今、オレ達は学院の魔術競技場にいる。
今朝の騒動の所為で大幅に時間が狂い、急遽座学から、魔術狙撃の実践授業に予定変更になった。
内容は二百メトラ先にある人型のブロンズ製ゴーレムの所々に付けられた六つの的に、攻撃を当てるもの。
外に出て皆と一緒に身体を動かすことで、リィエルが早くクラスの皆に受け入れてもらえるようにと、グレン先生なりに配慮したのだろう。あいつに座学は無理だろうし。
クラスに上手く馴染めれば、ルミアの護衛もやりやすくなるという点にはオレも同意だが、果たしてそううまくいくだろうか。
「《雷精の紫電よ》!」
システィーナの放った雷閃が正確にゴーレムの頭の的を射貫いた。
「すごい、システィ!六発全弾命中なんて!」
「へぇ……やるな、白猫。この距離で全弾命中は普通にすげぇぞ」
最近、システィーナはグレン先生と一緒にトレーニングを始めたらしいが、ここまで急激に成長するとはな。生まれ持っての才能というやつか。
まあ、実戦で使えるかどうかは別だが。
ちなみに、同じく優秀なギイブルもすべて命中させており、ウェンディは惜しくも一発外し五発命中、システィーナのことを自分のことのように喜ぶルミアは三発の命中だった。
セシルは以外にも六分の五。基本的に座学は優秀だが、魔術の実践は苦手とする生徒だったのだが、この間の魔術競技祭の一件以来、魔術狙撃に関してだけはめきめきと実力をつけている。
セシルと同じく実践を苦手とするリンは六分の一。撃つ瞬間に目を瞑ってしまっていては当たるものも当たらないだろう。
カッシュの場合は一発も当たってない。単純に集中力が足りなかったようだ。
一部に偏りがあるが、他の面々の腕も観察したところ、六分の三が平均的な領域といったところか。
「じゃ、次はキヨポンな」
「気安くあだ名呼びするな。ロリコン講師」
「その不名誉なあだ名やめろ!さっきは悪かったって」
どうやら次はオレの出番のようだ。
オレは定位置に立ち、構える。
的は頭、胸、両足、両腕の六箇所。
全ての的に当ててあまり注目されても困るから、いくつかは外しておこう。
「………《雷精の紫電よ》」
まずは胸。人体で一番狙いやすい箇所は的の真ん中を当てる。
次に頭。これは頭の上を掠める程度で外す。
両腕と右足はぎりぎり当て、最後の一発は残る左足を逸れ、両足の付け根の間に綺麗に当たった。
当たった衝撃なのか、ゴーレムはバランスを崩し前のめりに倒れる。
ただしくの字の体勢に曲がっていて、両手で当たった股間を押さえているように見えたが気のせいだろう。
「………駄目だな。この距離だと六分の四が精一杯だ」
「お、おう………お前とは絶対撃ち合いたくねえな」
振り返ると、グレン先生を含む殆どの男子が内股になり、両手で自分の股間を庇うように押さえていた。
「偶然ですよ偶然」
「真顔でそんなこと言われても説得力ねえんだけど!」
何を言い出すのやら。
「そんなことよりオレの番が終わったので、戻っていいですか?」
「お、おう………」
後ろに下がると、男子から少し距離を置かれた。
特に目立った得点は取っていないというのに解せん。
「じゃあ最後、リィエルだな」
「ん……」
とうとうリィエルの番が来た。
「いいか?同じ的を狙ったらダメだぞ?一つの的につき、狙っていいのは一回だけ、とりあえず今回はそういうルールだ。わかってるな?」
「ん、わかった。攻性呪文であの的を壊せばいい。そうでしょ?」
「おう、そうだ」
「任せて」
意味は通じているみたいだが、不安をぬぐえない。
そういえば、あいつが攻性呪文とか使ってるとこ見たことないような……。
「リィエルちゃんはどのくらい当たるかな」
「いや、案外、物凄い使い手かもよ?あの子、キヨト君みたいにクールで集中力高そうだし……」
「そう言えば、帝国軍への入隊を目指しているとか言ってたな……」
編入したてで、その実力がまだ明るみになってないリィエルに皆の視線が集中する。
「ねぇ、キヨト君。リィエルはどれくらい当てられると思う?」
「そうね私も気になるわ」
ルミアとシスティーナも興味があるようで、リィエルと面識のあるオレに小声で聞いてきた。
「さあ?」
「さあって…」
「オレがリィエルと組むこと自体少なかったし、魔術狙撃をしたところも見たことがない」
「え?彼女、宮廷魔導士団のエースなんでしょ?だったら――」
「うちのところは危険度の高い魔術絡みの案件を専門に扱う部署だからな。入室する奴は、オールラウンダーだったり、何か一つが凄まじく尖っているのが殆どだ。“普通に優れている”程度の人材は必要とされないんだと」
グレン先生の場合は【愚者の世界】が有効であると考えたから、『君は宮廷魔導士団のエースに選ばれた』『君の力を必要としている』とかなんとか言って、まだ子供だった先生を上手く引き込んだのだろう。
「えっ、それじゃあそこに所属しているキヨト君も実は凄かったりするの?」
「………さあ、他と比べたこと無いから分からないな」
「うわ、なんか嫌味な発言ね」
「あ、あはは………まあまあシスティ」
事実を言っただけなのに、魔術に対してプライドの高いシスティーナから睨まれた。解せん。
「……オレのことはいい。今はリィエルの方を観よう」
そろそろ始まるようなので、オレたちもリィエルに注目する。
「《雷精よ・紫電の衝撃以って・撃ち倒せ》」
リィエルがぼそぼそと呪文を唱えると、掌から紫電が放たれた。
だが、その紫電は的どころか、ゴーレムそのものを大きく右に外して飛んでいった。
ええ…。
「「「「………………」」」」
流石にクラスの皆にも微妙な空気が流れる。
確かにリィエルがまともに黒魔術系の攻性呪文を使ったところは見たことなかったが、まさかここまで下手くそだったとは。
一射を見ただけでわかる。リィエルの魔術狙撃の精度は、悪く言えばゴミだ。
大剣を作ることのみに特化していて、他はてんで駄目なようだ。
それから何回もチャレンジしてみるも、掠るどころか、的に寄る気配すらない。
「リィエルちゃん、リラックス、リラックス!」
「ちょっと固くなり過ぎですわ。もっとこう、しなやかに腕を伸ばして……」
「頑張れー、まだ、四回残ってるぞー」
「ははっ、良かったね、カッシュ。君とタメを張れるのが出るかもよ?」
「……お前、そんなに俺が嫌いか?ギイブル……」
クラスの皆が、子供を見守るような雰囲気になって応援するが、結果は変わらず。
「よく今まで生き残れたわね…」
「あ、あはは…」
システィーナに言われてるぞ。
とうとう残すは最後の一射になってしまった。
「ねえグレン……これって、【ショック・ボルト】じゃないと駄目なの?」
「いや、別に駄目とは言わないが……この距離でまともに当てられるのは【ショック・ボルト】くらいだからなぁ」
「ん、わかった」
「何をすんのか知らねーが、軍用魔術は禁止だぞ」
「ん、問題ない」
いや、リィエルの問題ないはまったく信用できないんだが。
嫌な予感しかしない。
「頑張れ!まだ最後一発があるぞー」
「最後まで諦めるなよー」
クラス中の生温かい声援を受けながら、リィエルは呪文を唱えた。
「《万象に希う・我が腕手に・十字の剣を》」
あっ、嫌な予感が的中した。
「「「な、なんだああぁぁぁぁ!?」」」
土を高速錬成して作られた御馴染みの十字の大剣がリィエルの手に握られていた。
「いいいいやああぁぁぁぁ!」
普段はボソボソとしか話さないリィエルが気合いの込もった声を上げ、両手に握られた大剣を力一杯投擲する。
大剣は遠心力たっぷりの回転を保ちながらゴーレムの胴を貫き、次の瞬間、ゴーレムはバラバラに砕け散って四散した。
無論、ゴーレムに設置されていた六つの的は、全て跡形もなく粉々である。
「「「「………………」」」」
「……ん。六分の六」
クラス中の生徒達があまりの有様に硬直する中、リィエルは眠たげな表情を崩さぬも、どこか得意げに、ぼそりと呟いていた。
馬鹿だろ。
「なわけあるか!攻性呪文って言ったのに何でソレ使う!?」
「うん、錬金術で創った剣だから攻性呪文」
「それ絶対間違ってるから……」
リィエルの暴論に、グレン先生は天を仰いだ。
駄目だこりゃ。
案の定、クラス中の生徒達はリィエルを見て怯えている。
クラスと交流できるように取り計らったグレンの思惑も、リィエルの手で台無しとなった。
♢♢
午前の授業が終わり、昼休みに入った。
「おい……お前、なんか話し掛けて来いよ……」
「で、でも……あの子、なんか怖くね?」
「あのデタラメな力……本当に人間なのか…?」
教室のあちらこちらから、そんな囁き声が聞こえてくる。
編入初日から、リィエルは既にクラスで浮いた存在になっていた。
何をするでもなく、窓際の席につき、ただぼうッと外を眺めている様子の彼女を、クラスの皆は遠巻きに眺めている。
いわゆる浮いているという状況だろう。
あんな派手なことをやらかしたのだから仕方ない。
見た目が小柄で華奢な少女が、大剣を振り回すという規格外の馬鹿力を持っているとは、誰も想像できない。
「先生、どうするんですかあれ」
クラスの様子を見ていたグレン先生に話しかける。
「いや、そこらへんのフォローはお前の仕事じゃね?」
「無理……というより駄目です」
「は?お前いくら面倒くさいからって……」
「今朝のホームルームでなにがあったか、もう忘れたのですか?」
「あ、あの時は悪かったって……」
「それに面倒くさい云々の話じゃありません。アルベルトから聞いたんですが、今回リィエルが編入生としてルミアの護衛につく際、軍上層部のやり方がかなり強引だったみたいですよ。なら当然それを面白く思わない連中がいてもおかしくありません。例えば魔導省とか」
「するってぇとなにか?軍のやり方が気に入らねえからって、リィエルを排除する可能性があるってことか?」
「ここの理事会は色々な派閥の息がかかった連中が殆どみたいですからね。こっちがなにか問題を起こせば、そいつらはそれを攻撃材料して退学に追い込むでしょう」
暴力行為や素行不良、カンニング、成績不良。
退学処分を下す方法はいくらだってある。
ちなみに『オレ達がルミアの護衛』を攻撃材料にすることはない。
ルミアが元王女であることは国家機密だ。それを材料にした時、重大な情報漏洩として裁かれるのは連中の方である。
「じゃあそうならねえようにお前が――」
「その排除の対象にオレも含まれるんですよ?もしリィエルが問題を起こして変に庇えば、オレがリィエルと共謀してやったと事実を捻じ曲げられることになれば、二人共共倒れです」
「い、いや、流石に考えすぎじゃ…」
「魔術競技祭の時もそう言って、その後どうなりました?」
「うっ…」
リスクは分散するべきだ。
逆に共倒れを避けれれば、どちらかがいなくなろうと、残った方がルミアを守れる。
連帯責任として両方処分しようにも、向こうにはそれができない。
ルミアの護衛であるオレとリィエルの関係が、表向きただのクラスメイトでそれ以上の関係でなければ、他の面々がいる中でオレ一人にピンポイントで連帯責任を負わせるのは無理があるからだ。
もしリィエルがクラスとの交流を通じて『成長』する見込みがあれば、オレが手を貸してやらなくもない。
だがそうでない場合、オレは容赦なくリィエルを見捨てる。
「そういうことなので、オレが積極的にリィエルのフォローに回るのは難しいです。というか、リィエルはもう先生の生徒なので、そういうのは担任が責任持って行うべきかと」
「結局また俺がリィエル係をやるのかよ!?流石に俺一人じゃ荷が重いぞ!」
「普段クラスと交流の少ないオレにも荷が重いですよ」
「…………そうだった。お前もボッチだった」
「ボッチ言うな…………まあ心配せずとも、フォローの方は適任者に頼んでますから」
「あ?」
リィエルの方を見る。
ルミアとシスティーナがリィエルに話しかけていた。
「ご機嫌よう、リィエル。今、ちょうど昼休みになったんだけど…リィエルはお昼ごはん、どうするの?」
「……お昼ごはん?必要ない。わたしは三日間、食べなくても平気」
「えっ?だ、ダメだよ、それじゃ…身体に良くないよ?ちゃんと食べなきゃ。ほら、リィエルのお仕事にも差し障っちゃうよ?」
「……一理ある。でも、何を食べたらいいかわからない。今回の任務、食料が支給されなかったから。今までの支給分はここに来るときに全部食べたし」
えっ。
支給品って、あの豆や麦なんかの穀物を練り固めたブロック状の食べ物のことか?
前に試しに一つ齧ってみたが、全然美味しくなかったから使い魔の餌にした。
「………先生、リィエルに携帯食料以外の物を食べさせなかったんですか?」
「い、いやそういうわけじゃなくて………そういえばあいつの食事風景、あれをかじっている光景しか見たことねぇ……」
グレン先生のこの口ぶり………相棒だったのにあまり深く関わろうとはしてこなかったようだな。
「あ、そういうことだったら……私達、今から学食に行くんだけど、リィエルも一緒に行かない?」
「……学食?……何それ?」
「うーん、ご飯を食べるところかな。ね、どう?」
「…………」
押し黙ってしまう、リィエル。
リィエルがふと違う方向を見る。彼女の視線を追うと、グレン先生が行け、と言いたいかのように顎をしゃくって見せた。
それを見たリィエルはこくりと頷き、席を立った。
「ん。わかった。行く」
「ふふ、よかった。じゃあ、早速行こう?」
ルミアの誘いに応じたリィエルは二人と一緒に食堂へと赴く。
「さすがルミアだぜ。あのリィエルと会話が成立している……」
「そうですね」
授業の合間に性格良し、容姿良し、社交性良しのルミアに頼んでおいて正解だった。システィーナの方は性格と社交性に難アリだが。
「よし、俺達も行くぞ」
「一人でどうぞ」
「おう――っておいこらちょっと待て」
教室に出ようとしたところをグレン先生に捕まった。
「なんですか?」
「そこは一緒に行くところだろうが。空気読めよ」
「いや、行く方向が同じでも、別に先生と行く必要ないでしょ」
それと口には出さないが、グレン先生は魔術学院で一番素行が悪い講師だ。
面倒臭がって試験はしない、魔術研究はやる気なし、講師会議はサボる、違法な魔術を生徒にこっそり教える、子供じみた悪ふざけを繰り返す、魔術を小馬鹿にした数々の問題発言………例を挙げればキリがない。
古参の学院講師達のほとんどが、グレン先生を目の仇にしている。
そんな先生だが授業だけは真面目に行い、質も高いためそれで首を繋いでいる状態だが、いつまで保つかわからない。
それに、グレン先生は魔術競技祭以降、ルミアの登下校時に極力、護衛するようにしている。
システィーナやルミアや二組を除く、事情を知らない講師や生徒達(特に男子生徒)からは、ルミアに対してやたら必要以上に干渉しているように見られているため、やれストーカーだの、やれ生徒に色目を使うクズ講師だのと、様々な中傷が飛び交うようになっているようだ。
こっちはこっちで攻撃材料が揃ってしまっている。
最悪、反国軍省派が直接オレ達の退学ではなく、問題講師であるグレン先生を解雇し、自分達の息のかかった奴を後任の講師に据え、それから担任の裁量の元でオレ達を退学させる手を選ぶ可能性だってあるのだ。
あまり表立ってつるむことは避けた方がいい。
というかぶっちゃけ、男を全裸にして縄で変な形で縛る変質者とはできるだけ距離を置きたいし、周りからストーカー仲間と思われたくない。
「心配せずとも、護衛はちゃんとしますよ」
オレは今度こそ教室を出て、学生食堂に向かった。
♢♢
サクサクサクサクサクサク。
「ん?」
A定食料理の乗ったトレーを持って食堂内を歩いていると、食堂の一角からリズミカルな音が聞こえてきた。
音の発生源を確認してみると、山のように積まれた苺タルトを次から次へとかじっているリィエルがいた。
サクサクサクサクサクサク。
「……何やってるんだリィエル」
「ん?キヨト」
オレが見ていたのに気づいたのか、リィエルはオレと苺タルトを交互に見ると、苺タルトを隠すようにして食べるペースを速めた。
「いや、いらないから」
そんな光景を見て、リィエルと一緒に食事をしていたルミアとシスティーナが苦笑いする。
「なんなんだ、その苺タルトの山……」
「あ、あはは…なんか一目惚れしちゃったみたいで……あっ、席を探しているならここに座る?」
周りを見渡すと、他のテーブルは殆ど埋まっていた。本当は遠目に眺めるつもりだったが失敗したようだ。
「………じゃあ、お言葉に甘えて」
仕方なく、ルミアの誘いに乗り、隣に座った。
コーヒーを飲みながらリィエルの方を見やる。
サクサクサクサクサクサク。
オレのことは気にも留めず一心不乱に頬張り続けていた。
その姿はまるで種を口の中にため込むハムスターのようだった。いや、ハムスターに失礼か。
リィエルを動物に例えるなら、クズリかアルミラージだ。
クズリは小柄なイタチ科の動物だが、その性格は凶暴で自分よりも大きなオオカミやクマなどの獲った獲物を横取りするほど。
アルミラージは野ウサギによく似た外見をしているが、似ているだけの肉食系魔獣。愛くるしい見た目に似合わずクズリ同様極めて凶暴で、額から生やした一本の角で自身より大きな獣や人間すらも襲う。
猪突猛進なリィエルにピッタリだ。
「…それ、気に入ったのか?」
「ん、苺タルトおいしい」
「そうか、よかったな」
「ん」
気に入ったとはいえ、甘い物をそんなに食べて大丈夫なのか?見てるだけで胸焼けがする。カロリーとか栄養バランスとかかなり心配だ。
「すまない。相席いいか?」
「ん?」
他の食べ物も食べさせたほうがいいなと考えているオレに向かって、そう声を掛けてきたのは三組のリアナだった。
魔術競技祭以降、そう遠くない未来に開催される魔術祭典に向けて鍛えて欲しいと、オレに協力を求めて来る。
「…まあ、座るとこもないようだし、どうぞ」
「うむ、すまない」
他の二人(リィエルは食べるのに夢中)の許可も貰い同席するリアナは、リィエルの方を見る。
「…見ない顔だな。彼女が噂の編入生か?」
「もうそっちにまで伝わってるのか」
リィエル本人に自己紹介させてもホームルームの時みたいにボロを出しそうなので、オレが代わりにリィエルを紹介する。
サクサクサクサクサクサク。
「ちなみにコイツは動物に例えるならアルミラージみたいな奴だから」
「えっ」
「も、もうキヨト君。それは言いすぎだよ」
ルミアに咎められるが、実技の授業での一件があるから彼女は強く否定できないようだ。
「まあ、いずれ変な行動が目立っても根は良い奴だから………多分」
「そ、そうか。私はリアナ=オーウェン、三組所属だ。クラスは異なるが、分からないことがあったら気兼ねなく聞いてくれ」
「ん?……ありがとう?」
食べるのを一旦止め、顔を挙げたリィエルの口はタルトのクリーム塗れだった。
「ほら、リィエル……ほっぺにクリーム付いてるじゃない」
リィエルの子供っぽさに保護欲をかき立たされたのか、システィーナはハンカチでリィエルの頰に付いたクリームを拭き取る。
「………」
「どうしたリアナ?」
「いや……彼女は外見は私達と同年代だが、中身がまるで……いや、なんでもない」
へえ…。
一目会っただけでリィエルの違和感に気付くか。
将来有望かもな。
「ところでキヨト、例の件だが――」
「やぁ、カワイコちゃん達!俺達も一緒に食べていい?」
リアナがなにか言いかけたところで、後ろから声がかかる。振り返ると料理の乗ったトレイを手に持ったカッシュとセシルがいた。
「………」
「な、なんだよリアナちゃん、俺にジト目を向けて」
「いや、なんでもない」
表情には出ていないが、話を遮られて少し不機嫌になってるようだ。
「なあ、良けりゃ俺達も混ぜちゃくれねえか? こんだけの美少女揃いの昼食会、乗らない手はねえだろ。おいキヨポン、両手に華なんていい御身分だな。ああん?」
「なんでオレにだけチンピラ口調なんだ」
「あはは、カッシュったら。それはそうと、僕もいいかな?リィエルと色々話してみたいんだ」
「……ん。別にいい」
「そっか!いやあ、ラッキーだな!そう言えば、リィエルちゃん!授業の時のあの剣をバリバリーって出す奴すごかったな!一体どうやったんだ?」
「すごい?わたしが?」
「おう!あんな魔術見たことないぜ!今度コツ教えてくれよ!」
「あ、僕もあの高速錬成式の仕組みが知りたいなって思うな」
「…………ん。暇な時に教えてあげる」
「おー、ラッキー! おい、お前らもどうだ?魔術師としての位階昇格の力になると思うぜ?」
カッシュが少し離れた場所にいたウェンディ、リン、テレサに呼びかける。
授業の時のリィエルの奇行からか複雑な表情を浮かべていたようだが、カッシュとセシルに話しかけられて応じるリィエルの姿に毒気を抜かれたのか、三人とも近くの席に座り、リィエルに話しかける。
凄いな。カッシュの高いコミュニケーション能力で三人を輪に入れてしまった。
オレには絶対にできないことだ。クラスメイト達と揃って昼食なんて、ボッチのオレにとっては初めてだ。
リィエルは決して自分から他人へ積極的に話しかけることはないが、受け答えはしっかりしていたおかげか、話すうちに皆のリィエルへの恐怖心が薄まっていっているようだ。
「ありがとね、カッシュ君」
「まあ、変な奴とはいえ、新しい仲間が爪弾きにされるっていうのはな……。あ、お礼なら今度俺とのデートで──」
「あ、それはダメ。ごめんね、カッシュ君」
「ぐはっ!」
哀れカッシュ。今回の功労者であるカッシュはルミアをデートに誘って玉砕し、それをセシルが肩を叩いて慰める。
「……よくわからないが、編入生はクラスに馴染めそうだな」
「そうみたいだ」
「……ところでキヨト。例の件だが――」
「あら?キヨトさんが飲んでいるのはひょっとしてコーヒーですか?」
再びリアナがなにか言いかけたところで、テレサが声をかけてきた。
「ん?ああ。最近飲むのが習慣になってな」
「習慣って…そのままで飲むのも凄いですわ」
「私も商品の味見で一度飲んでみたのですが、砂糖と牛乳を入れないと駄目でした」
ブラックコーヒー派は少数なのか。
「……まあ、好みは人それぞれか」
「ふふ、そうですね。あっ、そういえばレイディ商会でコーヒー豆とは別にコーヒーミルを商品として売ることにしまして」
「コーヒーミル?」
「肉挽き器を改造されたもので、焙煎されたコーヒー豆を粉状にできます。粉にする際に豆の細かさを調整できるため、自分の好みに合わせた挽き具合を楽しむことができるそうですよ」
成程。挽き方次第で、淹れるコーヒーの味わいを変えれると。
「それって家庭用なのか?」
「ええ、なので挽いた後に淹れたてのコーヒーが家で飲めますよ」
おおっ…。コーヒー飲みたさにわざわざ遠い店まで足を運ぶ必要がなくなるな。
「良いな……それ」
「でしょう?特別にコーヒー豆とコーヒーミルの1セット、いかがですか?」
「ちゃっかりしてるな」
オレがテレサの商談に飲み込まれそうになり、一方でウェンディとシスティーナが些細なこと議論に熱を出し、それをリンがおどおどとしながらも仲裁をしようとしている中、
サクサクサクサクサクサク。
リィエルはぼんやりとした表情のまま、苺タルトを黙々とパクつきながらその様子を見ていた。
今のところ良い方向に進んでいるとみるべきか…。
ちなみに自分は何も入れないブラックコーヒー派です。
大学時代の夏に飲みすぎて脱水症状になりましたが。
19世紀のヨーロッパで、イギリスが肉挽き器を改造してコーヒーミルを開発したそうなので、それを参考にしました。
今回のプロットはこちら
・敢えて狙いを外す、脳筋がやらかすのを離れて見る
・リスクの分散のため積極的には手を貸さない。監督責任の立場にある担任に丸投げ
・食堂でいちごタルトの山に引く。
・オリキャラリアナも相席、リィエルを紹介
・クラスメイト達と揃って昼食、ボッチだったキヨポンにとっては初めて
・原作キャラとの交流もとい商談
・リィエルに成長の見込みがあるかどうか?