酔い止めはかかせません。
「わぁ~綺麗な景色!」
昼休憩を終えたオレ達は定期船へ乗り込み、目的地であるサイネリア島へ向けて出航した。
大きな帆をいっぱいに広げた大きな帆船が大海原をかける中、オレ達は船べりの手すりに張り付いて海を眺めている。
「すげえ!向こうが見えねえ!」
「うお、あそこイルカいるぞ!」
「ホントだ!僕イルカって初めて見た!」
クラスメイト達はあまり船に乗った経験がないのか、かなりはしゃいでいた。
かく言うオレも乗った経験がないため、この景色を目に焼き付けようと、遥か遠く燦然と輝く、見渡す限りの広大な大海原を眺め続ける。
どこまでも続いている青い海。広がる青空。澄み切った空気。そして、
「おろろろろろろろぉ……ッ!」
グレン先生の汚いゲ○。
「…台無しだよ」
「ちょっと、先生!私達の感慨を穢さないでくださいっ!」
「うっさいわ!こればっかりは仕方ないだろぉがっ!?うぷ……」
「ちょっ、こっち向いて吐かないでくださいよ!?吐くなら海にお願いします!」
「大丈夫ですか先生?」
手すりに洗濯物のようにだらしなくもたれかかっているグレン先生に、いつものようにシスティーナが非難の声を上げるが、先生の方は顔色が悪く、抗議してすぐに口元を押さえ、また身を乗り出して海面を覗き込んだ。
ルミアに背をさすられたりと甲斐甲斐しく世話されるほど、システィーナと口論する余裕はないようだ。
教師どころか年上の威厳さえカケラ程も無い。あっ、いつものことか。
「でも意外な弱点ね…あんなに図太い性格なのに」
「……グレンはどうしたの?まさか…病気?」
グロッキー状態のグレン先生の姿にため息をつくシスティーナに、心配した様子のリィエルが問いかける。
「大丈夫よ、リィエル。あれはね、船酔い」
「……船酔い?」
システィーナがリィエルに船酔いについて分かりやすく説明すると………
「……そう。よくわからないけど…船のせい?」
「ええ、まぁ、そういうことになるわね」
「そう、わかった――ちょっとこの船、沈めてくる」
「「は?」」
「《万象に希う・――…」
「ちょ――待ってッ!?皆ッ!?リィエルを止め―――」
「ぎゃああああっ!?」
システィーナが言う間もなく、オレが仕込んでおいた条件起動型の【スタン・フロア】が発動。武器を錬成したリィエルはバチバチバチバチバチバチと感電し、バタリと倒れた。
「はぁ……本当に学習しないなコイツ、念の為に仕込んでおいて正解だったな」
「いつの間に……」
「露店を見回っているときにこっそりとな」
周りが音を聞きつけて「なんだなんだ?」とこっちを向くが、甲板に転がっている大剣を認識すると、「ああ、またリィエルちゃんか」と言った感じで何事もなかったように海の方に向き直った。皆すっかりリィエルの残念振りに慣れてしまったようだ。
「えっと……リィエルがまたなにかやろうとしていたの?」
グレン先生を介抱していたルミアが駆け寄ってオレに聞いてきた。
「船のせいでグレン先生が苦しんでいるからって、壊そうとしていた」
「え」
「今のうちに拘束しておく」
「こ、拘束!?それはちょっとやりすぎじゃ…」
「船を沈められるのは勘弁だ。全員溺れ死ぬし」
「そうだけど……ちゃんと説得すれば」
「じゃあその説得がグレン先生関連で効果を発揮した回数は?」
「うっ……ゼロです」
依存心故か、グレン先生が絡むと歯止めが効かなくなるのはもうわかった。
大の字で痙攣しているリィエルを黒魔【スペル・シール】を符呪したロープで簀巻きにし、甲板にあった樽につっこむ。
樽から生首だけが出てるという奇妙な絵面だが、これでリィエルは身動きを取れない。
「キヨト、お願い出してー」
「駄目だ。しばらく大人しくしていろ。先生の船酔いはなんとかしてやるから」
「……ほんとに?」
「ああ、やれるだけにことはやる」
もっとも、よくなるかどうかは保証しないが。
「うおおえ……くそ、誰だ船なんてけったいなモン作りやがった馬鹿野郎は…」
「島を選んだの先生でしょうが…酔い止めを飲まなかったんですか?」
「面倒くせぇ……うぷっ」
はぁ……。
先生のところに行って状態を確認するが、かなりの重症だ。
船酔いの原因はさまざまで、環境的な揺れや特有の匂い、心理的な不安、身体的な条件、睡眠不足などがあがる。
体の不快感を軽減させるしかない。
「……かなり嘔吐したとなればこのまま脱水状態に陥り、さらに症状を悪化させる可能性があります。水分を多めに補給してください。定期的に飲めば胃の不快感を和らげれます」
「そ、それならここに良い物が……」
そう言ってグレン先生がポケットから取り出したのはウォッカと書かれた小さな酒瓶だった。
って酒かよ。
「いや、アルコールを含む飲料は脱水を促進して症状を悪化させるだけなので駄目です」
「というか、お酒を持って来るなんて一体なに考えてるんですか!?少しは講師としての自覚を持ってください!!」
「ちょっ、今説教とかマジ勘弁してくれ…」
システィーナに酒を海に投げ捨てられ、グレン先生は絶望顔になるがどうでもいい。
「あと思いつくのは新鮮な空気を吸う、楽な姿勢をとる、誰かと会話して気分を逸らす、ツボを押すなんかですね」
「ツボ?」
「翳風という耳たぶの後ろにあるツボと、竅陰という耳の裏中央の骨の上にあるツボを指で軽く押してみてください。めまいを和らいで、少しは楽になると思いますよ」
「へえ、キヨト君結構物知りだね」
「たまたま知る機会があっただけだ」
どれが一番効果があるかは個人差に依るため、島に着くまでの数時間全部試すことにした。
ちなみに先生の会話の相手はシスティーナである。会話というより、システィーナの一方的な説教だったが。
「グレン、出してー」
リィエルの拘束を解いたのはしばらく後だった。
♢♢
シーホークを出航して数時間が経ち、オレ達は無事サイネリア島に到着した。
潮風が強く、雄大な潮騒の音、空にはウミネコの鳴き声。
既に太陽は沈みかけていて、水平線で空を赤く照らしていた。
島の方を見ると、沿岸周辺は緩く湾曲した白い砂浜と小洒落た観光街の建物があり、その一方、島の中央部は広葉樹林が生い茂る樹海となっていた。
しおりによると島の中央は魔獣の生息地で、前人未踏の領域だとか。
「先生、大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな……」
後ろを振り向くと、少しふらつきながらもしっかりとした足取りで、タラップから船着場の上へと降り立ったグレン先生。最初よりは顔色が良さそうだ。
「だいぶ良くなったみたいですね」
「まさか耳ツボが本当に効くとはな。白猫の説教は余計だったが」
「余計ってなんですか!?余計って!」
「あーもううるせえな…まだ少し余韻が残ってるっつーのに」
ひとまずシスティーナと口論できるくらいは回復したようだ。
「大体な!生来、人は大地と共に生きる生物なんだ!人間は大地の子なんだ!大いなる大地から離れては人は生きていけないんだッ!土に根を下ろし、土と共に生き、そして、やがて土に還るが人の定め…それこそが土を生み出す摂理の輪、生命の円環なんだッ!船などという薄っぺらい板切れに乗っかって大地を離れ、海に乗り出すなんて、人として、生命として根本的に間違っているんだぁ――ッ!」
「……船酔い一つで、なんかやけに壮大で大袈裟な話になるわね」
「じゃあ帰りは先生だけシーホークまで泳ぎということで良いですね?」
「やっぱり船は人類の叡智の結晶だぜ」
屁理屈がぺらぺら出てきたのに凄い掌返しだな。
返し過ぎて手首が捩じ切れそうだ。
「先生…そんなに船がお辛いのでしたら、遠征学修先は別の場所にすればよかったんじゃ…例えば、イテリアの軍事魔導研究所なら、移動は全部馬車でしたのに」
そう。ルミアが苦笑いで言うとおり、一ヶ月前、遠征学修の行き先に関する事前希望調査としてクラスで行き先候補の採決を取り、軍事魔導研究所と白金魔導研究所が同数の支持票で割れた時、最後の一押しの票を入れたのは、他でもないグレン先生自身だ。
研究所で何が待ち受けているのか知らずに。
「あ?決まってんだろ、んなもん」
その一票を入れた理由を、グレン先生は無駄にキリッとしたキメ顔で言い放つ。
「美少女達の水着姿はあらゆるものに優先する」
ちょっと何言ってるかわからない。
「ああ、そうさ!例えここが三国間紛争の最前線だったとしても……俺はここを選んでいただろうさ!」
「せ、先生……あんた漢だよ……!」
「俺達、一生先生に着いて行きます!」
「うちのクラスの男子、先生が来てからノリおかしくなってない!?」
グレン先生の演説に感極まった様子で涙を流す男子たち。
今のに感動する要素あったか?
というか、システィーナの言うクラスの男子の中にオレが含まれてたりしないよな?
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと宿泊予定の旅籠へ行きますよ!」
沸く男連中に冷ややかな目を向けるシスティーナに促され、オレ達は移動を開始する。
海岸沿いを道なりに一直線に進んだ先に、宿泊予定の旅籠があった。
外観は学院の校舎と同じくアーチ型の各種意匠と尖塔、石柱などが特徴的な外観だが、中に入るとエントランスホールは豪奢なシャンデリアや彫刻があって豪華だった。
受付を終わらせると男女で別々の棟に分かれ、更にそれぞれの班に別れ、各自宛がわれた部屋へと移動する。ちなみにオレはカッシュ、セシル、ギイブルと四人班だった。
「おわっ!?すっげぇ!?なんだよ、このベッド、滅茶苦茶柔らけぇッ!?俺が借りてる安下宿のとは雲泥の差だぜッ!」
「…うるさいやつだな、君は」
「あはは、あんまり暴れると怒られるよ、カッシュ」
普段ここまで高級そうな寝具なんて使う機会なんてないのか、テンションの上がってるカッシュはベッドの上でぴょんぴょん跳ねてはしゃいでいた。
「そういえばこれからの予定ってどうなってるんだっけ?」
「……事前に配布された日程帳を見ればいいだろう?」
「いや、家に忘れた」
「君ってやつは……」
カッシュのうっかりに、諦めたようにギイブルはため息をついた。
「今日はもう何もない。後は大広間で食事して、風呂に入って終わりだ」
「ほう?」
「実を言うと明日も何もない。出発の初日を含めた三日間は、天候などによる旅程の遅れを考慮して余裕を持たせてあるからね。名目上は、島内散策による島の生態系と霊脈の調査――ということになっているけど、事実上、明日は自由時間だと思っていい」
「ほうほう?」
「本格的に遠征学修が始まるのは四日目からだ。今回の遠征学修の目玉たる研究所見学が入っている。五日目は終日講義を受講、六日目は自由行動、島内散策や観光名所巡りはこの時、やればいい。そして、七日目には再び海路と陸路を使ってフェジテへ帰還だ」
「なるほどなるほど、あいわかった」
ギイブルが予定を説明すると、カッシュは不敵な笑みを浮かべた。
「研究所への往復は凄ぇ大変らしいから、明日の夜は余裕がない…同様に五日目の講義を受けた後も同じ…かと言って、六日目までは流石に待ちきれない…やはり、仕掛けるとなると今日しかないか……」
「仕掛ける?一体何をするつもりなんだい?」
「決まってるだろセシル。夜、女子の泊まってる部屋へお忍びで遊びに行くんだよ!これぞ、魔術学院遠征学修の伝統行事じゃないか!」
ちょっと何言ってるかわからない。
「ふん、くだらない」
「くだらないとは何だギイブル!これこそ男の浪漫じゃないか!俺はこの日のためにカードやボードゲームを買ったんだ!」
「昨日十分やっただろ」
「野郎とカワイ子ちゃんとやるとじゃ全然違うもんだよキヨポン!」
そういうものか。
というか、リアル人生ゲームは絶対やめといたほうがいいだろ。
「でも、見つかったらまずいんじゃ?」
「ふっ…心配は無用だ、セシル。見つかったら見つかったらで…それはそれで本望さ。やらずに後悔するより、俺はやって後悔することを選ぶぜ……」
すごくキリっとした顔で、すごくカッコ悪いこと言い出したぞ。
「どうだ?お前らもこの話、乗らないか?」
「ふん、冗談じゃない。馬鹿馬鹿しい」
「ぼ、僕も止めとくよ…なんか嫌な予感するし……」
「オレも遠慮しておく」
オレ達ホームルームで騒がなかった組は不参加を表明する。
「うっそだろオイ!?お前ら本当に男か!?ルミアちゃんがいる部屋だぞ?リンにウェンディやテレサも。今回はリィエルちゃんだっているんだから行かなきゃ損だぞ?」
「……ちなみにシスティーナは?」
「ん?あいつは別にいいや。説教うっさいし」
女好きなカッシュも眼中にないか。哀れ。
「行きたければ君一人だけで行けばいいだろ」
「しゃーない。ロッドとかカイとか誘ってみるか……」
そう言ってカッシュは部屋を出て行った。
「カッシュ大丈夫かな?先生はそんなに厳しくはないと思うけど、成功したらしたで問題になるんじゃ…」
「それは無いだろ」
「え?なんでそう言い切れるのキヨト君?」
「だってあのグレン先生だぞ?基本的にお年頃の男子学生とあんま変わんない思考回路してるっぽい先生のことだから、どうせ『俺だったらこうする』とかそういう理由でルートとか予測して待ち構えるんじゃないか?」
「あ、あり得そう」
「むしろあの講師から率先して行きそうな気がするが……まあリィエルがやらかしてるせいで、最近監督責任で給料減らされてるみたいだからそれはないか」
「あっ、僕もその噂聞いた」
既に生徒達に減給の話を知られているのか。
仮に先生を攻略して女子のところに辿り着いたとしても、ホームルームのこともあるから歓迎されないだろうな。
その上システィーナに長時間説教されて追い返されるか、最悪、侵入してきた刺客と勘違いしたリィエルにやられることも有り得る。まあ念の為後で罠を仕込んでおけば問題ないだろうが。
「一応女子達に忠告しておくか?この後のことに自分達は関係ないことをアピールのためにも」
「賛成だ。僕らまで説教の巻き添えを食うのは御免だ」
「あ、あはは…二人は意外と気が合うかもね」
少数派による話し合いの結果、この後の夕食の時間に生徒一同が集まるタイミングで、オレがこっそりシスティーナに密告することが決まった。
♢♢
その日の夜の就寝時間。
旅籠本館と別館を挟む中庭で死闘が繰り広げられていた。
「ふはははは!どうしたどうした!?こんなんじゃいつまで経っても当たらないぞぉおお!?」
「あ、アルフぅうううううッ!?しっかりしろ、アルフぅうううううッ!?」
「か、カッシュ………お、俺はもう……」
「馬鹿野郎!傷は浅いぞ!?目指すんだろう、『楽園』をッ!?こんなところでくたばっている場合じゃないだろうッ!?」
「た、頼むカッシュ!『楽園』を、俺達が追い求めた『楽園』を…ッ!俺の屍を越えて……俺の分まで…『楽園』を、見て来………、がく」
「アルフぅうううううぅわぁあああああああッ!俺は一体、なんのために戦っているんだぁあああああああッ!?」
雷閃と怒号と悲鳴が飛び交う林の中、ぐったりとしたアルフを抱き起こしたカッシュの慟哭が響き渡った。
「なにこの茶番……」
そんな『楽園』という名の女子部屋を目指すカッシュ達男子生徒陣と、これ以上減給されたくないグレンによる馬鹿騒ぎを、システィーナは旅籠本館の屋上テラスから冷ややかな眼差しで見下ろしていた。
「………男って本当バカばっか」
「あはは…キヨト君の言った通りだったね」
システィーナとルミアは、大広間での食事の時間にキヨトからこうなる事をあらかじめ伝えられていたため予想はしていた。
「………」
「リィエル? どうしたの?」
ルミアがじっとグレンの様子を見ているリィエルへと声をかける。
「あんなに楽しそうなグレン……初めて見た」
「え、そうなの? 学院だといつもあんな感じだけど」
「昔は……もっと暗かった。だから、わたしがそばにいて守ろうってそう……思って……いたのに」
このリィエルの呟きにシスティーナはリィエルの表情から読み取ろうとしたが難しく、ルミアは呟きが聞こえなかったらしくニコニコしながら下の様子を見守っていた。
「あらあら、こんなところにいたんですの? 探しましたわよ三人とも」
屋上テラスに通じる扉が開き、ウェンディが姿を見せた。
「あ、ウェンディ。どうしたの?」
ルミアが眼下の光景から目を逸らし、ウェンディを振り返る。
「これからわたくしたちの部屋に集まって皆でカードゲームをやりますわよ!」
そして、ウェンディはリィエルをちらりとリィエルを見て、微笑んだ。
「リィエル、貴女もわたくし達と一緒に興じませんこと?」
最初のギクシャクした雰囲気は、すっかりなりを潜めていた。
「かーど?遊ぶの?・・・・わたしも?」
「ええ、そうですわ」
「・・・・・ん。わかった。なんかよくわからないけど・・・・・・遊ぶ」
「ふふ、それではご一緒に参りましょう?」
ウェンディが優雅に踵を返し、リィエルがそれに続く。
「良かったね・・・・リィエル、もうすっかりクラスの皆と打ち解けたね?」
「え?あ・・・うん・・・・そう、みたいね・・・・・・」
それから女子部屋で結構な人数がひとつのベッドの上でカードゲームに興じる。ビリになった人には罰ゲームが課せられるルール付きで。
「さぁルミア!キリキリ話しなさいな!!さぁさぁ!」
「えぇ……」
ビリとなったルミアに罰ゲームが発生すると、興奮気味なウェンディに詰め寄られた。
「ズバリ!キヨトさんとはどういう関係ですの!?」
罰ゲームの内容は、女子会あるあるの『恋バナ』というものである。
ウェンディもなんだかんだでかなりお決り的なことを楽しみにする女子だった。
「えっと、どこまでって……別に私とキヨト君はただの仲の良い友達で……」
「そんなありきたりの答えを、聞きたいのではありませんの!わたくしは貴女がキヨトさんに対して何を思ってるのか、ハッキリと聞きたいのですわ!」
「それは私も聞きたいわね」
「システィまで……」
「まあ、私も他の男子と比べてキヨトとは仲良さそうだなとは思ってたけどね。それに、あいつがリアナと話しているときもチラチラ見てたし」
「システィ!?」
まさか家族同然のシスティーナまでもがそちら側に立つとは、流石のルミアも予想しなかった。
「貴女はあまり聞かないかもしれませんが、魔術競技祭以来、一部女子の間でキヨトさんの人気が高まっているとの話ですわ!」
「えっ、そうなの?」
「そうですわよ!」
初耳の情報にシスティーナとルミアは驚く。
「地味な感じではあるものの、イケメンといっていいほど顔立ちが整っているというのも理由ですが、あの『乱闘戦』で一対多という不利な状況を物ともせず、奇策を用いて圧勝した上で、リアナさんが怪我しないよう抱き留めたのがとても紳士的だったとのことですわ!」
「あっ、そういえば……」
「確かに、あのまま倒れていたら頭が下の石に激突して大怪我するところでしたね」
「優しい所あるよね。わ、私も…キヨト君に背中を押してくれたおかげで、頑張れたよ」
ウェンディの言葉にテレサとリンも肯定するように補足する。
「そうして人気が高まっている中、後輩のマリアさんに握手を求められ、リアナさんとよく顔を合わせているそうですわ。鍛えて欲しいとのことですが、それが好意に変わる可能性はゼロではありませんのよ!」
「そ、それは大げさじゃないかな…?」
そう言いつつも、動揺を隠せないルミア。
「ですので、わたくしは心配してますの!いつまでも有耶無耶にしてると横から掠め取られますわよ!だから速く教えなさいな!」
「そ、それは…………」
「私も気になりますね」
「ほ、本当のところ…その、どうなの?」
「テレサにリンまで!?」
「ほら、観念しなさいルミア。いい加減自分の心に素直になってここで全部言っちゃいなさい」
「「「…………」」」
「「…………?」」
システィーナとリィエル以外の女子は全員思った。『素直になるべきはあなたでは?』と。
ちなみに普段の態度からシスティーナがグレンに想いを寄せ始めてるのではと、クラス内で話題のひとつになっていたりする。それに気づいてないのは本人だけである。
「まあ、ツッコみたい所はありますが、システィーナの言う通りですわ。さあ、一体いつから彼をお慕いするようになったのか!」
「だから違うからね!?」
実のところ、ルミア自身もよくわかっていない。
席が隣同士というので、よく話す異性という認識だったはずだが……自分は彼をどう思っているか
とにかく、わからないものは肯定も否定もできないでいるが、ウェンディ達の追及は止まらない。
ならば他の人に振ればいい。
「そ、そう言えばテレサはどうなの?」
「私ですか?」
「うん、この前ショッピングモールでキヨト君の服選びしてたの見たんだけど、どうなの?」
「………ふふ、さあ?どうなんでしょう?」
テレサに振ってみたが、駄目だった。
おっとり系なだけあって動揺する素振りを見せず、にっこり微笑むばかり。
これ以上は聞けそうにないため、次の標的へ。
「じゃ、じゃあリンは?」
「ふえっ!?わ、わわわわ私!?」
リンの方は顔を真っ赤にして慌てだした。
「えっ、リン。ひょっとして貴女………」
「ち、ちちちちち違うよ!?」
「怪しい……」
女子会の夜はまだまだ続くのだった。
『はっはっは!どうした!? お前らの力はそんなもんか――――って、おい!? ちょっと待て!?お前ら、そんな風に隊伍を組んでの面攻撃は反則―――ふんぎゃあああああああああ――――ッ!?あたたた、痛い!?痛いって!?』
おまけ
グレンが船酔いを抑えるために会話して気分を逸らしていた時のこと。
「おーいキヨポン、なんか面白い話してくれよ。流石に白猫の説教を延々と聞くのはキツイ」
「誰の説教がキツイですか!?」
男子たちは口には出さないが、グレンに同感だった。
「じゃあ、最近読んだミステリー小説の話ですが………」
「ほお?」
「こういう船旅で、乗客が一人ずつ何者かに殺される話があるんですよ」
「いや、誰が物騒な話しろって言ったんだよ!?」
「ちなみに先生みたいなタイプが一番最初に死にますね」
「うるせえよ!勝手に殺すな!」
おわり
船酔いで○ロを吐くところで、銀魂風に書くとカオスな展開になっちゃいそうですね(笑)
こんな感じに………
「気持ち悪いよぉ……」
「おいおい、先生大丈夫かよ?」
「おぼろしゃあああ!」
「ぎゃあああ!頭にかかっちまった!?うぷっ、なんか俺も気分悪い…おろろろろろっ!」
「うわああ!?カッシュが貰いゲロした!?」