間違えて飲んでしまったんだろうな。

 他の面々も同じように飲んでしまい、気分が高揚して次々と空けちゃって、この有様か。

 

「先生ぇってぇ……思った以上にぃ……わらし達のことぉよく見れれくれてぇ……なんかぁ……よくわかんないけどぉ……まぁたルミアのことをぉ……助けれくれらみたいでぇ……ほらぁ……先生ぇ……変身してたでしょぉ……?わたしぃ……、最初からぁ、わかっちゃってたんですよぉ……でもぉ……空気読んでぇ……気づかないふりしてぇ……偉い?」

「ああ。はいはい、偉い偉い」

 

 面倒臭そうにグレン先生がシスティーナに合わせる。

 

「うふ、うふふふふ!先生えらい!私をぉ、娶る権利を上げるわぁ……」

「……はぁ?」

 

 うわぁ…。

 普段のシスティーナからは絶対聞けない言葉を言い出したぞ。

 

「キ~ヨト君!」

「ん?」

 

 今度はオレが絡まれた。意外なことに、クラスの小動物キャラのリンにだ。

 

「にゃんで一緒に店にいたはずなのに、キヨト君外から入ってきたの?ひっく」

「ちょっと外の風を当たってただけだ」

「そうなんだぁ~でも途中でパーティーを抜け出しちゃうなんてめっ、だよ。ちゃんと断りを入れないとぉ…ひっく、急にいなくなったら心配しちゃうんだからぁ…ひっく」

「あ、はい。すみません。気を付けます」

「んふふ〜!よろしい!」

 

 こっちもキャラ崩壊してね?

 

「それよりその手に持っているお酒は置いて、水を飲んだらどうだ?」

「やらぁ~。これぇ、すごーくあまくておいひいのーなんかふわふわするしぃ」

「お酒だからな。というか皆未成年だろ?」

 

 早めに酔いを醒ましておかないと後で後悔しそうになると思うが。

 

「まら飲みたいよぉ。キヨト君も一緒に飲もぉ」

「いやオレは――」

「飲もうよぉ~」

「……」

「……なんで無言でオレを見るんだ、ルミア」

「別にぃ…」

「おーいキヨポン〜!ルミアちゃんだけじゃなくリンとも仲良しかよぉ〜!」

「…カッシュ、お前も酔ってるのか?」

 

 それからセシルやウェンディ、テレサまでオレに絡んでくる。

 成程。これが絡み酒というやつか。

 そういえばイヴもこんな感じでオレに絡んだ時があったな。

 

 そうやって酔っぱらい共の相手をしていると、店の支配人らしき人がグレン先生に領収書のような紙を持ってきた。

 書かれている数字を見て、グレン先生は絶望の呻きを上げる。

 

「報奨金と給料3ヶ月分がパァに…!」

 

 借金の取り立てはできそうにないな。

 まあいいか。はなから期待していないし。

 

 打ち上げはやけになったグレン先生が加わったことで更に混沌と化した。

 クラスメイトが顔を赤くしながらグラスを持ち、ハイテンションでどんちゃん騒ぎをしている。この中で酔っていないのは、酒を飲んでいないオレとルミアだけだ。

 

 オレはカウンターで注文したコーヒーを片手に、バルコニーに避難した。

 単純に酔っ払ってるあいつらの対応が面倒臭いから。

 

 コーヒーの湯気の香りを楽しみ、それから一口飲んで含み香を楽しむ。苦みの中にも微かにフルーティーな香りがして、ほのかな甘味を感じる。

 

「それ、美味しい?」

「ん、ルミアか。システィーナは?」

「酔い潰れたから席に寝かしつけた」

「そうか。起きた後覚えてなければいいが」

「あ、あはは……」

「そういえば、母親とはどうだった?」

「あの後、お母さんと色々話してすっきりした。キヨト君の言ってた通り、お母さんは私の事愛してくれてた」

「良かったな」

「うん、良かった………お母さんから聞いたんだけど、もう一度話し合うよう言ってくれたんだって?」

「……まあな。余計なお世話だったかもしれないが」

「そんなことないと思うよ………ひょっとしてだけど、お母さんに呪いがかからなかったの、キヨト君のおかげだったりする?」

「………何故そう思う?」

「お母さんが言ってたの。キヨト君にお守りだって護符を渡されたって。いつの間にか術式が消えてたみたいだけど」

 

 そりゃそうだ。効果が一回限りの使い捨てだから術式も消える。

 呪殺具の不発とオレの仕込みを結びつけることはまず難しい。

 

「知らないな」

「ふーん……」

 

 数秒間オレの顔をじぃと見つめるルミア。疑われてるな。

 

「まあいっか………ありがとう。お母さんのこととか、いろいろ」

「礼を言われるほど働いていない………が、お前に一つ約束する」

「約束?」

 

 ルミアは大きな歪みを抱えている。異能者である自分は生まれてきてはいけない子だ。自分に価値が見出せない。

 だから簡単に自分の命よりも他人を優先すべきだと――そんな歪みだ。午前の部の競技でもそれが顕著だった。

 もし作戦が上手くいかなかったら、ルミアは陛下を救うために自分の命を差し出したかもしれない。

 自己犠牲は美徳と捉えているだろうが、それはルミア自身の『成長』を妨げるものだ。

 母親と話し合って、自分は愛されていると理解はしたが、まだ足りない。

 

「オレは、お前が犠牲になるなんてことは絶対に許さない」

 

 これが最も重要なのだ。

 ルミアには覚えておいてもらう必要がある。

 

「だから安心しろ。もしまた今回みたいなことが起こっても、オレがお前を見捨てるようなことはしない。どんな形であれ、オレはお前の味方でいてやる」

「あっ………」

 

 これからも天の智慧研究会の連中に生死問わず狙われるだろう。

 それでもルミアには立ち止まることなく、前へ進み続けてもらうのが極めて重要なことだ。

 彼女に与えるべきは絶望の「闇」じゃない。決して消えることのない希望の「光」。

 自己犠牲なんて間違った方向に進む可能性があるのなら、わずかでも不安要素は摘み取っておくべきだろう。

 たとえ強引な方法でも。

 それでも変わらず、自ら破滅へとつき進むのであれば、その時は――――

 

 

 

 

―――オレが『介錯』するまでだ。

 

 

 




はい、魔術競技祭編は終了となります。
原作を読んだ時のキヨポンの心情のところでよく背筋がぞっとしました。
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