第二章と第三章との間の話となります。
アルザーノ帝国魔術学院の魔術競技祭における女王陛下暗殺未遂事件から数日が経ったある日。
いつも通り学院に登校。二年次生二組の教室に入り、酒の抜けたクラスメイト達の何人かに軽く挨拶をしていた時のこと。
「――キヨト=タカミネ」
「ん?」
自分の席に向かおうとしていた時、背後から声をかけられた。
振り返ると、扉の傍に金髪に青い瞳をした女子生徒がいた。二組の生徒ではない。
襟章から在籍しているクラスは三組だとわかる。
普段別のクラスと交流はないが、その顔と声には覚えがあった。
「名前は確か……」
「リアナ=オーウェン。魔術競技祭の『乱闘戦』で貴方と闘った」
「そうだったな。キヨト=タカミネだ」
あの時は対戦相手同士だったためきちんとした挨拶はしていない。向こうから名乗って来たので、こっちも簡単に名乗る。
「リアナ?ここは貴女のクラスじゃないわよ」
「えっと、リアナさん……ひょっとして、キヨト君になにか用かな?」
「うむ。彼と二人で話がしたくてな」
「「えっ」」
恐る恐る聞いてきたルミアの質問に、リアナは淡々と答えた。
『二人っきりで話!?』
『なになに!?なんの話!?』
『ひょっとして、告白とか!?』
『噓だろ!?あのリアナから!?』
『多くの男子からの告白をことごとく返り討ちにしたあのリアナが!?』
驚いているのはルミアとシスティーナだけじゃない。
どういうわけか周りにいたクラスの連中が、ひそひそながらも騒ぎ始める。
「話ってなんだ?」
「今はホームルームまで時間が無いから昼休みに改めて。誰かと食事する予定でもあるか?」
「………いや、特にないが「そうか。では昼休み、食堂で」おい」
話をするとは言っていないのに、リアナは教室から去っていった。
「おいおいおいどういうことだよキヨポン!?」
「なにがどうなっているんだよ!?」
「どうしてあのリアナちゃんがお前を食事に誘うんだよ!?」
彼女の姿が見えなくなった途端、カッシュやロッド、クラスの連中がわらわらとオレに集まって問い詰めてきた。というか男子の数が多い。
「オレが知りたい。というかあのってなんだ?あいつそんな人気なのか?」
「あ、そっか。キヨト君は編入生だから、リアナさんのこと知らなくて当然か」
ルミア曰く、彼女は騎士の家系であるオーウェン家の令嬢で、システィーナやギイブル、ウェンディと同じく学年の成績上位陣に食い込んでいて、生徒会にも所属しているとか。
性格は冷静沈着で、驕ることがなく、決して相手を下に見たりしないため、ルミアの次に人気とのこと。
ちなみに、何人かの男子が彼女に告白し、全員振られたそうだ。
その中に二組の生徒が何人かいるそうで。
「そんな人気者が、オレにどんな用が?」
「さ、さあ?なんだろう。リアナさんと面識があったりする?」
「いや、ない」
強いて言うなら、この前の『乱闘戦』で闘った時だけだが、向こうから声をかけられる理由に心当たりがない。
「……少なくとも、面識のなかった相手から告白とかされるってことはまずないだろうな。大体そういうのって食堂でやらないと思うが?」
「た、確かに」
「よく考えたら、するなら普通告白スポットとかだよな」
「いやぁ焦った焦った」
「危うくキヨポンを異端審問にかけるところだったぜ」
「一緒に食事するのは羨まけしからんけどな」
えっ、なんか男子陣の一人から物騒な言葉が聞こえた気がする。なんだよ異端審問って。
「おーい、お前ら席に座れ。出席取るぞ~」
丁度クラスの担任、グレン=レーダス先生がやってきて、この話は一度終わりとなる。
さて、約束はしていないがどうしたものか。
♢♢
粛々と授業が進み、終わりを示す鐘の音が鳴る。
「んじゃ、午前の授業はここまで。ん~疲れた」
気だるそうに身体を伸ばすグレン。昼休みに入るも、生徒達は板書を取ったり、雑談したりと、まだ教室から出る様子はない。
だが一足先に教室から出るキヨトを見とどけた後、しばらくしてロッドが教室の外をキョロキョロと見る。
「…対象は食堂に向かってるぜ先生」
「良し。では作戦を開始する」
いつになく真面目な顔をするグレンの前に、何人かの生徒が集合する。
「ちょっと待った」
「あ?なんだよ白猫」
「なんだよじゃありませんよ先生。急に作戦っていったいなにするつもりなんですか?あと私は白猫じゃありません」
「そんなの決まってるだろ。他クラスの女子に食事に誘われたキヨポンの後をつけるんだよ」
「そんなことだろうと思ったわよ!」
「まったく……くだらない」
教室に残っていたシスティーナとギイブルが呆れる。
「くだらなくなんかねえよ。その女子に失礼がないか、講師として監視する義務が……」
「とか言いつつ、先生も二人の事気になってますよね?」
「否定はしねえ。つか、気にならねえ奴がこのクラスにいんのか?」
「そ、それはそうですけど……」
「なあルミア?お前も気になるよな?」
「えぇ!?」
いきなり名指しされたルミアが慌てふためく。
「いや、えっとその…別に気にならない、わけじゃなくて…で、でも盗み聞きとか良くないと思います」
「いやいや。よく考えてみろルミア。昼休みになれば殆どの奴が食堂で利用するもんだ。当然俺達も行く方向は同じだ。で、たまたまあいつらが座る席の近くに座ることになって、たまたま会話が耳に入ればそれは盗み聞きとは言わねえよ」
「うわぁ…よくそうつらつらと屁理屈が出てくるわね」
「さすが先生…まるで口先だけで生きてきたような男だぜ……」
「そこに痺れないし、憧れない……」
「とにかく、作戦開始だ!こっちの意図を悟られねえよう、それとなく動け!」
「「「「おおーーッ!!!」」」」
雄叫びを上げる生徒達。
それっぽい言い訳ができて、皆ノリノリだった。
「………というか先生、なんでそんなに乗り気なんですか?」
「あ?そんなのあの澄まし野郎を弄るネタを見つけるための決まってるだろ」
「やっぱりろくでもない理由だった!」
「はぁ………付き合ってられないね」
「あれ?食堂に行くのかギイブル」
「なんだよ。なんだかんだで仲間に入りたいのか」
「僕は普通に昼食を採りに行くだけなんだが!?」
善は急げと言わんばかりに、食堂へ小走りで向かう一行。作戦に加わっていない面々はやれやれと呆れながら同じ方向に進んだ。
♢♢
普段通り食堂に向かうと、入り口でリアナが待ち構えていた。
人混みに紛れて素通りする手を取る手があったが、実行するか考える前にすぐに彼女に見つかってしまう。
ここで逃げ出す理由が見つからなかったため、一緒に料理の注文に行く事にした。
リアナが人気者という話は本当のようで、何人かの生徒からの視線が集まり、男子どもからオレに嫉妬の視線を向けられるのも多々あった。
オレは飲み物にコーヒーを買い、リアナは紅茶を買い、空いている窓際の席へと腰を下ろす。
「……コーヒーを飲むのだな」
「ん?ああ。眠気覚ましや集中力向上に効くからな」
「私も以前飲んでみたのだが、苦くて口に合わなかった。砂糖とミルクを入れればなんとか飲めるが」
混ぜてしまうとコーヒーそのものの味がわからなくなる。
まあ、好みは人それぞれかと納得し、食事しながら本題に入ることにする。
「それで、話ってなんだ?」
「まず、『乱闘戦』でのことはすまなかった」
「ん?」
「あの時、彼らがあのような卑劣な手段を取ることに薄々気づいてはいたものの、私は何もできなかった」
「別にお前が謝る必要ないだろ?最後の一人になったら勝ち以外のルールがないあの競技の性質を考えてみれば、どこかのクラスが手を組むことは予想できた。仮にあの場でリアナ一人連中を咎めたとしてもおそらくやっていただろう」
口ぶりからして、一組はリアナには手を組む話は持ち掛けなかったようだ。
真面目そうな彼女の性格から、賛同しないと踏んだのだろう。
そもそもオレ自身、八クラスが手を組んだ戦術を別に卑怯だとか卑劣とか言うつもりはない。むしろ無駄に高いプライドをかなぐり捨ててまで結託したその意気は素直に賞賛する。
その代償に成績下位者達から恥知らずと蔑みの目を向けられることになったみたいだが。
「そもそも、被害者のオレは怪我を負っていないし、扇動してた一組はリアナが倒してくれたんだ。だからそれに関してオレから言うことはない」
「そうか……てっきり文句の一つでも出てくると覚悟していたが」
「済んだことをずっと引きずっても意味ないだろ?」
気が済むならと、リアナの謝罪を受け入れる。
数日前のことでわざわざ謝罪する健気な少女………と評したいところだが。
「貴方が気にしないのであれば、本題に入れるな」
「本題?」
「―――貴方の力を借りたい」
「というと?」
「”魔術祭典”開催の話は聞いているか?」
「なんだそれ」
なんか知らないワードが出てきたぞ。
「………かつて、北セルフォード大陸の諸国間で定期的に行われていた、世界的な魔術競技大会だ。参加各国のから出場する学び舎の魔術師十名の代表選手団が、いくつもの魔術的な試練を競い合う」
「魔術は他国に晒していいものじゃ無いはずだが?」
「だからこそ行う意味がある。手の内を晒してでも、平穏と安寧を願う“平和の祭典”だ」
平和ね。国同士の駆け引きにも聞こえるが。
「北セルフォード大陸の主要国家である、アルザーノ帝国と隣国の宗教国家レザリア王国との冷戦状態が原因で、近年の開催はしばらく見送られ続けていたのだが、今回、アリシア七世女王陛下の尽力のお陰で何十年ぶりかに開催が決定した」
そうなると、なんか狂信者で溢れているレザリア王国も参加するってことか。
あの陛下の事だ。この祭典の復活と同時に、両国関係改善のための首脳会談も行うつもりなんだろう。
向こうにそんな意思がなければ全て水の泡だが。
「…その魔術祭典に出たいのか?」
「うむ。開催はかなり先だが、その前他校を交えた代表選抜試験が行われる。その試験で好成績を出し、審査で選ばれなければ、代表選手になれない。貴方の実力なら問題なく選手に選ばれると思うが」
ん?
「どうしてそう思う?」
「『乱闘戦』での貴方の戦いぶりは見事だった。他クラスの二組潰しを物ともせず、幻影で同士討ちを誘発させた上、想定外の攻撃で翻弄して私を含む全員を脱落させてみせた。使用していたのは、他と変わらない初級呪文だったというのにだ」
急に真顔でオレのことを褒めだしたな。別にうれしくないが。
「八人の”二組を一番に落とす”という考えを瞬時に読む理解力、それを逆用してあの攪乱を実行するという発想と行動力は、もはや学院生の域を超えている」
「グレン先生から前もって予想と対処法を聞いていた。オレが勝てたのは、単に先生の指示に従ったおかげだ」
「そうだろうか?例の講師の手ほどきがあったとしても、たったの一週間であそこまでの立ち回りができるまで仕上がるとは到底思えない。やればできるとは分かっていたとしても、それを実現するには実行する側の器量が問われる。私や学年トップのシスティーナ、ウィズダンでも、他の八人を同時に相手は厳しかったと思う」
ウィズダンって、ギイブルのことか。
それにしてもまいったな。まさか生徒の中に洞察力で優れている奴がいるとは………。
「貴方は私達にないものを持っている。そしてそれは魔術祭典で役に立つ。私はそう評価した」
「…買い被りだ」
まず十中八九、オレがその魔術祭典の代表選手に選ばれることはない。
ルミアは元王族の異能者という、国の根本を大きく揺るがす存在であるために、選抜候補には選ばれない。そうなると、彼女の護衛であるオレが出るのはおかしいからだ。
というか、護衛任務がなくてもそんなのに出るつもりはない。
だがそれを他人に告げるわけにもいかない。
オレはあくまで、グレン先生のアドバイスのおかげで勝てた生徒の一人という設定でいく。
「……オレよりもリアナが適任だと思うが。『乱闘戦』での同士討ちに巻き込まれても上手く立ち回れてたし、咄嗟の判断もできていた」
「………それだけでは足りないんだ」
ん?褒めたはずなのに、表情に陰りが見られる。
「代表に選ばれるということは、帝国の威光を背負うと言っても過言ではない。だけどそれを背負えるほどの力は、私にはまだ足りていない」
流石に謙虚過ぎないか?
いや、単純に自分の実力に自信がないようにも見える。
「無論、代表選手になることを諦めていない。が、選抜試験までに自身の実力を今以上に伸ばさなければ、選手に選ばれることはない。だから…」
「だから?」
嫌な予感。
「――キヨト=タカミネ、私を鍛えて欲しい」
力を貸して欲しいというのはそういう意味か。
「正直、オレじゃ力不足だと思うが…」
「貴方しかいないと私は思う。それで、返答は?」
目が本気だな。ここで断っても諦めるかどうか。
「……一つ確認だが、どうしてそこまで代表選手になることを望むんだ?その先にいったい何を求めている?」
システィーナみたいに、夢や理想を追い求めてか?
それともウェンディみたいな、貴族としての誇りか?
何が彼女をそこまで駆り立てているのかが重要だ。
「……っ」
視線を逸らし、とても言おうか躊躇っているような表情が見え隠れしているリアナ。冷静沈着のイメージが崩れている。
「そ、それは――」
「いや。言いたくないなら無理に言わなくて良い。聞き耳を立てられている状況なら尚更な」
「え?」
オレは席を立ち、リアナの後ろの席に座っている奴の肩に手を置く。
「盗み聞きは感心しませんよ。グレン先生」
「き、キヨポン……な、なんのことだか俺にはさっぱり?」
「普段なら顔を合わせるだけで口論するシスティーナが、相席なのに今日に限って静かでしたし、ルミアに至ってはチラチラこっちを見ていた。そしてグレン先生の場合、席についてから食事するスピードが以前より遅い。偶然近くに座ったにしては、不自然すぎますよ?」
「ぐっ…」
「ちょっと先生!だから私は止めようって言ったのに!」
「そう言う白猫だって気になって聞き耳立ててたじゃねえか!」
グレン先生とシスティーナ、ルミアの三人だけじゃないだろうな。
オレ達の周りだけ静かだったし、チラッと周りを見たら殆ど二組の面々で固まっていたが、そこは敢えてツッコまないでおく。
「ご、ごめんねキヨト君、リアナさん……その、二人がどんな話をするか気になって………」
「い、いや。別に気にしていない」
責任のなすりつけ合いをしているグレン先生やシスティーナと違い、ルミアは真摯に謝罪する。リアナの方は特に気分を害している様子はなかった。
「………貴方は話の中、周囲に気を配っていたのか?」
「たまたま目に入っただけだ。それより悪いな。うちのクラスメイトと馬鹿講師が」
「おいこら誰が馬鹿講師だ。単位やらねえぞ「薬草菜園、キハレトの花」あっはい、すみません。調子乗ってました」
昨日、グレン先生が花に与える魔術肥料の種類を間違えて全部枯らした上、その証拠を隠滅したことは把握済みだ。
黙らせることなんて容易い。
「この話について今日はここまでにしよう」
「え?」
「この状況じゃ、まともに話し合いができないだろ?それにリアナの今後に関わるから少し考える時間が欲しい。ま、正直オレが力になれることなんてたかが知れているだろうが」
「……そう、だな」
リアナの『成長』に繋がるのなら、今より強くなるのに力を貸してやらなくもない。
だがもう少し彼女の人となりを把握し、それに足るか見極めてからだ。
今はグレン先生達のやらかしを、返答を誤魔化しながらこの場を離れる口実に利用させてもらう。
「それじゃあ、オレはこれで」
残っていた食事を平らげ、オレはお盆を持ってその場から退散した。
時間が欲しいと言ったんだ。そうすぐに会うことはないだろう。
「おはようキヨト」
「………」
「どうした?」
「いや。おはよう」
「ところで例の話だが――」
考えが甘かった。
翌日から登下校などでリアナと出くわすようになり、一緒に歩くのを目撃した男子どもから嫉妬の視線を向けられることとなった。
続く……?
いかがでしょうか?
オリジナル短編の肉付けは以下の通りです。
・ホームルーム前にリアナと会う、話があるからとお茶に誘われる。周りが騒ぐ
・それを聞いたロクでなしが悪ふざけで後をつける。
・待ち合わせ場所で会う、コーヒーを飲む、苦い飲み物について少し触れる、グレンたちが近くで聞いている
・競技祭での謝罪それから本題に入る。しばらく先に始まる魔術祭典の説明、ウィザードに入りたいけど今のままでは力不足のため鍛えて欲しい
・何故こだわるか聞くがこの段階では明かさない。
・グレン達の盗み聞きがばれる
・盗み聞きを利用し、考えておくと誤魔化してその場を退散
・リアナとのエンカウントが増える。周りから嫉妬を向けられる。
競技での敗北からのオリキャラの行動とキヨポンの対応、そして周囲の反応を書いてみました。